介護施設で転倒・骨折をさせてしまったときの正しい対応は?専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月18日

・利用者が転倒して骨折してしまったが何をすべきか?
・やってはならないNGな対応があれば知りたい
・介護施設や職員は利用者側から訴えられるのか?

気を付けていても介護施設での利用者の転倒による骨折や怪我は100%避けられるものではありません。起きてしまった事故を前に慌ててしまい、対応を誤ってしまうと利用者のその後の生命・身体の安全に影響する恐れがありますし、利用者側からクレームを受けたり、訴えられるという事態に発展する恐れもあります。

今回は介護施設において転倒させてしまった、骨折させてしまったという場合にどのゆな対応をとるべきかについて専門弁護士が解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護施設で転倒・骨折をさせてしまったときの初期対応

事故発生時における初期対応は、事故に遭ったサービス利用者(入居者、入所者)の被害をできる限り小さくするために、極めて重要であることは言うまでもありません。

初期対応においては、サービス利用者の生命、身体の安全を確保することを目的として、冷静かつ迅速に以下のような対応をすることになります。

まずは、当該利用者の状態の観察が不可欠です。

呼吸の有無、意識の有無、出血の有無や程度、打撲や骨折などの状況、頭部や腹部を打っていないかどうかの確認が肝要です。

次に、応急手当です。
人工呼吸や気道の確保、止血などを行うことになりますが、このような救命措置や応急手当を行うためには、普段から緊急時に備えておかなければならないでしょう。

その後、救急への通報や主治医への連絡を行います。

病院への連絡の際には、事故発生時の状況のみならず、サービス利用者(入居者、入所者)の健康状態や認知症の程度・認知症ケアの内容、服薬の状況などを、正確に引き継ぐ必要があります。

また、本人が「大丈夫」などと言う場合でも、認知症等の影響で、適切に状況が伝えることができていないおそれもありますので、観察を継続し、病院への搬送を決断すべき場合も少なくないでしょう。

利用者とのコミュニケーションがうまくいかず、病院への搬送ができなかったり、遅れたりした場合には、「高齢者虐待」等の介護事故以外のトラブルに発展するおそれもあるので、注意が必要です。

介護施設で転倒・骨折をさせてしまったとき家族への報告

家族への報告・連絡

救急救命措置などの初期対応を終えた後は、家族への報告・連絡が必要です。

緊急時の連絡ですので、電話を利用することが一般的でしょう。
その際、難しいこととは思いますが、冷静かつ正確に状況を伝えるべきです。

ご家族の不安を煽るべきではないですが、意図的にではなにせよ、事実を矮小化して伝えることが、事後的にトラブルにつながるおそれもありますから、正確性には特に注意が必要です。

家族への対応の注意点

厚生労働省の「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~利用者の笑顔と満足を求めて~」(平成14年3月28日)には、不幸にも事故が起こってしまった場合の対応における基本的な考え方が整理されています。

まず、何よりも重要なのは、事故の責任が事業所側(施設側)に「ある」・「ない」ということではなく、誠意ある対応、利用者や利用者家族に寄り添った対応を心掛けることです。

したがって、謝罪(道義的な謝罪)と説明が、家族対応の肝といえます。

この点を踏まえ、上記取り組み指針では、以下の点を「事故対応の原則」とするよう指摘されています。

まずは、【個人ではなく組織】として対応することです。
施設は契約当事者として、一体となった対応をすべきです。

利用者側からは、受傷した当該利用者が「被害者」であり、介助担当者たる職員が「加害者」であるとの主張がなされる場合もありますが、当該職員個人を窓口とするのではなく、組織として対応すべきです。

次に、【事実を踏まえた対応】です。
事実を正確に整理・調査し、それらを踏まえた対応をすることが必要です。
その際、経過の正確な記録(誰にいつどういう説明をしたか)や、その後の経時的な記録が重要です。

