誹謗中傷で刑事告訴したらどうなる?加害者・被害者が知るべき罪と対処法を解説
最終更新日: 2024年11月29日
- 私はネット上で誹謗中傷されている。相手を刑事告訴した後の手順について知りたい。
- 誹謗中傷した加害者が逮捕・起訴されたら、被害者である自分は何もしなくてよいのだろうか?
- 誹謗中傷で刑事告訴する場合も、弁護士に相談した方がよいのだろうか?
誹謗中傷を受けたとき、加害者の刑事責任を追及する方法が「刑事告訴」です。
しかし、刑事告訴を捜査機関側が受理し、捜査→加害者の逮捕→起訴→刑事裁判と進めていくためには、事前に被害者が証拠を揃え、加害者を特定しておく必要があります。
そこで今回は、誹謗中傷の問題の解決に携わってきた専門弁護士が、誹謗中傷による刑事告訴が受理された後の流れ、刑事告訴で問われる罪等を詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。
- 誹謗中傷による刑事告訴は、基本的に警察署へ告訴状を提出して行う
- 刑事手続が進められている場合、被害者が捜査機関に協力しなければいけない場合もある
- 刑事告訴をするときは、専門弁護士に相談しアドバイスを得ておいた方がよい
誹謗中傷による刑事告訴とは
刑事告訴とは捜査機関に誹謗中傷等の犯罪の事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示です。
刑事告訴を行うときは、基本的に警察署へ告訴状を提出します。口頭で行っても構いません。
誹謗中傷で問われる罪は主に次の3つです。
- 名誉毀損罪
- 侮辱罪
- 脅迫罪
あなたが誹謗中傷の加害者を名誉毀損罪や侮辱罪に問う場合、両罪とも「親告罪」に該当しするので、刑事告訴しなければ捜査機関は捜査を開始しません。
一方、脅迫罪は「非親告罪」なので、捜査機関が脅迫を確認した場合、あなたから刑事告訴がなくても捜査を開始できます。
ただし、脅迫罪の場合、捜査機関が自ら発見することは少ないため、通常は被害者からの刑事告訴によって立件されます。
誹謗中傷による刑事告訴が受理された後の流れ
あなたの提出した告訴状が受理された場合、捜査機関は捜査を開始します。
刑事告訴したあなたは、捜査開始後も捜査機関の事情聴取に応じたり、追加の証拠があれば提出したりして、引き続き協力していかなければいけません。
捜査
誹謗中傷に関する捜査が開始された場合、警察は被害者に事実確認を行ったり、加害者を「被疑者」として誹謗中傷の経緯等を事情聴取したりします。
また、被疑者が誹謗中傷に使用していたパソコン等、証拠品の押収も行います。被疑者は慌てて私選弁護人をたてる場合もあるでしょう。
警察は被疑者側の言い分も聞きながら、捜査を進めていきます。
逮捕
容疑が固まり次第、警察は逮捕状を裁判所に請求し、逮捕状の発布後、被疑者を逮捕します。
逮捕された被疑者は有罪判決をおそれて、証拠隠滅や逃走を図る場合もあるでしょう。
捜査機関から「留置の必要がある。」と判断された場合、被疑者は警察署の留置施設や拘置所に留置されます。
その後、警察は逮捕・留置した被疑者を48時間以内に検察官へ送致します。
被疑者が私選弁護人をたてていれば、私選弁護人が捜査機関を説得し、釈放を求める場合もあるでしょう。
一方、被疑者を逮捕せず、警察署等に出頭を求めて捜査する方法が「任意捜査」です。任意捜査の場合、事件捜査がまとまったら検察官に書類送致を行います。
送致
検察庁に送致された被疑者は検察官から取り調べを受けます。
検察官が「被疑者は十分反省しており、捜査にも協力している。」「証拠隠滅や逃亡を図るおそれはなさそうだ。」と判断した場合、釈放して任意捜査とする場合もあるでしょう。
