離婚公正証書の費用はいくら?相場・内訳・負担割合を徹底解説
最終更新日: 2025年12月01日

離婚の際に取り決めた養育費や財産分与などの約束を確実にする「離婚公正証書」。この記事では、作成を検討している方に向けて、その費用に焦点を当てて解説します。離婚公正証書の作成にかかる費用の総額相場から、公証役場の手数料や弁護士費用といった内訳、夫婦間の負担割合の決め方までを網羅的に説明します。さらに、費用を安く抑える方法や、費用をかけてでも専門家である弁護士に依頼するメリットについても掘り下げます。この記事を読めば、離婚公正証書の費用に関するあらゆる疑問が解消され、ご自身の状況に合った最適な選択ができるようになります。
離婚公正証書とは?作成費用をかけてでも作るべき理由
離婚公正証書とは、公証人が作成する公文書です。夫婦間で作成する「離婚協議書」とは異なり、公証人が内容の適法性や正確性を確認し作成するため、信頼性や法的な効力が非常に高いのが特徴です。公文書であるため、紛失の心配も少なく、万が一の場合でも公証役場で再発行が可能です。
離婚公正証書を作成する最大の理由は、その「強制執行力」にあります。養育費や慰謝料などの金銭の支払いが滞ってしまった場合、通常の離婚協議書では、改めて裁判を起こして判決を得なければ、相手の給与や財産を差し押さえる「強制執行」はできません。しかし、公正証書に強制執行認諾文言を記載していれば、裁判の手続きを経ることなく、直ちに強制執行を申し立てることが可能になります。これにより、口約束や単なる合意書で起こりがちな「支払いが途絶える」というリスクを大幅に軽減できるため、将来にわたる安心を確保できます。この強制執行力こそが、費用をかけてでも離婚公正証書を作成する大きな価値となります。
離婚公正証書の作成にかかる費用の内訳と総額相場
離婚公正証書を作成する際に気になるのが、やはりその費用ではないでしょうか。離婚公正証書の作成にかかる費用総額は、弁護士などの専門家に依頼するかどうかで大きく異なり、一般的には数万円から数十万円と幅があります。
この費用は主に、「①公証役場に支払う手数料」「②専門家(弁護士など)への依頼費用」「③その他実費」の3つに分けられます。それぞれの項目でどれくらいの費用がかかるのか、次のセクションから詳しく見ていきましょう。
【内訳1】公証役場に支払う手数料の相場と計算方法
離婚公正証書作成費用の内訳の1つ目は、公証役場に支払う「公証人手数料」です。この手数料は、公証役法という法律に基づき全国一律で定められており、どの公証役場で作成しても金額が変わることはありません。また、個人的な交渉によって値引きされることもありません。
公証人手数料の金額は、公正証書に記載する養育費や財産分与、慰謝料などの金銭的な取り決め(これを「目的の価額」と呼びます)に応じて変動する仕組みになっています。そのため、取り決める内容によって手数料の総額が変わってきます。
公証人手数料の基本|目的の価額に応じて変動
公証人手数料は、公正証書に記載する「目的の価額」によって計算されます。まずは、この目的の価額がどのように算出されるのかを見ていきましょう。
- 養育費・婚姻費用:支払期間が10年を超える場合でも、最大で10年分の総額を目的の価額とします。例えば、月5万円の養育費を15年間支払う取り決めをした場合、目的の価額は「5万円 × 12ヶ月 × 10年 = 600万円」となります。
- 財産分与・慰謝料:実際に分与または支払われる金額そのものが目的の価額となります。例えば、財産分与として300万円、慰謝料として200万円を支払う取り決めであれば、それぞれの金額が目的の価額です。
- 年金分割:年金分割に関しては、上記の経済的利益とは別に、一律11,000円の手数料がかかります。
これらの目的の価額に基づいて、以下の手数料表に従って個別に手数料が計算され、それらを合算したものが最終的な公証人手数料となります。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 43,000円 |
なお、これに加えて、公正証書の枚数に応じた証書代(通常2~3枚で数百円)や、正本・謄本の送達費用などが加算されることもあります。