そのためにも、日頃のサービス提供記録のほか、事故が発生した際にどのような記録を整備するかについて、施設内でルール化しておくことが望まれます。

そして、【窓口を一本化】した対応です。
窓口を一本化し、担当者を決めておかなければ、①の組織としての対応も難しくなるでしょう。

また、事故発生時の対応責任者を決めておくことで、利用者や家族と十分にコミュニケーションを図り、利用者側の訴えを、単なる苦情・クレームにとどまるものか、訴訟につながるおそれのあるものかなど、慎重に見極める必要があるでしょう。

施設管理者が、利用者や家族との連絡の担当者となることも多くあります。

謝罪の適否

介護事故が発生した場合、事業者側は、損害賠償請求を受けるのではないか、裁判になるのではないか、事業所・施設の評判が悪くなるのではないか等、不安を抱えてしまいます。

利用者やそのご家族に謝罪をすれば、事業者側が責任を認めたことにつながるのでは、とお考えになる方もいらっしゃるでしょう。

しかし、道義的な責任を認める謝罪することと、法的な責任を認めることとは、別の問題です。

介護事故によって重大な結果が生じているのであれば、原則として、まずはその結果に対して遺憾の意を示したうえで、謝罪をし、利用者やご家族の気持ちに寄り添うことが誠意のある対応でしょう。

施設側が謝罪さえしてくれていたら、裁判に発展することはなかっただろうという事案も少なくなく、事後対応のミスは紛争の拡大に直結するといえます。

上記取り組み指針からも明らかなように、(道義的)謝罪が家族対応の肝であり、事業者向けの最重要のアドバイスの一つです。

謝罪の仕方・注意点

では、利用者・家族に対しては、どのような方法で謝罪をすればよいでしょうか。

具体的な文言が決まっているわけではありませんが、やはり誠意を伝えることが重要です。繰り返しとなりますが、心から被害を受けた利用者や家族に寄り添うことを意識すべきでしょう。

利用者やご家族の気持ちを「傾聴」し、頭ごなしに否定したり、議論することは避けるべきです。

他方で、何でもかんでも謝罪をしたり、闇雲に頭を下げたりすることは、何かを隠しているのではないか、施設側に法的な落ち度があるのではないかといった疑いをもたれるおそれもありますので、注意が必要です。

また、謝罪の際に、施設側の安全配慮義務違反を認めるかのような発言(たとえば、「十分な転倒防止策を実施できていませんでした」等の発言)をしてしまうと、法的責任を認めたと誤解されるおそれもあることから、慎重な対応が求められます。

謝罪の機会が設定されている場合には、出席者において、発言内容の確認やリハーサル、シミュレーションを綿密に行うとよいでしょう。

謝罪文・お詫び文の提供

利用者や家族から謝罪文やお詫び文、詫び状の提供を求められることがあります。

施設側に法的責任があると判断できる事案であれば、謝罪文やお詫び文の提供を前向きに検討してもよいでしょう。

ただし、事故態様に言及する場合には、「事実」に基づいた記載を心掛け、想像などによる記載は避けなければなりません。事故報告書や他の書類との整合性にも配慮すべきです。

他方、施設側が法的責任はないと判断している事案では、謝罪文やお詫び文の提供までは不要と判断すべき場面が多いように思います。安易に謝罪文を提供することで、要求がエスカレートすることも想定されますので、その点を見極めた対応が重要です。

