離婚協議書と公正証書の違いとは?作成方法・メリット・デメリットも詳しく紹介
最終更新日: 2023年10月03日
- 離婚に合意したが、内容を書面化すべきだろうか?
- 離婚に関する取り決めは公正証書にした方がよいと聞いた、作成方法を知りたい
- 離婚協議書と公正証書、それぞれの特徴を知りたい
離婚に合意したら、離婚の条件・内容を忘れないように書面化しておきましょう。
夫婦間での離婚の取り決めを書面化したものを「離婚協議書」と言います。
しかし、離婚協議書は後日、夫婦の一方から内容を改ざんされたり、取り決めた内容が無視(例:養育費の支払の拒否等)されたりする可能性があります。
そこで今回は、多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、離婚協議書・公正証書の特徴、公正証書にする意味等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 離婚協議書を作成すれば、通常の契約書として法的効力を備えられる
- 公正証書を作成すれば、公文書として強い証拠力を有し、強制執行も可能
- 確実に離婚の取り決めを実行したいときは、公正証書を作成する
離婚協議書と公正証書の違い
夫婦で離婚の話し合いがついた場合、口頭での取り決めだけでも構いません。しかし、書面化しておいた方が、離婚の条件・内容をしっかり記録し保管できるので安心です。
こちらでは、離婚の条件・内容を書面化する2つの方法について紹介します。
離婚協議書とは
離婚協議書は、協議離婚を行うときに夫婦で決めた離婚条件等を確認する文書です。
協議書の作成方法・記載すべき内容は、法定されているわけではありません。法律上で無効になる内容でなければ、基本的に自由に作成できます。
離婚条件は、主に次のような項目について定めます。
- 親権、監護権:未成年の子どもがいる場合、親権者がどちらかを記載
- 養育費:子どもを扶養するための養育費の金額、支払期間、支払方法等
- 面会交流:親権を失くした親が、子どもと定期的に会って交流する方法・日時等
- 財産分与:婚姻期間に夫婦で協力し形成した財産の分配方法
- 慰謝料:夫婦のどちらか一方が離婚原因をつくった場合、原因をつくった方が支払う慰謝料の金額・支払方法等
- その他:夫婦の事情に応じた取決め(例:年金分割、夫婦間の金銭貸借の清算等)
公正証書とは
公正証書は公証人(公証作用を担う公務員)が作成する公文書です。
公証人が、協議離婚に合意した夫婦の意思を聴き取り作成するので、信頼性の高い書類となります。
公証人は、原則として弁護士をはじめ、裁判官や検察官として法律実務に携わってきた人を対象にした公募に応じた中から法務大臣が任命します(公証人法第13条)。
なお、公正証書は協議で取り決めた金銭の支払い内容を確実に実行するため、特別な機能を付けて作成が可能です。
離婚協議書と公正証書の作成方法
離婚協議書も公正証書も、まず夫婦で離婚条件を話し合い、合意することが前提です。
そのうえで、離婚協議書や公正証書をそれぞれの方法で作成します。
離婚協議書
協議離婚で夫婦が離婚に合意したときは、項目ごとに離婚の条件の具体的な内容を取り決めていきます。
その後、具体的な内容を盛り込んだ離婚協議書を2通作成します。協議書は自筆でもパソコンでも作成可能です。
協議書2通に夫婦が署名・押印し、更に2通の協議書が同一内容であると証明するため、それぞれの契約書にまたがって割印をします。
協議書は夫婦が各1通ずつ保管します。
公正証書
夫婦で話し合いがまとまったときに、公証人に離婚の公正証書を作成してもらいます。
まずは必要書類の準備にとりかかりましょう。
主な必要書類は次の通りです。
- 離婚の内容を明記したメモ
- 夫婦双方の戸籍謄本:本籍地の市区町村役場で取得、1通450円
- 印鑑登録証明書:住所地の市区町村役場で取得、1通300円
- 実印
- 夫婦双方の本人確認書類:運転免許証、パスポート等
- 財産分与等がある場合の書類:不動産の登記簿謄本、物件目録等
- 年金分割を行う場合の書類:年金手帳、年金分割のための情報通知書
必要書類を集めたら、公証役場に書類を提出して申し込み、後日あらためて訪問する日時を予約します。
予約した日時に、原則として夫婦揃って公証役場を訪問しなければいけません。
合意内容を盛り込んだ公正証書を完成させ、手数料を支払い、離婚公正証書を受け取ります。
離婚協議書と公正証書それぞれのメリット
離婚協議書は費用がかからず自由に作成可能、公正証書は改ざんのリスクがなく強い証拠力を有する点がメリットです。
離婚協議書
離婚協議書は自由に作成が可能で、費用も、紙代程度とほとんどかからない点がメリットです。
離婚協議書を作成する場合に実印を作成して押印したいときは、登録する印鑑・本人確認書類(例:運転免許証、パスポート等)を準備し、住所地の市区町村役場で印鑑登録申請をします(手数料200円)。
公正証書
離婚の取り決めを公正証書にしておけば、安全かつ確実に離婚条件の履行を進められる点がメリットです。
公正証書の原本は公証役場に保管されるため、元配偶者はもちろん第三者等から偽造・変造されるリスクがありません。
