介護事故での解雇で職員側・施設側の取るべき対応を弁護士が解説!
最終更新日: 2022年06月28日
- 介護事故を起こして解雇を言い渡された
- 介護事故を原因とした解雇は可能なのか?
- 介護事故での解雇で弁護士に相談したら何をしてくれるのか?
介護事故は、介護施設の職員が十分に注意しているにもかかわらず年々増えるばかりです。
利用者に事故で怪我を負わせてしまった場合、職員は解雇されるのでしょうか?また日頃から勤務態度に問題がある職員が事故を起こしてしまった場合、施設は職員を解雇できるか、介護事故を通じて職員と施設の双方の立場から問題となります。
そこで今回は、介護事故に詳しい弁護士が介護事故が起こったときの対応を職員側・施設側の立場から解説します。
介護事故での解雇はできるのか?
ここでは、介護事故を起こした職員を介護施設は解雇できるかについて解説します。
以下、2つのポイントが重要になります。
- 介護事故での解雇は難しい
- 解雇の代わりの損害賠償請求は可能?
1つずつ、見て行きます。
介護事故での解雇は難しい
介護事故での解雇の可否について、基本的には事故で職員を解雇することは難しいのが現状です。
日本では従業員の地位は法律によって保護されており、客観的に合理的な理由がない場合、すなわち,よほどの事由がない限り解雇はできないことが規定されています(労働契約法第16条)。
さらに、高齢化社会に伴って介護施設の需要は益々高まるばかりですが、反対にこれらの施設で業務にあたる介護職員の人数は年々減少しています。
また施設側でも介護事故によって職員を解雇したことになれば、その事実が知れ渡り、施設の評判は低下して、事業サービスの経営状況にも悪影響を及ぼしかねません。
職員の故意や重大な過失がない限り、介護事故が理由で職員が退職させられることは少ないと考えてよいでしょう。
解雇の代わりの損害賠償請求は可能?
では、解雇の代わりに損害賠償請求をすることは可能でしょうか?
結論から言うと、介護職員が悪意を持って利用者に事故を負わせたり、また重大な過失によって事故が生じたのではない限り、職員に損害賠償を請求されることはほとんどありません。
介護施設では職員を使用して介護サービスの利益を得ています。
そのため、被用者である職員が故意過失により介護事故を起こした場合には、使用者である介護施設が損害賠償責任を負うことになるのが法律で規定されています(民法715条)。
また、施設側でも、損害賠償保険に加入していることが多いので、保険会社が保険金を支払うことにより損害が填補されることになります。
したがって、介護事故により職員が損害賠償によって金銭的な負担をさせられるは、ほとんどないのが現状です。
【職員側】介護事故で解雇を言い渡されたとき振り返り考えるべきこと
介護事故で解雇を言い渡されたときに、職員が振り返り考えるべきことについて解説します。以下の3つがポイントになります。
- 普段の勤務態度は良かったか
- 技術・知識の向上をしていたか
- 運営する法人の経営状況
1つずつ見ていきましょう。
普段の勤務態度は良かったか
1つ目は、普段の勤務態度は良かったか、ということです。
介護施設における介護サービスを提供する職員の日頃の勤務態度や素行が著しく悪く、その勤務態度が事故に繋がったと考えられるような場合は、解雇につながる可能性があります。
介護サービスでは、利用者の能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように必要な介助をします。そのために、利用者の健康状況にあわせたケアプランなどが設けられています。
職員がこうしたサービスの内容を理解せずに遅刻をしたり、施設の注意事項を全く理解せずに独断でサービスを行ったりするような場合には、解雇が検討されることもあるので注意が必要です。
技術・知識の向上をしていたか
2つ目は、介護サービスを提供する職員として、技術・知識の向上をしていたかどうかという点です。
介護サービスは医療技術や福祉・介護技術の向上に伴い、日々その内容が変化します。
とくに介護保険にかかわる法律や福祉用具、新しい技術の改革は目覚しいものがあります。介護職員がこうした介護技術の向上のための情報収集を怠らず、日々技術向上の努力を継続していたのか否かが問題になります。
運営する法人の経営状況
3つ目は、介護施設の経営状況はどうであったのか、という点です。
職員が介護事故を起こした以外、たとえば日頃の勤務態度も問題なく、介護技術や知識の向上のための努力を怠っていたわけではないのに解雇を通達されたような場合は、介護施設側の経営状況に問題がある可能性があります。
このような場合は、いわゆるリストラとして施設側の整理解雇になるので注意が必要になります。
【施設側】介護事故で職員を解雇するときの対応
ここでは、介護事故で職員を解雇するときの施設側の対応について解説します。以下の3つがポイントになります。
- 解雇に関連する法律を確認する