治療費、医療費の負担の合意

高齢者施設・事業所で事故が発生した直後、利用者の家族から、「治療費は施設が負担しろ」と要望されることは少なくないでしょう。

このような場合は、どのように対応すべきでしょうか。

結論から言えば、事故についての賠償の方針(責任の有無、賠償の範囲)が決定するまでの間は、治療費や医療費について支払を約束することは控えるべきです。

施設側に法的責任がある場合には、治療費・医療費を賠償することになりますが、事故発生直後に、施設側の法的責任を判断することは、ほとんど不可能に近いです。

そのため、治療費の負担について、その場ではお約束はできないものの、事故の経緯を調査・検討したうえで、必ずお知らせをする旨、伝えて、ご理解を頂く必要があります。

仮に、治療費の負担を約束してしまった場合には、治療が想定以上に長期化し、治療費が高額になってしまうおそれがあります。

また、事後的に施設側が法的責任を負わないとの判断をした場合にも、法的責任がないことを前提とする話合いが困難となり、紛争が拡大してしまうおそれがあります。

その他に、治療費に関連しては、利用者側が、施設内での事故について、国民健康保険を利用することに抵抗を示すケースもあります。

その場合、施設側としては、国民健康保険を利用することのメリットや、第三者行為による傷病等の届出が必要になること等を説明する必要があるでしょう。

同意書についての説明

一般的に、保険会社による調査では、病院の診断書やカルテなどを取得する必要がありますが、そのためには、病院に「同意書」を提出しなければなりません。

この点についても、事前に案内をしておくことで、事故に関する調査がスムーズに進みます。

上記の治療費の支払についての説明の際に、併せて「同意書」の作成をお願いする予定であることを事前に告知しておけばよいでしょう。

お見舞金

お見舞金は、その名のとおり、利用者やそのご家族への「お見舞い」のために支払われるもので(死亡事故の場合には、「香典」として支払われることもあります。)、事故の精神的損害による慰謝料などとは異なり、事故による損害賠償責任の有無と関連するものではありません。

そのため、事故が起きた場合に必ず支払わなければならないものではありませんが、個別具体的な事情に応じて、施設側の気持ち・誠意として支払うこともあり得ます。

このように、見舞金は賠償金とは別であり、また、決まった金額があるわけではないことから、利用者が過失によってお亡くなりになった事案であれば、おおよその目安として、5万円から10万円程度、骨折などのお怪我をした事案であれば、数万円程度をお渡しすればよいと考えます。

施設利用・通所における対応マニュアル・フローチャートの作成

厚労省の上記取り組み指針には、事故発生時に備えた準備について、以下のような記載があります。

「事故が発生した直後の対応としては、利用者の救命や安全確保を最優先にしつつ、医療機関との連携と家族等に対する連絡という2つの対応を的確かつ迅速に行うことが求められます。そのため各施設においては、事故発生直後の初期対応の手順の明確化や必要となる連絡先リストの作成等の備えが必要となります。

(中略)
事故が発生した場合、施設内の医療スタッフとどのような連携を図るのか、その間にどのような連絡体制をとるのか、事故後の経過を誰がどのように記録するのか、などについて、あらかじめ明文化しておき、すべての職員に周知徹底することが望まれます。」

このように、以下のような準備が要求されています。

  • 介護事故発生後の対応マニュアルの作成
  • 医療機関などの連絡先リストの作成
  • 事故発生時の、各職員の役割分担の明確化
  • 日ごろからの職員向け研修の実施と、周知徹底

介護施設で転倒・骨折をさせてしまったときのNG

介護事故を報告しない

介護保険事業者は、介護保険事業所において事故が発生した場合には(ただし、報告を要する事故が規定されています)、市町村等に報告等を行うことが厚生労働省令及び各市町村の要綱等で義務付けられています(報告義務)。

意図的に報告をしないという選択をとるべきでないことは当然ですが、誤って報告ができなかったという事態を避けるためにも、報告を要する介護事故か否か、正確な判断が不可欠です。

事前に報告マニュアルを作成しておくことで、ミスなく円滑に、保険福祉課など行政への報告を行うことができるでしょう。

また、些細な怪我だと思い家族には連絡をしなかった等の対応が、事後的に介護事故を報告しなかったとの評価につながるおそれもあります。施設側としては、利用者の状態のわずかな変化にも気づくことができるよう、日ごろからの心がけが重要です。

介護事故を隠す(職員による隠蔽など)

