トレントで発信者情報開示請求を受けたら拒否か同意か?専門弁護士が解説
最終更新日: 2024年01月23日
- トレントで発信者情報開示請求を受けたら開示を拒否すべき?
- その作品をダウンロードした覚えはないのに、どう対応すればいい?
- 開示を拒否したらどうなってしまうの?
近年、トレント(BitTorrent)の利用者に対して、アダルトビデオ、アニメ、楽曲の著作権者が損害賠償請求や刑事告訴などの法的措置をとるケースが増えています。著作権侵害で逮捕されたというニュースに触れたことのある方もおられるでしょう。
当事務所にも、「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が届いたというご相談が増えています。ほとんどの方は軽い気持ちで作品をダウンロードして楽しんでいただけで、そのような法的トラブルに発展するとは思いもせず、驚き、不安を抱えていらっしゃいます。
そこで、今回は、トレントを利用して発信者情報開示請求の意見照会書を受けた場合に、情報開示を拒否するべきかどうかについて、専門弁護士が徹底解説します。
トレントでの開示請求を拒否するとは?
まずは、トレントのユーザーになぜ発信者情報開示請求の意見照会が来るのか、以下、トレントの仕組み、違法になる理由を簡単に確認した上で、ご説明します。
- トレントの仕組み
- 著作権侵害になる理由
- 開示請求への同意と拒否
トレントの仕組み
トレント(BitTorrent)は、中央サーバーを設けないP2P通信でファイルを共有するクライアントソフトです。μTorrentもユーザーの多いクライアントソフトです。
例えば、ある作品をダウンロードする場合、ネットワークを介してその作品の断片化されたデータを複数のネットワーク参加者から転送を受け、最終的にその作品の100%のデータを取得します。
このようにしてデータをダウンロードすると今度は自分自身が、他のネットワーク参加者から要求があれば、保有するその作品のデータをいつでも自動的に送信(アップロード)してしまうのです。
これがトレントの仕組みの概要で、ユーザーはダウンロードができることは知っていますが、多くのユーザーは、自身もデータを送信する主体となってしまうことを知りません。
なお、クライアントソフトの中には利用開始にあたり、アップロードもすることになることを明示してその同意を得ているものもあります。
著作権侵害になる理由
トレント自体は何ら違法ではありません。トレントを利用して、漫画、アニメ、アダルトビデオなど著作権で保護された作品をアップロードすることが違法となります。なお、ダウンロード自体が違法となる場合もあります。
作品をインターネットなどで広く一般に送信する権利が著作権者にはあります。これを公衆送信権(送信可能化権)といいます(著作権法23条)。そのため、著作権者の許可なく作品を広く一般に送信(アップロード)する行為は、著作権侵害の違法行為となります。
トレントのユーザーは作品を楽しむためにダウンロードだけ意識的に行っています。そのため、多くのユーザーは訴えられたけどアップロードした覚えはないと言います。
しかし、先ほどご説明しましたとおり、トレントの仕組み上、作品をダウンロードすると自身もネットワーク上で作品のデータをアップロードする主体になるので、ダウンロードをすれば自動的に著作権侵害も行ってしまうことになるのです。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作権者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作権者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
開示請求への同意と拒否
では、権利を侵害されたと言って著作権者が行ってきた発信者情報開示請求とは何なのでしょうか。端的には、損害賠償請求や刑事告訴という法的措置をとるために権利侵害者の氏名や住所を調査するものです。
著作権者側は、P2PFINDERなどのP2Pネットワークの監視システムを利用するなどして、著作権侵害の事実を知ります。そして、著作権を侵害した人の使用しているパソコンのIPアドレスを調査し、そのIPアドレスを使用した契約者の情報をプロバイダに開示するよう請求します。これが発信者情報開示請求です。
発信者情報開示を受けたプロバイダは、氏名や住所を開示しても良いかどうか契約者にその意見を確認する必要があります(プロバイダ責任制限法第4条2項)。これが「発信者情報開示請求に係る意見照会書」です。
この意見照会には通常1週間から2週間ほどの回答期限が設けられており、開示に同意する、拒否する(同意しない)、いずれかの回答をする必要があります。
トレントでの開示請求を拒否したらどうなる?
