介護事故が理由で職員が退職!?職員と事業者が知っておきたい知識を解説

最終更新日: 2022年05月13日

介護事故が理由で職員が退職!?職員と事業者が知っておきたい知識を解説

介護の現場では、人を巻き込む介護事故が発生することがあります。その介護事故が重大なものであったときには、大問題になりかねません。

そして、その責任を取って退職しないといけないのか、不安に感じる職員もいるでしょう。また、介護事故を理由にして職員を解雇させられないか考える事業者もいるかもしれません。

そこで今回は、介護業界における退職問題に詳しい専門弁護士が、介護事故と職員の退職に関して、職員と事業者の両方の立場から解説します。

介護トラブルに強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

詳しくはこちら

介護事故が理由で職員が退職させられることは少ない

現状、介護事故が理由で職員が退職させられる可能性は低いことを理解しておきましょう。

その理由は、日本では従業員の地位は厚く保護されているからです。たとえば、労働契約法16条によると、

「客観的に合理的な理由でなく、社会通念上相当であると認められない解雇は無効」

とされています。事業者側が不当な解雇をしたときには、その事実が世間に知られることで、評判を落とすことにつながりかねません。

さらに、厚生労働省の統計によると、介護サービス職員の66.6%が従業員不足と感じています。人手の少ない介護業界では、「せっかく雇用した人材をむやみに手放すのは得策ではない」と考える事業者も多いのです。

よほどのことがない限り、介護事故が理由で職員が退職させられることは少ないと考えてよいでしょう。

介護事故が理由で退職したいと考えている職員が知っておきたい知識を解説

ここでは、介護事故が理由で退職したいと考えている職員が知っておきたい知識を2つ解説します。

  • 損害賠償を要求されることは少ない
  • 仕事への恐怖感や人間関係に問題を感じるときは転職も検討

それでは、1つずつ解説します。

損害賠償を要求されることは少ない

職員が知っておきたい知識の1つ目は、損害賠償を要求されることは少ないことです。

事業者は職員を雇って会社の利益を上げています。つまり、職員の労働は会社の利益を上げる行為の1つとして考えられます。このことから、職員の起こした損害についても、ある程度の損害であれば全て事業者が責任を負うことになるのです。

ただし、職員の故意の行為や極めて重大な過失が原因で、損害を与えてしまったときなどには、損害賠償請求される可能性があります。それでも全額損害を負担することはまずなく、過去の事例をみても事業者の負担割合が多いケースがほとんどです。

結論として、会社が負った損害を職員に請求することは非常に難しいといえるでしょう。

仕事への恐怖感や人間関係に問題を感じるときは転職も検討

職員が知っておきたい知識の2つ目は、仕事への恐怖感や人間関係に問題を感じるときは転職も検討すべきことです。

介護の仕事では、常に高齢者に目を配っておかなければなりません。その中で事故を起こしたときには、ほとんどの方が反省をして教訓にします。

ただ、中にはそのことを引きずってしまう方もいます。また、事故の影響で職場の同僚や利用者からの信頼を失って、周りとの人間関係に問題が生じることもあるかもしれません。

仕事への恐怖感をもったり、人間関係に問題を感じるときは、必ずしもそのまま今の職場で頑張る必要はありません。他の職場に転職したり、介護業界以外の仕事を探すことも手段の1つでしょう。

介護事故が理由で職員を退職させたい事業者が知っておきたい知識を解説

ここでは、介護事故が理由で職員を退職させたい事業者が知っておきたい知識を2つ解説します。

  • まずは退職勧告を検討
  • 解雇の種類

それでは、1つずつ解説します。

まずは退職勧告を検討

事業者が知っておきたい知識の1つ目は、まずは退職勧告を検討すべきことです。

職員を解雇させることは、事業者と職員双方にとって大きな負担となります。そのため、事業者が職員を退職させたいときには、まずは退職勧告を行って自主退職を促すことがベターでしょう。

自主退職であれば職員都合の退職になるため、事業者と職員との間で紛争になるリスクも少なくできます。ただし、無理に退職勧告を行ったと職員が感じたときには、退職を巡る紛争になるリスクが高くなるため、注意が必要です。

解雇の種類

事業者が知っておきたい知識の2つ目は、解雇の種類です。

退職勧告で職員が退職しなければ、解雇も検討しましょう。解雇の種類は大きく分けて3種類です。それぞれ、以下の表にまとめました。

普通解雇
  • 職員の勤務態度や能力不足が理由の解雇
  • 段階的に告知し、「改善がみられないため解雇した」とするプロセスを作る必要あり
懲戒解雇
  • 労働者の違反行為に対する懲罰として行われる処分の一種
  • 企業秩序を乱す行為をした労働者に対して行われる
整理解雇
  • 事業者が経営を立て直すための解雇(通称リストラ)
  • 整理解雇には正当性が必要。正当性がなければ不当解雇 

職員の解雇にはハードルが高く、介護事故だけで解雇に踏み切ることができるのか微妙なところがあります。少しでも他の選択肢が考えられるときには、基本的に選ばないようにしましょう。

まとめ

今回は、介護事故と職員の退職に関して、職員と事業者の両方の立場から解説しました。

職員の立場でいえば、介護事故を起こしてもそれだけで退職させられることも、賠償責任を問われることもほとんどないと考えてよいでしょう。

一方、事業者の立場でいえば、介護事故を理由に職員を解雇にすることは困難です。そのため、職員を退職させたいときには、まずは退職勧告がベターです。

もし、介護事故に伴う職員の退職に関してトラブルが発生したときには、当法律事務所にご相談ください。介護職員と事業者いずれの立場のトラブルであっても、対応できます。介護業界における退職問題に詳しい専門弁護士が、迅速にトラブル解決のお手伝いをいたします。

介護トラブルに強い弁護士はこちら

介護トラブルのコラムをもっと読む

※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。