宗教法人の土地売却に必要な手続きや注意点ついて専門弁護士が解説!

最終更新日: 2024年01月31日

宗教法人の土地売却に必要な手続きや注意点ついて専門弁護士が解説!

  • 宗教法人の土地売却に必要な手続きは?
  • 宗教法人の土地売却が無効になることもあるの?
  • 宗教法人の土地売却で気を付けることはある?

個人や会社が土地売却をするのと同様、宗教法人も土地売却をすることがあります。しかし、宗教法人は個人や会社とは異なり、土地売却をするにあたり特有の規制が存在します。この点を承知していないと土地売却をする宗教法人もその買手も思わぬ損害を受ける恐れがあります。

今回は、宗教法人の土地売却に必要な手続きや取引上の注意点について、宗教法人を専門とする弁護士が解説いたします。

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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宗教法人による土地売却の手続

宗教法人が土地を売却する場合、個人や会社が土地を売却する場合とは異なる手続きがあります。以下どのような手続きが必要となるのかご説明します。

特有の手続きが必要な理由

宗教法人の財産は、信者等の浄財により形成されたものが多く、また礼拝の施設や什物等、宗教活動と密接に結びついているものも多くあります。

これら財産の保全を図り、みだりにまたは不当に処分されることを防止するため、宗教法人法では、宗教法人の財産の管理及び運用に関して、特別の規定を置き、重要な財産の処分について一定の手続きを踏むことを求めています。

宗教法人規則の手続き

宗教法人を設立するにあたって、財産に関する事項(基本財産、宝物その他の財産の設定、管理及び処分に関する事項)は規則記載事項となっています(宗教法人法12条1項8号)。

土地の売却について宗教法人の規則に手続きが規定されている場合もあれば、規定されていない場合もあります。以下それぞれの場合において必要となる手続きについて確認します。

規則に定めのある場合

宗教法人が、土地を売却する際には、この宗教法人の規則に定められた手続きを経なければなりません(宗教法人法23条1号)。

規則の内容は各宗教法人によって異なりますが、被包括宗教法人の場合、包括宗教法人の同意を必要としていたり、責任役員決議の他に総代会の同意が必要とする等、決議要件が加重されている場合もあります。

規則に定めのない場合

不動産の処分について宗教法人の規則に別段の定めがない場合には、責任役員の定数の過半数で決します(宗教法人法19条)。

公告

宗教法人は、土地を売却する少なくとも1か月前に、信者その他利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければなりません(23条1号)。

宗教法人の規則に公告の方法が規定されていますので、それに従って行います。特に、公告の期間については気を付ける必要があります。

例えば、公告期間は10日間と規定されている場合、民法は初日不算入としていますので、1月1日に公告を始めた場合、公告が終わるのは1月11日午前0時です。そして、公告終了後1か月してから土地の売却が可能となりますので、土地を売却できるのは2月11日午前0時以降です。

宗教法人の土地売却に手続き違反があったら?

このように宗教法人の土地売却には特有の手続きが求められています。では、この手続きを行わなかったり、手続きに不備があった場合はどうなるのでしょうか。以下そのような場合のペナルティや取引の有効性についてご説明します。

過料

手続を履践せずに行った処分行為が有効か無効かにかかわらず、公告を怠った宗教法人の代表者は、10万円以下の過料に処せられる可能性があります(宗教法人法88条)。

なお、過料は行政処分であり刑事罰ではありませんので、前科が付くわけではありません。

包括宗教法人による懲戒処分

被包括宗教法人において必要な手続きを履践せずに土地売却を行った場合、当該処分を行った代表役員は包括宗教法人から懲戒処分を受ける可能性があります。

損害賠償

代表役員および責任役員は、法令、規則および当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程がある場合には、その規程に従い、当該宗教法人の業務及び事業の適切な運営に努めるべき義務を負っています(宗教法人法18条5項)。

そのため、土地売却について手続違反があり、宗教法人や相手方に損害を与えた場合には、宗教法人の代表役員および責任役員は、損害賠償請求を受ける可能性があります。

取引は無効になる?

宗教法人法24条は、「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物」について、宗教法人規則で定める手続きや公告手続に違反した場合、財産処分は無効と定めています。

これらの財産は、宗教活動に不可欠な財産のため、みだりに処分されることを防止する必要があるからです。

もっとも、取引相手が不足の損害を被ることを防止するために、手続違反について知らず、そのことに重大な過失がない場合には財産処分は有効となります(宗教法人法24条柱書
但書)。

なお、事後的に規則に定められた総長の承認が得られたケースや、1か月の公告期間が1日足りなかったケースで、財産処分は無効としなかった判例があります。(最判S43.11.19、東京地判S38.5.10)。

他方、「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産」以外の不動産の場合には、上記規定の適用はなく手続違反があっても取引が無効になることはありません。とはいえ、手続き違反があると前記のとおり、宗派からの懲戒処分を受けたり、代表役員等が損害賠償責任を負う可能性がありますので手続きをしっかり履践することが必要です。

宗教法人の土地売却の相手が注意すべき点

以上のとおり、宗教法人の土地売却には通常の不動産取引とは異なる手続きがあります。そこで、宗教法人の土地と購入する相手としては、無効な土地売却に巻き込まれないために気を付けるべきポイントについて以下ご説明します。

買主側のチェックポイント

買主としては以下の点についてチェックするようにしましょう。

  • 宗教法人の規則の確認
    宗教法人の規則、責任役員会議事録を確認し、有効な議決があるか確認します。
  • 公告の有無の確認
    宗教法人の登記事項証明書に記載されている公告方法を確認し、適法な公告がなされたか確認します。
  • 包括宗教法人の確認
    被包括宗教法人の場合、包括宗教法人の承認を得ているか確認します。

売買契約締結時の特約

以上の点をチェックすることに加え、売買契約書には特約を設けることで不足の損害を回避することが重要です。

  • 宗教法人規則で定められた手続及び宗教法人法の公告が適法に実施されたことを売買契約の停止条件(効力発生要件)とすること
  • 一定の期日までに条件が成就しないときは買主が白紙解約できること
  • 所有権の移転時期は、停止条件が成就した後、売買代金が支払われた時とすること

まとめ

以上、宗教法人の土地売却に必要な手続きや取引上の注意点について解説しました。

土地売却となると多額のお金が動きます。売却する宗教法人としても、購入する買主としても慎重に進めなければ思わぬ損害を被る恐れがあります。

宗教法人の土地売却に関わることになったときは、取引を進める前に宗教法人を専門とする弁護士にご相談ください。

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