介護でありがちな相続トラブル!実態や防止策・弁護士ができること
最終更新日: 2022年05月13日
介護に関連して、遺産相続でトラブルが起こる事例が続出しています。
相続の制度は複雑かつ煩雑な手続きを多く伴うことから、知識のないまま相続を行えば、家族関係に亀裂が入ってしまうかもしれません。また、借金の存在を知らず巨額の「負の遺産」を相続してしまうおそれもあります。
そこで今回は、介護の専門弁護士が、介護に関連して起こりがちな相続トラブルや防止策について解説します。
介護で発生しがちな相続トラブル5つ
まずは、介護において発生しがちな相続トラブルの5つを見てみましょう。
- 法定相続分が介護内容に見合わない
- 贈与が不公平
- 負の遺産の相続
- 相続問題で家族が険悪に
- 全員に合意を得なければならない
それでは、1つずつ解説していきます。
法定相続分が介護内容に見合わない
1点目は、法定相続分が介護内容に見合わないことです。
長年に渡り介護に携わってきた方であれば、相続時に他の兄弟よりも多く遺産を貰えないかと考えたいものです。しかし民法では、複数人の相続人が存在する場合における法定相続分が定められています。
相続人が兄弟のみの場合には遺産を均等に頭割りで分け合うこととなり、「献身的に介護を行ってきたにもかかわらず、自身の法定相続分が介護内容に見合わない」とトラブルになるケースは少なくありません。
他の兄弟よりも多く遺産を貰う権利(寄与分)があると主張することもできますが、裁判所で寄与分が認められる可能性は非常に低く、自身の望む金額よりもはるかに少額の遺産しか相続できない場合があります。
法定相続分が介護内容に見合わないと、そのことが原因でトラブルに繋がるおそれがあるでしょう。
贈与が不公平
2点目は、贈与が不公平なことです。
たとえば、兄弟の一人だけが生前の両親から土地の一部の贈与や、住宅購入資金の援助を受けていたことが相続時に明るみに出ることがあり、不公平感からトラブルへと発展するケースがあります。
民法では、「特別受益の持ち戻し」という、特定の相続人が受けた贈与を相続財産に含めて遺産を分配するという制度もあります。遺産分割協議がなかなか進まず、それまで良好だった家族関係に亀裂が入ることも珍しくありません。
負の遺産の相続
3点目は、負の遺産の相続です。
相続における資産は、両親の持つ預金や持ち家などをイメージする方が多いです。
しかし、民法では消費者金融などから借り入れた「負の遺産」についても相続が規定されており、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に限定承認か相続放棄などの手続きを取らなければ、多額の負債を背負ってしまう場合もあります。
両親の遺産には何が含まれているのかを慎重に全て調査した上で、相続を行うことが大切です。
相続問題で家族が険悪に
4点目は、相続問題で家族が険悪になることです。
相続問題でそれまで良好だった家族関係が、以下のことが原因で険悪になってしまうこともあります。
・遺言書で特定の相続人が優遇されていた
・相続人間で遺産分割協議が整わず泥沼化してしまう
上記は一見、高額な遺産が絡む富裕層家庭での相続だけで起こるトラブルのように思えますが、そうではありません。
法務省の資料を見ても、相続財産が5,000万円以下の層による相続で極めて多くトラブルが発生しています。相続問題は、決して他人事ではないのです。
仲のよかった家族が相続をきっかけに争う様なこととなれば、亡くなった被相続人も浮かばれないでしょう。
全員に合意を得なければならない
5点目は、全員に合意を得なければならないことです。
遺産分割協議を行う場合には、原則として相続人全員の合意が必要となり、一部の相続人を除外して行われた遺産分割協議は無効となる可能性があります。
しかし被相続人の兄弟やその甥・姪・孫が代襲して相続を行う様な場合には、日常的な関わりの少なさから関係性が希薄なことも多く、なかなか協議が整わないというケースも珍しくありません。
遺産分割協議の話し合いの場が初対面であるという場合も多く、弁護士を立てた上で話し合いが進められることもしばしばあります。
介護の相続トラブルを防ぐための4つの対策
介護による相続トラブルを防ぐために必要な4つの対策について解説いたします。
- 遺言書に遺産の割合を書いてもらう
- 通帳管理担当者を明確にする
- 相続放棄することも1つの選択肢
- 相続内容を明確にする
それでは、1つずつ解説していきます。
遺言書に遺産の割合を書いてもらう
対策の1つ目は、遺言書に遺産の割合を書いてもらうことです。
特に、介護を担当していて兄弟よりも多くの遺産を受け取りたい場合には、その旨をはっきりと両親に伝え、遺言書に具体的に書いてもらうことが重要です。
近年では、「介護離職」が深刻な社会問題として取り上げられることも多く、介護にかかる負担は決して軽いものではありません。
存命の両親に遺言書を書いてもらうことは依頼し難いものですが、曖昧なまま相続が開始してしまえば、トラブルを引き起こすきっかけとなってしまいます。
円満に相続を行うためにも、必ず自身の思いを伝えると共に、遺言書を作成してもらうことが大切です。
通帳管理担当者を明確にする
対策の2つ目は、通帳管理担当者を明確にすることです。通帳管理担当者を明確にすることも介護による相続トラブルを防ぐためには重要です。