ケース別・公証人手数料のシミュレーション
実際にどれくらいの手数料がかかるのか、具体的なケースでシミュレーションしてみましょう。ご自身の状況と照らし合わせて参考にしてみてください。
ケース1:養育費のみを取り決める場合
夫婦間で、毎月5万円の養育費を15年間支払うことで合意したケースです。
養育費の目的の価額:支払期間が10年を超えるため、10年分の総額で計算します。5万円 × 12ヶ月 × 10年 = 600万円。
公証人手数料:目的の価額600万円は「500万円超1,000万円以下」の区分に該当するため、手数料は17,000円となります。
この場合、公証人手数料は17,000円に、証書代(約数千円)を加えた金額が総額となります。
ケース2:養育費、財産分与、慰謝料、年金分割をすべて取り決める場合
複数の項目を取り決める場合、それぞれの項目で目的の価額を計算し、合算していきます。
- 養育費:月5万円を15年間支払う場合と同様に、目的の価額は600万円。この養育費に関する手数料は17,000円です。
- 財産分与:夫から妻へ200万円を分与する場合、目的の価額は200万円。この財産分与に関する手数料は「100万円超200万円以下」の区分に該当するため7,000円です。
- 慰謝料:夫から妻へ100万円を支払う場合、目的の価額は100万円。この慰謝料に関する手数料は「100万円以下」の区分に該当するため5,000円です。
- 年金分割:年金分割は一律で11,000円の手数料がかかります。
このケースにおける公証人手数料の合計は、養育費17,000円 + 財産分与7,000円 + 慰謝料5,000円 + 年金分割11,000円 = 40,000円となります。これに証書代などが加わった金額が、公証役場に支払う総額です。このように、複数の金銭の取り決めがある場合は、それぞれの目的の価額から手数料を算出し、最終的に合算することになります。
【内訳2】弁護士に依頼する場合の費用相場
離婚公正証書の作成を弁護士に依頼する場合、公証人手数料とは別に弁護士費用が発生します。弁護士費用は法律で一律に定められているものではなく、各法律事務所が独自に料金体系を設定しているため、依頼する事務所や業務範囲によって大きく変動するのが特徴です。
依頼する業務範囲ごとの費用相場は、以下のようになります。
- 公正証書案の作成・チェックのみ:すでに夫婦間で合意ができている内容を基に、法的に問題のない公正証書案を作成したり、作成済みの案をチェックしてもらう場合の費用相場は、一般的に5万円から15万円程度です。
- 相手方との離婚条件の交渉からすべてを代理:離婚条件(養育費、財産分与、慰謝料など)の交渉段階から弁護士が代理人として介入し、公証役場との手続きまで全て任せる場合の費用相場は、着手金と報酬金を合わせて20万円から50万円程度となることが多いです。交渉の難易度や期間によって変動します。
- 作成済みの合意書を基に、公証役場との手続きのみを代行:夫婦間で作成した離婚協議書などの合意書を基に、公証役場とのやり取りや書類準備など、手続きの代行のみを依頼する場合の費用は、上記の交渉代理よりは安価になる傾向があります。
このように、どこまで弁護士に依頼するかによって費用は大きく変わるため、ご自身のニーズと予算に合わせて、依頼したい業務範囲を明確にすることが重要です。
【内訳3】その他にかかる実費(書類取得費用など)
離婚公正証書を作成する際には、公証人手数料や弁護士費用の他にも、細かな「実費」が発生します。これらの費用は高額ではありませんが、手続きを進める上で必ず必要となるため、事前に把握しておくと安心です。
主な実費としては、公正証書作成に必要な各種書類の取得費用が挙げられます。
- 戸籍謄本:夫婦関係を証明するために必要です。役所で数百円程度で取得できます。
- 住民票:当事者の住所を確認するために必要です。役所で数百円程度で取得できます。
- 印鑑証明書:公正証書に実印を捺印する場合に必要となります。役所で数百円程度で取得できます。発行から3ヶ月以内のものが求められることが多いです。
- 不動産がある場合:財産分与の対象に不動産が含まれる場合は、不動産の登記事項証明書や固定資産評価証明書が必要になります。これらも数百円から千円程度で取得できます。
