口約束で賃貸の立ち退きを承諾してしまった!解決策を専門弁護士が徹底解説
最終更新日: 2023年11月28日
「月末までには出ていくと言ったのに、全然出て行ってくれない」
「口約束の賃貸借契約だから、立退料は支払わないと言われた」
「賃貸人には、口頭で、ペットを飼ってよいと言われていたのに、今になってペットを飼っていたことが用法違反だと言われて困っている」
口約束で承諾を得たものの、後になってその約束を翻され、トラブルに巻き込まれる事例はよくあります。賃貸借契約において、口約束の合意をする場面はよくありますが、そのような合意に効力はないのでしょうか。
立ち退き問題において口約束によって生じる問題や解決方法について、立ち退き専門の弁護士が解説します。
賃貸物件の立ち退きと口約束のトラブル
口約束した内容がトラブルの引き金となることも珍しくありません。まずは、口約束した合意内容の法律的な扱いを説明しながら、トラブルの原因を見ていきましょう。
口約束の賃貸契約とは
口約束をめぐるトラブルを解説するにあたり、まずは口約束による賃貸契約の実態とその有効性についてみていきます。
口約束の実態
賃貸借契約を締結するにあたり、かつては契約書を作成しない事例も多く見られました。このような契約がなされた背景としては、賃貸人と賃借人が、知り合いであるなど、元々、信頼関係があったと思われます。
現在は、不特定多数の賃借人を募って、賃貸借契約を締結するのが通常ですので、口約束で賃貸借契約を締結する事例は稀です。
とはいえ、賃貸借契約において口約束がなされる事案が全くないわけではありません。契約の元となる賃貸借契約書のみならず、賃貸借に付随する細かな合意を口約束ですることは現在も珍しくありません。
たとえば、当初は居住者として申告していなかった者を同居させる合意や、家賃を1カ月分免除する合意など、口約束でなされる合意は意外と多くみられます。
口約束の有効性
実のところ、賃貸借契約の成立には、契約書は必要とされていないので、口頭でした契約も有効です。しかし、口約束は、証拠として残らないことから、相手方が「そんなことは言っていない」と争ってくると、約束した内容を証明することが途端に難しくなります。
裁判では、約束した内容を証明できなければ、その約束は存在しないものとして扱われることになります。このように事実の証明に失敗した場合に不利益を負うことを証明責任と言いますが、書面に残さずに口約束のままにしておくと、証明責任という大きなリスクを抱えてしまうことになるのです。
そのため、口約束した内容により有利な効果を得ようとする側にとって、口約束は余りに危険であるといえます。
口約束により生じるトラブルの実態
賃貸人と賃借人の間にトラブルがなければ、口約束で合意したとおりに、当事者は契約内容に従って、行動するのが通常です。このようにして契約が続いている限り、口約束が問題になることはありません。ところが、いざ立ち退き問題などの紛争が発生すると、口約束していたことが反故にされて、契約違反、債務不履行を主張されることがあります。
よくあるケースとしては、賃料を免除してもらっていたはずなのに、紛争になったとたんに賃料不払いを理由とした契約解除を主張されることがあります。
その他の例として、居住者の変更について、口約束の承諾を得ていた場合にも、後々の用法違反で争いになることがあります。
平常時であれば、居住者が一人追加になったとしても賃貸人は目くじらを立てることもないのですが、立ち退き交渉ともなれば話は別です。居住者の追加について承諾していないとして、賃借人の用法違反を追及することも珍しくないのです。
【賃貸人側】口約束が賃貸物件の立ち退き交渉に与える影響
では、口約束したことが賃貸物件の立ち退き交渉において、どのような影響を与えるのでしょうか。まずは、賃貸人の立場から、以下の場面ごとに見ていきましょう。
- 賃貸借契約が口約束の場合
- 口約束で賃借人と退去の合意をした場合
- 口約束の定期借家契約の場合
賃貸借契約が口約束の場合
