建設アスベスト給付金と労災保険いずれを請求?専門家が解説
最終更新日: 2024年05月09日
アスベストで病気になったら補償はある?
アスベスト給付金や労災保険など色々あって混乱する
労災保険とアスベスト給付金はどちらを先に請求すべき?
過去にアスベストにさらされる業務に従事したことによって、現在、病気に苦しんでいる被害者は多くおられます。国は各種の補償制度を用意していますが、どれを利用すべきなのか分かりにくいという声も聞きます。
本コラムではアスベストの補償に詳しい弁護士が、建設アスベスト給付金制度と労災保険制度について説明します。
建設アスベスト給付金と労災保険給付いずれを請求?
建設アスベスト給付金と労災保険いずれも石綿にばく露する作業に従事したことで一定の疾病に罹患した方への補償制度ですが、建設アスベスト給付金は被害者への損害賠償という性質であるのに対し、労災保険は保険給付という性質です。
このように異なる性質の給付ですから両方の支給を受けることができます。特に労災保険給付は内容が手厚いので、請求ができないか必ず検討すべきです。
どちらを先に請求しなければならないという順序はありません。ただ、労災保険給付は時効になるまでの期間が長くはありませんので、先延ばしにすべきではなく、優先して請求に着手すべきです。
建設アスベスト給付金の前に労災保険について
建設アスベスト給付金制度の前に労災保険について、その要件や給付内容について説明します。
ここでは概要の説明にとどめますので、より詳細に知りたいという方は下記コラムや下記の説明文中に厚生労働省のパンフレットのリンクを記載しましたのでそちらをご確認ください。
労災認定の要件
労災の対象となる疾病は下記のとおりです。労災として認定されるためには当該疾病がアスベストにばく露する作業に起因していると認定してもらうことが必要となります。
アスベストによる疾患の潜伏期間は20年以上と長期ですから、過去の業務内容をいかに証明できるかが労災認定のポイントとなります。
・石綿肺(じん肺管理区分が管理2~管理4。管理2・3の場合は肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支炎拡張症又は続発性気胸 の合併症があること)
・中皮腫
・肺がん
・良性石綿胸水
・びまん性胸膜肥厚
労災保険給付の内容
主な労災保険給付は下記のものです。それぞれについて簡単に説明します。
休業補償給付
障害補償給付
傷病補償年金
介護補償給付
遺族補償給付
葬祭料
特別遺族給付金
療養補償給付
療養補償給付によって自己負担なく医療を受けることができます。通院交通費も支給されます。
療養の費用の支給については支出した日の翌日から2年
休業補償給付
疾病のために働けない場合、休業の第4日目から休業補償給付と休業特別支給金の支給を受けることができます。第3日目までは雇用者が補償する義務があります。
賃金の支払いを受けなかった日の翌日から2年
障害補償給付
疾病の治療を受けたけれども一定の障害が残ってしまった場合、障害補償給付の支給を受けることができます。
症状固定日の翌日から5年
傷病補償年金
療養開始から1年6か月を経過しても治ゆ(症状固定)せず、かつ一定の傷病等級に該当する場合、傷病補償年金、傷病特別支給金、傷病特別年金の支給を受けることができます。
なお、傷病補償年金が支給されると、休業補償給付は支給されなくなります。
介護補償給付
障害補償年金又は傷病補償年金の受給者で、一定の要介護状態にある場合、介護補償給付の支給を受けることができます。
介護を受けた月の翌月1日から2年
遺族補償年金、葬祭料
遺族は遺族補償年金と遺族補償一時金、葬祭料の支給を受けることができます。
葬祭料は、葬祭を行う者が支給を受けることができます。
遺族補償年金の受給権者は、労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。妻以外については年齢や一定の障害があることが要件とされてます。
遺族補償一時金は、遺族補償年金の受給権者がいない場合や受給権者がすべて失権した場合に遺族が支給を受けることができます。
死亡日の翌日から5年
特別遺族給付金
労災保険制度による給付ではありませんが、石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金という制度があります。
この制度は疾病とアスベストとの関連性は気が付きにくく、そのために前記の遺族補償年金・遺族補償一時金の被災労働者の死亡日から5年間という時効期間を経過してしまった遺族を救済するために設けられた制度です。
対象疾病や石綿ばく露作業従事の要件は同じで、他には令和8年(2026年)3月26日までに死亡したことが要件とされています。特別遺族給付金の請求期限は、令和14年(2032年)3月27日です。
建設アスベスト給付金を労災保険と共に請求
次に、建設アスベスト給付金制度について説明します。
ここでは概要の説明にとどめますので、より詳細に知りたいという方は下記コラムや厚生労働省のパンフレットのリンクを記載しましたのでそちらをご確認ください。
請求の要件
建設アスベスト給付金の請求要件は下記①から④です。建設アスベスト給付金についても過去に石綿にさらされる作業に従事していたことを証明できるかどうかがポイントとなります。
※土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体の作業、これらの作業の準備作業に係る業務又はこれに付随する業務
②上記業務への従事期間が下記期間であること
・石綿の吹付け作業に係る建設業務:
昭和47年(1972年)10月1日から昭和50年(1975年)9月30日
・一定の屋内作業場で行われた作業に係る建設業務:
昭和50年(1975年)10月1日から平成16年(2004年)9月30日
③上記業務によって下記疾病にかかったこと
・中皮腫
・肺がん
・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
・石綿肺(じん肺管理区分が管理2から4又はまたはこれに相当するもの)
・良性石綿胸水
④労働者、中小事業主、一人親方、家族従事者であったこと
請求の期限
建設アスベスト給付金にも下記のとおり請求期限があります。
②石綿関連疾病により死亡した日から20年以内
※初日算入、請求期限末日が休日の場合は翌開庁日が期限末日となります。
賠償金額
建設アスベスト給付金制度によって支給される給付金額は下記のとおりです。
労災認定を受けていると請求が簡単
建設アスベスト給付金制度ですが請求のために提出すべき書類は多岐にわたります。
しかし、既に労災保険給付の支給決定を受けている場合には、「労災支給決定等情報提供サービス」という制度を利用できます。これは労災認定時の調査結果を利用して建設アスベスト給付金の認定のために必要な情報を提供してもらえる制度です。
これを利用すれば、建設アスベスト給付金を請求するための書類は大幅に省略できます。
一方、労災認定の申請が未だという方は、労災認定を受けてその後に上記のサービスを利用していると建設アスベスト給付金の請求にたどり着くまでに1年近くかかる可能性があります。
ですから、労災申請が未だという方はそれと並行して建設アスベスト給付金の請求を行った方が良いでしょう。
まとめ
以上、建設アスベスト給付金制度と労災保険制度について説明しました。
いずれの制度も過去の業務内容を証明することに苦労する場合があります。また適切な請求をしなければ支給までに長期間を要する場合があります。
できる限り速やかに給付を受けるためには、アスベストの補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。