その他、公証役場とのやり取りで発生する郵送費や、公証役場へ出向く際の交通費なども実費として計上されます。これらの実費の総額は、通常数千円程度が目安となることが多いでしょう。
離婚公正証書の費用は誰が払う?負担割合の決め方
離婚公正証書を作成する際に気になる費用ですが、「一体誰が払うのだろう」と疑問に思われる方は多いのではないでしょうか。特にデリケートな離婚の話し合いの中で、費用の負担についてどちらがどの程度支払うべきか、揉めてしまうケースも少なくありません。
結論から申し上げると、離婚公正証書の作成にかかる費用は、法律によって「どちらが払うべきか」が定められているわけではありません。夫婦がお互いの合意に基づいて、自由に負担割合を決めることができるのが原則です。
法律上の決まりはなく、夫婦間の合意で決める
公正証書作成費用の負担割合については、明確な法律上のルールは存在しません。そのため、夫婦間での話し合い(協議)によって、自由に決定することが可能です。この点は、離婚条件そのものと同じく、当事者の意思が尊重されます。
大切なのは、後々のトラブルを避けるために、費用負担についても曖昧にせず、きちんと合意しておくことです。どちらが、どのくらいの割合で費用を負担するのかを具体的に決め、その合意内容自体も離婚公正証書の条項の中に明記しておくことをおすすめします。これにより、「言った、言わない」の争いを未然に防ぎ、費用の支払いに関して法的な証拠を残すことができます。
一般的な負担割合のパターン3つ
離婚公正証書の費用負担については、法律上の決まりがないからこそ、夫婦それぞれの状況や考え方に応じて様々なパターンが考えられます。ここでは、一般的に多く見られる代表的な3つのパターンと、それぞれの考え方についてご紹介します。
夫婦で費用を折半する
このパターンは、最も公平性が高く、夫婦間でトラブルに発展しにくいことから、費用負担の方法として最も多く選ばれています。離婚公正証書は、夫婦双方にとって将来的な安心を確保するための重要な書類であり、その作成にかかる費用も等しく負担するという考えに基づいています。
公正証書の作成を希望した側が全額負担する
離婚公正証書には、養育費の不払いがあった場合に強制執行できるなど、作成することによって得られる大きなメリットがあります。特に、養育費を受け取る側など、将来的な金銭の支払いをより確実にしたいと強く希望する側が、そのための費用を全額負担するという考え方です。これにより、作成を強く望む側の意向が通りやすくなることもあります。
収入の多い側や離婚原因を作った側(有責配偶者)が多めに負担する
このパターンでは、夫婦の一方が経済的に余裕がある場合や、離婚に至った原因(有責性)がある場合に、その側がより多くの費用を負担するという考え方に基づいています。例えば、夫の不貞行為が離婚の原因である場合、夫が費用の大部分または全額を負担するよう交渉するといったケースです。これは、公平性だけでなく、責任の所在や負担能力も考慮した決め方と言えるでしょう。
費用負担で揉めないためのポイント
離婚公正証書の費用負担は、夫婦間の最後の話し合いにおいて、感情的になりやすいテーマの一つです。しかし、将来の安心のために作成する公正証書で揉めてしまっては本末転倒です。スムーズに合意形成を進めるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
まず、離婚条件の話し合いを始める早い段階で、公正証書の作成と、それに伴う費用についても議題に上げることが重要です。先延ばしにせず、初期の段階で費用についても合意形成を目指しましょう。
次に、事前に公証役場や弁護士に相談し、公正証書作成にかかる費用の概算を把握しておくことが大切です。具体的な金額が分かっていれば、漠然とした不安が軽減され、冷静な話し合いにつながります。不明瞭な費用は、不信感を生み出す原因にもなりかねません。
また、どちらが費用を支払うにせよ、感情的にならず、「公正証書を作成することでお互いが将来的にトラブルを避けられる」という共通のメリットを再確認することが重要です。特に養育費については、支払う側も、支払う側が支払えなくなった際に強制執行が可能になることで、法的プレッシャーとなり不払いを防ぐ効果があることを認識しておくべきです。
