離婚時の退職金、財産分与で損しないための計算方法と請求手続き

最終更新日: 2026年04月10日

離婚で退職金はどうなる?財産分与となるケース・計算方法・すべきことを解説

離婚を決意したとき、考えなければならないお金の問題は多岐にわたりますが、中でも「退職金」は大きな金額になることが多く、財産分与における重要な争点となり得ます。
「相手の退職金はもらえるの?」「どうやって計算するの?」「もし支払いを拒否されたら?」
こうした疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。

退職金は、長年の夫婦の協力によって築かれた共有財産の一部です。正しい知識を持って手続きを進めなければ、本来受け取れるはずの権利を逃し、大きく損をしてしまう可能性があります。
この記事では、離婚時の退職金の財産分与について、対象となるケースから具体的な計算方法、請求手続き、そしてよくあるトラブルへの対処法まで、専門的な観点から詳しく解説します。最後まで読めば、あなたが損をしないために今何をすべきかが明確になるはずです。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士 春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内法律事務所勤務
当事務所開設
資格
宅地建物取引士
情報処理安全確保支援士
詳しくはこちら

職員が丁寧にお話を伺います初回無料

目次

離婚時の退職金は財産分与の対象になる?

結論から言うと、離婚時の退職金は財産分与の対象となる可能性が非常に高いです。たとえ離婚時にまだ支払われていない将来の退職金であっても、対象に含まれます。なぜなら、退職金は単なる「退職時にもらえるお祝い金」ではなく、法的には「給与の後払い」としての性質を持つと考えられているからです。

退職金が財産分与の対象となる理由:「給与の後払い」という性質

裁判例では、退職金は「在職中の労働の対価として支払われる賃金の後払い」としての性質を持つと判断されています。夫婦の一方が会社で働いて給与を得られるのは、もう一方の配偶者が家事や育児などを通じて家庭を支えてきた協力があってこそです。

つまり、婚姻期間中に形成された退職金は、夫婦が協力して築き上げた「共有財産」とみなされるのです。そのため、給与や預貯金と同じように、離婚時の財産分与の対象となります。

財産分与の対象になるケース

一般的に、以下のようなケースでは退職金が財産分与の対象となります。

  • すでに退職金が支払われている場合: すでに退職し、退職金が支払われて預貯金口座などに入っている場合は、その残額が明確な共有財産として分与の対象となります。
  • 近い将来、退職する予定がある場合: 離婚時にまだ在職中であっても、数年後に定年退職を控えているなど、退職金の支給がほぼ確実に見込まれる場合は、財産分与の対象となります。
  • 離婚時に退職の予定がなくても、将来支給される可能性が高い場合: 定年までまだ時間がある場合でも、会社の退職金規程などから将来の支給が見込まれるのであれば、対象となるのが一般的です。ただし、この場合は計算方法が少し複雑になります。

財産分与の対象にならないケース

一方で、以下のようなケースでは財産分与の対象にならない、または対象額が少なくなる可能性があります。

  • 退職金が支払われる可能性が低い・不確実な場合: 会社の経営状態が悪く倒産のリスクが高い、勤続年数が短い、あるいは中小企業や個人事業主で退職金制度自体が確立されていないなど、将来退職金が支払われるかどうかが極めて不確実な場合は、財産分与の対象とすることが難しい場合があります。
  • 婚姻期間が極端に短い場合: 結婚してすぐに離婚する場合など、婚姻期間が非常に短いと、財産分与の対象となる退職金の額もごくわずかになるか、請求が認められないこともあります。
  • 親族経営の会社からの功労金・恩恵的な給付の性質が強い場合: 退職金が、純粋な労働の対価というより、親族経営の会社における役員退職慰労金などで、経営者一族からの功労報奨的な意味合いが強いと判断された場合、財産分与の対象から外されることがあります。

【ケース別】財産分与される退職金の計算方法

退職金の財産分与額は、いつの時点の退職金を基準にするかによって計算方法が異なります。ここでは代表的な3つのケースに分けて、具体的な計算方法を解説します。

計算の基本:婚姻期間(同居期間)に応じた部分を2分の1で分ける

財産分与の基本的な考え方は、夫婦が協力して財産を形成した「婚姻期間(通常は同居を開始した日から別居する日まで)」に対応する部分を、原則として2分の1ずつ分ける(2分の1ルール)というものです。
退職金もこの考え方に従い、勤続期間全体のうち、婚姻期間が占める割合を算出し、その部分を夫婦の共有財産として分割します。

