暴行罪の起訴までの流れを専門弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月08日
知人や見ず知らずの人と口論になってつい手が出てしまったというケースは非常に多くあります。程度の軽いものであっても暴行罪が成立します。
今回は暴行事件を起こしてしまった場合の起訴までの流れについて専門弁護士が解説します。
暴行罪の起訴までの流れを確認
まずは、暴行事件を起こしてしまった場合に、被害届が出なかった場合、在宅捜査の場合、逮捕・勾留された場合に分けて流れを確認しましょう。
被害届なしで立件されないことも
被害者や目撃者から通報があり、警察が暴行事件を認知したものの、その日のうちに被害届が出ないことがあります。
加害者に対する処罰意思が強いのであれば、通常は当日のうちに被害届が出ますが、被害者に所用があり、その場では被害届を出すための手続きができないという場合があります。
そして、処罰意思がそこまで強くなく、結局、被害届が出されることがなかったり、当日は所用があり対応できず、後日も面倒になって被害届が出されないという場合もあります。
このように被害届が出なかった場合、被害状況を確認できませんし、また暴行罪は比較的軽微な事件ということもあり、捜査されずそのまま立件されないことになります。
在宅事件の場合の流れ
捜査方法として、被疑者を逮捕・勾留して捜査する身柄事件と、逮捕・勾留はせずに捜査する在宅事件があります(在宅捜査といいます。)。以下、まずは在宅事件についてご説明します。
警察からの呼び出し
暴行罪の被疑者として検挙されると、警察からの呼び出しを受け、警察署に出頭し、捜査を受けていくことになります。1回の呼び出しで終わることもあれば、2、3回の呼び出しを受けることもあります。
呼び出しがあった場合、必ず警察が指定した日に出頭しないといけないものではなく、ある程度、日程調整には応じてもらえます。
書類送検
警察での捜査が終わると、警察が捜査記録をまとめて、検察庁へ事件を送致します。これを書類送検といいます。
最後の呼び出しから2、3週間ほどで書類送検されることが多いですが、2、3日で書類送検されることもあれば、担当者が多忙なときなどには、2、3か月後に書類送検されることもあります。
検察からの呼び出し
書類送検されると、その後、今度は検察が被疑者を呼び出します。警察からの呼び出し方法は電話が通常ですが、検察からの呼び出しは被疑者の自宅に書面が送られてくることの方が多いです。
検察からの呼び出しは書類送検から1か月ほどで来ることが多いですが、2か月ほど後になることもあります。
特に被疑者が被害者と示談交渉中の場合、担当検察官は示談の成立、不成立を踏まえて起訴処分とするか不起訴処分とするか判断しますので、示談の成否が決まるまで呼び出しを先延ばしにすることが多いです。
暴行事件で送致されないケース(微罪処分)
暴行事件は比較的軽微な犯罪です。そのため、暴行の経緯、行為の程度、被害者と示談が成立しているなどの事情を踏まえて、警察が微罪処分とすることがあります。
通常は、先ほどご説明しましたとおり、警察での捜査が終わると書類送検され、最終的に検察官が起訴、不起訴の判断を下しますが、微罪処分の場合、警察段階で事件は終了となり、検察に対しては他の微罪処分事件とまとめて事後報告がなされるだけとなります。微罪処分の場合、前科はつきません。
逮捕・勾留された場合の流れ
留置所にいる期間(勾留期間)
逮捕され、裁判官が勾留決定をすると検察官が勾留請求をした日から10日間(10日目が土日祝日の場合は直近の平日まで)、被疑者は警察の留置所に入れられることになります。
そして、10日間の勾留期間では捜査を終えられなかったときは、更に最大で10日間、勾留期間が延長されます。
このように勾留期間は長期に及ぶ可能性があります。
暴行罪で逮捕されると示談しない限り釈放されないのか
逮捕、勾留された後、被疑者の弁護士が被害者との間で示談を成立させた場合、釈放されるのが通常です。もっとも、暴行罪の場合、必ずしも、示談が成立しなければ釈放されないというわけではありません。
逮捕、勾留される理由は、逃亡や罪証隠滅を防止するためです。ですから、そのような可能性が乏しいことを検察官や裁判官に納得してもらえれば、釈放が可能となります。
被疑者が家族と同居しており、定職もあるのであれば、実刑判決となることが考え難い軽微な暴行罪のために逃亡を図ることは通常考えられません。また、加害者と被害者との間に面識がなく、釈放後に被害者に接触する術がないのであれば、釈放したとしても被害者に接触して罪証隠滅を図ることは困難です。
このような場合に限らず、示談が成立していなくても、その事案ごとに逃亡や罪証隠滅の可能性が乏しいことを弁護士が検察官、裁判官に主張していくことで釈放される可能性は十分にあります。
家族間や恋人間の暴行罪
暴行罪であっても家族間や恋人間の事件の場合は、示談が成立しないと釈放されないことが多くあります。示談が成立しても釈放されないこともあります。DV(家庭内暴力)の事案や恋人間の暴力事件は、その多くが、男性の女性に対する暴力行為です。
このような場合、釈放をしてしまうと、加害者が被害者に接触をすることは容易ですし、男性が女性を脅して危害を加える、被害届を取り下げさせるなどの行為に出ることが懸念されます。
そのため、この種の事案では、被害者との間で示談が成立しない限りは釈放が認められないことが多くあります。
暴行罪で起訴される?不起訴も?
