立ち退き問題を弁護士が解説|理由・流れ・立退料と貸主・借主の対応【総合ガイド】
最終更新日: 2026年06月30日

「立ち退きを求められたが、応じなければならないのか」「立ち退いてほしいが、どう進めればトラブルにならないのか」——立ち退き問題は、貸主・借主のどちらの立場でも、進め方を誤ると深刻なトラブルに発展しかねません。
立ち退きで最初に確認すべきは、「契約の種類(普通借家か定期借家か)」と「退去を求める理由」の2点です。
普通借家契約では、貸主が立ち退きを求めるには法律上の「正当事由」が必要で、立退料がこれを補う関係にあります。そのため、貸主の都合だけで一方的に退去させることはできず、借主にも交渉や拒否の余地があります。
本記事では、立ち退きの基本と全体の流れ、立退料の考え方を整理したうえで、貸主向けの通知の書き方・文例、借主向けの対応のしかたを、それぞれの立場から解説します。
老朽化・更新拒絶・家賃滞納・再開発など理由別の詳しい解説や、立退料の相場・計算方法は、関連ページへもご案内します。
立ち退きでお困りの方が、自分のケースで何をすべきかを見極めるための入口としてご活用ください。
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立ち退きとは?基本と前提
立ち退き問題を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「立ち退きとは何か」という基本と、その前提となる契約の種類です。
ここを押さえておくと、自分のケースで何が問題になるのかを正しく見極められます。
立ち退きとは
立ち退きとは、賃貸借契約の終了などに伴って、借主が借りている建物や土地を明け渡すことをいいます。
貸主から退去を求められる場面と、再開発や公共事業によって明け渡しを求められる場面とがありますが、いずれの場合も、借主は法律によって一定の保護を受けています。
重要なのは、貸主が「出て行ってほしい」と思っただけでは、借主を退去させられないという点です。賃貸借契約は更新されるのが原則であり、貸主から立ち退きを求めるには法律上の要件を満たす必要があります。
普通借家契約と定期借家契約で扱いが大きく変わる
立ち退きを考えるうえで最初に確認すべきなのが、契約が「普通借家契約」か「定期借家契約」かです。両者では、更新の有無も退去のルールも大きく異なります。
- 普通借家契約:
契約期間が満了しても、原則として更新されます。
貸主から更新を拒絶したり退去を求めたりするには、後述の「正当事由」が必要です。一般的な賃貸借契約の多くはこちらです。 - 定期借家契約:
あらかじめ定めた期間が満了すると、更新されずに契約が終了します。契約終了による明け渡しに正当事由は不要です。
ただし、貸主は契約時に「更新がない契約である」ことを書面で説明する義務があり、これを怠ると定期借家契約として扱われないことがあります。
自分の契約がどちらにあたるかによって、立ち退きを拒否できるかどうかが変わるため、まず契約書を確認することが出発点になります。
「正当事由」と「立退料」は表裏一体
普通借家契約で貸主が立ち退きを求めるには、借地借家法上の「正当事由」が必要です。
正当事由は、貸主側の事情(建物の老朽化、貸主自身が使う必要性など)と、借主側の事情(その物件に住み続ける必要性など)を比較して判断されます。
多くのケースでは、貸主側の事情だけでは正当事由として不十分です。そこで、貸主が立退料を支払うことで不足を補い、正当事由が認められやすくなる、という関係にあります。
つまり、正当事由と立退料は表裏一体であり、「立退料を支払うことで退去を実現する」というのが、立ち退きの基本的な構造です。
賃貸借か「使用貸借」かでも変わる
見落とされがちですが、賃料を払って借りている「賃貸借」と、無償で借りている「使用貸借」とでは、適用される法律が異なります。
使用貸借には借地借家法が適用されないため、貸主の都合で立ち退きを求めやすく、立退料が支払われるかどうかも当事者間の合意によります。
親族間などで無償で貸し借りしているケースは、こちらにあたる可能性があります。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
立ち退きが発生する主なケース
立ち退きを求められる理由はさまざまで、理由によって対応も大きく変わります。ここでは主なケースを概観し、それぞれの詳しい解説ページをご案内します。