事業者側が介護事故を隠すつもりはなくとも、事故を起こしてしまった職員が、事故の存在を隠してしまうおそれもあるでしょう。

介護事故を当該職員のみの責任にはせず、組織として対応する体制を構築することが、このような事態を防ぐための第一歩と考えます。

介護事故について嘘をつく

事業者側が介護事故に対する責任を逃れるため、報告書に虚偽の記載をしたことが発覚した場合には、利用者や利用者家族からの不信感が大きくなることは当然であり、紛争拡大は避けられないでしょう。

利用者側が弁護士を介入させ、証拠保全などの措置をとった場合に、利用者側への説明と行政への報告とが異なっていたことが発覚する場合も想定されます。

訴訟になった場合には、隠蔽等が不利に評価される可能性は極めて高いといえます。

また、市町村等への報告に虚偽があった場合には、場合によっては、当該事業者に対して、指定取消処分が課される可能性も否定はできません。

介護事故が起きた場合には、利用者及びその家族に誠意をもって対応すべきであり、当然のことながら、いかなる理由があっても隠蔽や虚偽報告などを行ってはなりません。

介護施設から保険会社や弁護士への報告

介護事故による損害賠償について

介護事故により利用者が怪我をしてしまったり、亡くなってしまった場合であっても、必ずしも、高齢者施設・事業所が、当該事故についての法的責任を負うわけではありません。

高齢者施設・事業所が法的責任の有無は、多くの場合、注意義務違反(過失)があるか否かの判断に委ねられることになります。

また、過失がある場合でも、損害の範囲に関して争点が多岐にわたることも、よくあります。

たとえば、利用者が転倒による骨折後に死亡した場合に、骨折のみに事故との間の因果関係を認めるのか、死亡との間にも因果関係を認めるのかには、専門的な判断が不可欠です。

また、損害賠償金(賠償額)の大半を占める慰謝料や逸失利益の金額を大きく左右することから、後遺障害の有無・程度についても争いが生じる可能性は高いでしょう。

このように、介護事故による損害賠償については、専門的な判断が必要な部分が多く、なるべく早期に保険会社や弁護士への相談をする必要があるでしょう。

保険会社への報告のタイミング

ほとんどの高齢者施設・事業所は、介護事故による損害賠償に備えて、事業者向けの損害賠償責任保険に加入しています。

では、介護事故が発生した場合、保険会社には、いつ、どういったタイミングで報告をすればよいでしょうか。

保険会社が保険金を支払う義務のある事故か否かを判断するためには、施設側の損害賠償責任の有無を判断する必要がありますが、この判断は、単に事故報告を受けただけでは難しく、後述する調査が不可欠です。

そのため、高齢者施設・事業所においては、調査の期間を要することを理解したうえ、できる限り早期に、保険会社や保険代理店へ事故の報告をすべきでしょう。

その際、保険会社が適切な判断を下すためにも、有利な事情や不利な事情を問わず、できる限り正確な事故状況を伝えることが求められます。

保険会社による調査について

事案にもよりますが、保険会社は、事故状況の把握のために施設の現地調査を行うこともあります。

また、介護事故の予見可能性を判断するため、事故発生までの介護記録を精査し、利用者に生じた怪我の程度や内容を把握するために病院の診断書やカルテを精査することもあるでしょう。

そのため、責任の有無の判断には1ヶ月程度、損害の範囲の判断については(怪我について症状固定を経たうえで)2、3ヶ月以上を要することも少なくありません。

介護事故の損害賠償に保険が使えない場合

上記のとおり、保険会社が、施設側に法的責任がないと判断した場合には、保険金が支払われないこととなります。

また、施設側に責任がある場合でも、免責条項が設定されており、保険が使えない場合がありますので、約款の内容には注意が必要です。

専門弁護士に介護事故の法律相談をするタイミング

保険会社への報告について、説明しましたが、介護に詳しい弁護士、専門の弁護士への相談のタイミングは、いつがよいのでしょうか。

施設側・利用者側のいずれであっても、交渉窓口を弁護士へと移行するか否かは措くとしても、弁護士への相談のタイミングは早ければ早いにこしたことはないと考えます。

弁護士に早期に相談することで、事案の見通しを踏まえた法的なアドバイスを受けることができ、不適切な交渉を回避することが可能となります。

また、双方の認識に隔たりが大きい場合や、相手方に代理人が就いている場合、十分な事実の説明がなされない場合などには、弁護士に依頼をし、交渉の窓口を弁護士へと移行することが望ましいでしょう。

