浮気と不貞の違いを弁護士が解説!法的にアウトな行為とは?
最終更新日: 2023年07月03日
配偶者に異性の影がある,配偶者が不審な態度が続いている。
こういった場合には,配偶者の浮気を疑うのではないでしょうか。
では,この浮気について,精神的負担を強いられたとして,慰謝料を請求することはできるのでしょうか?
浮気以外にも,不貞・不貞行為や不倫などの言葉を聞くことも,よくありますが,浮気と不貞行為や,浮気と不倫に意味の違いや法的な効果の違いはあるのでしょうか?
今回は,浮気と不貞という言葉の違いや,法律上の意味・効果の差などについて,不倫事件を多く取り扱う弁護士が徹底的に解説いたします。
浮気と不貞の違いとは
さきほど,配偶者の不審な様子が続いている場合には,「浮気」を疑うのではないかと,言いました。
では,この「浮気」という言葉と,「不貞」や「不貞行為」という言葉と,「不倫」という言葉には,何か違いがあるのでしょうか。
- 不貞行為は民法に規定がある
- 浮気という言葉の意味は?
- では不倫とは何が違うのか?
不貞行為は民法に規定がある
不貞行為とは,一般的に,夫婦・婚約・内縁関係にある男女のどちらかが配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係を持つことを意味しており,貞操義務への違反とされています。
最高裁判所も,「配偶者ある者が,自由な意思にもとづいて,配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうのであって,この場合,相手方の自由な意思に基づくものであるか否かは問わない」(最高裁第一小法廷昭和48年11月15日)と判示しています。
民法上にも「不貞行為」との言葉は登場しており,民法770条1項5号は,不貞行為を,法定の離婚事由,つまり,離婚を認めるための原因の一つとして明記しています。
このように,原則として,不貞行為は,肉体関係・性的関係を結ぶことを意味するものと考えられています。
したがって,キスやハグといったスキンシップは,原則として不貞行為には該当しないものといえます(ただし,法的な責任を負うか否かは別の問題です)。
なお,不貞行為の定義は一義的なものではなく,不貞行為の意味を肉体関係に限定しない学説も存在します。
浮気という言葉の意味は?
不貞行為とは異なり,浮気という言葉は,法律用語ではありません。
辞書では,うわついて落ち着きのない性質や状態,気まぐれに異性から異性へと心を移すことと説明されることが一般的です。
つまり,「浮気」は,特に,どちらかというと心の移り変わりに重きを置いた言葉であり,肉体関係を意味する不貞行為とは異なります。
また,「浮気」は,特に,結婚・婚約・内縁といった特定の男女関係だけにおいて成立するものではないという意味でも,不貞・不貞行為とは異なります。
つまり,浮気はとても広い概念であり,その中に,「不貞行為」がほぼ包含されるようなイメージでよいと思います。
なお,別の異性と肉体関係を持ったが,心が移り変わってはいないような場合には,不貞行為ではあるものの,浮気ではない場面もあり得るはずで,その意味で,この記事では,「ほぼ」包含されると説明しています。
では不倫とは何が違うのか?
ここまで,不貞行為と浮気という言葉を確認しましたが,「不倫」はどうでしょう。
辞書では,不倫は,道徳(倫理)に反することという意味を持ち,男女が越えてはならない一線を越えて関係を持つこと等と解説されています。
ただ,一般的には,特に結婚をしている男女が,配偶者以外の異性と許されない関係を持つことを指すことが多いと思います。
浮気とは違い男女の「関係」にスポットライトを当てた表現であり,また,結婚している男女関係を主たる対象とする言葉という点でも,「浮気」とは異なるようです。
不貞行為と比較すると,肉体関係にまで至らなくとも,不倫関係と評価される場合があり,不倫の中に,不貞・不貞行為が包含されているように思います。
不貞行為なしの浮気でも慰謝料請求できるのか
では,不貞行為なしの「浮気」を理由とする慰謝料請求は可能なのでしょうか?