建物の老朽化・建て替え
建物が古くなり、安全性に問題が生じた場合に、建て替えを理由として立ち退きを求められるケースです。
ただし「古いから」という理由だけでは足りず、倒壊の危険があるなど耐震性に相当の問題があることが求められます。
老朽化・建て替えや、再開発・区画整理など理由別の詳しい解説はこちらの記事をご参照ください。
家賃滞納など借主の契約違反
家賃の滞納や用法違反など、借主に契約違反がある場合です。
一般に3か月以上の滞納で信頼関係が破壊されたといえる場合に、契約解除から明け渡しへと進みます。
督促・契約解除・強制執行までの流れはこちらの記事で解説しています。
契約期間の満了・更新拒絶
契約期間の満了を機に、貸主が更新を拒絶して退去を求めるケースです。
普通借家契約では、更新拒絶に正当事由が必要です。更新拒絶の要件と進め方はこちらの記事をご参照ください。
貸主自身・家族が使用する場合
貸主やその家族が、その物件に住む必要が生じた場合です。
自己使用の必要性は正当事由の一要素となりますが、これだけで認められるとは限らず、立退料による補完が必要になることが多いケースです。
再開発・行政による立ち退き
道路拡張・再開発・区画整理など、公共事業に伴う立ち退きです。
補償が法律に基づいて行われる点が、貸主都合の立ち退きとは異なります。
店舗・事業用物件の立ち退き
店舗や事務所などの事業用物件では、営業補償が問題になるなど、居住用とは異なる考慮が必要です。
立ち退きの基本的な流れ
立ち退きは、貸主・借主のどちらの立場でも、おおむね「通知 → 交渉 → 法的手続き」という段階を踏んで進みます。
一足飛びに強制的な退去が行われるわけではありません。
解約通知・更新拒絶の通知
まず、貸主から借主へ、契約を解約または更新しない旨の通知が行われます。
普通借家契約では、契約期間満了の1年前から6か月前までに通知する必要があります。予告期間を守らない通知は、効力に問題が生じます。
交渉
通知のあとは、退去の時期や立退料の金額について話し合う交渉の段階に入ります。
実際には、この交渉段階で合意に至るケースが多く、立ち退き問題の中心となるプロセスです。
感情的な対立を避け、条件を書面で確認しながら進めることが大切です。
調停・訴訟(法的手続き)
交渉がまとまらない場合は、民事調停や建物明け渡し請求訴訟といった法的手続きに進みます。
訴訟では「正当事由があるか」が主な争点となり、判決までにはおおむね6か月から1年程度かかります。
判決を得ても借主が退去しない場合は、強制執行に進みます。
なお、貸主が裁判所の手続きを経ずに実力で退去させること(自力救済)は違法です。必ずこの段階的な手続きを踏む必要があります。
立退料・補償金の基本
立ち退きの話し合いで中心となるのが立退料です。
ここでは基本的な考え方と相場の目安を示します。具体的な計算方法や裁判例は、専門の解説ページにまとめています。
立退料の相場の目安
立退料は、引っ越し費用や新旧の家賃差額などを積み上げて算定します。
大まかな目安として、居住用は家賃の6か月分から1年分程度、店舗・テナントは家賃の2年分程度とされますが、あくまで簡易な目安であり、物件や事情によって大きく変動します。
金額が上がる要素・下がる要素
立退料の金額は、次のような事情によって増減します。
- 上がりやすい要素:
入居期間が長い、営業上の損失が大きい(店舗)、転居先の確保が難しい、貸主側の都合が強い - 下がりやすい要素:
借主に家賃滞納などの契約違反がある、定期借家契約である、入居期間が短い
立退料が発生しない・不要なケース
立退料は必ず支払われるものではありません。
借主の家賃滞納など契約違反を理由とする立ち退きや、定期借家契約の期間満了による明け渡し、再開発で権利変換に参加する場合などでは、立退料が発生しない、または不要となることがあります。
[貸主向け]立ち退き通知の書き方・文例
貸主から立ち退きを求める場合、最初の一歩が「立ち退き通知」です。
書き方と伝え方を誤るとトラブルに発展しやすいため、必要な項目を押さえた通知書を、適切な方法で送ることが大切です。
なお、立ち退き通知は貸主の一方的な都合では認められず、正当事由が前提となる点は、あらかじめ押さえておいてください。
立ち退き通知書に必ず盛り込む基本項目
立ち退き通知書には、最低限、次の項目を記載します。
- 宛先(賃借人の氏名)と物件の表示(建物名・部屋番号)