最後に、決定した費用負担の割合や金額は、必ず公正証書の条文として明記してください。口約束だけではトラブルの元です。書面に残すことで、法的な効力を持たせ、後々の争いを回避できます。これらのポイントを実践することで、費用負担を巡る問題を円満に解決し、より確実に公正証書の作成を進められるでしょう。
離婚公正証書の作成費用を安く抑える方法
離婚公正証書の作成費用は、決して安いものではありません。そのため、できるだけ費用を抑えたいと考える方もいらっしゃるでしょう。ここでは、費用を節約するための具体的な方法を2つご紹介します。
ただし、これらの方法には、専門家によるチェックを受けられない、手間がかかるなどのデメリットも存在します。安易な選択は、法的に不備のある内容になったり、将来的なトラブルの原因になったりするリスクも伴うため、ご自身の状況に合わせて慎重に検討することが大切です。
自分たちで原案を作成し、公証役場に持ち込む
費用を抑える最も直接的な方法は、弁護士などの専門家に作成を依頼せず、夫婦自身で離婚条件のすべてについて合意し、その内容をまとめた「合意書(原案)」を自分たちで作成して、公証役場に直接持ち込むことです。
この方法であれば、数十万円に及ぶ可能性のある弁護士費用を完全に節約できます。しかし、デメリットとして、法律の専門家ではない方が作成するため、法的に不備のある内容になったり、将来予期せぬ事態が発生した際に不利益を被るような条件に気づかずに合意してしまったりするリスクがあります。公正証書として作成しても、いざという時に強制執行できない、といった事態も起こりえます。
この方法は、夫婦関係が比較的良好で、ご自身で法律知識を学び、内容を正確に判断できる場合にのみ推奨されると言えるでしょう。
自治体の養育費に関する公正証書作成支援制度を利用する
もう一つの節約方法として、地方自治体が実施している「養育費に関する公正証書等作成支援事業」などの補助金制度の利用が挙げられます。
これは、養育費の取り決めを含む公正証書を作成する際に、かかった費用(主に公証人手数料)の一部または全部を自治体が補助してくれる制度です。すべてではありませんが、多くの市区町村で独自の支援を行っている場合がありますので、お住まいの自治体のウェブサイトで「養育費 公正証書 補助金」といったキーワードで検索して確認してみることをおすすめします。
ただし、この制度には、利用にあたって所得制限などの条件が設けられていることが多く、また、補助の対象が養育費に関する部分の費用に限られる場合がほとんどです。制度の内容をよく確認し、ご自身の状況に合うかどうかを事前に把握しておくことが重要です。
費用をかけてでも弁護士に依頼するメリット
離婚公正証書の作成において、費用を節約する方法がある一方で、あえて弁護士に依頼することには大きな価値とメリットがあります。弁護士費用は、単なる支出ではなく、将来の安心とトラブルを避けるための「投資」と捉えることができます。このセクションでは、弁護士に依頼することで得られる「法的な正確性の担保」「交渉・手続きの代行による負担軽減」「将来のリスク最小化」という3つの主要なメリットについて、詳しくご説明します。
法的に有効で抜け漏れのない内容にできる
弁護士に公正証書の作成を依頼する最大のメリットは、その内容が法的に完全に有効で、将来にわたって抜け漏れがないように作成される点です。弁護士は法律の専門家として、離婚の合意内容が現在の法制度に照らして有効であるか、また将来のさまざまな状況変化(たとえば、養育費の支払義務者の再婚や失業など)にも対応できるような条項が含まれているかを、多角的に検討します。
ご自身で公正証書の原案を作成した場合、法律の専門知識がないために、意図しないあいまいな表現になったり、特定の状況下で効力を発揮しない条項が含まれてしまったりするリスクがあります。弁護士は、こうした「抜け・漏れ」や「あいまいな表現」を徹底的に排除し、万が一支払いが滞った際に確実に強制執行できる、盤石な公正証書を作成します。公証人はあくまで中立な立場で文書を作成する役割であり、当事者の一方の利益を積極的に守る立場ではありません。そのため、ご自身の権利と利益を最大限に守るためには、弁護士の専門的なサポートが不可欠なのです。
