密漁で逮捕はある?その後の流れは?専門弁護士が解説

最終更新日: 2024年01月24日

密漁で逮捕されたときの流れや対処法について専門弁護士が解説!

安易にしてしまった密漁について逮捕を受けるケースが非常に増えています。

ほとんどの方が、密漁で逮捕されることが初めてですから、逮捕後、一体どのような処分を受けるのかと不安に思うのは当然です。

今回は、密漁で逮捕された場合の量刑相場や対処法について専門弁護士が解説します。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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密漁したら逮捕されるの?

そもそも密漁と聞いて、思い浮かべるのはどんなことでしょうか。例えば、池や湖が柵に囲われていて、柵の看板に「密漁禁止!」、「勝手に魚を採ってはいけません。」と書いてあれば、だれでもその池や湖の魚を採ることが違法だとわかると思います。

しかし、そのような分かりやすい場合以外にも、「密漁」に当たるとして刑罰の対象になることは少なくありません。

それでは、どのような場合に「密漁」に当たるのでしょうか。

そもそも、密漁の対象になるのは、水産庁が指定している「特定水産動植物」や、漁業協同組合などが独占的に捕る「漁業権」が設定された貝類や海藻類などです。

そのため、レジャー等で海に来たときにサザエを採ってしまうことや、釣りを海岸で行っているときに偶然タコが釣れてしまって、それを持って帰ってしまうことが「密漁」に当たってしまいます。海のサザエやワカメ、ナマコ、タコなどには漁業権が設定されていて、許可のない人は採ることができないものとなっているからです。

実際に、海水浴場近くの岩場でサザエを採ったことが「密漁」に当たるとして逮捕されたケースが存在します。また、海だけではありません。河川で許可なくサケを採ることも水産資源保護法上、禁じられています。

「密漁」に当たるかどうかについては、採った個数は関係ありません。たった1個サザエを採っただけでも「密漁」に当たってしまいます。

密漁で逮捕されたときの刑罰は?

次に、密漁を取り締まる法令や違反した場合の刑事罰についてご説明します。

  • 密漁に関係する法律等
  • 法改正による厳罰化
  • 漁業法が定める刑罰
  • 実際の刑事処分例

密漁に関係する法律等

「密漁」がどの法律や都道府県の定める規則に違反するか、それは採る対象や採る方法、採った場所によって異なります。

漁業法、水産資源保護法、各都道府県・各地域の漁業調整規則、刑法など様々な法律・規則が関係します。ここでは、うっかり密漁をしてしまった場合に問題となる漁業法を中心に解説していきましょう。

漁業権は、漁業法に書かれている特定の漁業について、文字通り、漁業を行う権利を含んでいますが、それに加えて一定期間他の者の侵害などに対して、自らに権利があることを理由、権利侵害を止めるように求める権利を含みます。

漁業権には、区画漁業権、定置漁業権及び共同漁業権の3種類があります。

区画漁業権は主に養殖業が対象であり、定置漁業権は漁具を定置して営む漁業が対象であるため、一般人の方がうっかりその漁業権を侵害し、漁業法に違反してしまうことは稀です。

一方で、共同漁業権はさらに5種類に分けることができますが、特に重要なのが、第一種共同漁業権です。

第一種共同漁業権とは、ウニやアワビなどの貝類や、わかめなどの藻類等の定着性の水産物をとる権利です。これらの水産物は身近なものも多く、一般人の方がうっかりその漁業権を侵害し、漁業法に違反してしまうことがあります。

第一種漁業権侵害、すなわち漁業法195条違反で逮捕された場合に、漁業協同組合等の漁業権者と示談ができれば、告訴を取り下げてもらえることがあります。漁業権侵害は親告罪であるため、告訴が取り下げられれば、検察官は起訴できません。

法改正による厳罰化

密漁の罰則を強化するため、平成30年12月には漁業法が改正され、令和2年12月に施行されました。特にアワビやナマコなどの「特定水産動植物」の密漁を取り締まる条項が新設され、「3年以下の懲役または3000万円以下の罰金」が科されることが定められました。

この他にも漁業権の対象となる、サザエやイセエビ等の水産動植物を権限なく採捕した者に対する罰則が強化されました。従来は20万円以下の罰金と規定されていましたが、平成30年の漁業法改正後は100万円以下の罰金と規定されることになりました。

密漁行為に対する刑罰を重くする要素として、密漁回数、密漁期間が長期にわたること、常習的な密漁であること、計画的な密漁であること、職業的な密漁であることがあげられます。

漁業法が定める刑罰

漁業法が定める刑罰を実際にいくつか見てみましょう。

以下の表のとおり、違反行為が細かく規定され、違反すれば高額な罰金刑や懲役刑が科される可能性があります。なお、科される刑罰について言えば、悪質性の高い共犯事件などの場合、懲役刑と罰金刑の併科となることも珍しくはありません(194条)。

違反行為懲役罰金
特定水産動植物の採捕(189条1号)
密漁品の流通(189条2号)
3年
3000万円
漁獲割当ての設定を受けず採捕(190条1号)
年次漁獲割当量を超えて採捕(190条1号)
採捕停止命令、停泊命令等違反(190条2号)
無許可操業、禁止漁業違反(190条3号、4号、8号)
無免許操業(190条7号)
大臣許可漁業の許可、漁業権に付けた条件違反(190条5号)
3年300万円
海区漁業調整委員会等の指示に従うべき知事命令違反(191条)1年50万円
漁獲量の報告義務違反(193条1号)
知事許可漁業の許可に付けた条件違反(193条2号)
検査拒否・妨害・忌避等(193条4号)
6月30万円
漁業権又は組合員行使権を侵害(195条)なし100万円