この点を検討するには,まず,なぜ慰謝料請求が認められるのか,その法的根拠を理解することが重要ですので,法的根拠について説明いたします。
- 慰謝料請求の法的根拠と保護法益
- 慰謝料請求の対象となる浮気・ならない浮気
慰謝料請求の法的根拠と保護法益
不貞行為についての慰謝料請求の法的根拠は,民法709条,710条の不法行為による損害賠償請求です。
ただ,不法行為を根拠とするものの,その保護法益が何か,という点には様々な対立があります。
一つは,配偶者に対して貞操を守るよう請求する権利(貞操請求権)を保護法益とする考え方です。
この考え方を貫けば,不貞行為とは,貞操請求権を害する行為であり,性行為や肉体関係がなければ,不法行為とはいえず,慰謝料という損害の賠償を請求することができないという帰結となります。
他方で,保護法益を「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益」とする考え方もあります。
たとえば,最高裁平成8年3月26日判決も,第三者が婚姻共同生活に違法に介入して,これを破壊に導くような行為について不法行為の成立を認めるべきとの考え方に立っていると評価することができると考えられています。
この「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益」を保護法益とするとの見解を貫けば,肉体関係は,これらの権利又は利益を破壊する最たる例であるものの,必ずしも,不法行為の成立に肉体関係が要求されるわけではないとの帰結につながります。
このように,法がどのような権利・利益を保護しているかという点の見解の違いによって,慰謝料請求が可能か否かの結論は異なります。
実務上は,必ずしも,不法行為の成立を,不貞行為があった場合に限定してはおらず,ケースバイケースではあるものの,「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する利益」を害する行為についても不法行為の責任を認めています。
長くなったので整理をしますと,
しかし,例外的に,肉体関係がない場合でも,浮気や交際の態様,内容,夫婦関係に与えた影響次第では,不貞行為ではないものの,不法行為が成立して,慰謝料請求に応じなければならない場合があるのです。
慰謝料請求の対象となる浮気・ならない浮気
では,どのような浮気であれば,慰謝料請求の対象となり,どのような浮気であれば慰謝料請求の対象とはならないのでしょうか。
いくつか例を挙げて検討してみましょう。
1 肉体関係を伴う浮気をしている場合
この場合は,どのような見解に立ったとしても,「不貞行為」が存在する以上,原則として慰謝料を支払う必要があります。
2 肉体関係はないが,ラブホテルを利用したことがある場合
この場合,肉体関係がないことから,実際には「不貞行為」と評価される行為はないはずです。
しかし,シティホテルなどとは異なり,「ラブホテル」を利用していることは一定程度重視され,実際に,不貞行為(肉体関係)はなかったとしても,ラブホテルを利用したということをもって,肉体関係があると推認されてしまうおそれがあります。
その結果,真に「不貞行為」がなかったとしても,その主張が認められず,「不貞行為」があったものとして慰謝料を支払わなければならない可能性があります。
3 肉体関係はないものの,頻繁に会い,スキンシップをはかっている場合
この場合,肉体関係がないことから,「不貞行為」を理由とする慰謝料請求の可能性は乏しいといます。
他方,慰謝料請求が認められる可能性は原則として低いですが,たとえば,二人が会っている頻度や場所,時間帯,スキンシップの内容次第では,夫婦間の婚姻生活の平穏を害したと評価され,これを理由に,慰謝料請求の対象となってしまう可能性があります。
実際にも,プラトニック判決として話題になった平成26年3月の大阪地裁の裁判例では,肉体関係がないことを明確に認定しながらも,既婚者と親密な関係を持ったことを理由に,慰謝料請求が一部認容されています。
浮気や不貞における慰謝料請求の相場
最後に,浮気や不貞における慰謝料請求では,おおよそどの程度の金額が認められるのでしょうか。
貞操権侵害が認められる場合の慰謝料相場
まずは,貞操権侵害が認められる場合,つまり不貞行為(肉体関係)がある場合の慰謝料の相場です。
この点については,この記事に詳しいので,こちらを併せてご確認ください。
概要としては,不倫を契機として離婚に至った場合には150万円から200万円程度を基準に,離婚には至らない場合には100万円程度を基準に,主として,不貞期間の長短や婚姻期間の長短,妊娠出産の有無,発覚後の不倫継続の有無などの事情を考慮して,慰謝料額が算定されることとなります。
婚姻共同生活の平穏を害したとされる場合の慰謝料相場
他方,不貞行為がない場合,すなわち,スキンシップを含む交際を続けていたことが,婚姻共同生活の平穏を害したと評価される場合は,貞操権侵害の場合と比較して,やや慰謝料額は低額になる印象です。
たとえば,さきほどのプラトニック判決では,認容された慰謝料額は44万円でした。
もちろん,事案にもよるのでしょうが,この裁判例のように,50万円以下での解決が可能な場合も多く存在するものと考えます。
まとめ
今回は,「浮気」という言葉の意味,浮気による慰謝料請求の可否や認容額の目安について説明をしてきました。
不貞行為のない「浮気」の場合に,慰謝料請求が認められるのは,例外的な場合です。
したがって,そもそも例外的に慰謝料請求が認められる余地があるのか,認められたとしてその金額はどの程度なのか等,専門的な判断を要する場合が大半でしょう。
浮気の慰謝料請求をしたい場合,浮気の慰謝料請求を受けた場合,いずれも,専門家である弁護士の意見を聴き,早期に見通しを立てることが肝要です。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。