介護サービスで発生しうる契約トラブルとは?回避するためのルールと契約書のポイントも解説
最終更新日: 2022年05月13日
介護サービスを利用する前には、利用者と事業者が契約書を交わします。介護サービスは、基本的に契約書に則った形で契約が遂行されていきます。
ただ、お互いの認識の相違や契約書の記載不足が原因で、契約トラブルが発生することもあるのです。
そこで今回は、介護サービスにおけるトラブルを数多く解決に導いてきた専門弁護士が、介護サービスで発生しうる契約トラブルとそれらのトラブルを回避するための契約書のポイントについて解説します。
介護サービスで発生しうる契約トラブルを紹介
- 入居前/入居時
- 入居後
- 退去時
それでは、1つずつ解説します。
入居前・入居時
介護サービスで発生しうる契約トラブルの1つ目は、入居前・入居時に発生しうるトラブルです。
入居前に発生しうるトラブルで特に多いのは、申込金(申込証拠金)に関するトラブルです。申込金とは、契約まで希望の居室を確保する目的で支払う金銭のことで、契約に至らなければ全額返金されるのが通例とされています。
しかし、中には申込金を入居にあたっての準備費用として使っており、契約に至らなくても全額返金しない事業者もいます。申込金を支払うときには、その用途や契約に至らなかったときの取扱いについて確認しましょう。
また、入居時要件に関するトラブルも、入居前に発生しうるトラブルで多いものの一つです。入居時要件とは入居するときの条件のことで、入居時要件に該当しない場合は介護サービスを利用したくてもできないことに留意しましょう。
入居後
介護サービスで発生しうる契約トラブルの2つ目は、入居後に発生しうるトラブルです。入居後のトラブル例を以下に3つ紹介します。
- 少ない職員配置によるサービス不足
- 利用料の不当な値上げ
- 事業者による医師と薬局などの指定
1つ目は入居者に対して職員が少なすぎて、十分なサービスを提供できていない事例です。介護付き有料老人ホームは、法令で入居者(要介護者)と職員の割合が3:1以上で職員を配置しなければならないので、確認しましょう。
また、入居者でも自立者はその割合にはカウントされず、要介護者ではない要支援者だと0.3人分で計算されています。入居者は知らない場合があるので、誤解が起きている場合は事情をしっかり説明しましょう。
2つ目は利用料の不当な値上げです。厚生労働省の指針でも、事業者が独断で利用料を変更してはならないとされています。そのため、値上げ前には十分に利用者に説明して了承を得ましょう。一方で利用者は、説明なく利用料が値上げされたら事業者に確認しましょう。
3つ目は、主治医や薬局を事業者が指定したことによるトラブルです。入居者には主治医や薬局を自由に選択する権利があります。
ただ、事業者が指定する医療機関や薬局は老人ホームの提携先であることが多く、日頃の情報共有から迅速に対応できる可能性が高いことを入居者に伝えておきましょう。また、利用者は事情を把握して、主治医や薬局を選択しましょう。
退去時
介護サービスで発生しうる契約トラブルの3つ目は、退去時に発生しうるトラブルです。以下に2つ紹介します。
- 居室の原状回復に関するトラブル
- 費用発生日に関するトラブル
1つ目は、居室の原状回復に関するトラブルです。経年劣化や通常使用での消耗などは事業者側の負担、故意の過失や損傷などは入居者の負担となります。ただ、その線引きがあいまいでトラブルになることがあるのです。
なお、原状回復については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考にされることをおすすめします。
2つ目は、費用発生日に関するトラブルです。事業者は、入居者が居室を利用してから契約終了までの期間に対して利用料を請求できます。
そのため、入居者はいつから入居日としてカウントされるのかを把握していないとトラブルになりかねません。入居契約書で入居日の線引き方法を確認しましょう。
介護サービスで契約トラブルを回避するためのルール
ここでは、介護サービスで契約トラブルを回避するためのルールを2つ解説します。
- 短期解約特例(90日ルール)
- 重要事項説明書
それでは、1つずつ解説します。
短期解約特例(90日ルール)
契約トラブルを回避するためのルールの1つ目は、短期解約特例(90日ルール)です。
入居一時金は、原則として事業者が定めた期間内の退去であれば、償却分を除いた金額が利用者に返金されます。その期間は、おおよそ5年です。しかし、過去には初期償却費が高額もしくは利用者本人が死亡したときには、入居一時金が一切返金されないケースもありました。
