高次脳機能障害の労災認定|申請手続きと等級認定のポイントを解説
2026年05月20日

業務中の事故などが原因で脳にダメージを受け、「以前のように仕事ができない」「怒りっぽくなった」といった症状が現れる場合、「高次脳機能障害」を発症している可能性があります。
高次脳機能障害は外見からは分かりにくいため「見えにくい障害」とも呼ばれ、労災認定や後遺障害等級の獲得においてハードルが高いとされています。
この記事では、高次脳機能障害の労災認定基準や申請手続きのステップ、適切な等級認定を受けるための重要ポイントについて詳しく解説します。
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高次脳機能障害とは?労災認定の対象となる「見えにくい障害」
高次脳機能障害とは、病気やケガによって脳が損傷し、記憶、思考、言語、学習、注意などの認知機能に障害が起きる状態を指します。身体的な麻痺がなくても、日常生活や労働に重大な支障をきたすため、労災保険の後遺障害認定の対象となります。
高次脳機能障害の主な症状
高次脳機能障害の症状は多岐にわたり、本人も自覚していないケースが少なくありません。代表的な4つの症状は以下の通りです。
記憶障害
新しいことを覚えられない、少し前の出来事を忘れてしまうといった症状です。仕事の指示をすぐに忘れてしまったり、同じ質問を何度も繰り返したりするため、業務に大きな支障が出ます。
注意障害
一つのことに集中し続けることができない、複数の作業を同時にこなせないといった状態です。作業中に別のことに気を取られたり、長時間のデスクワークができなくなったりします。
遂行機能障害
物事の計画を立てて、順序立てて実行することが難しくなります。仕事の優先順位がつけられない、急なトラブルに臨機応変に対応できないといった問題が生じます。
社会的行動障害
感情のコントロールが効かなくなり、突然怒り出したり、子供っぽくなったりする症状です。周囲との協調性が失われ、職場の人間関係の悪化に直結しやすい深刻な障害です。
労災の原因となる事故の具体例
高次脳機能障害を引き起こす労災事故には、以下のようなものがあります。
- 建設現場での高所からの墜落・転落による頭部強打
- 工場でのクレーンや重量物の落下による頭部外傷
- 業務中の交通事故(営業中の車での衝突事故など)
- 過重労働や強いストレスによる脳卒中(脳梗塞やクモ膜下出血など)
高次脳機能障害の労災認定|後遺障害等級はどう決まる?
高次脳機能障害の労災補償の金額は、「後遺障害等級」によって大きく変わります。等級はどのように決まるのでしょうか。
後遺障害等級と給付内容の概要
高次脳機能障害の後遺障害等級は、障害の程度に応じて第1級、第2級、第3級、第5級、第7級、第9級(第12級、第14級の可能性もあります)に分けられます。
第1級から第7級までは年金形式で継続的に給付され、第9級以下は一時金として支払われます。
等級ごとの補償金額の目安や計算方法については、以下の記事で詳しく解説しています。等級が1つ違うだけで生涯補償額に数千万円が生じるため、ぜひあわせてご確認ください。
等級認定の重要な基準「4つの能力」とは?