- 賃貸借契約を更新しない、または解約する旨の意思表示
- 立ち退きを求める理由(正当事由)
- 退去を求める期限(通知から6か月以上先に設定する)
- 立退料を支払う場合はその旨
- 貸主の連絡先
普通借家契約では、契約期間満了の1年前から6か月前までに更新拒絶の通知を行う必要があります。退去期限は、この予告期間を踏まえて余裕をもって設定します。
【ケース別】立ち退き通知書の文例
退去を求める理由によって、記載する内容が変わります。代表的な3つのケースの文例を示します。
文例① 建物の老朽化・建て替えによる場合
賃貸借契約に関するお知らせ
〇〇〇〇様
平素より〇〇荘〇〇号室をご利用いただき、ありがとうございます。
さて、当該建物は築年数の経過により老朽化が進み、安全性の確保が
困難となったため、建て替えを行うこととなりました。
つきましては、現在の賃貸借契約について、令和〇年〇月〇日をもって
更新せず、同日までにご退去いただきたくお願い申し上げます。
退去に伴うご負担に配慮し、立退料として〇〇円をお支払いいたします。
今後の進め方についてご相談させていただきたく、ご連絡をお願いいたします。
令和〇年〇月〇日
貸主 〇〇〇〇 (連絡先:〇〇)
文例② 貸主自身・家族が使用する場合(自己使用)
賃貸借契約に関するお知らせ
〇〇〇〇様
平素より〇〇マンション〇〇号室をご利用いただき、ありがとうございます。
このたび、貸主の家族が居住する必要が生じたため、当該物件を
自ら使用することとなりました。
つきましては、令和〇年〇月〇日をもって賃貸借契約を更新せず、
同日までにご退去いただきたくお願い申し上げます。
立退料として〇〇円をお支払いするとともに、転居先のご相談にも
できる限り協力させていただきます。
令和〇年〇月〇日
貸主 〇〇〇〇 (連絡先:〇〇)
文例③ 契約違反(家賃滞納など)による場合
賃貸借契約解除の通知
〇〇〇〇様
〇〇アパート〇〇号室の賃料について、〇月分から〇月分まで
合計〇〇円のお支払いが確認できておりません。
令和〇年〇月〇日までに上記滞納分をお支払いください。
期日までにお支払いがない場合は、賃貸借契約を解除し、建物の
明け渡しを求めますので、あらかじめご了承ください。
令和〇年〇月〇日
貸主 〇〇〇〇 (連絡先:〇〇)
家賃滞納など契約違反を理由とする場合は、督促・催告の手順や契約解除の進め方が重要になります。
通知は内容証明郵便で送付する
立ち退き通知は、口頭や普通郵便ではなく、配達証明付きの内容証明郵便で送付することをおすすめします。
「いつ・誰が・どのような内容を通知したか」を郵便局が証明するため、後に交渉や裁判になった際の証拠になります。
ただし、いきなり書面を送りつけると相手の反発を招きやすいため、可能であれば事前に口頭で事情を説明し、そのうえで通知書を送ると、円満に進めやすくなります。
合意できたら「念書・合意書」で書面化する
立ち退きについて合意できた場合は、その内容を念書または合意書として書面に残します。口頭の約束だけでは、後で「言った・言わない」のトラブルになりかねません。念書には、次の項目を記載します。
- 表題・作成日・当事者の署名押印
- 賃貸借契約を解除(終了)することの合意
- 立ち退きまでの猶予期間・退去期限
- 残置物の取り扱い(破棄・処分の合意)
- 立退料の金額と支払方法(振込先・支払時期)
- 敷金の返還についての取り決め
特に金額・退去時期・残置物の扱いは、後の紛争になりやすい項目です。書面化にあたっては、内容に漏れがないか弁護士に確認しておくと安心です。
[貸主向け]円満に進める交渉と配慮
立ち退きは、通知を送れば終わりではありません。
退去まで円満に進めるには、交渉の進め方と、相手の事情への配慮が欠かせません。
通知の前後で心がける交渉の進め方
立ち退き交渉は、貸主・借主双方にとってデリケートな問題です。進め方を誤ると、感情的な対立から交渉が長期化します。
次の点を心がけると、円満に進めやすくなります。
- 書面を送る前に、まず口頭で事情をていねいに説明する
- 退去の負担を軽くする提案を用意する(立退料の上乗せ、退去期限の延長、引っ越し費用の肩代わり、代替物件の情報提供など)
- 一方的に「出て行ってほしい」と伝えるのではなく、相手の事情を聞きながら歩み寄る姿勢を示す
立ち退きは、貸主にとっての「お願い」であるという姿勢で臨むことが、結果的に早期解決につながります。
