呼び出しがなかなか来ない痴漢事件の在宅捜査
最終更新日: 2021年12月01日
かつては身元の安定した初犯の痴漢事件の被疑者であっても逮捕、勾留されることが通常でしたが、近時は逮捕、勾留はせず、在宅事件として捜査を進めるケースがとても多くなっています。
身柄事件の場合には、逮捕の時間制限や、勾留期間の制限があることから捜査は速やかに進められます。他方、在宅事件の場合には、このような厳格な時間制限はなく、捜査は身柄事件よりもゆっくりと進みます。
今回は痴漢事件の在宅捜査についてご説明します。
痴漢事件で在宅捜査になるパターン
痴漢事件で在宅捜査になるパターンは概ね以下のいずれかです。
- 現行犯逮捕されて警察署に連行されたものの、帰宅を許された場合
- 後日逮捕されて警察署に連行されたものの、帰宅を許された場合
- 逮捕され、検察庁に事件送致されたものの、検察官が勾留請求をせず釈放された場合
- 検察官が勾留請求をしたものの、裁判官が勾留を認めず釈放された場合
- 裁判官が勾留を認めたものの、準抗告によって勾留裁判が取り消された場合
痴漢事件の在宅捜査の期間
在宅捜査での警察からの呼び出し
在宅捜査となった場合、警察から警察署に呼び出されて、取り調べなどの捜査を受けていくことになります。通常は1、2回の呼び出しで警察の捜査は終わりますが、事件によってはそれ以上の回数、呼び出されることもあります。
警察からの呼び出しは被疑者本人の携帯電話に電話をかける方法でなされることが通常ですが、携帯電話を押収しているときなどには、家族の携帯電話に電話をかけて呼び出すことがあります。
仕事などの都合で指定された日時に出頭できないこともありますので、日程調整はある程度、応じてもらうことができますが、原則として夜間や土日祝日は対応してもらえません。
書類送致までの期間
在宅事件の場合、警察から検察庁への書類送致までに非常に時間がかかることがしばしばあります。通常は、最初の取り調べから1,2か月で書類送検がなされますが、半年後や1年後に書類送検になるケースも比較的よく見られます。
警察の人的リソースには限りがあり、時間制限のある身柄事件の捜査にリソースは注がれますので、在宅事件の捜査はどうしても後回しになりがちです。
そのため、被疑者としては、起訴処分・不起訴処分の確定しない不安定な立場が続き、不安な日々を送ることになりますが、警察は限られたリソースを優先順位の高い事件から順に注ぐことになりますので、やむを得ないところがあります。
もっとも、稀に単に事件の存在を忘れていたというケースがありますので、2、3か月間、警察から呼び出しがないときは、被疑者側から警察に連絡をして、呼び出し時期の見込みについて問い合わせてみるのもよいでしょう。
なお、書類送検のタイミングで担当の警察官から被疑者に書類送検をした旨の連絡は通常はありません。弁護士に依頼しているのであれば、弁護士に書類送検の確認をとってもらうようお願いしておきましょう。
書類送検から在宅起訴までの期間
書類送検された後は通常、1か月ほどで検察庁から呼び出しがありますが、警察と同様、担当検察官が他の事件で忙しい場合などは呼び出しまでに2,3か月かかることもあります。
検察庁からの呼び出しは通常は1回で、在宅起訴になるときは呼び出しから2,3週間以内には在宅起訴となります。
痴漢事件で検察庁から呼び出しがあると罰金になるのか
痴漢事件で既に被害者との示談が成立している場合で、不起訴処分(起訴猶予)にするときは、検察庁からの呼び出しがないことも多くあります。
不起訴処分となったときは、被疑者にその旨の通知はありませんので、不起訴処分が見込まれるときは、書類送検されてから1か月ほどしたら自ら検察庁に問い合わせる又は弁護士に依頼しているときは弁護士に確認をとってもらうことになります。
他方、検察庁から呼び出しがあったとしても必ず在宅起訴となるわけではありません。検察庁からの呼び出しは、通常は自宅に出頭日時の記載された書面が送られてきます(携帯電話にかかってくることもあります。)。その日時が都合が悪いときには、担当検察官に電話をして日程を調整します。
検察庁に出頭すると、警察で作成された捜査記録をもとに担当検察官から簡単に事実確認がなされます。不起訴処分になる場合、その場で不起訴処分とすることを伝える検察官もいれば、「今後何も連絡がいかなければ不起訴処分です」と伝える検察官もいます。
起訴処分とする場合で、略式手続で罰金刑とする場合は、略式手続への同意書にサインをすることになります。そして、2、3週間後に簡易裁判所から自宅に略式命令が届きますので、罰金を納付して事件終結となります。罰金刑は刑事罰ですから前科はつきます。
痴漢事件で在宅起訴(略式起訴)されると実名報道されるか
痴漢事件を起こした被疑者としては、実名報道を懸念する方も多いところです。もっとも、特に都市部であれば痴漢事件はほぼ連日起きていることから、よほど痴漢行為の態様が特殊、悪質であったり、被疑者が公務員や教師、大企業の会社員であるなど
報道価値がない限りは実名報道の可能性は低いといえます。
実名報道がなされるタイミングは、逮捕されてから身柄事件として検察庁へ事件送致されるときが多く、それ以前に在宅捜査になっているときは実名報道の可能性は低いです。
そして、在宅起訴は事件発生から相当期間が経過した後となりますので、事件の鮮度の点でやはり報道価値は低下します。そのため、前記のような報道価値の認められる事情がない限り、在宅起訴の時点で実名報道される可能性は低いといえます。
最後に
以上、痴漢事件の在宅捜査についてご説明しました。
身柄事件の場合には当番弁護士や国選弁護士に相談することができますが、在宅捜査の場合にはそのような機会が得られないことが多く、検察庁からの呼び出しがあって初めて弁護士に相談をする方や、検察官から示談を勧められて初めて弁護士に相談する方も多くおられます。
痴漢事件の加害者としては、早期に被害者への謝罪、賠償をするために示談交渉を始めることが重要ですから、痴漢事件の加害者となったときは、刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。