土地を貸している方のための立退きガイド|弁護士の活用と交渉の流れ
最終更新日: 2025年05月01日
借地人に土地の明渡しを求めるには、法律上の正当事由と適切な手続きが必要です。弁護士に相談すれば、通知の方法や交渉の進め方、立退料の提示まで、法的に確実かつスムーズな対応が可能になります。
この記事では、普通借地権の契約に基づく立退き交渉の基本から、実際の交渉ステップ、弁護士を活用する具体的なメリットまで、法律初心者の方でもわかりやすく解説します。
「借地人に土地を返してもらいたいけれど、どんな手続きが必要?」
「弁護士に相談した方がいいのはわかっているけど、どのタイミングで何をお願いできるのか不安…」
そんな悩みをお持ちの土地オーナーの方は、ぜひご覧ください。
借地借家法とは?借地契約の種類を簡単に解説
借地借家法は、建物のある土地を貸すときのルールを定めた法律です。借りている側(借地人)を保護する目的が強く、契約の更新や立退きには制限があります。
主な契約のタイプ:
- 普通借地権:原則30年以上。契約終了後も自動更新される。立退きを求めるには「正当の事由」(以下では単に「正当事由」(せいとうじゆう)といいます。)が必要。
- 定期借地権:期間満了で終了(更新なし)。立退き交渉は基本的に不要。
この記事では、立退き交渉が必要となる「普通借地権」契約を中心に解説します。
借地人に立退きをお願いするには「正当事由」が必要です
土地を貸している側が借地人に退去を求める場合、「具体性がなく、ただ別目的で使いたいから」などの一方的な理由だけでは不十分です。
社会的に見て納得できる理由=正当事由が必要になります。
正当事由の具体例:
- 土地を自宅や家族のため等、必要性の高い具体的な計画の下に使いたい
- 老後の生活資金のために土地を売却するしかないので売却したい
- 高齢で遠隔地の物件の管理が非常に難しくなってきた
- 借地人が無断で建て替えをしている、または契約内容に重大な違反をしている
また、立退料の提示は正当事由を補う材料として重要です。補償を申し出ることで、交渉や裁判でも有利になることがあります。
弁護士に相談すべき3つの理由
通知のタイミングや方法を間違えると、契約が自動更新されてしまう
- 土地賃貸借の更新拒絶については、賃借人の請求、若しくは期間満了後の継続使用に対して、直ちに異議を述べる必要があります。
- 弁護士なら内容証明郵便などにより、適切な時期における、法的に有効な手段で確実に通知してくれます。
借地人との直接交渉は、感情的なトラブルになりやすい
- 弁護士が間に入ることで、冷静で客観的な話し合いが可能になります。
- 後々裁判になったときにも役立つ交渉記録を残すことができます。
立退料や契約条件の調整を任せられる
- 金額の相場や条件交渉は専門知識が必要です。
- 弁護士であれば、地域相場や過去の判例をもとに適切な提案を行ってくれます。
実際の交渉ステップ(弁護士と進める流れ)
契約内容と登記を確認
- 契約の種類(普通借地か定期借地か)、借地期間、建物の所有者などを整理します。
- 弁護士が契約書や登記簿をチェックして問題点を把握します。
土地の活用目的を整理
- 例:自宅を建てる、駐車場や賃貸物件にしたい、売却したいなど
- 明確な理由や計画書があると、説得力が増します。
書面で更新拒絶通知を送る
- 普通借地契約では、借地人による更新請求があるか、若しくは期間満了後の継続使用に対して遅滞なく異議を述べなければ自動更新されます。
- 弁護士が異議の通知書を作成し、内容証明郵便で送付します。
立退料の提示と交渉
- 建物の評価額・引っ越し費用・営業補償などを含めて、弁護士が妥当な金額を設計します。
- 合意に至った場合は、弁護士立会いのもとで合意書を作成します。
交渉がまとまらなければ、調停・裁判へ
- 弁護士が代理人として、調停や訴訟の手続きや主張立証を全面的にサポートします。
立退料の決め方
立退料は借地の価額、借地の広さ、借地の用途等、ケースによって異なりますので相場というものを観念することは難しいです。