高齢者など配慮が必要な入居者への対応
高齢の入居者に立ち退きを求める場合は、特に配慮が必要です。
高齢者は、足腰の衰えや年金収入のみといった事情に加え、「高齢を理由に新たな入居を断られる」という構造的な困難を抱えており、転居先の確保が難しいためです。
転居先が見つからないと、立ち退き自体が進まず、結果として貸主側も困ることになります。
配慮の例として、次のような対応が考えられます。
- 契約期間満了の半年から1年前など、できるだけ早い段階で予告し、十分な準備期間を確保する
- 貸主側でも、高齢者の入居を受け入れている物件を紹介・あっせんする
- 家賃債務保証業者の登録制度や、自治体による引っ越し費用・家賃差額の助成制度を案内する
こうした配慮は、交渉を円滑にするだけでなく、後にトラブルや法的紛争に発展するリスクを抑えることにもつながります。
地上げ・違法な立ち退き要求に注意する
土地の買収を目的として立ち退きを進める「地上げ」は、それ自体は不動産会社などが行う合法的な土地買収業務です。
立ち退きが「個々の物件の明け渡し」を指すのに対し、地上げは「一定区域の土地をまとめて取得すること」を指し、立ち退きはその手段として行われます。
ただし、地上げや立ち退き交渉が、脅迫や嫌がらせを伴う違法・不当なものになってはいけません。
次のような行為は、貸主・地主側であっても行ってはならず、被害を受けた場合は速やかに対応すべきものです。
- 正当事由がないにもかかわらず、強引に退去を迫る
- 反社会的勢力を関与させ、脅迫や暴力的な手段を用いる
- 嫌がらせによって退去に追い込もうとする
こうした嫌がらせの被害を受けた場合は、警察への届出と弁護士への相談を検討してください。
逆に、貸主・地主の側がこうした手法に関与すると、損害賠償責任や刑事責任を問われるおそれがあります。
立ち退きは、あくまで正当事由と適正な立退料に基づき、合法的に進めることが大原則です。
合意内容は必ず書面に残す
交渉がまとまったら、合意内容を書面(合意書)にし、双方が署名押印のうえ各自が1部ずつ保管します。
立退料の金額・支払時期、退去期限、残置物の扱いなどを明記しておくことで、後のトラブルを防げます。
[借主向け]立ち退きを求められたときの対応
立ち退きを求められても、すぐに応じる義務があるとは限りません。
借主は借地借家法によって手厚く保護されており、慌てて退去や合意をしないことが、適切な対応の出発点になります。
まず確認すべき3つのこと
立ち退きを求められたら、感情的に反応する前に、次の3点を確認してください。
- 契約の種類:
普通借家契約か、定期借家契約か(定期借家は期間満了で終了するため扱いが異なります) - 退去を求める理由:
貸主に「正当事由」があるか - 通知の時期:
契約期間満了の1年前から6か月前までという予告期間が守られているか
これらを確認することで、応じる必要があるケースなのか、交渉や拒否の余地があるケースなのかを判断できます。
借主には「応じない」という選択肢がある
普通借家契約では、貸主が立ち退きを求めるには正当事由が必要です。
「新しい人に貸したい」「家賃を上げたい」「物件を売りたい」といった貸主側の都合だけでは正当事由として認められず、借主に退去義務は生じません。
また、法定の予告期間を守らない通知は、効力に問題があると考えられます。
つまり、正当事由のない一方的な立ち退き要求には、応じないという選択ができます。まずは退去を求める理由が正当事由にあたるかを見極めることが重要です。
慌てて退去・合意をしない
立ち退きを求められたとき、特に避けたいのが次の対応です。
- 立退料を受け取る前に退去してしまう(受け取れなくなるおそれがあります)
- その場で口頭で退去や条件に合意してしまう
- 内容をよく確認しないまま書面にサインしてしまう
口頭での合意も法律上は有効ですが、後から不利な扱いを受けても立証が難しくなります。
なお、だまされたり強く迫られたりして合意した場合には、その合意の効力を否定できる可能性があります。
合意するとしても、必ず内容を確認し、書面に残してから進めてください(書面化の注意点は本記事「口約束・合意は必ず書面に」をご参照ください)。
立退料を請求できる
立ち退きに応じる場合でも、その条件として適正な立退料を求めることができます。居住用の場合、家賃の6か月分から12か月分程度が一つの目安とされますが、提示額が低いと感じる場合は、根拠を示して増額を交渉できます。