実際の介護が始まると、配偶者や兄弟などの介護担当者が、通帳からの現金の入出金、介護費用や生活費の管理を行うこととなります。
介護には高額な費用がかかる場合が多いです。その一方で、他の相続人に話さずに被相続人の財産を使用していると相続時にトラブルとなることもあります。
介護費用専用の通帳を作成し、金銭の動きを透明化することはもちろん、レシートや領収書をしっかり保存するなど、具体的な金銭の使途とその裏付けを行うことが不要な相続トラブルを回避するためのポイントとなります。
相続放棄することも1つの選択肢
対策の3つ目は、相続放棄を選択することです。
相続放棄とは、被相続人の財産の一切を相続しない(放棄する)ことをいいますが、預金や有価証券などの財産よりも消費者金融からの借入れなどの「負の遺産」が多い場合には、相続を放棄した方がよいでしょう。
他にも、被相続人のプラスの財産の範囲内でのみ相続を行う「限定承認」という方法もありますが、相続人全員の同意が必要であり、手続きが煩雑です。
相続放棄と限定承認いずれの場合にも、自身のために相続があったことを知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります。
また、被相続人の財産の一部を勝手に使用してしまえば法定単純承認をしたものとみなされ、相続放棄などの手続きが取れなくなってしまう事態も起こり得ます。
万が一のトラブルを防ぐためにも、相続が始まった場合には、速やかに弁護士へと相談を行うことが大切です。
相続内容を明確にする
対策の4つ目は、相続内容を明確にすることです。
相続トラブルを防ぐためには、被相続人の財産には一体何があるのか、相続内容を明確にしなければなりません。
相続においては、銀行預金や土地・自宅・有価証券といった資産の他にも、住宅ローンや消費者金融からの借入れなどの「負の遺産」も承継の対象となります。そのため場合によっては、相続により多額の負債を引き受けてしまうかもしれません。
また相続人の中には預金や有価証券などの資産よりも、住み慣れた自宅や骨董品などの特定の財産が欲しいと望む場合もあり、遺産を巡ってトラブルが起こることもあります。
円満に相続手続きを行うためにも、弁護士などの専門家による相続財産調査を行い、相続内容を明確にすることをおすすめいたします。
介護相続トラブルで弁護士ができること
介護による相続トラブルを防ぎ、解決するためには、場合によっては弁護士へと相談を行うことも選択肢として考えなければなりません。ここでは、介護相続トラブルで弁護士ができるサポートについてご説明します。
- 兄弟間の争いの解決
- 遺産の全容の把握
- 相続手続への対応
それでは、1つずつ解説していきます。
兄弟間の争いの解決
弁護士ができることの1つ目は、兄弟間の争いの解決です。
弁護士であれば、プロの法律家の立場から相続に関する相談や紛争解決のサポートを行うことができます。
遺産相続は、遺言書の内容に沿って行うことも、相続人の協議によって行うことも可能ですが、相続財産の内容について話がまとまらずトラブルとなる事例も多くあります。
相続争いになっていない場合であれば、行政書士や司法書士などの専門家へ書類作成や登記などの手続きを依頼することも考えられますが、相続人同士で協議が進まない場合には、弁護士の立ち会いのもと、冷静で論理的に話し合いを行いましょう。
遺産の全容の把握
弁護士ができることの2つ目は、遺産の全容の把握です。
相続は、被相続人の遺産の全容を正確に把握することから始まりますが、弁護士であれば、被相続人の相続財産調査を行うことが可能です。相続の対象となる財産には、下記のようなものがあります。
・預貯金
・有価証券
・貴金属
・仮想通貨
・骨董品
法的根拠に基づいて遺産を主張すれば、貰えるはずの財産を受け取れずに損をするということを防ぐことができます。
また、被相続人が生前に多額の負債を残した可能性がある場合には、相続放棄や限定承認などの手続きを早急に検討する必要があり、その点からも弁護士による相続財産調査を行うことは重要です。
相続手続への対応
弁護士ができることの3つ目は、相続手続への対応です。
相続においては、相続開始から3か月以内に別段の手続きをしなければ、単純承認したものとみなされます。一方で、相続放棄や限定承認・遺留分の減殺請求などには、煩雑な手続きが伴う場合があります。
また、相続人同士の関係がよくない場合や、代襲相続などの場合で誰が相続人に該当するのかわからないといった際に、自分達で協議を行おうとしてもなかなか話し合いが進まないこともあるかもしれません。場合によっては、相続そのものが無効となるおそれもあります。
プロの法律家である弁護士であれば、煩雑な相続案件や手続きをより迅速に確実に終わらせることができるため、早めに相談を行いましょう。
介護相続トラブルには弁護士相談が必要
今回は介護の専門弁護士が、介護に関連して起こりがちな相続トラブルの実態や防止策について解説しました。
介護にまつわる相続トラブルは決して他人事ではなく、それまで良好であった家族関係に亀裂が入り、大きなトラブルへと発展することは珍しくありません。
被相続人が亡くなった後に慌てることなく円滑に相続を行うためにも、遺言書の作成サポートや相続財産調査など、弁護士へ相談することをぜひ検討してください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。