賃貸借契約自体が口約束であり、何の書面も残していないような事案の場合、そもそも賃料はいくらなのか、賃貸物件のどの範囲を貸しているのか、どのような条件で建物を貸していたのか、賃貸人・賃借人の双方の認識を照らし合わせないと全くわかりません。
また、明け渡し時期に関しても、当事者に共通認識すらない場合が普通であるため、借地借家法が定める更新拒絶通知をどのようにするかという問題が生じます。
この場合、賃貸人の方で事実上の退去期限を設定し、その期限までに退去するよう賃借人に求めるでしょう。話し合いの結果、賃借人が速やかな退去に応じれば問題ありませんが、期限の定めのない賃貸借契約という解釈となれば、契約終了の6か月前までに賃借人に通知をしなければなりません(借地借家法27条1項)。
また、入居者数や、ペットの有無といった賃貸物件の用法についても、書面に残していないだけで事実上のルールが決まっていることがあります。しかし、文書化していない以上、賃借人においてそのようなルールなど存在しないと争ってくると、賃借人の用法違反を追及することは難しくなるでしょう。
賃借人の用法違反は、賃貸人の正当事由にプラスに働くことが多いので、契約書を作成していなかったがために用法・ルールの立証ができないと、立ち退き交渉において不利な影響が生じることは間違いないでしょう。
口約束で賃借人と退去の合意をした場合
賃貸人が、賃借人の部屋を訪れて、建替えなどの理由を告げて、月末までに退去してほしい旨を伝え、賃借人が口頭で了承するというケースがよくあります。
賃借人が口頭で約束したとおり、期限までの退去に応じてくれれば問題はないのですが、あくまでも口約束であるため、賃借人において気が変わったとの一言で覆されることが多々あります。
特に、建替えのため、工事業者などを手配して、解体工事の段取りまでしていたにもかかわらず、賃借人の口約束の退去合意を覆されると、せっかく手配した工事も全てキャンセルしなければならなくなります。
退去の合意という重要な事項を口約束で済ませるのは避けるべきです。簡単な書類でかまいませんので、少なくとも賃借人の退去時期と退去意思を明確にする書面を残しておくべきでしょう。
口約束の定期借家契約の場合
定期借家契約は、借地借家法上、口約束ですることはできず、書面による作成が必要となります。
更新がないという特約の効力が無効になるだけで、賃貸借契約としての効力は残ります。そのため、当該賃貸借契約の満期が到来すれば、契約は更新され、継続していくことになるのです。
せっかく口約束で定期借家契約の合意をしていて、賃貸借の期限が満了すれば、賃借人が建物を明け渡してくれると思っていても、賃借人が退去を拒否してしまえば、正当事由を具備しない限り、一方的に賃貸人から立ち退きを求めることは困難になってしまいます。
【賃借人側】口約束が賃貸物件の立ち退き交渉に与える影響
次に、賃借人の側からみて、口約束が立ち退き交渉に与える影響について、以下の場面ごとに検討していきましょう。
- 賃貸借契約が口約束の場合
- 口約束で賃貸人と退去の合意をした場合
- 立退料の支払合意が口約束であった場合
賃貸借契約が口約束の場合
借地借家法が賃借人の権利を最低限保証しているので、実際のところ、口約束による不都合はそれほどありません。
強いて言えば、契約期間に関する口約束を証明できなければ、期限の定めのない賃貸借契約とされる扱いになります。ただ、この場合であっても、契約終了の6か月前から契約終了通知をしなければなりませんし、正当事由も当然必要となります。
口約束の賃貸借契約といえども、賃貸人の一方的都合で契約を終了させるのは容易ではありません。
口約束で賃貸人と退去の合意をした場合
口約束であっても有効ですから、退去の合意をしたことが間違いないのであれば、口約束による退去の合意に従う義務があります。
しかしながら、口約束したことを賃借人において認めなければ、賃貸人において、口約束による退去の合意を立証する必要があります。この場合、口約束の内容を録音でもしていない限り立証は困難です。しかも、賃借人にとって生活の本拠である住居から立ち退くかどうかの問題は、極めて重要な事項ですから、仮に退去に同意していたとの録音が残っていたとしても、退去時期や退去条件などについて明確な合意まで録音されていない限りは、法的に退去義務が認められる可能性は低いでしょう。