等級を決定する際、労働基準監督署は以下の「4つの能力」の喪失度合いを評価します。
①意思疎通能力
職場の同僚や上司と円滑なコミュニケーションが取れるかどうかの能力です。言葉の理解や表現、場の空気を読んだ発言ができるかが問われます。
②問題解決能力
業務上の課題を理解し、適切な手順で解決に導く能力です。指示がなくても自ら考えて行動できるかが評価のポイントになります。
③作業負荷に対する持続力・持久力
決められた就業時間内に、一般的な作業ペースを維持して働き続けられる能力です。精神的な疲れやすさや集中力の持続が評価されます。
④社会行動能力
職場での協調性や、感情を適切にコントロールする能力です。不適切な行動やパニックを起こさずに集団行動ができるかを見られます。
等級ごとの認定基準と具体例
- 第1級〜第2級
常に、または随時介護が必要な状態。就労は全く不可能です。 - 第3級
介護は不要ですが、生命維持に必要な身の回りのことしかできず、就労は不可能です。 - 第5級
極めて単純な反復作業しかできず、就労可能な職種が著しく制限されます。 - 第7級
一般就労は可能ですが、作業手順の悪さなどから、就労を維持するために職場の一定の配慮や援助が必要です。 - 第9級
一般就労は可能で問題解決もできますが、作業効率が低いなどの理由で就労可能な職種にある程度の制限を受けます。
高次脳機能障害の労災申請|認定までの3つのステップ
労災保険の後遺障害給付を受けるための手続きは、以下の3つのステップで進められます。
症状固定と後遺障害診断書の作成依頼
これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態を「症状固定」と呼びます。症状固定後、主治医に「後遺障害診断書」を作成してもらいます。高次脳機能障害の場合、受傷から少なくとも半年以上の経過観察が必要です。
必要書類の準備と労働基準監督署への提出
後遺障害診断書に加え、障害補償給付支給請求書、MRIやCTの画像データ、神経心理学検査の結果、家族や職場が作成した「日常生活状況報告書」などを用意し、管轄の労働基準監督署に提出します。
労災の申請手続きや相談窓口については、以下の記事でまとめて解説しています。
労働基準監督署による調査と等級認定
提出された書類や画像をもとに、労働基準監督署の審査会(専門医などによる評価)が行われます。必要に応じて本人との面談が行われることもあり、最終的に後遺障害等級が認定されます。
適切な等級認定を受けるための3つの重要ポイント
高次脳機能障害は客観的な証明が難しいため、以下の3つのポイントを押さえることが重要です。
専門医による的確な診断と意見書
高次脳機能障害の診断は非常に専門性が高いため、脳神経外科やリハビリテーション科など、この障害に精通した専門医の診察を受けることが不可欠です。主治医が作成する詳細な意見書や神経心理学検査(WAIS、WMSなど)の数値が、等級認定の強力な証拠となります。
家族が協力して作成する「日常生活状況報告書」
本人は自らの障害を正確に認識(病識)していないことが多いため、同居する家族が「受傷前と比べてどう変わったか」を具体的に記録した報告書が極めて重要です。「火をつけっぱなしにする」「急に怒鳴るようになった」など、具体的なエピソードを詳細に記載します。
脳の損傷を証明するMRI・CTなどの画像所見
脳の器質的損傷(組織の破壊)を証明するためには、事故直後および症状固定時のMRIやCT画像が必須です。特に、微細な損傷を見つけるためには、高解像度のMRI(3T-MRIなど)での撮影が有効な場合があります。
労災保険だけでは不十分?会社への損害賠償請求を検討しよう
労災保険が認定されても、すべての損害が補償されるわけではありません。
労災保険で補償されない損害(慰謝料・逸失利益など)
労災保険からは、治療費や休業補償、後遺障害に対する年金・一時金は支払われますが、「慰謝料」は一切支払われません。
また、将来得られるはずだった収入の減少分(逸失利益)についても、労災保険だけでは十分にカバーしきれないのが実情です。
労災事故で慰謝料を請求できるケースや相場については、こちらの記事で詳しく解説しています。
会社に損害賠償を請求できるケース(安全配慮義務違反)
事故の原因が会社側の安全管理の不備(足場の不良、機械の欠陥、過酷な長時間労働など)にある場合、会社に対して「安全配慮義務違反」や「不法行為責任」に基づく損害賠償(慰謝料や不足する逸失利益など)を請求できる可能性が高いです。
労災保険給付とは別に会社へ損害賠償請求できる根拠や手続きについては、こちらをご覧ください。
高次脳機能障害の労災問題は弁護士への相談が解決の鍵
高次脳機能障害の労災問題は手続きや会社対応が複雑で、早期に弁護士へ相談することが解決の鍵となります。
弁護士に依頼すれば、適切な後遺障害等級の獲得に向けた資料作成や医師対応のサポート、会社との損害賠償交渉の代理、さらには労基署への申請など煩雑な手続きも一任できます。
これにより、被害者やご家族は精神的負担を軽減し、治療や生活再建に専念できる点が大きなメリットです。
労災問題を弁護士に依頼する具体的なメリットや費用の目安は、以下の記事でまとめています。
弁護士費用が不安な方は、費用特約を使える場合があります。詳しくはこちらをご覧ください。
高次脳機能障害の労災認定に関するよくある質問(FAQ)
Q:高次脳機能障害の後遺障害給付の申請には期限(時効)がありますか?