このようなトラブルを防ぐために、短期解約特例(通称90日ルール)が作られました。これは、利用者が90日以内に退去するときには、実際にかかった諸費用を除いた金額が返金されるルールで、平成24年度の老人福祉法改正時に義務化されました。
重要事項説明書
契約トラブルを回避するためのルールの2つ目は、重要事項説明書です。
重要事項説明書は、事業者が入居者およびその家族に内容を説明することが義務付けられている書類です。重要事項説明書には、以下に示す通りさまざまな内容が記載されています。そのため、契約前に十分内容を確認して不明な点は納得がいくまで説明を求めましょう。
- 施設の概要
- 職員配置
- サービス内容
- 費用
- 料金の改定条件
介護サービスで契約トラブルを回避するための契約書のポイント
ここでは、介護サービスで契約トラブルを回避するための契約書のポイントを5つ解説します。
- サービス内容を明確に記載
- 各種サービスの料金等を明記
- 契約終了に関して明示
- 身元引受人や保証人の責任範囲を明示
- 意思能力を欠く利用者との契約は成年後見人と
それでは、1つずつ解説します。
サービス内容を明確に記載
契約書のポイントの1つ目は、サービス内容を明確に記載することです。
介護サービスが開始された後、事業者と利用者でサービス内容の認識に食い違いが生じた結果、トラブルが発生することがあります。
それを防ぐには、契約書にどのような介護サービスを提供するか詳しく明記し、事業者と利用者でサービス内容の認識を一致させることが必要です。
また、ケアプランや利用者の要介護度によって介護サービスは異なってきます。そのため、ケアプランや要介護度ごとのサービス一覧表も作成するとよいでしょう。
各種サービスの料金等を明記
契約書のポイントの2つ目は、各種サービスの料金等を明記することです。
各種サービスの料金等が明記されていなければ、利用者にとって想定外の料金がかかってトラブルになる恐れがあります。
また、介護サービスの料金を記載するときは、介護保険が対象になるのか対象外になるのかを明記しておきましょう。明記しておかなければ、料金を巡るトラブルに発展する可能性が高くなります。
介護サービス内容の明瞭化と合わせて、各種料金と介護保険の対象かどうかを記載するとよいでしょう。
契約終了に関して明示
契約書のポイントの3つ目は、契約終了に関して明示することです。
契約終了または契約解除となる事由を契約書に明記しましょう。
ただ、利用者にとって介護サービスは生活基盤となっていることから、契約終了および契約解除は慎重に判断する必要があります。なお、以下に契約終了または契約解除となる事由の例を紹介します。
契約終了 |
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契約解除 |
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身元引受人や保証人の責任範囲を明示
契約書のポイントの4つ目は、身元引受人や保証人の責任範囲を明示することです。
責任範囲は、利用者が利用料の未払いや施設に損害を与えたときの賠償責任範囲などを決めます。
また、利用者に医療行為が必要になったときには同意者としての責任、退去時・死亡時の残置物引き取りなど、身元引受人の義務も定めておきます。
身元引受人や保証人は、入居型の介護サービスの利用に必須であることがほとんどです。きちんと明記しておかなければ、トラブルに発展する可能性が高まります。
意思能力を欠く利用者との契約は成年後見人と
契約書のポイントの5つ目は、意思能力を欠く利用者との契約は成年後見人と行うことです。
介護サービス利用者の中には、適切な判断能力のない方もいます。しかし、適切な判断能力がない方との契約は無効であるため、そのときは成年後見人を選任して契約を締結する必要があります。そのため、事前に利用希望者にはその旨を伝えるようにしてください。
まとめ
今回は、介護サービスで発生しうる契約トラブルとそれらのトラブルを回避するための契約書のポイントについて解説しました。
利用者側の立場では、介護サービスで発生しうる契約トラブルと、それを回避するためのルールを理解しましょう。
また、事業者の立場では、契約書を作り込んだ上で、利用者と契約内容に関する認識を一致させましょう。
それでも介護に関するサービスで契約トラブルが発生したら、弁護士にご相談ください。