基本の計算式
(退職金額) × (婚姻期間 ÷ 勤続期間) × (分与割合 1/2)

ケース1:退職金がすでに支払われている場合

離婚時にすでに退職金が支払われているケースが最もシンプルです。
支払われた退職金から、税金などを差し引いた手取り額を基準に計算します。

計算例
退職金手取り額:2,000万円
勤続期間:40年(480ヶ月)
婚姻期間:30年(360ヶ月)

財産分与額の計算
2,000万円 ×(360ヶ月 ÷ 480ヶ月)× 1/2 = 750万円

この場合、750万円を請求できる権利があります。ただし、すでに退職金が生活費や住宅ローンの返済などに使われている場合は、残っている預貯金などが分与の対象となります。

ケース2:まだ退職金が支払われていない(在職中)場合

離婚時にまだ在職中で退職金が支払われていない場合は、計算の基準となる「退職金額」をどう設定するかで、主に2つの考え方があります。

① 離婚時(別居時)に自己都合で退職した場合の金額を基準にする方法

裁判例で多く採用されているのがこの方法です。将来の不確定要素(会社の倒産リスクや本人の都合など)を排除できるため、公平性が高いと考えられています。会社の就業規則や退職金規程を取り寄せ、「離婚時(または別居時)に自己都合で退職したらいくら支給されるか」を算出し、それを基に計算します。

計算例
離婚時(別居時)の自己都合退職金額:800万円
勤続期間(入社から別居まで):25年(300ヶ月)
婚姻期間:20年(240ヶ月)

財産分与額の計算
800万円 × (240ヶ月 ÷ 300ヶ月) × 1/2 = 320万円
※このケースでは、勤続期間と婚姻期間が重なっている部分が財産形成に寄与した期間とみなされるため、実質的に「800万円 × 1/2 = 400万円」に近い考え方で計算されることも多いです。

② 将来の定年退職時に受け取る予定の金額を基準にする方法

定年退職が間近に迫っているなど、将来退職金を受け取ることがほぼ確実な場合に採用されることがあります。この場合、将来受け取るであろう退職金から、別居時から退職時までの期間に本人が一人で形成する部分(中間利息なども考慮)を差し引いて計算します。計算が複雑になるため、弁護士などの専門家の助けが必要になるでしょう。

損しないための退職金財産分与の請求手続き

退職金の財産分与を請求するには、決まった手順があります。感情的にならず、法的なステップに沿って冷静に進めることが重要です。

ステップ1:協議(話し合い)での請求

まずは夫婦間の話し合い(協議)で解決を目指します。相手に退職金も財産分与の対象であることを伝え、金額の算定に必要な資料(退職金規程、給与明細など)の開示を求めます。
お互いが合意できれば、その内容を「離婚協議書」や、より法的な拘束力の強い「公正証書」として書面に残しておくことが非常に重要です。口約束だけでは、後で「言った・言わない」のトラブルになりかねません。

ステップ2:離婚調停での請求

夫婦間の話し合いで合意できない、または相手が話し合いにすら応じない場合は、家庭裁判所に「離婚調停(夫婦関係調整調停)」を申し立てます。
調停では、調停委員という中立な第三者が間に入り、双方の主張を聞きながら、合意形成に向けた話し合いを進めてくれます。調停委員が法的な観点から助言してくれるため、冷静な話し合いが期待できます。ここで退職金の財産分与についても話し合い、合意できれば調停調書が作成されます。この調書は、裁判の判決と同じ効力を持ちます。

ステップ3:離婚訴訟(裁判)での請求

調停でも合意に至らなかった場合は、最終的に「離婚訴訟(裁判)」を提起することになります。
裁判では、財産分与の対象となるか、金額はいくらが妥当かといった点について、お互いが証拠に基づいて主張・立証し、最終的に裁判官が判決を下します。相手が退職金の資料開示を拒否している場合でも、裁判所を通じて会社に照会をかける「調査嘱託」という手続きを利用できるため、より正確な情報を得ることが可能です。

