樹木がお墓に侵入してきたときの対応

最終更新日: 2021年07月08日

はじめに

隣地から木の枝が墓地に侵入して来ている、隣の墓所区画から木の根が伸びてきているといった事案はよくあります。

今回はこのような植木と墓地との問題について検討します。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

隣地から墓地への越境

墓地の隣地に植えられた樹木の枝が墓地に越境している場合があります。このような場合、秋になると落ち葉が墓地に溜まりますし、墓所区画に侵入していると墓地使用者から苦情が出るかもしれません。

墓地経営者(墓地の所有者)は隣地所有者に対し、枝の切除を請求することができます(民法第233条1項)。請求する権利が認められていますので、隣地所有者がこれに応じない場合には、訴訟で判決を得て強制することができます。

一方、あくまで隣地所有者に切除を求めることができるというだけですから、勝手に枝を切除した場合、かえって法的責任を問われかねませんので注意が必要です。

このように隣地所有者に枝の切除を求める権利が認められているのは、墓地を所有している墓地経営者ですから、墓地の一区画を使用している墓地使用者にはこのような権利はありません。

そのため、墓地使用者は墓地管理者に隣地の枝を何とかするよう相談することになります。そして、墓地経営者には墓地を適切に管理する義務がありますから、墓地使用者から相談を受けたときは、隣地所有者に枝の切除を求める必要があります。

他方、枝ではなく、樹木の根が墓地に越境してくることがあります。このような越境を放置しておくと、付近の墓石が倒壊し、墓地経営者が管理責任を問われるおそれがあります。

枝の越境とは異なり根の越境の場合には、墓地経営者において、その根を切り取ることが認められています(民法第233条2項)。

ただし、根の切除を業者に依頼すると数十万円の費用がかかりますので、まずは隣地所有者に切除を依頼すべきです。隣地所有者がこれに応じない場合には、墓地経営者において費用を支出して根を切除した後、隣地所有者に対して支出した費用を請求します。

墓所区画からの越境

近時は、墓所区画に植栽することを禁止している、あるいはその高さ等を制限している墓地が多いですが、そのような規則が制定される以前からある墓所区画には大きな木が育っていることがあります。

このような場合、先ほどの隣地と墓地との間での問題と同様の問題が、墓所区間と墓所区画との間で発生することがあります。

すなわち、枝が隣の墓所区画に侵入していれば隣の墓所区画の使用者から苦情が出るかもしれませんし、根が隣の墓所区画に侵入すれば、柵や墳墓の倒壊につながりかねません。

墓所区画の使用権は所有権ではありませんので、先ほどの民法の規定を適用することはできません。そのため、墓地使用者は墓地管理者に対応を求めることとなります。

対応を求められた墓地管理者は、まずは植木のある墓所区画の墓地使用者に連絡をして、対応を求めます。

しかし、対応を求めても、墓地使用者がそれに応じない場合、墓地管理者はどうするべきでしょうか。

墓地使用者は墓所区間を使用する権利をもっている反面、墓所区画を適切に管理する義務を負っています。したがって、墓地使用者が対応をせず、かつ他の墓所区画への迷惑が看過できない程度に至っている場合には、墓地使用契約の解除を警告して対応を促すべきです。

それでも墓地使用者が対応をしない場合には、墓地使用契約を解除し、墓所区画の明け渡しを求めることも考えられますが、墓地使用権という強力な権利ゆえに、解除の有効性が認められるかどうかは不透明です。

そのため、現実的な対応としては、墓地管理者において枝、根を切除し、それにかかった費用を問題の墓所区画の使用者に請求することになります。

寺院法務のコラムをもっと読む