盗撮したら裁判にかけられる?刑事裁判と民事裁判について解説

最終更新日: 2024年01月27日

盗撮したら裁判にかけられる?刑事裁判と民事裁判について解説

盗撮事件が発生した場合、必ず「裁判」が行われるのでしょうか。

この記事では、盗撮事件を多数扱う弁護士が、盗撮事件について法的な分析を加えたうえで、刑事・民事の両面から裁判に発展する可能性を考えていきたいと思います。

では、早速参りましょう。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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【刑事事件】盗撮が裁判になる可能性

まずは、刑事事件について、盗撮行為が裁判にまで発展する可能性を考えてみます。

盗撮を規制する法令

盗撮行為を規制する法律・条令は、以下の4つです。

都道府県の迷惑防止条例

主として盗撮行為を取り締まっているのは、各都道府県の迷惑防止条例です。

たとえば、大阪府の迷惑防止条例(大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)は、以下の「行為をしてはならない」と、規定しています。

第6条1項1号
「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見、又は撮影すること」

また、第6条2項は、
「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、次に掲げる行為をしてはならない。」と規定し、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること」を規制します。

このように盗撮行為は、迷惑防止条例にて規制されていますが、各都道府県によって、規制の範囲が微妙に異なりますので、注意が必要です。

軽犯罪法

仮に、各都道府県の迷惑防止条例に該当しない場合、軽犯罪法における取り締まりの対象か否か、検討をする必要があります。

軽犯罪法第1条23号は、以下のとおり規定しています。

「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三  正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」

住居侵入・建造物侵入

盗撮などの目的で商業施設などに侵入した場合には、建造物侵入罪(刑法130条)が成立する可能性もあります。

実務上、盗撮事件の場合、盗撮自体だけでなく建造物侵入罪も同時に立件されることもあれば、盗撮のみが立件されることもあり、事案によって、立件される内容・範囲はまちまちです。

児童ポルノ禁止法

児童ポルノ禁止法(正式名称は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)においても、規制がなされています。

具体的には、第2条・第7条で、18歳に満たない者の写真や電磁的記録を所持、保管、提供、製造を規制しています。

つまり、盗撮の被害者が18歳未満の場合には、児童ポルノ「製造」の罪に該当する可能性があります。

盗撮は不起訴になる可能性も十分にある

では、起訴されるか否かは、どのようにして決まるのでしょうか。

個別具体的な事情にもよりますが、検察官は、被害者の意向、被害回復の程度、行為態様、結果の重大性、被疑者の反省、再犯の可能性、同種前科の有無などを総合的に考慮し、その事件の処分を決めています。

そして、盗撮事件において、被害者との間で示談が成立した場合には、行為態様が悪質、結果が極めて重大である、同種前科が複数ある等の場合を除き、基本的には不起訴(起訴猶予)となることが多いです。

つまり、盗撮事件において、被害者との示談は重要で、示談が成立すれば不起訴となる可能性は大きく高まるのです。

略式起訴という手続がとられる可能性も高い

盗撮事件では略式起訴という手続がとられることも多くあります。
略式起訴は、通常の起訴手続きを簡略化した略式手続で処分を終わらせる起訴方法で、100万円以下の罰金・科料に相当する事件である場合に利用されます。

略式起訴の場合、公開の裁判が開かれず、捜査の結果を踏まえて、裁判所が罰金の金額を法定刑の範囲内で決めることになります。

このように正式な裁判を受けずに、罰金刑が受けるすることになるため、略式起訴を行うには「被疑者の異議がないこと」が要件とされています。

盗撮事件においては、たとえば、被害者との示談が成立していない場合や、同種前科が多数ではない場合など、略式手続が選択され、罰金刑を受ける事案も多く存在します。

このように、略式起訴を受け、略式命令が行われる場合、裁判所が関与することにはなりますが、公開の法廷での裁判が実施されるわけではありません。

まとめ

盗撮事件では、不起訴や略式起訴として処分される事案が多いといえます。
否認事件や、結果が重大なもの、行為態様が極めて悪質であるもの、被疑者に複数の同種前科がある場合には公判請求されることがありますが、公判請求に進む事件は比較的少ないです。