離婚後に請求する場合の注意点【時効は2年】

離婚時に財産分与の取り決めをせず、離婚後に請求することも可能です。しかし、この権利には時効があります。
財産分与の請求権は、離婚が成立した日から2年で時効によって消滅してしまいます。離婚後の生活に追われてうっかり忘れてしまうケースも少なくありません。「後でゆっくり考えよう」と思っているうちに、請求する権利そのものを失ってしまう危険性があるため、離婚届を出す前にきちんと取り決めておくか、離婚後すぐに手続きを開始することが鉄則です。

退職金の財産分与でよくあるトラブルと対処法

退職金は金額が大きいため、トラブルに発展しやすい財産です。代表的なトラブルとその対処法を知っておきましょう。

相手が退職金の情報を開示してくれない

「退職金制度なんかない」「いくらもらえるか分からない」などと言って、情報開示を拒否されるケースは非常に多いです。

対処法:

  • 協議・調停段階: 弁護士に依頼し、弁護士会を通じて相手の勤務先に照会をかける「弁護士会照会」という制度を利用できる場合があります。
  • 訴訟段階: 裁判所の「調査嘱託」という手続きを利用し、裁判所から勤務先へ退職金額などに関する情報開示を命じてもらうことができます。これは強力な手段です。

退職金をすでに使い込んでしまったと言われた

すでに受け取った退職金を「ギャンブルや趣味で使い込んでしまった」と主張されるケースです。

対処法:
たとえ使い込んでしまった後でも、財産分与の義務がなくなるわけではありません。本来分与されるべきだった財産を不当に減少させた「特有財産からの補填」を主張したり、他の財産(不動産、自動車など)から多めに分与を受けたり、慰謝料で調整するなどの方法が考えられます。使い込みの事実や時期を証明する証拠(預金通帳の取引履歴など)が重要になります。

支払いを拒否された・支払う資力がないと言われた

「支払いたくない」と感情的に拒否されたり、「他に財産がないから払えない」と主張されたりするケースです。

対処法:
公正証書や調停調書、判決など、法的に支払いが義務付けられた書面(債務名義)があれば、強制執行の手続きが可能です。相手の給与や預貯金、不動産などを差し押さえて、強制的に支払いを受けることができます。

使い込みを防ぐ「仮差押え」とは?

相手が財産を隠したり、使い込んだりする恐れがある場合、財産分与の話し合いが決着する前に、相手の財産を一時的に凍結させる「仮差押え」という保全手続きがあります。
退職金がすでに支払われて預金口座にある場合、その口座を仮差押えすることで、相手が勝手にお金を引き出せないようにできます。これは非常に有効な手段ですが、法的な専門知識が必要なため、実行するには弁護士への相談が不可欠です。

こんなときどうする?退職金の財産分与に関するQ&A

ここでは、退職金の財産分与に関してよく寄せられる具体的な質問にお答えします。

共働きの場合、お互いの退職金はどうなりますか?

共働きで夫婦それぞれに退職金(または将来受け取る見込み)がある場合、原則として、お互いの退職金を財産分与の対象として計算します。
例えば、夫の財産分与対象額が500万円、妻の対象額が300万円だった場合、単純にそれぞれの半額を交換するのではなく、合計額(500万円+300万円=800万円)を2分の1(400万円)にし、差額を調整します。この場合、夫が妻に「(500万円-400万円)=100万円」を支払うことで公平な分与が実現します。

熟年離婚ですが、年金分割も一緒に考えるべきですか?

はい、熟年離婚の場合は必ず年金分割もセットで考えるべきです。退職金は一時金として受け取る財産ですが、年金は老後の生活を支える継続的な収入源です。
財産分与(退職金含む)と年金分割は全く別の制度ですが、老後の生活設計を立てる上では両方を総合的に考慮する必要があります。特に専業主婦(主夫)だった期間が長い方は、年金分割によって将来受け取れる年金額が大きく変わる可能性があるため、忘れずに手続きを行いましょう。

相手が公務員の場合、特別な注意点はありますか?