違法な立ち退き要求・精神的苦痛を受けたとき
貸主が裁判所の手続きを経ずに、鍵を交換して締め出したり、無断で荷物を運び出したりする行為(自力救済)は違法です。脅すような言動で退去を迫る行為も同様で、こうした行為には損害賠償を請求できる場合があります。
不当な立ち退き要求によって精神的な苦痛を受けた場合の慰謝料請求や相談先については以下の記事でで詳しく解説しています。一人で抱え込まず、早めに相談してください。
口約束・合意は必ず書面に残す
立ち退きの話し合いでは、その場の口約束で済ませてしまうことがありますが、これは後のトラブルのもとになります。
合意した内容は、必ず書面に残してください。
口頭の合意も有効だが、立証が難しい
口頭での約束も、法律上は契約として有効です。しかし、書面が残っていないと、後で相手が「そんな約束はしていない」と主張したとき、約束の内容を証明することが難しくなります。
裁判では、約束の内容を証明できなければ、その約束は存在しないものとして扱われてしまいます。
実際にも、平常時は守られていた口約束が、いざ紛争になると反故にされるケースは少なくありません。
たとえば、立退料を支払う口約束が、借主の退去後に「そんな約束はしていない」と撤回される、といったトラブルが起こり得ます。立退料を受け取る前に退去してしまうと、こうしたリスクが現実になります。
書面に残すべき項目
合意できたら、念書や合意書として、少なくとも次の項目を書面にします。
- 賃貸借契約を終了することの合意
- 退去の時期(退去意思と退去期限)
- 立退料の金額・支払方法・支払時期
- 残置物の取り扱い
- 敷金の返還についての取り決め
難しい書式である必要はありません。退去時期と退去意思、立退料の条件を明確にした書面を残しておくだけでも、後の立証がはるかに容易になります。
書面がない場合の備え
すでに口頭で合意してしまい書面がない場合でも、合意内容を推認させる事実や証拠(メール・SMS・LINEのやり取り、振込の記録、録音など)があれば、立証できる可能性があります。やり取りの記録は捨てずに保存しておいてください。
退去時の原状回復
立ち退きで退去する際には、「原状回復」が問題になることがあります。どこまでが借主の負担になるのかを正しく理解しておきましょう。
原状回復とは
原状回復とは、借りていた物件を退去時に元の状態に戻すことをいいます。ただし、「借りたときの状態に完全に戻す」という意味ではありません。
普通に生活していて生じる傷みや汚れ(通常損耗)や、時間の経過による劣化(経年劣化)は、原則として借主の負担ではなく、貸主が負担すべきものとされています。
借主が負担するのは、故意・過失や、通常の使い方を超える使用によって生じた損傷の部分です。
立ち退きの場合の考え方
貸主の都合(老朽化による建て替えなど)で立ち退きを求められる場合は、退去後に建物を取り壊すことも多く、その場合は原状回復をそれほど厳密に求められないこともあります。
立ち退きの条件を交渉する際に、原状回復の範囲や費用の負担についても、あわせて取り決めておくと安心です。敷金の返還ともかかわる点なので、合意書に明記しておきましょう。
トラブルを防ぐために・弁護士に相談すべきケース
立ち退きは、進め方を誤ると深刻なトラブルに発展します。トラブルを防ぐポイントと、弁護士に相談すべきケースを整理します。
自力救済は絶対に行わない
貸主が裁判所の手続きを経ずに、鍵を交換して締め出す、無断で荷物を運び出す、脅すような言動で退去を迫る——こうした自力救済は違法です。
住居侵入罪や器物損壊罪に問われたり、借主から損害賠償を請求されたりするおそれがあります。
立ち退きは、必ず通知・交渉・法的手続きという段階を踏んで進めてください。
裁判例に見る争点
立ち退きが裁判になった場合、主な争点は「正当事由があるか」です。判断にあたっては、建て替えの必要性、借主の生活への影響、立退料の妥当性などが総合的に考慮されます。
実際の裁判では、築40年のアパートの建て替えを理由とする明け渡し請求、土地活用を目的とした店舗(歯科医院)の立ち退き請求、貸主の自己使用を目的とした貸家の明け渡し請求など、さまざまなケースが争われています。
いずれも、正当事由の有無と立退料の額が結論を左右しています。
弁護士に相談すべきケース
次のような場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