A:はい、労災保険の請求には厳格な時効が定められています。高次脳機能障害の後遺障害に対する給付(障害補償給付など)の申請期限は、「症状固定日の翌日から5年」です。治療費(療養補償給付)や休業中の補償(休業補償給付)については「2年」とさらに短くなっています。高次脳機能障害は診断や症状固定までに時間がかかるケースが多いですが、時効を過ぎると一切の補償を受けられなくなるため、早めの行動が不可欠です。
Q:事故から長期間経ってから「様子がおかしい」と気づいた場合でも労災認定されますか?
A:認定される可能性はありますが、事故直後に申請するよりもハードルはかなり高くなります。高次脳機能障害は「見えにくい障害」であるため、職場復帰後に仕事のミスが続いたり、性格が変わったように怒りっぽくなったりして、数ヶ月や数年経ってから初めて障害に気づくケースが珍しくありません。
しかし、時間が経過していると、その症状が「本当に労災事故が原因なのか(因果関係)」を証明することが難しくなります。そのため、事故直後の意識障害の有無に関する医療記録や、初期に撮影したMRI・CT画像などが極めて重要な証拠となります。
Q:会社が「労災ではない」「本人の能力不足だ」と主張し、申請手続きに協力してくれません。どうすればよいですか?
A:会社の協力(事業主の証明印)がなくても、労働者自身の権利として労災申請を行うことは可能です。会社が手続きへの協力を拒否する場合、「会社から事業主証明を拒否された」という旨を記載した理由書(事業主証明の拒否に関する申立書)を申請書類に添付して、労働基準監督署に直接提出することができます。
ただし、会社側が非協力的な態度をとっている場合、その後の調査や損害賠償請求においてトラブルに発展する可能性が高いため、早い段階で弁護士に間に入ってもらうことを強くお勧めします。
Q:事故後、うつ病などの「精神疾患」と診断されましたが、実は高次脳機能障害ではないかと疑っています。等級認定に影響はありますか?
A:非常に大きな影響があります。高次脳機能障害による「意欲の低下」「感情のコントロール不良」といった症状は、うつ病や適応障害などの精神疾患とよく似ているため、誤診されるケースが少なくありません。
労災において、精神疾患と高次脳機能障害では認定の基準や補償内容が根本的に異なります。頭部への外傷や脳血管疾患といった物理的なダメージがあったのであれば、精神科だけでなく、高次脳機能障害の専門医(脳神経外科やリハビリテーション科など)を受診し、神経心理学検査等を通じて正しい診断を受け直すことが、適切な後遺障害等級を獲得するために極めて重要です。
まとめ
高次脳機能障害は、外見からは分かりにくいにもかかわらず、本人の就労や家族の生活に甚大な影響を与える深刻な障害です。適切な労災認定(後遺障害等級)を受け、適正な補償を得るためには、専門医の診断、家族のサポート、そして法的な専門知識が欠かせません。
もし、ご自身やご家族が労災事故後に「様子がおかしい」「仕事がうまくいかない」と感じたら、一人で抱え込まず、まずは労災問題に詳しい弁護士に相談し、今後の適切な対応策についてアドバイスを受けることをお勧めします。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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