一方、「被疑者を以後も拘束しておかなければいけない。」と判断したら、警察の留置施設・拘置所に引き続き拘束する「勾留」請求を、裁判所へ24時間以内に行います。
勾留
被疑者が勾留された場合は、勾留期間は最長20日間にも及びます。
被疑者が勾留されている期間に、警察官や検察官は被害者であるあなたから、詳しい事情聴取を行う場合もあるでしょう。
なるべくあなたの都合に合わせながら事情聴取の日時・場所を決めていきます。なお、事情聴取のときには、あなたに旅費が支給されるケースもあります。
起訴・不起訴判断
誹謗中傷の経緯や得られた事実、証拠および被害者と被疑者の主張を考慮し、検察官が起訴するか不起訴にするかを決めます。
- 起訴:被疑者を裁判にかける処分
- 不起訴:被疑者を裁判にかけない処分
なお、被疑者が名誉毀損罪や侮辱罪に問われている場合、被害者との間に示談が成立すると、被害者は告訴を取下げる可能性が高いです。
両罪とも親告罪であるため、告訴を取下げた場合、刑事手続がこれ以上進まなくなるので、検察官は不起訴処分を行います。
一方、被害者との示談が成立せず、検察官が起訴相当と判断した場合、刑事裁判が開かれます。
裁判
刑事裁判とは被疑者が「被告人」となり、刑罰を科すべきかどうかの判断がなされた後、判決を言い渡す裁判です。
裁判所は検察官や被告人、弁護人の主張を聴いたうえで、証拠を調査・審理します。被害者であるあなたは、証人として法廷に出頭を求められる場合もあるでしょう。
あなたは裁判を傍聴できる他、「被害者参加制度」の利用が可能です。
被害者参加制度とは、担当の検察官に参加の希望を申し出て裁判所の許可を受け、自らの意思で裁判に参加できる制度です。
あなたは「被害者参加人」として、次のような対応ができます。
- 検察官の活動に関して自己の考えを伝え、説明を聞くこと
- 一定の範囲内で自ら証人に尋問や、被告人に質問すること
- 検察官の論告求刑後、審理対象の犯罪事実の範囲内で、事実や法律の適用に関する意見を述べること
なお、被告人が判決に不服がある場合、上級裁判所に上訴する場合もあるでしょう。
誹謗中傷の刑事告訴で問われる罪
あなたを誹謗中傷した加害者は、「名誉毀損罪」「侮辱罪」「脅迫罪」に問われる可能性があります。
刑事裁判で有罪判決を受けた場合、懲役刑や禁錮刑、罰金刑等に処されます。
名誉毀損罪
名誉毀損罪とは、公然と特定の個人や団体の事実を摘示し、相手の名誉を侵害する罪です。
誹謗中傷の内容の真偽によらず、事実の摘示に該当します。
事実の適示であなたの社会的評価が失墜した場合、名誉毀損罪で加害者の刑事責任を追及できます。
ただし、名誉毀損罪は親告罪なので、あなたが刑事告訴をしない限り捜査機関は捜査を開始しません。
次のようなケースが名誉毀損罪に該当します。
- ビラを配り「近所に住む〇〇は少年のころ、女子高生を強姦し殺害している。刑期を終えて社会に戻ったが、今もターゲットになる女子高生を狙っている」と、特定の個人を誹謗中傷する行為
- SNSやネット掲示板で「政治家〇〇は地元の企業から、数千万円に上る賄賂を受け取っている。以前、自分のおかげで地元が潤っているのだから、当然の報酬だと自慢していた。」という内容の投稿
名誉毀損罪に問われ有罪判決を受けた場合、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処されます(刑法第230条第1項)。
侮辱罪
侮辱罪とは、公然と特定の個人や団体の事実を摘示せず、不特定または多数の人に見られる状況で、口頭や文書を問わず、相手を侮辱する罪です。
侮辱罪は名誉毀損罪と同様に親告罪です。
次のようなケースが侮辱罪に該当します。
- 不特定多数の人が往来する歩道で「お前なんて人間のクズだ。死ね。」と罵倒する行為