- 提示された立退料や退去条件が妥当かどうか判断できない
- 相手との交渉が感情的になり、直接のやり取りが難しい
- 正当事由があるか、通知の効力に問題がないかを確認したい
- 調停・訴訟まで視野に入れて対応したい
弁護士に依頼すると、相手方との交渉を代理してもらえるため、直接やり取りするストレスから解放されます。
立退料の適正額を法的根拠に基づいて算定し、書面の作成や法的手続きまで一貫して任せられる点も大きなメリットです。立ち退きは、こじれる前の早い段階で相談するほど、円満な解決につながりやすくなります。
よくある質問(FAQ)
Q.立ち退きを求められたら、必ず応じなければなりませんか。
必ずしも応じる必要はありません。普通借家契約では、貸主に「正当事由」がなければ退去を求めることはできません。
「新しい人に貸したい」「家賃を上げたい」といった貸主の都合だけでは正当事由にあたらず、借主は退去を拒むことができます。まずは退去を求める理由と契約内容を確認してください。
Q.立退料は必ずもらえますか。いくらくらいが目安ですか。
立ち退きの理由によります。貸主都合の立ち退きでは立退料が支払われるのが一般的で、居住用は家賃の6か月分から1年分程度が一つの目安です。
一方、借主の家賃滞納による立ち退きや、定期借家契約の期間満了による明け渡しでは、立退料が発生しないこともあります。
Q.立ち退きで精神的につらい思いをしています。慰謝料は請求できますか。
不当な立ち退き要求などによって精神的な苦痛を受けた場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
Q.立ち退き通知は、口頭で伝えるだけでよいですか。
口頭の通知も無効ではありませんが、後のトラブルを防ぐため、配達証明付きの内容証明郵便で送付することをおすすめします。
通知の内容と日付を客観的に残せるため、交渉や裁判の際の証拠になります。
Q.定期借家契約でも立退料はもらえますか。
定期借家契約は、定めた期間の満了で更新されずに終了するため、原則として立退料は発生しません。
ただし、貸主が契約時に「更新がない契約である」ことを書面で説明していない場合などは、扱いが変わることがあります。
まずは契約書と契約時の説明を確認してください。
Q.退去するとき、部屋を借りたときの状態に完全に戻す必要がありますか。
その必要はありません。通常の生活で生じる傷みや経年劣化は、原則として貸主の負担です。
借主が負担するのは、故意・過失や通常を超える使い方で生じた損傷の部分に限られます。
まとめ
立ち退き問題は、貸主・借主のどちらの立場でも、まず「契約の種類」と「退去を求める理由」を確認することから始まります。
ここを押さえることで、応じるべきケースなのか、交渉や拒否の余地があるケースなのかを見極められます。
ポイントを整理します。
契約の種類と正当事由を確認する
普通借家契約では、貸主が立ち退きを求めるには正当事由が必要で、立退料がこれを補う関係にあります。
定期借家契約や使用貸借は扱いが異なるため、まず契約内容の確認が出発点です。
段階的な手続きを踏む
立ち退きは「通知 → 交渉 → 法的手続き」という段階を踏んで進みます。貸主が裁判所の手続きを経ずに実力で退去させる自力救済は違法です。
慌てて退去・合意しない(借主)/配慮をもって進める(貸主)
借主は、立退料を受け取る前に退去したり、その場で安易に合意したりしないことが大切です。
貸主は、口頭での説明や相手の事情への配慮を心がけることで、円満な解決につながります。
合意は必ず書面に残す
口約束はトラブルのもとです。退去時期・立退料・残置物の扱いなどを書面に残すことが、双方を守ります。
迷ったら早めに相談する
立退料の妥当性が判断できない、交渉が難航している、正当事由の有無を確認したい——そのような場合は、こじれる前の早い段階で弁護士に相談することで、納得のいく解決につながりやすくなります。
立ち退きの理由ごとの詳しい解説は、本記事内の各セクションおよび関連ページ(立退料の相場、更新拒絶、家賃滞納、理由別ガイド、事業用物件)をご参照ください。春田法律事務所では、貸主・借主双方の立ち退きに関するご相談を承っています。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
職員が丁寧にお話を伺います初回無料
立退料の実績