介護施設から介護事故の行政への報告

介護事故の行政報告(報告基準、報告対象)

上記のとおり、介護保険事業者は、介護保険事業所において、事故が発生(ただし、報告を要する事故が規定されています)した場合には、市町村等に報告等を行うことが厚生労働省令及び各市町村の要綱等で定められています。

たとえば、大阪市では、報告すべき事故の内容を、サービス提供中における死亡事故及び負傷等と、その他サービス提供に関連して発生したと認められる事故で報告が必要と認められるものと定めています。

そして、具体例として、転倒などのいわゆる介護事故だけでなく、一定の条件を満たす感染症・食中毒や、職員の法令違反などもあげられています。

明記はされていませんが、サービス提供中に、利用者同士のトラブルで負傷した場合も、報告の対象となるでしょう。

また、介護保険法上の介護保険事業所については保険者たる市町村への報告が必要とされていますが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅からの事故報告は、福祉局高齢者施策部介護保険課へとされています。

以上は、大阪市の例ですが、事故報告の必要性、報告先の窓口の名称(高齢者福祉課、事業者指導係、高齢者支援係など様々です。)、報告の内容や報告書の様式などは、市町村により異なります。

利用者の保険者が他市町村の場合は、その保険者の定めるところによるとの規定も見られます。

このように、行政への報告は、やや複雑といえますので、事業者・施設側としては、迅速な対応のためにも、関係する市町村の定めを事前に確認しておくことが重要です。

多くの場合は、介護者の故意過失を問わず、外部の医療機関を受診する程度の傷害を負った場合に、報告を義務付けているようです。

介護事故の報告書の作成と目的

厚生労働省の運営基準では、(介護事故に関与した職員個人ではなく)各事業者に記録義務を課しています。そのため、事業者は当該職員からヒアリングを行い、報告書を作成することとなります。

報告書の作成目的は、事故の再発防止や介護計画の見直しにありますが、事故報告書を利用者側が入手することも考慮に入れた記載を心掛ける必要があります。

まず、時系列に沿って、事実をありのままに記録することが報告書作成の基本となるでしょう。意見や、感想、憶測などは原則として記載すべきではありません。

また、事実を記載する際に、「大量に」とか、「とても苦しそうな様子」と言った表現が使用されることもありますが、第三者に、記載者が感じた程度が正確に伝わることは難しいでしょう。客観的な数値(バイタルサイン)などで表現し、一義的な記載とすべきです。

客観的という意味では、写真の撮影も有用です。たとえば、ベッドからの転落の場合に、事故直後のベッド柵の状況を写真撮影しておくこと、誤嚥事故の場合に残渣物を撮影しておくことの重要性はいうまでもないでしょう。

なお、報告書の作成の目的は事故の再発防止などにありますから、決して、始末書や反省文ではないことにも留意しなければなりません。申し訳ないとか、反省している等の主観的な意見は不要です。

報告書の書式や事例に応じた記入例、例文

事前に事故報告書の記載要領や書式を準備しておくこと、これを職員に周知徹底しておくことが、記載漏れを防ぎ、正確な記録につながるものと考えます。

たとえば、夜間の巡回中に施設利用者の異状を確認した場合には、発見時刻、異状の具体的な内容、その異状への対応について詳細に記載することが求められます。

定期的に見回りをし、異状が認められない場合であっても、異状がないことを記録しておくことは重要です。

そのような記録がなければ、見回りを怠っていたとか、様子を観察していなかったとの評価を受けるおそれがあるからです。また、異状が一体いつから発生していたのか、具体的に特定することも困難になってしまいます。