相手方との交渉や手続きをすべて一任できる
弁護士に依頼することで得られるもう一つの大きなメリットは、精神的・時間的な負担を大幅に軽減できることです。離婚協議は感情的な対立が生じやすく、当事者同士で冷静かつ客観的に話し合いを進めることは非常に難しいケースが少なくありません。相手方と直接顔を合わせたり、連絡を取り合ったりすることが大きなストレスになる方も多くいらっしゃいます。
弁護士が代理人として交渉にあたることで、相手方との直接のやり取りをすべて任せることができます。これにより、精神的なストレスから解放され、ご自身の日常生活や仕事、子育てに集中できるようになります。また、公正証書の作成には、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書といった必要書類の収集、公証人との打ち合わせ、日程調整、公証役場での書類の提出など、多岐にわたる煩雑な手続きが伴います。これらすべてを弁護士に代行してもらうことで、仕事や育児で忙しい方でも、手間なくスムーズに手続きを進めることが可能になります。
将来のトラブル発生リスクを最小限に抑えられる
弁護士に離婚公正証書の作成を依頼することは、将来にわたる紛争予防効果という点で、非常に大きな意味を持ちます。弁護士が関与して作成された公正証書は、法的に抜け漏れがなく、具体的な状況を想定した条項が盛り込まれているため、後になって相手方から「そんな約束はしていない」「内容に納得できない」といった言い分で争いになるリスクを極限まで減らすことができます。
目先の弁護士費用を惜しんだ結果、安易に作成された公正証書や、口約束・私的な合意書では、残念ながら支払いが滞った際にトラブルに発展するケースが少なくありません。最終的に、高額な費用と精神的な負担を伴う裁判に訴えることになる可能性もあります。弁護士への初期費用を投資することは、長期的な視点で見れば、将来的な紛争を未然に防ぎ、経済的・精神的な安定と安心を手に入れるための、非常に費用対効果の高い選択と言えるでしょう。
公正証書を作成する流れと必要なもの
離婚公正証書を作成する手続きは、夫婦間の合意形成から始まり、公証役場での手続きを経て公正証書が完成するまでの一連のステップがあります。この手続きにかかる期間は、夫婦間の話し合いの進捗状況や、公証役場の混雑具合によって異なりますが、一般的には数週間から2ヶ月程度を目安にしておくと良いでしょう。これから、その具体的な流れをステップごとに詳しくご説明します。
STEP1:夫婦で離婚条件について合意する
公正証書作成において、最も重要で最初のステップとなるのが「夫婦間の合意」です。公証人は、夫婦が合意した内容を正確に文書化する役割を担っており、夫婦間で意見の対立がある場合に、どちらが正しいかを判断したり、交渉を仲介したりすることはできません。そのため、公正証書を作成する前に、以下の主要な離婚条件について、夫婦間で十分に話し合い、完全に合意しておく必要があります。
・親権
・養育費(金額、支払期間、支払い方法)
・面会交流(頻度、具体的な方法)
・財産分与(対象となる財産、分与の割合、分与方法)
・慰謝料(有無、金額、支払い方法)
・年金分割
これらの条件について、あいまいな点が残らないよう、詳細まで取り決めておくことが、後々のトラブルを防ぐ上で非常に重要となります。
STEP2:必要書類を準備する
公正証書を作成するためには、公証役場へ提出が必要となる様々な書類を準備する必要があります。ここでは、カテゴリーに分けて必要な書類を分かりやすくリストアップいたします。
当事者の本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカードなど、顔写真付きの公的身分証明書を用意してください。
印鑑:実印と、その実印の印鑑証明書(発行から3ヶ月以内のもの)が必要です。
夫婦関係を証明する書類:戸籍謄本を準備してください。
合意内容に関する資料:
不動産を財産分与の対象とする場合:不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明書