- SNSやネット掲示板で「お前は変質者だ。さっさと精神病院に行け。」と侮辱する行為
侮辱罪に問われ有罪判決を受けた場合、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処されます(刑法第231条)。
脅迫罪
脅迫罪とは、相手を畏怖させる犯罪です。
特定の個人やその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に害を加えると告知し、畏怖させた場合に問われる罪です。
SNSやネット掲示板等に投稿するだけではなく、電話やメール等を利用し脅迫する行為も脅迫罪に該当します。なお、脅迫罪は名誉毀損罪・侮辱罪と異なり非親告罪です。
- 電話で「これからあなたの自宅に向かい、ナイフで刺します。」と告げる行為
- SNSやネット掲示板に「お前の娘を下校途中に拉致してやる。」と投稿する行為
脅迫罪に問われ有罪判決を受けた場合、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処されます(刑法第222条第1項)。
誹謗中傷で刑事告訴をするためにすべきこと
誹謗中傷を理由に加害者の刑事告訴を望む場合は、証拠を揃える他、ネット上での誹謗中傷なら投稿者の特定も必要です。
誹謗中傷の刑事告訴で不明な点があれば、事前に法律の専門家である弁護士と相談しておきましょう。
証拠収集
誹謗中傷の証拠を揃え刑事告訴や、加害者の特定、裁判のときに提出する必要があります。
事前に収集しておく証拠は主に次の通りです。
- 誹謗中傷の内容を録音した音声、撮影した画像や動画
- 手紙やメールで送り付けられた脅迫文
- (ネット上での誹謗中傷)誹謗中傷の投稿のURL、投稿日時をスクリーンショットで保管
弁護士と相談する前に証拠を揃えておくと、弁護士は誹謗中傷の内容・状況が容易に把握でき、今後の対応を協議しやすくなります。
発信者情報開示請求
告訴状を提出する前に、誹謗中傷の加害者を特定する可能性があります。
告訴状には、「被告訴人(加害者)」の氏名・住所・職業・生年月日を記載しなければいけません。
特にネット上の誹謗中傷の投稿者は匿名である場合がほとんどです。しっかりと調査をしなければ、加害者の特定は困難です。
そこで、「発信者情報開示請求」「発信者情報開示命令」制度を活用しましょう。
開示請求・命令共に、プロバイダ等へ発信者(加害者)氏名・住所・電話番号・メールアドレス等の個人情報の開示を求める方法です。
開示請求・命令には次のような特徴があります。
- 発信者情報開示請求:裁判所の手続き不要でサイト運営元にIPアドレスの任意開示請求ができる。IPアドレス開示で加害者の利用するプロバイダを確認後、当該プロバイダ相手に裁判所へ「発信者情報開示請求訴訟」を提起する(プロバイダ責任制限法第5条)。
- 発信者情報開示命令:最初から裁判所に申し立てが可能。サイト運営元、プロバイダに情報開示を命じる手続き(同法第8条)。
どちらの方法を選ぶかはあなたの自由です。ただし、開示命令は簡易迅速な裁判手続なので、早期に加害者の特定が行えるでしょう。
弁護士への相談
あなたが誹謗中傷の加害者の刑事告訴を望むならば、前もって弁護士に相談しておいた方がよいでしょう。
弁護士は誹謗中傷の内容を確認し、あなたに次のような助言を提供します。
- 誹謗中傷がどのような罪に該当するのか
- 告訴状の作成方法
- 発信者情報開示請求および発信者情報開示命令の手順
- 刑事手続の流れ
- 加害者に示談交渉を申し込まれた場合の対応
あなたが弁護士と話し合う中で、「この弁護士に代理人を任せたい。」と感じたら、そのまま委任契約の締結に移っても構いません。