実際の刑事処分例

令和2年の改正漁業法施行前の事例ですが、サザエ10個を自己消費目的で採取した行為に対し、都道府県漁業調整規則違反で略式起訴がなされ、罰金10万円の略式命令が下されています。

当該行為を行った者は公務員であり、減給2か月の懲戒処分も受けました。このように、刑罰のみならず、職場での懲戒処分を受けることも、一般的な刑法犯罪同様に少なくありません。

共犯事件について言えば、これまた令和2年の改正漁業法施行前の事例ですが、県知事の許可なく、岩ガキを採捕したうえ、それを売却して利益を得ていたという事案において、主犯の被告人は懲役10月及び罰金50万円、執行猶予3年の判決を受けています。

この他にも、令和3年秋、イセエビ漁を禁止された期間にイセエビ43匹を二人で密漁したとして、都道府県漁業調整規則違反で略式起訴がなされ、二人それぞれに罰金5万円の略式命令が下されています。

令和4年夏においては、漁師の方が販売目的でシャコ貝91個を密漁したとして、漁業法違反で略式起訴がなされ、罰金20万円の略式命令が下されています。

密漁で逮捕された後の流れ

密漁で検挙された場合にどのような刑事罰を受けるのかを見てきました。ここでは密漁で逮捕された場合にどのような流れになるのかについてご説明します。

  1. 留置所での拘留(勾留)期間
  2. 釈放条件
  3. 密漁で逮捕されたときの起訴・不起訴

留置所での拘留(勾留)期間

逮捕されると48時間以内に海上保安庁あるいは警察から検察庁へ事件が送致されます。

なお、海上保安官も警察官同様に、司法警察職員として密漁事件に関しては捜査権限を持っているため、海上保安官に逮捕され、そのまま警察を経由せずに事件が検察官に送られることは珍しくありません。

そして、そこから24時間以内に検察官は裁判官に勾留を請求し、裁判官が勾留を認めると10日間勾留されることとなります。

裁判所が勾留を許可する決定をした場合、弁護士はその決定に対し、準抗告申立書を作成して不服を申し立てることができます。準抗告が認められると、勾留許可決定が取り消されることがあります。

一方で、10日間の勾留期間では捜査が終わらないときは、更に最大10日間の勾留延長となります。勾留が延長される理由は様々ですが特に次のようなケースで勾留は延長される傾向にあります。

共犯事件であるため共犯者の取調べも必要であるケース、被疑事実が多数あるケース、証拠物が多数ありその捜査に時間を要するケース、被疑者が黙秘あるいは否認しているため証拠の収集に時間を要するケース等があげられます。

裁判所が勾留延長を許可する決定をした場合、弁護士は、勾留許可決定の場合と同様に、その勾留延長決定に対し、準抗告申立書を作成して不服を申し立てることができます。準抗告が認められると、勾留延長決定が取り消されたり、勾留期間が短縮されたりすることがあります。

釈放条件

初犯の事件の場合、密漁した水産物は押収しており、自宅などの捜索差押も終えており、入手先についても信用できる供述をしている場合には、弁護士が裁判官・裁判所に意見書の提出や準抗告の申立てをすると、釈放されるケースがあります。

このように勾留を回避して釈放してもらうためには、最低限の条件として、初犯であること、共犯者がいないこと、自己消費目的で密漁したこと、犯行を認め、入手先についても信用できる供述をしていることが挙げられるでしょう。

密漁で逮捕されたときの起訴・不起訴

海上保安庁の発表によれば、国内密漁の形態としては、暴力団等による組織的かつ大規模に行われるものから、海水浴客等による自己消費目的のものなど多岐にわたり、年間約2000件が検察官送致されています。

犯行を否認している場合で捜査機関が有罪判決を得るに足りる証拠を収集できなかったときは、不起訴処分となります。

また、証拠上は犯罪の成立を十分に証明できるケースであっても、示談が成立していることや真摯な反省が見られること、初犯であること等諸般の情状から起訴猶予処分となることもあります。

密漁で逮捕や刑罰を避けるには?

そもそも、悪質とは言えない密漁であれば、密漁発覚後、誠実な対応をすれば漁業協同組合から厳重注意を受けてその場で事件は落着することもあります。

しかし、海上保安庁から逮捕されるとなると、事件は原則、検察官へ送致されることになります。検察官が不起訴・略式起訴・正式起訴のいずれの処分を選ぶかは、被害者や漁業協同組合等の漁業権者との示談が成立しているか否かが大きく影響します。

前科のない初犯である場合や、密漁の態様が軽微な場合、示談が成立すれば不起訴処分として事件を解決できる可能性が高まります。弁護士は示談交渉の結果を検察官や裁判官に示談書として提出し、不起訴処分を求めます。

また、示談ができない場合、密漁事件のような社会的法益に関する犯罪類型に対しては、社会に対する贖罪の意思を示すために、一定の金額を贖罪寄付することが考えられます。裁判所は、贖罪寄付に鑑みて、刑罰を減軽する場合があります。

まとめ

以上、密漁で逮捕されたときの流れや対処法などについて解説しました。

密漁で逮捕されたとしても、示談が成功すれば、そもそも告訴が取り下げられるなどして不起訴処分で済むケースもあります。示談ができず、告訴の取り下げがなされないケースでも初犯であれば、行為態様次第で罰金等の処分で済む可能性はあります。

密漁で逮捕されたときには、一日も早く専門の弁護士相談し、適切な対応をするようにしましょう。

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