もっとも、口約束とはいえ退去を約束していたことは、正当事由の判断において賃借人に不利な影響をもたらす可能性はあります。
立退料の支払合意が口約束であった場合
退去に応じてくれたら退去確認後に立退料を払う旨、賃貸人が口約束をすることがあります。しかし、立退料の支払合意を口約束でするのは余りに危険です。
賃借人において引越し代等の費用をかけて退去が完了した後になって、賃貸人が口約束による立退料の支払合意を撤回することがよくあります。退去が完了した以上、賃貸人としてはもはや立退料を支払う理由がなくなってしまったからです。
立退料は法律上は請求の根拠はなく、賃貸人がその支払いを約束して初めて請求できるものです。ところが、口約束の場合、立退料の支払いについて立証することが困難です。
したがって、賃借人としては、立退料の支払いについて書面で合意をするか、退去する前に立退料の全額を支払ってもらうべきです。
口約束であっても賃貸物件の立ち退き交渉を有利に進める方法
ここまでに口約束の合意が立ち退き交渉に与える問題等についてみてきました。口約束の合意しか残っていない場合、有利な交渉は諦めるしかないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、口約束しかない場合であっても、ご自身にとって有利な結果を導く方法はありますす。下記3つをご説明します。
- 口約束の内容を書面にする
- 口約束した合意内容を証明する証拠の検討
- 弁護士に相談
口約束の内容を書面にする
口約束した内容を事後的に相手との間で書面にすれば、約束した内容は一目瞭然となりますし、裁判での立証も容易です。書面化によって、口約束を原因とする問題は解消されます。
また、既に当事者が紛争状態に入っていると、口約束した内容を書面にすることは難しいですが、紛争状態ではない平常時であれば、相手の納得も得やすいのでそれほど難しいことではありません。
そのため、紛争になりそうな事案においては、ご自身にとって有利になる合意内容を書面化できるように相手とやり取りすると良いでしょう。
口約束した合意内容を証明する証拠の検討
口約束の立証手段は、書面だけに限りません。口約束した内容を他の証拠などによって証明する方法もあります。
たとえば、家賃金額が口約束で決まっていたような場合、従前の支払金額から合意していた家賃金額を推認することは可能です。ペット可能物件であるとの口約束についても、従前からペットを部屋で飼っていたのに賃貸人は何も異議を述べなかったという事実をもって、合意を推認することができるでしょう。
このように口約束の内容そのものを示す書面がなかったとしても、合意内容を推認させる証拠や事実があれば、口約束したことを証明することも可能になります。
弁護士に相談
口約束を事実や証拠から証明することは、必ずしも容易ではありません。特に、口約束した合意内容を立証できるかどうかが、訴訟の帰趨を左右する事案であれば、証明に失敗した場合のデメリットが大きいため、当該口約束の証明可能性について、正確な見通しを持っておく必要があるでしょう。
そして、裁判官が、口約束した内容を証明できたとの心証を抱くかどうかは、日々、裁判所において立証活動を行っている弁護士の感覚が非常に重要となります。
そのため、口約束の事実の有無が問題となる事案においては、専門弁護士に相談することが重要となります。
まとめ
口約束それ自体は有効であるものの、合意の内容を証明することが難しい上、相手方によって簡単に反故にされるため、トラブルの原因となっています。
賃貸借契約をめぐる問題を大きなトラブルに発展させないためにも、重要な取り決めについては、その都度、書面に残していくことが重要です。
また、万が一、口約束によってトラブルが生じた場合であっても、すぐに諦める必要はないので、専門弁護士に相談し、最善の解決策を検討するべきでしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。