弁護士に告訴状の作成や開示請求・命令の手続き、捜査機関のやりとりも全て委任できます。
誹謗中傷で刑事告訴されたらすべきこと
あなたが加害者ならば、たとえ匿名で誹謗中傷を行ったとしても、いずれ被害者から個人情報が特定されてしまいます。
被害者から刑事告訴された場合は、焦らずに弁護士を私選弁護人に選び、今後の対応を協議しましょう。
示談交渉
被害者と示談が成立した場合、次のような効果が得られます。
- 示談に応じ、被害者が告訴を思いとどまった:刑事責任を問われない(脅迫罪の場合も捜査されない可能性が高い)
- 示談に応じ、被害者が告訴を取下げた:名誉毀損罪および侮辱罪は不起訴、脅迫罪は不起訴処分となる可能性がある
そのため、たとえあなたが逮捕されても、諦めずに被害者との示談交渉を図りましょう。
弁護士を私選弁護人に選んでいれば、捜査機関への弁護活動の他、被害者との示談交渉も任せられます。
示談交渉では、あなたが被害者へ謝罪し投稿の削除と拡散防止に努める旨、示談金額・支払方法、被害者が告訴をしないまたは取下げる旨、「被害者は加害者の処罰を望まない。」旨の条項を入れる等、さまざまな取り決めを行います。
示談が成立したら「示談書」を2通作成し、あなたと被害者が1通ずつ大切に保管します。
なお、あなたがすでに逮捕されていたら、示談書を捜査機関に提出しましょう。内容を見て、検察官が不起訴処分を決めます(ただし、脅迫罪の場合は起訴される場合もある)。
弁護士への相談
あなたが誹謗中傷を理由に刑事告訴されたら、慌てずに弁護士と相談し、私選弁護人として選任しましょう。
私選弁護人となった弁護士は、あなたに有益な助言や献身的なサポートを行います。
- あなたが問われてしまう罪の説明
- 逮捕された場合の取り調べの受け方の説明
- 刑事手続の流れの説明
- 捜査機関に早期の釈放の働きかけ
- 示談交渉の代理
- 示談金額の調整
たとえ示談交渉が不成立なり、あなたが逮捕・起訴されたとしても、弁護士は無罪や執行猶予を勝ち取るため、全力を尽くします。
誹謗中傷で刑事告訴に必要な費用
あなたが誹謗中傷の加害者を刑事告訴するとき、弁護士費用等がかかります。
法律事務所ごとに、弁護士費用の設定はそれぞれ異なるので注意が必要です。
弁護士費用
依頼者が被害者なのか加害者なのかでも、弁護士費用に違いは出ます。相談するときに、担当者から見積もりを出してもらいましょう。
【被害者の場合】
- 着手金:22~33万円程度
- 成功報酬:22〜55万円程度
【加害者の場合】
(1)着手金
- まだ逮捕されていない場合:33万円程度
- 逮捕されている場合:55万円程度
(2)成功報酬
- 逮捕・勾留阻止:22万円程度
- 勾留短縮:11万円程度
- 保釈:11〜33万円程度
- 示談、不起訴:22〜55万円程度
- 執行猶予:0~55万円程度
なお、接見日当や裁判日当が発生する可能性があります。ただし、日当を一切請求しない良心的な事務所も存在します。
裁判費用
警察署に告訴状を提出する場合も、刑事裁判が開催される場合も、手数料や印紙などの支払いは一切必要ありません。
内容証明郵便で告訴状を送付する場合は、一般書留料+内容証明の加算料440円(2枚目〜:260円増)を負担します。概ね1,000円程度かかります。
誹謗中傷での刑事告訴なら春田法律事務所にご相談を
今回は誹謗中傷問題の解決に尽力してきた専門弁護士が、誹謗中傷の加害者を刑事告訴する手順やポイント等について詳しく解説しました。
春田法律事務所は、誹謗中傷問題の交渉・裁判に豊富な実績を有している事務所です。まずは弁護士と話し合い、今後の対応方法を慎重に取り決めていきましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。