さて次は、トレントのユーザーに届いた発信者情報開示にかかる意見照会書に対して、情報開示を拒否する回答をした場合、その後どのようになるのかご説明します。
- プロバイダが任意に開示
- 開示請求の訴訟
- 損害賠償請求・刑事告訴
プロバイダが任意に開示
プロバイダからの意見照会書に対して、開示請求に拒否する回答をした場合、その拒否理由も考慮して、プロバイダは請求者に情報開示をするかどうか判断します。
不用意に開示しますと契約者から責任追及を受ける可能性がありますので、契約者の同意がない限り、原則として、プロバイダは情報開示をしません。
もっとも、裁判所も信用性を認めるP2Pネットワークの監視システム「P2PFINDER」によってIPアドレスが特定されている場合には、権利侵害の明白性を認めて任意に情報開示をするプロバイダもあります。
そのため、開示請求に対して拒否の回答をする場合には、権利侵害の事実に疑いを差し挟むべき説得力のある法的説明を拒否理由として記載することが重要です。
開示請求の訴訟
プロバイダから情報開示を得られなかった場合、著作権者は発信者情報開示を求めてプロバイダに対して訴訟を起こします。
そして、著作権を侵害されたこと、著作権を侵害したのが当該IPアドレスを使用した者であること、当該IPアドレスを割り当てたのが被告プロバイダであることを立証して、裁判所に開示を認める判決を求めます。
多くの場合、裁判所は発信者情報の開示を認めています。また、裁判所が心証開示をしてプロバイダが任意に発信者情報を開示することもあります。
損害賠償請求・刑事告訴
こうして著作権を侵害した人の氏名や住所が判明した後は、著作権者は権利侵害者に対して損害賠償請求をしていきます。
損害賠償金額については著作権法第114条1項に推定規定があり、これによればダウンロード回数×販売利益という計算式によって損害賠償額が計算されます。ダウンロード回数×販売価格という計算をして過大に請求してくる著作権者もいます。
いずれにしても、請求金額は数百万円、数千万円と高額になりますので、請求を受けた側としては、できる限り低い支払い内容となるよう十分な法的主張、立証が重要です。
また、情報開示を拒否して、著作権者が発信者情報開示請求訴訟まで行っている場合には、その訴訟に要した弁護士費用の全額の賠償を求められることもあります。
一方、損害賠償請求よりもまず刑事告訴をしてくる著作権者もいます。刑事告訴をされると逮捕、勾留されるケースもあります。そして、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金又はこれを併科する刑事罰を受け、前科が付くことになります(著作権法第119条1項)。
このような逮捕、刑事処分を避けるためには早期の段階で、適切な和解交渉、示談交渉を始めることが重要です。
トレントで開示請求がきたら拒否すべき?
最後に、プロバイダから来た開示請求の意見照会書に対して、どのような対応をするべきかについてご説明します。
- 同意する
- 拒否する
- 無視する
同意する
まず、素直に情報開示に同意するという対応です。
トレントで指摘されている作品をダウンロードしたことが間違いないという場合や、その作品をダウンロードしたことは明確には覚えていないけれどもその可能性は否定できないという場合には、原則として、情報開示には同意します。
その上で、できる限り低額の示談金で済むよう著作権者と示談交渉を進めていきます。
拒否する
次に、情報開示を拒否するという対応です。
意見照会書に記載された権利侵害が事実無根であるという場合には、情報開示を拒否する対応を検討します。例えば、侵害があったという当時、パソコンを利用していない、そもそもトレントを利用していないという場合です。
このような場合、自身は権利侵害者ではないということを証拠書類を添付して主張していく必要があります。拒否の理由は著作権者にもそのまま伝わりますので、著作権者が開示請求、その後の法的措置を断念するような説得的な主張をすることが重要です。
一方、意見照会書に記載された権利侵害が事実無根ではあるものの、そのことを立証する証拠が乏しく、訴訟でも敗訴の見込みが高い場合があります。
このような場合には、不本意ながら開示請求には同意をして和解を目指すべきケースもあります。先ほどご説明しましたとおり、訴訟に至ると賠償金額が更に高額となるためです。
無視する
最後に、情報開示請求の意見照会書に対して何も対応しない、無視をするという対応です。
無視をした場合、プロバイダは特に意見はないものとみなして情報開示をするかどうか判断することになります。そのため、前記のように開示請求を拒否すべき理由がある場合には、無視をしてはいけません。
一方、権利侵害が事実である場合や明確に覚えていないものの権利侵害の可能性はあるという場合に、無視をしておけば事は収まるのではないかと考えて、無視をする方もおられます。
しかし、無視をしたとしても、前記のとおり、プロバイダが任意に情報開示をしたり、訴訟を経て情報開示がなされます。特に訴訟を経た場合には弁護士費用全額の賠償を求められるなど賠償金額が更に高額になります。
無視をした場合には和解交渉も難航することが多いため、このように権利侵害が認定される可能性が高い場合には無視はせず、情報開示に同意することが得策です。
まとめ
以上、トレントを利用して情報開示請求の意見照会書を受けた場合に、情報開示を拒否するべきかどうかについて解説しました。
権利侵害の可能性が高い場合や事実無根の立証が難しい場合には、和解、示談を目指した方がダメージを抑えることができます。一方、事実無根を強く主張すべきケースでは、開示請求を拒否して争うべきです。
示談金を低く抑えたい場合も、開示請求を拒否する場合も専門的見地から効果的な進め方が必要となりますので、できる限り早期に、当事務所の専門弁護士に無料相談をしましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。