アスベストの被害なら遺族補償給付の申請を!専門家が徹底解説

2024年04月29日

アスベストの被害なら遺族補償給付の申請を!専門家が徹底解説

アスベストで親族が死亡したときの補償を知りたい
労災の遺族補償給付の請求はできるの?
遺族補償給付の代わりの補償はある?

過去の勤務先の業務でアスベストにさらされて病気を発症する被害者は増えています。特に肺がんや中皮腫になると死亡に至る場合も多くあります。

被害者が生前に支給を受けられる補償は各種ありますが、被害者の死亡後に遺族が請求できる補償もあります。

本コラムではアスベストの補償に詳しい弁護士が、労災保険による遺族補償給付を中心として説明します。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

アスベストの被害で死亡したら遺族補償給付

アスベストを原因とする疾病によって労災認定を受けていた被害者が死亡した場合、その遺族は労災保険給付として遺族補償給付を請求できます。

以下、労災認定の要件を確認した後、遺族補償給付について説明します。

労災認定の要件

アスベストを原因とする疾病について労災認定を受けるためには、石綿にさらされる作業に従事したことによって下記の疾病にかかったことが必要です。もちろん、その当時に労災保険に加入していたことも必要です。

・石綿肺(じん肺管理区分が管理2~管理4。管理2・3の場合は肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支炎拡張症又は続発性気胸 の合併症があること)
・中皮腫
・肺がん
・良性石綿胸水
・びまん性胸膜肥厚

労災認定でポイントになるのは、過去に石綿にさらされる作業に従事していた事実を確認できるかどうかです。アスベストによる疾病の潜伏期間は20年~50年と非常に長いため、かつて従事していた仕事内容を示す資料や証言してくれる同僚、事業主を確保することが難しいケースもあります。

なお、アスベストの疾病による労災認定の審査には時間がかかり、3か月から6か月ほどかかります。

また、石綿健康被害救済制度の救済給付の支給を受けている方でも、労災認定の要件を満たしている場合があります。救済給付よりも手厚い給付内容である労災保険給付の申請もできないか検討しましょう。

詳しい認定方法については下記リンク先の「石綿による疾病の労災認定」をご確認ください。そこで示されている認定基準を満たさない場合でも労災認定を受けられることがありますので、諦めずにまずは請求してみることが大切です。

遺族補償年金

遺族補償給付には遺族補償年金と、その受給権者がいない場合に支給される遺族補償一時金があります。

まずは遺族補償年金についてですが、その受給権者や支給金額については下記のとおりです。

【受給権者】
被害者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。妻以外については年齢や一定の障害があることが要件となります。

受給権者の順位は以下のとおりです(①が最先順位)。

①妻又は60歳以上か一定障害の夫
②18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
③60歳以上か一定障害の父母
④18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
⑤60歳以上か一定障害の祖父母
⑥18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上又は一定障害の兄弟姉妹
⑦55歳以上60歳未満の夫
⑧55歳以上60歳未満の父母
⑨55歳以上60歳未満の祖父母
⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

⑦~⑩は60歳になるまでは支給されません(若年停止)
※一定の障害とは労働者災害補償保険法施行規則第15条に定める障害です。
※死亡時に胎児だった場合、生まれたときから受給資格者になります。

※下記理由によって先順位者が受給権を失うと次順位者が受給権者となります(転給)。
(1)死亡したとき
(2)婚姻をしたとき(事実婚を含む。)
(3)直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき(事実上の養子縁組を含む。)
(4)離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき
(5)子、孫又は兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したとき(被災労働者の死亡の時から引き続き一定障害の状態にあるときを除く。)
(6)一定障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなったとき

【支給金額】
遺族補償年金のほか、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。

支給金額は下記の表のとおりです。遺族の人数(受給権者及び受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数)に応じて支給金額は決まります。なお、受給権者が2人以上いるときは、支給額をその人数で等分した金額が各自に支給され、そのうちの1名が代表者として年金の請求と受領を行います。

下記表にある「給付基礎日額」とは、事故発生日、医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは直前の賃金締切日)の直前3か月間に被害者に支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額をいいます。

アスベストによる疾病の場合、石綿ばく露業務に従事していた当時の賃金に所定のスライド率を乗じて給付基礎日額を算出します。
遺族補償年金

【請求権の時効】
死亡日の翌日から5年

遺族補償年金前払一時金

遺族補償年金の受給権者は、1度だけその前払いを受けられます。60歳未満のため若年停止中の遺族も請求できます。

前払金は、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分のうち希望する金額を選択できます。なお、前払いを受けた場合、その金額に達するまでの間は遺族補償年金の支給はされません。