異常時はもちろんのこと、普段から、正確かつ十分な記録をしておくことが肝要です。

介護事故の警察への報告

介護事故が発生した場合、警察への報告が常に求められているわけではありませんが、例えば、職員による故意の犯罪行為の可能性がある場合、業務上致死傷の可能性がある場合には警察への通報を視野に入れる必要があります。

具体例~介護施設での転倒事故により利用者が骨折した場合の対応

たとえば、ベッドから車椅子への移乗中に利用者Aさんが、転倒し、骨折をした事案を例に考えてみましょう。

家族対応

やはり、事実を隠さず、誠実に対応することが肝要です。

初期の段階から、道義的な謝罪をしたうえで、誠実な対応を心掛けましょう。ただし、迎合する必要はなく、すべての要望を聞き入れる必要はありません。

たとえば、Aさんのご家族から、3日以内に顛末書を提出しなさい、と求められた場合は、どうでしょうか。

実際には、事実や原因の調査・確認なども必要ですので、この期限内に顛末書を提供することは困難でしょう。

この場合、事実の調査確認のため、3日以内というお約束はできませんが、可能な限り速やかに(この際、具体的な目安を提案できれば、なおよいでしょう)調査を終え、事故について報告をすると伝えることが肝要です。

一度、約束をすると、これを破った場合には、さらなるトラブルが発生し、利用者(家族)からの不信感は募るばかりです。

できないことはできないと具体的な理由と共に告げ、実行可能な期限や代替案を、施設側から示すことが適切な対応といえるでしょう。

転倒事故における報告書の書き方、具体例

事故報告書作成の要点は、5W1H(いつ、だれが、どこで、なにを、どのように、どうした)という点を正確に記載することです。その際、推測は入れず、まさに記載者が体験した事実を記載すべきです。

利用者の基本的な情報や、日時、場所などの必要的記載事項の記入欄を設けた書式を準備しておくことも、記載漏れを防ぐことにつながります。

たとえば、
単に、【事前に声掛けをして、移乗を開始した。】などと記載するだけでは足りず、【ベッドから車椅子への移乗をするにあたり、Aさんに、職員Bが「車椅子に移ります」と声掛けをした。Aさんからは、「わかりました」と返事があった。】
のように、具体的な経過を記載します。

また、ベッドや車いすの位置関係についても、
【Bは、車椅子を通常より少しベッドから離れた位置においていた】では足りず、
【Bは、車椅子をベッドから約7センチの位置に設置し、移乗の介助を開始した。】
と客観的に記載することが重要です。

介護事故における示談交渉の方法

介護事故の場合、保険会社が事業者に代わって示談代行をすることはできません。
あくまでも当事者である事業者と利用者(もしくは、その家族)が交渉の当事者となり、保険会社は後方支援のように、事業者に助言をするにとどまります。

そのため、利用者(及びその家族)は、賠償の専門家ではない介護事業者と損害賠償についての交渉を行わなければならず、その過程で、精神的負担を抱えることも多くあります。

施設としては、誠実に、可能な限り事故についての説明を尽くすことが重要です。
不誠実な印象を与えてしまうと、信頼関係が築けず、交渉が難航するリスクが高まりますので、利用者(家族)に寄り添った対応を心掛けるべきでしょう。

介護事故に精通した弁護士に依頼し、利用者や家族に対して、実務上、適切な賠償や補償をすることも、利用者や家族に寄り添った対応の一つといえますので、介護事故が発生した場合には、弁護士への依頼も検討すべきです。

介護事故を予防するための対策・再発防止策(ヒヤリハット事例の収集やヒヤリハット報告書の作成)や介護事故の原因分析については、以下の記事に記載していますので、そちらもご参考にしてください。

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