- お互いが納得するまで話し合う
- 施設の評判を落とさないよう慎重な判断が必要
1つずつ見ていきましょう。
解雇に関連する法律を確認する
施設側がとるべき1つ目の対応は、解雇に関連する法律を確認することです。
介護施設が職員を解雇させることは、施設側と職員の双方にとって大きな負担となります。そのため、施設が職員を解雇させたい場合は、まずは退職勧告を行なって自主退職を促すことが望ましいです。
退職勧告を行なっても職員が自主退職しないような場合には、解雇を検討しましょう。解雇には、以下の3種類があります。
普通解雇 |
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懲戒解雇 |
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整理解雇 |
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職員の解雇は、後々に紛争に発展するケースもあるので慎重に行う必要があります。とくに介護事故だけが原因で解雇にすることができるかは、他の要因も検討する必要があり一概に判断することが難しいです。
解雇の他にも、選択肢があるような場合は、解雇は基本的に避けたほうがよいでしょう。
お互いが納得するまで話し合う
施設側がするべき対応の2つ目は、お互いが納得するまで話し合うことです。
退職させたい職員がいる場合に、施設側が解雇ではなく自主退職を促す場合、それが一方的な通告にならないような注意が必要になります。
しかし、介護事故を廻って施設側と職員の間でそれぞれの主張が食い違うような場合には、弁護士を通じて示談交渉をすることをおすすめします。
職員である労働者は法によって労働条件が保護されているため、後々紛争になることを防ぐためにも、弁護士のアドバイスを受けるとよいでしょう。
施設の評判を落とさないよう慎重な判断が必要
施設側がとるべき3つ目の対応は、施設の評価を落とさないよう慎重な判断が必要になるということです。
介護事故だけを理由に解雇することは困難ですが、それ以外に職員の勤務態度に問題があるような場合には、日頃から直接本人と話し合いをして改善を促すことが不可欠です。
それでも職員の改善が見られないような場合には解雇の話し合いをしますが、そのときには解雇の基準を明文化し、公開しておくことが必要になります。
明文化した解雇基準は、施設が安全な介護サービスを利用者に提供し、事故を防ぐためにも必要です。またこうした基準は、後々訴訟に発展した場合においても施設側の客観的な証拠として重要になります。
介護事故での解雇は弁護士に相談することがおすすめ
介護事故での解雇は弁護士に相談することをすすめる理由について解説します。以下の2つがポイントになります。
- 解雇に正当性があるかの判断を仰げる
- 円満な解決を目指せる
1つずつ見ていきましょう。
解雇に正当性があるかの判断を仰ぐ
1つ目の理由は、弁護士に相談することで解雇に正当性があるのかの判断を仰げることです。
介護施設が職員を解雇した場合、職員が正規職員であるのか、非正規職員であるのかにより対応が異なります。日本では解雇すること自体、社会通念上の問題があるのですが、これが正規職員である場合はその傾向がさらに強くなります。
正規職員の場合は、非正規職員に比べて解雇の正当性の判断がより厳しくなり、解雇に正当性がないと判断されると解雇自体が撤回されます。
また非正規職員であっても、定年のみが定められている契約であれば、正規職員と同等に扱われるので注意が必要です。介護施設で職員の解雇を検討している場合には、労働関係に強い弁護士に相談することをおすすめします。
円満な解決を目指す
2つ目の理由は、弁護士に相談することで円満な解決を目指せることです。
介護事故により職員も施設側もナーバスになる中、解雇を検討することは双方の関係がさらに悪化しかねません。とくに、当事者同士の話し合いでお互いの主張に歩みよりが認められないような場合には、職員側・施設側どちらも弁護士にアドバイスを求めることをおすすめします。
弁護士に相談することで、早期に問題を解決することが可能になり、場合によっては双方にとってメリットのある解雇以外の解決策が見つかるかもしれません。
まとめ
今回は、介護事故に詳しい弁護士が、介護事故が起こったときの対応を職員側・施設側の立場から解説しました。
介護施設における解雇は、労働契約法第16条により、客観的に合理的な理由がない場合には無効になります。
そのため施設あるいは職員の双方は、普段から客観的な証拠や記録を残しておくことによって、解雇の正当性あるいは非正当性を提示できることになります。
介護事故による解雇を通達された職員、あるいは解雇を検討している介護施設は、まずは介護事故を専門とする弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。