公務員の退職金(退職手当)は、法律や条例で支給基準が明確に定められているため、民間企業に比べて金額の算定がしやすいという特徴があります。
「退職手当の計算書」などを入手すれば、比較的容易に離婚時(別居時)の退職手当額を計算できます。情報開示にも応じてもらいやすい傾向がありますが、拒否された場合は、訴訟になれば裁判所からの調査嘱託でほぼ確実に情報を得られます。共済組合から支給される退職共済年金なども関連してくるため、複雑な場合は専門家に相談しましょう。

分割払いや退職後の支払いを提案されたら応じるべきですか?

離婚時にまだ退職金が支払われていない場合、相手から「実際に退職金が支払われたら、その中から支払う」といった分割払いや将来の支払いを提案されることがあります。
これに応じるかどうかは慎重に判断すべきです。将来、相手が本当に支払ってくれる保証はありません。転職して退職金が減額されたり、支払いを拒否されたりするリスクがあります。
もし応じるのであれば、必ずその取り決めを公正証書などの法的な強制力を持つ書面に残し、「支払いが遅れた場合のペナルティ(遅延損害金)」や、「勤務先が変わった場合の報告義務」なども明記しておくべきです。可能であれば、離婚時に他の財産で清算してもらう方が確実です。

退職金の財産分与は弁護士への相談がおすすめ

退職金の財産分与は、法律的な知識や複雑な計算が必要な上、相手との感情的な対立も絡むため、当事者だけで解決するのは非常に困難です。損をせず、適正な権利を確保するためには、離婚問題に強い弁護士に相談することを強くおすすめします。

弁護士に依頼するメリット

  • 適正な分与額を算定してくれる: 裁判例や法的な根拠に基づき、あなたが受け取るべき正当な金額を算出してくれます。
  • 相手との交渉をすべて代行してくれる: 精神的な負担が大きい相手との直接のやり取りから解放されます。弁護士が冷静かつ法的に交渉を進めることで、早期解決につながりやすくなります。
  • 必要な証拠収集をサポートしてくれる: 退職金規程の入手方法や、弁護士会照会、調査嘱託など、専門的な手続きをスムーズに進めてくれます。
  • 法的な手続きを任せられる: 調停や裁判になった場合も、書類作成から裁判所への出廷まで、すべての手続きを安心して任せることができます。
  • 将来のリスクを回避できる: 公正証書の作成や強制執行など、合意内容を確実に実現するための手続きをサポートしてくれます。

弁護士選びのポイント

  • 離婚問題、特に財産分与の実績が豊富か: ホームページなどで解決事例を確認しましょう。
  • 説明が分かりやすく、親身に話を聞いてくれるか: 専門用語ばかりでなく、あなたの状況に合わせて丁寧に説明してくれる弁護士を選びましょう。
  • 費用体系が明確か: 相談料、着手金、成功報酬などが明確に提示されているかを確認しましょう。

初回の相談は無料で行っている法律事務所も多いので、まずは一度、専門家の話を聞いてみることから始めるのが良いでしょう。

まとめ

離婚時の退職金は、夫婦の協力で築いた重要な共有財産であり、財産分与の対象となります。その金額は数百万円から一千万円を超えることもあり、離婚後の生活設計に大きな影響を与えます。

  • 退職金は「給与の後払い」であり財産分与の対象になる。
  • 計算の基本は「婚姻期間に応じた部分を2分の1」にすること。
  • 請求手続きは「協議→調停→訴訟」のステップで進める。
  • 離婚後の請求には「2年」の時効があるため注意が必要。
  • 相手が情報開示を拒否したり、使い込んだりしても対処法はある。

退職金の財産分与で損をしないためには、正しい知識を持ち、冷静かつ戦略的に手続きを進めることが不可欠です。しかし、ご自身だけで対応するには限界があります。相手との交渉や法的な手続きで少しでも不安を感じたら、迷わず離婚問題に強い弁護士に相談してください。専門家の力を借りることが、あなたの正当な権利を守り、新たな人生への第一歩を確かなものにするための最善の選択です。

離婚のコラムをもっと読む

※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。

職員が丁寧にお話を伺います初回無料

不倫・離婚などの実績

相談 85,000件 解決 4,400件
※全て2026年2月時点の数値