さて次は、捜査が終わった段階で暴行罪で起訴されてしまうのか、それとも不起訴で終わるのかについて確認しましょう。
暴行事件で起訴される確率(起訴率)
平成30年の統計によりますと、暴行罪の起訴件数は4479件で、不起訴件数は1万1002件でした。平成29年の起訴件数が4337件で、不起訴件数が1万663件ですから、毎年、同程度の数字で推移しているといえます。これらの数字から、平成30年の不起訴率は約71%、平成29年の不起訴率も同じく約71%です。
このように暴行罪の不起訴率は非常に高いといえます。もちろん、不起訴の中には示談が成立しているから不起訴になったケースが多く含まれているはずですから、暴行をしても起訴されないと考えるのは早計です。
暴行罪の不起訴理由
このように不起訴になるケースが多い暴行罪ですが、どのような理由で不起訴となるのでしょうか。
証拠がない、立証が困難
検察官は、起訴処分とする場合、裁判所が犯罪を認定してくれるに足りる証拠があるかどうかを検討します。
傷害罪のように被害者が怪我をしていれば暴力行為があったことを強く推認させますが、暴行罪の場合は被害者が怪我をしていないケースがほとんどです。
そのため、被疑者が犯行を否認しており、目撃者がいない、防犯カメラ映像もないとなると、暴行罪の立証は困難で不起訴処分となる可能性が高いでしょう。
初犯で軽い暴行
検察官は犯罪が成立するケースの全てを起訴処分とするわけではありません。犯罪の軽重、被疑者の反省態度、被害者の処罰感情など様々な事情を考慮して不起訴処分とすることがあります。
そのため、被疑者が犯行を認めており、暴行罪を証明する証拠が十分なケースでも不起訴処分となることがあります。
例えば、被害者と示談が成立している場合には不起訴処分となると考えてよいでしょう。また、暴行罪は比較的軽微な犯罪ですから、初犯で、暴行の内容も軽いケースでは、示談が成立していない場合であっても、不起訴処分となる可能性があります。
暴行罪は職場や学校にばれるのか?
以上、暴行罪における起訴までの流れなどを説明しました。ここでは、暴行事件を起こしてしまった場合にそれが職場や学校に知られてしまうのかについて説明します。
勤務先にばれてしまうケース
実は、暴行事件が会社に知られてしまうケースは、加害者本人又は加害者の家族が会社に話してしまうケースがほとんどです。会社に素直に話してしまう方も多くおられますし、何日も勾留されて正直に話さざるを得なくなる場合もあります。
警察から会社に連絡がいくのではないかと心配になりますが、捜査上、会社に連絡をする必要性はありませんので、警察から会社に連絡が行くことはありません。
また、報道されて会社に知られるのではないかとも心配になりますが、暴行罪は軽微な犯罪ですから、報道価値に乏しく、報道されることは稀です。
もっとも、公務員の場合は別です。公務員の場合には、警察から勤務先の役所に連絡が行くことがあります。また、公務員の場合には報道価値がありますので、報道されることがあります。
暴行罪で会社から懲戒処分を受けるか?クビになるか?
暴行事件が会社にばれた場合に懲戒処分を受けるかどうかについては、会社の就業規則を確認する必要があります。多くの就業規則では、犯罪は懲戒事由となっています。そのため、一応は懲戒処分の対象にはなります。
もっとも、暴行の経緯、態様、被害者との示談の有無、起訴され有罪判決を受けたかどうかなどの事情によっては懲戒処分を受けないこともあるでしょう。また、比較的軽微な犯罪である暴行罪を理由に、最も重い懲戒処分である懲戒解雇が選択される可能性は低いでしょう。
公務員については人事院が定める懲戒処分の指針があります。そこでは、暴行罪は、減給又は戒告と規定されています。
中学生・高校生は学校に暴行罪の連絡は行くのか?
中学生、高校生の少年事件の場合、学校側と警察との間に協定があり、教師から生徒指導をしてもらうためにも、ほとんどのケースで警察から学校に連絡が行きます。
もっとも、学校についても校則次第ではありますが、軽微な非行である暴行罪で退学処分となる可能性は低いでしょう。
暴行罪で弁護士を依頼する方法
最後に暴行事件で弁護士を依頼する方法について説明します。
国選弁護人
逮捕され、その後に勾留されたときは、国選弁護人を依頼することができます。国選弁護人は、弁護士会から派遣される弁護士で、その費用は税金で賄われます。
弁護士会がランダムに選定した弁護士が派遣されるため、刑事事件に詳しい弁護士が就くとは限りません(むしろその可能性の方が低いでしょう。)。
国選弁護人は在宅事件では依頼できませんし、勾留後に一旦は就いても、その後に釈放された場合には、その時点で国選弁護人の仕事は終わってしまいます。
私選弁護人の弁護士費用
被疑者自身やその家族、友人などが依頼する弁護士を私選弁護人といいます。
私選弁護人の場合はその費用は依頼者が負担することになります。私選弁護人の場合には、弁護士の経験・実績や専門分野などを踏まえて自由に選んで依頼することができます。
私選弁護人の弁護士費用については、弁護士、法律事務所によって異なりますが、暴行事件の場合は総額60万円ほどが相場でしょう。
まとめ
以上、暴行事件が起訴されるまでの流れについてご説明しました。
暴行事件は比較的軽微な犯罪ですから、逮捕されたとしても弁護活動によって早期に釈放できるケースが多くあります。また、弁護士が被害者と示談を成立させた場合には、起訴処分となる可能性は非常に低くなります。
暴行事件の被疑者となった場合には、できる限り早期に刑事事件の経験が豊富な弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。