立退料の算出の考慮要素としては以下の通りです:
契約内容 | 考慮要素 |
居住用借地 | 借地権価格(路線価をもとに算出されることが多い。)、賃料差額、立退きに係る費用、正当事由の強弱などを考慮して決定。 |
事業用借地 | 借地権価格、営業損失、移転費用、賃料差額、正当事由の強弱などを考慮して決定。 |
提示額が適切な計算方法により算出された金額に見合っていないと、借地人が納得せず交渉が長引く恐れもあります。
判例紹介:弁護士のサポートで結果が変わった(変わる可能性があった)事例
具体的な活用計画の必要性と補償提示で退去が認められた(東京地裁 平成30年3月30日判決[平成29年(ワ)4955号])
土地の賃貸人(地域の基幹病院)が、病院の身体障害者専用駐車場を設置する必要があるとして更新の拒絶を主張。弁護士が更新に対する異議の通知書を作成し、賃貸借期間満了後直ちに、賃借人に送付した。
→ 結果:裁判所は賃借人の事情をも考慮した上で、賃貸人には「立退料200万円の支払と引き換えにすれば正当事由が認められる」と判断し、賃貸人が提示した立退料200万円の支払と引き換えとする建物収去土地明渡命令が出された。
更新に対する異議は借地権の存続期間の中途に行っても無効であるとして、これをもって借地借家法等が定める異議として認めなかった(東京地裁平成17年5月18日判決[平成14年(ワ)第24854号])
賃貸借期間の中途に、将来の更新請求等に備えて、事前に更新に対する異議の通知をした。
→ 結果:裁判所は正当事由の判断をすることなく、明渡請求を棄却した。
弁護士に相談して異議を適切なタイミングで通知できていれば異議が有効となった可能性があります。
まとめ
土地を貸している方が借地人に立退きをお願いするには、手続きのタイミング・通知方法・交渉の仕方がすべて法的に重要です。
借地借家法は借地人を強く保護しているため、専門家のサポートなしではうまく進まないケースも少なくありません。
- 活用目的を整理し、契約内容を確認する
- 正当事由を立てた上で、補償内容を提示する
- 弁護士に依頼して、交渉・書面作成・調停や裁判も任せる
「弁護士に相談してから動く」ことが、スムーズで確実な立退き交渉のカギです。
よくある質問(FAQ)
Q:立退きに際して、借地人が所有している建物を買い取らなければならないのですか?
借地期間が満了して更新されない場合には、借地権者は、建物等の買取りを請求することができるとされています(借地借家法第13条)。
その価格は建物等の時価とされていますが、建物の場所的環境も考慮され、土地更地価格の1割から2割程度の価格が加算されることもあります。
Q:弁護士に依頼すると費用はどれくらいですか?
当事務所の場合、交渉の着手金は20万円ですが、訴訟となると、別途訴訟着手金が必要になります。
また、成功報酬は20万円~になり、経済的利益(立退料の減額金額)に対して10パーセントから20パーセントが加算されます。
詳しくは、お問合せください。
Q:契約満了の時点で出ていってもらうことはできないの?
普通借地契約は自動更新が前提なので、「満了だから出て行って」は通用しません。正当事由と適切な時期における通知が必要です。
Q:立退料は必ず払う必要がありますか?
法律上の義務ではありませんが、提示することで裁判所に「誠実な交渉」と認められやすくなります。
また、立退料の提示をしなかったことにより明渡し自体が棄却された、ということにもなりかねないので、立退料を検討することが望ましいです。
Q:立退料はどのようにして算定するのですか?
立退料は、あくまで賃貸人と賃借人のそれぞれの土地使用の必要性を考慮して、その調整として決められるため、各事案ごとによって算定は異なります。
ただ、裁判例では、賃料差額、賃借人の移転実費、逸失利益や借地権価格などを考慮して算定した事例があることから、実際の事例では、これらの事情を参考に、当該示談において提示する立退料を算定することになります。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。