年金分割を行う場合:年金手帳または基礎年金番号通知書、年金分割のための情報通知書
養育費や慰謝料の取り決めがある場合:収入を証明する資料(源泉徴収票や確定申告書など)
これらの書類は、事前に公証役場に確認し、漏れがないように揃えておくことが大切です。特に、有効期限がある書類には注意しましょう。
STEP3:公証役場を探し、相談・申し込みをする
必要な書類の準備が整いましたら、次は実際に手続きを行う公証役場を選び、連絡を取る段階に入ります。日本公証人連合会のウェブサイトなどから、ご自宅や職場に近い、または都合の良い公証役場を探すことができます。公正証書は、どの地域の公証役場でも作成が可能ですので、ご自身の利便性を考慮して選んでください。
公証役場が見つかったら、電話で予約を取り、STEP1で合意した離婚条件をまとめたメモや原案、そしてSTEP2で準備した必要書類を持参して相談に行きましょう。もし弁護士に依頼している場合は、これらの手続きはすべて弁護士が行ってくれますので、ご自身で動く必要はありません。
STEP4:公証人と打ち合わせ・原案の確認
公証役場での手続きでは、まず公証人が夫婦から提示された合意内容や収集した資料を基に、法的に問題がないかを確認します。その上で、公正証書の正式な文案を作成する作業に移ります。作成された原案は、後日、夫婦(または代理人の弁護士)にメールやFAXなどの方法で送付されます。
この段階は非常に重要です。送付された原案の内容に誤りがないか、また、ご自身の意図と異なる点がないかを夫婦双方で入念に確認してください。もし修正が必要な箇所があれば、速やかに公証役場に連絡し、修正を依頼しましょう。この確認作業を怠ると、完成した公正証書が意図しない内容になってしまう可能性がありますので、細心の注意を払うことが求められます。
STEP5:夫婦で公証役場へ行き、署名・捺印する
最終段階は、公正証書作成日当日の手続きです。原則として、夫婦お二人で公証役場に出向く必要があります。当日は、公証人が完成した公正証書の内容を当事者の面前で読み上げ、最終的な確認を行います。内容に間違いがないことが確認できたら、夫婦それぞれが署名し、実印を捺印します。この署名と捺印をもって公正証書は完成し、法的な効力を持つことになります。
最後に、公証人手数料を現金で支払い、公正証書の「正本」(主に権利者用)と「謄本」(義務者用)を受け取って手続きは完了です。もし何らかの事情で本人が公証役場に行けない場合は、代理人を立てることも可能ですが、その際には委任状が必要となりますので、事前に公証役場に確認しておきましょう。
離婚公正証書の費用に関するよくある質問
ここでは、離婚公正証書の費用に関して、皆さまからよく寄せられる疑問にお答えします。作成後に内容を変更したい場合や、離婚後に作成する場合の費用、相手方が費用の支払いを拒否した場合の対処法など、具体的な状況を想定したQ&A形式で詳しく解説します。これらの情報を参考に、皆さまが抱える費用に関する不安を解消し、最適な選択をするための一助となれば幸いです。
Q. 公正証書を作り直す(書き換える)場合の費用はいくらですか?
一度作成した離婚公正証書の内容を変更したい場合は、新たに「変更契約公正証書」を作成する必要があります。この際の費用は、変更する部分の経済的利益に応じて、再度公証役場の手数料が計算されます。例えば、養育費の金額を変更する場合、減額または増額される差額の10年分を「目的の価額」として算出し、それに基づいた手数料がかかります。
具体的な例として、月額5万円だった養育費を月額3万円に減額し、残り期間が15年ある場合を考えてみましょう。この場合、減額される差額は月2万円です。この2万円の10年分、つまり240万円が目的の価額となり、公証人手数料令で定められた手数料(この場合は7,000円)が発生します。これに証書代などが加わったものが、作り直しにかかる費用となります。
なお、公正証書の内容に軽微な誤記があった場合など、実質的な内容の変更を伴わない「更正」であれば、数千円程度の費用で済むこともあります。しかし、養育費や財産分与などの主要な条項を変更する際は、新たな公正証書を作成するのと同程度の費用がかかるのが一般的です。