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【刑事事件】盗撮の裁判例のご紹介

被告人が否認(罪を認めないこと)を主張した盗撮の刑事裁判の判例をご紹介いたします。

札幌高裁平成19年9月25日

まずは、札幌高裁の判例です。
第1審では無罪と判断されましたが、高裁で有罪判決を受けた事例です。

以下、裁判所のホームページから抜粋します。

原判決は、被告人が正当な理由なくショッピングセンターで27歳の女性の後をつけ背後の至近距離からデジタルカメラ機能付き携帯電話で約11回にわたり臀部等を撮影したという公訴事実に対し、被告人は臀部をねらったものではなく、社会通念上容認できないほどはなはだしいと認められるほどの卑わいな行為ではないとして無罪としたが、被告人の撮影行為が臀部をねらった卑わいな言動に当たることは明らかであるとして原判決を破棄し、被告人を罰金30万円に処した事例

東京高裁平成22年1月26日

エスカレーター内で、被疑者に対し、スカート内を撮影する目的で、カメラ付携帯電話をスカート下方に差し入れたとされた事案です。

こちらは、第一審で有罪となり、控訴審で無罪となった事案です。

本件では、被害女性の供述によって被告人が携帯電話機を盗撮する目的で同人のスカートの中に差し入れたと推認するには疑問が残ること、原判決が原判示の事実を認定する根拠とした被告人の捜査段階の自白についてはいずれも疑問があることを理由に、原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡しました。

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【民事事件】盗撮事件が裁判になる可能性

さて、これまでは盗撮事件について刑事手続の観点から検討を加えました。
では、盗撮事件が民事裁判に進むことはないのでしょうか。

  • 盗撮行為についての民事上の請求
  • 民事事件における慰謝料の相場は?
  • 弁護士費用や期間の関係で実際に訴訟に進む割合は低い

盗撮行為についての民事上の請求

そもそも、盗撮行為を民事上請求する場合の根拠はなんでしょうか。

民法709条は、不法行為責任として、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と規定しており、盗撮行為はこの不法行為に該当します。

つまり、盗撮行為の被害者は、加害者の故意による犯罪行為に遭ったことから、権利を侵害されたとして、精神的苦痛が発生したとして、慰謝料を請求することが可能となります。

民事事件における慰謝料の相場は?

では、民事事件における慰謝料の相場はどれくらいでしょうか。

盗撮事件の場合、初犯であれば30万円程度の罰金となることが多いです。
慰謝料と罰金とは異なりますが、加害者と被害者との示談交渉に際して、罰金刑として科される可能性のある金額が一つの目安とされることがあります。

また、たとえば、職場内での盗撮やトイレ内での盗撮の方が、被害者の精神的苦痛も大きく、若干ではありますが慰謝料額の増額されることもあるでしょう。

とはいえ、慰謝料額はさほど高額になることは少なく、事案次第ではあるものの30万円程度が認容されることが多いでしょう。

弁護士費用や期間の関係で実際に訴訟に進む割合は低い

実際、民事事件で盗撮の慰謝料請求がなされることは少ないように思います。

被害者が、慰謝料を請求するには、被害者から加害者への請求を行い、話合いができないようであれば、訴訟(裁判)へと進まなければなりません。

しかし、性犯罪の被害者側が加害者と接触し、交渉をすることは大きな苦痛であり、また恐怖を感じることもあり、あまり望ましい状況とはいえません。

また、訴訟提起をするには法的な知識が不可欠です。
弁護士に依頼をせずとも、本人訴訟という方法も可能ですが、やはり大きな労力と時間を要してしまいます。

他方、弁護士に依頼すれば弁護士費用がかかりますが、上記のとおり、盗撮の慰謝料の相場が30万円程度であることからすれば、弁護士に依頼をしても経済的合理性に欠けることが多いでしょう。

なお、訴訟であれば、弁護士費用の一部を加害者側に請求することは可能ですが、裁判所が損害として認める弁護士費用相当額は、認容された慰謝料額の1割程度にとどまりますので、実質的な意味で弁護士費用を相手方に負担させることはできません。

さらに、裁判では、傍聴人などがいる公開の法廷で性犯罪について説明しなければならない可能性もあり、被害者の精神的負担が増大するおそれもあります。

このように、被害者が民事訴訟を起こすには、時間や労力、費用の点で大きな壁があるのです。

そのため、多くの事件では、加害者側との示談交渉を進めて、双方納得のうえで示談をすることで、被害者は裁判へと進むことを控える傾向にあり、実際に訴訟へと移行する割合は低いといえます。

まとめ

いかがだったでしょうか。
今回は、盗撮と裁判について検討を加えました。

もちろん事案にもよるのですが、盗撮は刑事手続においては不起訴の可能性もあり、略式起訴による罰金刑にとどまることも多いです。

また、民事事件においては提訴前に示談が成立することが多いため、訴訟に至ることは少ないでしょう。

盗撮事件が裁判へと進まないためには、早期の示談が重要です。
盗撮事件でお悩みの方は、弁護士への相談をご検討ください。

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