既に遺族補償年金の支給を受けている場合であっても、被害者の死亡日の翌日から2年以内でかつ、遺族補償年金の支給決定通知日の翌日から1年以内であれば、遺族補償年金前払一時金を請求できます。

この場合は、給付基礎日額の1000日分から既に支給された年金額を控除した金額の範囲での請求となります。

遺族補償一時金

次に、遺族補償給付のうち遺族補償一時金についてです。

遺族補償一時金は、被害者の死亡時に遺族補償年金の受給権者がいない場合か、受給権者がすべて失権した時点で年金の支給総額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合に支給されます。

【受給権者】
遺族補償一時金の受給権者は下記のとおりです。①の配偶者が最優先で、それ以下②、③、④と順に優先して受給権者となります(②~③は先に記載の者が優先)。

①配偶者
②労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
③その他の子・父母・孫・祖父母
④兄弟姉妹

【支給金額】
遺族補償一時金のほか、遺族特別支給金、遺族特別一時金が支給され、支給金額は下記表のとおりです。
遺族補償一時金

【請求権の時効】
死亡日の翌日から5年

アスベスト(石綿)の遺族補償給付の代わりに特別遺族給付金

前記のとおり労災保険給付の遺族補償給付は被害者の死亡から5年で時効となります。

しかし、アスベストによる疾病はその潜伏期間の長さや疾病としての専門性の高さから死亡時には疾病の原因がアスベストとは本人も医師も気が付かないケースがあります。その場合、時効期間の5年が経過してしまい労災保険給付の遺族補償給付を請求できないことがあります。

そのような遺族を救済するために、石綿健康被害救済制度は特別遺族給付金という制度を設けています。ここでは遺族補償給付を請求できない場合にその代わりに請求する特別遺族給付金について説明します。

特別遺族給付金も遺族補償給付と同様に、特別遺族年金と特別遺族一時金があります。

請求の要件

請求要件は、死亡日が令和8年(2026年)3月26日までであること以外は、労災保険給付の遺族補償給付と同じです。

特別遺族給付金の請求期限は令和14年(2032年)3月27日までです。令和4年に法改正があり請求期限が同日まで延長されました。

受給資格者

特別遺族年金の受給資格者は下記のとおりです。労災保険給付の遺族補償給付とほどんど同じですが、特別遺族年金の場合は若年停止はなく60歳未満でも支給されます。

転給についても遺族補償給付と同じです。特別遺族一時金の受給者は遺族補償一時金と同じです。

①妻又は55歳以上か一定障害の夫
②18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
③55歳以上か一定障害の父母
④18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
⑤55歳以上か一定障害の祖父母
⑥18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか55歳以上又は一定障害の兄弟姉妹

支給金額

特別遺族年金の支給金額は、下記のとおり受給権者及びその受給権者と生計を同じくしている遺族で受給資格要件を満たす遺族の人数に応じて決まります。

例えば、妻と18歳未満の子が二人の場合、支給金額は年300万円です。

【支給金額】
1人 240万円
2人 270万円
3人 300万円
4人以上 330万円 

他方、特別遺族年金の受給権者がいない場合に支給される特別遺族一時金の支給金額は下記のとおりです。

・受給者が配偶者の場合
1200万円
・受給者が配偶者以外の場合
それまでに支給された特別遺族年金の額を1200万円から控除した額

アスベストの遺族補償給付以外のその他の給付

以上、アスベストの被害者の遺族が請求できる補償について、労災保険の遺族補償給付、石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金(特別遺族年金と特別遺族一時金)について説明をしました。

これら以外にも遺族が請求できる補償として石綿健康被害救済制度の特別遺族弔慰金と特別葬祭料、建設アスベスト給付金があります。

なお、労災保険の遺族補償給付と石綿健康被害救済制度の給付を両方とも支給されることはできませんが、建設アスベスト給付金はいずれの給付とも合わせて支給されることが可能です。

まとめ

以上、労災保険による遺族補償給付やその代わりとなる補償について説明しました。

労災保険もその他の補償も資料の収集や要件の証明は難しいケースもあります。補償の請求をお考えの方は、まずはアスベストの補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

アスベストのコラムをもっと読む