Q. 離婚後でも公正証書は作成できますか?費用は変わりますか?
はい、離婚届を提出した後でも、離婚公正証書を作成することは可能です。例えば、離婚時には取り決めが曖昧だった養育費や財産分与について、後になってやはり強制執行力のある公正証書として残しておきたいと考えるケースは少なくありません。
離婚後に公正証書を作成する場合でも、公証人手数料の計算方法や相場は、離婚前に作成するケースと全く同じです。つまり、公正証書に記載する養育費や財産分与などの経済的利益の価額に基づいて手数料が算出され、費用面での違いは特にありません。
ただし、離婚が成立した後だと、相手方が話し合いや公証役場での手続きに非協力的になる可能性が高まります。離婚前であれば「離婚を成立させたい」という相手方のモチベーションを利用してスムーズに進められることもありますが、離婚後はそのインセンティブが失われるため、合意形成や手続きのハードルが上がるという実務上の注意点があります。そのため、可能な限り離婚前に公正証書を作成することをおすすめします。
Q. 相手が作成費用を払ってくれません。どうすれば良いですか?
公正証書の作成費用について、夫婦間で合意したにもかかわらず相手方が支払いを拒否するケースは少なくありません。まず、公正証書作成前であれば、再度相手を説得することが基本となります。公正証書を作成することのメリット、特に養育費の支払いが滞るリスクを減らせるという共通の利益を丁寧に伝えることが重要です。費用の折半が難しい場合は、ご自身が全額負担してでも公正証書を作成する方が、将来的な安心を確保できる点でメリットが大きいかを考慮することも必要です。
もし、公正証書に費用負担の割合を明記した上で作成が完了しているのに相手が支払わない場合は、その費用分も法的な請求権として扱われます。したがって、相手に対して支払いを求めることができます。書面での請求や、それでも応じない場合は少額訴訟などの法的手続きも検討できます。しかし、少額の費用を巡ってまで法的手続きを取ることは、時間や費用、精神的な負担を考慮すると現実的ではない場合も多いです。
そのため、まずは冷静な話し合いを試み、公正証書を完成させることの重要性を再度共有することが賢明です。どうしても合意が得られない場合は、弁護士に相談し、今後の対応についてアドバイスを受けることを検討しましょう。
まとめ:離婚公正証書の費用は将来への投資。不安な方は弁護士へ相談を
ここまで、離婚公正証書の作成にかかる費用やその内訳、負担割合の決め方、さらには費用を抑える方法と弁護士に依頼するメリットについて詳しく解説してきました。
離婚公正証書の作成には、公証役場の手数料や専門家への依頼費用など、数万円から数十万円の費用がかかる場合があります。しかし、この費用は決して単なる支出ではなく、将来の安心を確保するための重要な「投資」と捉えることができます。特に養育費のように長期にわたる金銭のやり取りがある場合、公正証書が持つ「強制執行力」は、約束が滞った際のリスクを大幅に軽減し、お子さまとご自身の生活の安定を守るための強力な盾となります。
費用を抑えるためにご自身で原案を作成したり、自治体の支援制度を利用したりする方法もあります。これらの方法は、ある程度の知識や手間が必要となりますが、費用負担を軽減する有効な手段です。しかし、ご自身で手続きを進める場合には、法的な不備や将来的に不利な条件で合意してしまうリスクも考慮しなければなりません。公証人は中立な立場であり、個別の利益を守るためのアドバイスはしないため、万全を期すためには専門家の知見が不可欠です。
もし、離婚条件の交渉が難航している、合意内容が本当にこれで良いのか不安がある、あるいは煩雑な手続きをすべて任せて精神的な負担を軽減したいとお考えであれば、費用がかかっても弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、あなたの利益を最大限に守りつつ、法的に有効で抜け漏れのない公正証書作成をサポートし、将来のトラブル発生リスクを最小限に抑えてくれます。離婚という人生の大きな節目を後悔なく迎えるためにも、まずは一度、専門家である弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。