また、元配偶者に約束した内容(慰謝料の支払や養育費等の支払等)をしっかり守ってもらうため、公正証書による作成は有効な措置になります。
たとえば「強制執行認諾」を明記していれば、慰謝料・養育費等の支払等の不履行があった場合に、裁判手続を経ずに強制執行が可能です。
離婚協議書と公正証書それぞれのデメリット
協議離婚は約束を破られる可能性がある、公正証書は手数料がかかる点が、それぞれのデメリットです。
離婚協議書
離婚協議書は双方の合意書(契約書)なので、どちらかが条件に違反した場合は、まず協議書に記載した内容の履行を求めます。
ただし、離婚協議書では違反した相手方に、ペナルティを強制的に課す(たとえば約束の履行のため強制執行できる等)ことができるわけではありません。
そのため、重いペナルティは受けないと考えた相手が、約束を破る場合もあり得るのです。
違反の解決は、最終的に調停や裁判で解決を目指すことになります。
この場合に離婚協議書があれば、調停や裁判を行うときに、相手が協議書に明記されている条件に違反していると主張できます。
公正証書
離婚公正証書を作成する場合は、公証役場に提出する書類を集める等、手間のかかる点がデメリットです。
また、公正証書に記載された目的の価額(例:慰謝料や養育費等の金額)に応じ、作成手数料は変わってきます。
ケースによっては、手数料が数十万円となる場合もあるので注意しましょう。
下表を参考にしてください。
目的の価額 | 手数料 |
~100万円 | 5,000円 |
100万円超~200万円 | 7,000円 |
200万円超~500万円 | 11,000円 |
500万円超~1,000万円 | 17,000円 |
1,000万円超~3,000万円 | 23,000円 |
3,000万円超~5,000万円 | 29,000円 |
5,000万円超~1億円 | 43,000円 |
1億円超~3億円 | 43,000円+超過額5,000万円ごとに13,000円を加算した金額 |
3億円超~10億円 | 95,000円+超過額5,000万円ごとに11,000円を加算した金額 |
10億円超~ | 249,000円+超過額5,000万円ごとに8,000円を加算した金額 |
離婚協議書ではなく公正証書を作成すべき状況とは?
離婚協議書も契約書である以上、互いにその約束を履行する場合がほとんどです。
しかし、次のような4つのケースでは、離婚公正証書を作成した方が安心できます。
大金の支払いを約束している
離婚するときに、夫婦の一方がもう一方に慰謝料や財産分与等という形で大金を渡す場合は、高い証拠力を有する公正証書にすると、より確実な履行が可能になります。
たとえ夫婦のどちらかが約束を無かったものにするため、書類の破棄や改ざんをしても、公証役場に原本が保管されているので、証拠はしっかりと残り続けます。
長期的な支払いを約束している
まだ幼い子どもがいて、親権のない親に自立するまで養育費を支払ってもらいたい場合、離婚公正証書を作成しましょう。
養育費の支払は10年、20年と長期的な支払になる可能性が高いです。養育費の支払が滞ってしまうと、子どもの生活に深刻な影響が及ぶ事態も想定されます。
公正証書に、支払う側が養育費を払わないとき、「強制執行されてもかまわない」と受諾した旨の定めを記載(強制執行認諾)しておけば、支払の不履行があった場合でも、裁判手続を経ずに強制執行が可能です。
夫婦間の信頼関係が弱い
夫婦関係が冷え切り、相手と協議離婚をしてもまず約束は守ってくれない、と感じるのであれば、離婚公正証書を作成しましょう。
公正証書に強制執行認諾の条項がある場合、裁判手続を経ずに強制執行が可能です。相手に「しっかり義務を履行しないと、強制執行されてしまう」という心理的プレッシャーを与えられます。
契約違反が起きた場合の備えにしたい
相手が契約違反をした場合も、公正証書であれば確実な証拠となります。
たとえば、金銭による財産分与、慰謝料や養育費を支払う約束を破った場合、強制執行認諾を付した公正証書があれば、裁判手続を経ずに強制執行が可能です。
一方、財産分与に基づく不動産引渡しのような義務の履行は、金銭以外の財産給付のため、公正証書による強制執行は認められません。
この場合は、訴訟(裁判)を起こして勝訴すれば強制執行が可能です。訴訟するときに、公正証書を提出すれば強力な証拠となります。
離婚協議書か公正証書かで迷ったらすべきこと
離婚協議で決めた離婚条件を離婚協議書に記載するか、それとも公正証書にするか悩んだときは、弁護士に相談してみましょう。
弁護士はそれぞれのメリット・デメリットに加え、夫婦の事情も考慮して、どちらで作成した方がよいかアドバイスします。
また、離婚協議書または公正証書を作成する場合に、どのような離婚条件を記載した方がよいかも指摘するので、完成度の高い書類が作成できます。
まとめ
今回は多くの民事事件に携わってきた専門弁護士が、離婚協議書・公正証書それぞれのメリット・デメリット、公正証書で作成すべきケース等について詳しく解説しました。
離婚協議書で十分か公正証書にした方がよいか、まず夫婦間でよく検討してみましょう。
協議離婚の条件を書面化したいときは、弁護士と相談してアドバイスをもらいましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。