痴漢事件の慰謝料相場について

最終更新日: 2022年11月02日

はじめに

痴漢事件の被害者にお詫びと慰謝料をお支払いしたいと考える被疑者は多くいます。
また、痴漢行為の被害にあったので被疑者に対して慰謝料を請求したいと考える被害者も多くいます。

今回は痴漢事件の慰謝料についてご説明します。

痴漢被害にあったので慰謝料請求がしたい

痴漢行為の被害にあった場合、精神的苦痛を受けるだけでなく、警察がする捜査への協力のために何時間も拘束されることになりますから、加害者に対して慰謝料を請求したいと被害者が考えるのは自然なことです。

加害者に慰謝料を請求するためには、示談交渉による方法と、刑事事件とは別の民事手続による方法があります。

痴漢事件の加害者側が刑事事件の対応のために弁護士に依頼することがあります。そうすると、通常は弁護士から謝罪と損害賠償のために、被害者側に対して示談交渉の申し入れがあります。そうすると、その示談交渉の中で示談金として慰謝料の支払いを受けることができます。

他方、そのような示談交渉の申し入れがないときは、民事手続で慰謝料を請求することになります。

もっとも、民事手続で慰謝料を請求する場合、被害者本人での請求は専門知識の点で困難ですから、弁護士に依頼することになり、高額な費用がかかりますし、時間もかかりますので、示談交渉による方法によって慰謝料の支払い受けることがコストの点では有利といえるでしょう。

痴漢事件の慰謝料請求権の時効

慰謝料請求権には時効がありますので、時効にかかると加害者に対して慰謝料を請求することはできなくなります。

痴漢行為は民法上、不法行為です。ですから、痴漢事件の慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。そして、不法行為に基づく慰謝料請求権は「損害及び加害者を知った時から」3年間で時効にかかりますので、通常は、痴漢事件発生から3年が経過すると時効にかかると心得ておく必要があります。

痴漢事件における慰謝料相場

痴漢事件の慰謝料は思ったより低い

一口に痴漢事件といっても、都道府県の迷惑防止条例違反となるものと刑法の強制わいせつ罪になるものがあります。

身体を触っただけであれば迷惑防止条例違反ですが、抱きつくなどして被害者が抵抗することを難しくしてわいせつ行為をしたときは強制わいせつ罪となります。

迷惑防止条例違反の場合の慰謝料相場は概ね10万円から30万円です。

他方、強制わいせつ罪の場合は行為態様が悪質ですから、その分、被害者の受ける精神的苦痛も大きくなりますので、迷惑防止条例違反よりも慰謝料は大きくなります。
強制わいせつ罪の場合の慰謝料相場は概ね50万円から100万円です。

どれくらいの精神的苦痛を受けたかは、主観的なものですから被害者によって自ずと異なります。主観的な精神的苦痛をお金で評価することは不可能ですから、性犯罪の被害にあった被害者側としては納得しにくいことではありますが、ある程度、相場として割り切らざるを得ないのが実情です。

中学生や高校生の場合、慰謝料相場は違うのか

被害者が成人であるか中学生や高校生などの未成年者であるかというだけで、慰謝料の金額が異なるということはありません。

もっとも、未成年者の方が痴漢行為から受けるショックが多きく、日常生活に生じる影響が大きくなる可能性はあるでしょう。そのような場合には、慰謝料も通常の相場よりも大きくなる可能性はあります。

また、示談交渉の場面では、被害者である中学生や高校生の保護者の方が交渉の窓口となります。自ずとご自身の大切な子に対する被害ということで保護者の怒りは強いことが多く、その分、通常の相場の慰謝料では示談に応じないということもあります。

電車内での痴漢、路上痴漢で慰謝料相場は違うのか

痴漢事件には、電車内やバス内での痴漢行為だけでなく、路上で体を触る路上痴漢のケースもあります。

精神的苦痛の大小に大きく影響するのはやはり、痴漢行為の内容ですから、どこの場所で痴漢行為をされたかという事情は慰謝料にはほとんど影響しないでしょう。

そのため、電車内での痴漢事件と路上での痴漢事件では慰謝料相場は異ならないと考えて良いです。

痴漢事件の罰金と慰謝料の関係

痴漢行為(迷惑防止条例違反)で警察に検挙されると、最終的には検察官が起訴処分をして罰金刑を受けることになります。

罰金の上限金額は条例によって異なりますが、実際に加害者に課される罰金の金額は、初犯であれば20万円や30万円になることがほとんどですが、初犯でない場合は50万円になることもあります。

罰金とは加害者が国にお金を納めるものですから、被害者には支払われません。また、罰金は刑事罰であり、慰謝料は被害者への損害賠償金ですから両者の間には関連性はありません。

もっとも、同じ支出であっても、罰金を収めるなら被害者側に損害賠償をしたいと考える加害者も多いため、示談金として支払う慰謝料の金額を考えるにあたり、罰金の金額が参考にされることはあります。

民事訴訟(裁判)で慰謝料請求をするには

民事訴訟で認められる損害賠償の金額

加害者側から示談交渉の申し入れがなかった場合や、示談を拒否した場合は、民事で損害賠償請求をすることになります。加害者の氏名や住所について捜査機関から開示を受け、内容証明郵便で慰謝料請求書を送る、または訴状を裁判所に提出して民事訴訟で慰謝料を請求することができます。

民事訴訟で認められる慰謝料の金額も前記の慰謝料相場の程度となります。

また、民事訴訟では、慰謝料を請求することができますが、痴漢事件のために職場を休まざるを得なかった場合には休業損害も請求することができます。また、特殊なケースになりますが、加害者に自宅を知られているために転居を余儀なくされたという場合には転居費用の損害賠償が認められる可能性もあります。

慰謝料請求に要する弁護士費用

加害者に慰謝料請求するために弁護士に依頼する場合、被害者側にはどれくらいの弁護士費用がかかるのでしょうか。

弁護士費用は各法律事務所によって異なりますが、着手金と成功報酬金を合わせて、交渉だけであれば10万円~30万円、裁判までするときは30万円から60万円ほどかかるケースが多いと思われます。

被害者にかかった弁護士費用も請求できるか

民事訴訟をする場合、専門知識などの点で被害者自身が対応することが困難ですから、通常は弁護士に依頼をすることになります。

弁護士に依頼をすれば弁護士費用がかかります。弁護士費用は安くありませんので、痴漢事件がなければ支出する必要のなかった弁護士費用についても加害者に請求したいと被害者側が考えるでしょう。

もっとも、民事訴訟は弁護士に依頼をせず被害者本人ですることも不可能ではありませんので、弁護士費用の全額が損害賠償の対象として認められることはありません。認められたとしても、裁判所が認めた損害賠償金額の1割にとどまります。

強制わいせつ罪であればともかく、迷惑防止条例違反の場合には慰謝料は20万円、30万円ほどになりますので、弁護士費用の方が高くなることもあるでしょう。ですから、できる限り示談交渉の中で慰謝料の支払いを受けることが望ましいといえます。

最後に

以上、痴漢事件における慰謝料についてご説明しました。

痴漢事件の被疑者となり、被害者に対してお詫びと慰謝料の支払いをしたいという場合は、刑事事件の経験豊富な弁護士にご相談ください。

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