介護保険法に基づく行政処分の基準を基礎知識とともに弁護士が解説
最終更新日: 2023年11月29日
介護保険法に基づく介護保険施設や事業者が違反を行ったことが発覚すると、行政処分を受けることになります。最悪の場合には、介護事業者としての指定の取消しを受けることもあります。
違反を行わないよう徹底しているつもりでも、違反がまったく起こらないとは限りません。
万が一違反が発覚したときには速やかに対応して、なるべく重い行政処分を回避することが大切です。
それには、介護保険法に基づく行政処分の基準を理解しておくことも必要です。 そこで今回は、介護保険法について熟知している専門弁護士が、行政処分の基準を理解するための前提知識と行政処分の基準について解説します。
介護保険法に基づく行政処分の基準を理解するための前提知識
ここでは、介護保険法に基づく行政処分の基準を理解するための前提知識を3つ紹介します。
- 行政処分の主な類型
- 行政処分の実態
- 行政処分の流れ
それでは、1つずつ解説します。
行政処分の主な類型
前提知識の1つ目は、行政処分の主な類型です。介護保険法に基づいた行政処分の主な類型として、ここでは8つの類型を表にまとめます。
人員基準違反 |
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運営基準違反 |
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人格尊重・忠実義務違反 |
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不正請求 |
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虚偽報告など |
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検査忌避など |
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虚偽申請 |
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法令違反 |
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行政処分の実態
前提知識の2つ目は、行政処分の実態です。ここでは、厚生労働省の資料から、行政処分の内訳と行政処分の事由をまとめます。
平成27年度には、222の施設と106の事業者が介護保険法に基づく行政処分を受けています。このうち、 49.1%の事業者が指定取消し処分となっており、残り15.1%が効力の全部停止、35.8%が効力の一部停止の処分でした。
また、処分事由としては不正請求がもっとも多く、全体の32.3%を占めています。ついで運営基準違反が13.2%・人員基準違反が12.8%でした。 そのあとは、虚偽報告12.2%・虚偽答弁9.0%・虚偽の指定申請5.6%・人格尊重義務違反3.6%・不正不当2.4%と続きます。
行政処分の流れ
前提知識の3つ目は、行政処分の流れです。違反が疑われる施設や事業者に対しては、以下の順番で実地指導から行政処分が行われます。 指導や監査などの早い段階で誠実に対応することが、指定取消しなどの重い処分を避ける上では重要です。
実地指導 |
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監査 |
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勧告・命令 |
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行政処分 |
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また、指定取消し処分となるときの流れは下記の通りです。
立入り検査 |
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改善勧告 |
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弁明 |
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改善命令と公示 |
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指定取消し処分 |
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介護保険法に基づく行政処分の基準
ここでは、介護保険法に基づく行政処分の基準を3つの段階において解説します。
- 改善勧告
- 改善命令
- 指定取消し又は指定の全部若しくは一部の効力の停止
それでは、1つずつ解説します。
改善勧告
行政処分の基準の1つ目は、改善勧告における基準です。 上記資料における「別表1改善勧告を行う場合の基準」を抜粋します。
- 従業者の知識若しくは技能又は人員について、運営基準で定める員数を満たしておらず、適正な事業の運営をしていないと認めるとき。
- 運営基準で定める設備及び運営に関する基準に従って適正な事業の運営をしていないと認めるとき。
- 利用者又は入所者の生命、身体に危険がある場合で、事業者又はその従業者が、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号。以下「虐待防止法」という。)に定める高齢者虐待に該当する行為を行った事実を確認したとき。
- 法律に定める報告又は帳簿書類の提出若しくは提示を命ぜられてこれに従わず、又は虚偽の報告をしたとき。
- 地域密着型サービス等に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき。
改善勧告は、上記に当てはまるとき、または行政が必要だと判断したときに行われ、期限を定めて基準に準拠するよう書面で通知するのが通常です。 この求めに施設が応じなかったときは、行政はその旨を公表することができます。
ちなみに、介護保険法第78条によると、改善勧告は行政処分ではなく行政指導に分類されます。
改善命令
行政処分の基準の2つ目は、改善命令における基準です。 上記資料における「別表2改善命令を行う場合の基準」を抜粋します。
- 正当な理由なくこの要領に定める改善勧告に従わず、又は定めた期限内に改善を行わなかった場合、若しくはその報告を怠ったとき。
改善勧告を受けた施設が期限内に改善対応をとらなかったときに、改善命令が行われます。このとき行政は、書面にて改善勧告に係わる措置をとるよう命令をします。これが改善命令です。また、改善命令を行ったときには、行政はその旨を公示します。
指定取消し又は指定の全部若しくは一部の効力の停止
行政処分の基準の3つ目は、指定取消し又は指定の全部若しくは一部の効力の停止における基準です。 上記参考記事における、「別表3指定取消し又は指定の全部若しくは一部の効力の停止を行う場合の基準」を抜粋します。
- 正当な理由なくこの要領に定める改善命令に従わず、又は定めた期限内に改善を行わなかった場合、若しくはその報告を怠ったとき。
- 不正の手段により指定を受けたとき、又は、指定を受けた時点から基準に違反したとき、若しくは著しく不正な介護報酬請求を行ったとき。
- 申請者又は法人役員等が法律に定める「指定の欠格事由」の何れかに該当する者であるとき。
- 利用者又は入所者の生命、身体に著しい危険がある場合で、事業者又はその従業者が、虐待防止法に定める高齢者虐待に該当する行為を行った事実を確認したとき。
- 要介護者等の人格を尊重しなかった場合、若しくは法律又はこれに基づく命令を遵守し、要介護者等のため忠実に職務を遂行する義務に違反したとき。
- 事業者又はその従業者が、法律に定める出頭の求めに応ぜず、質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は監査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。 ただし、従業者がその行為をした場合において、その行為を防止するため、当該事業者が相当の注意及び監督を尽くしたときを除く。
- 法、その他国民の保健医療若しくは福祉に関する法律で、政令で定めるもの又はこれら関係の法律に基づく命令若しくは処分に違反したとき。
行政処分の中でもっとも重い処分が指定取消し、次に重い処分が効力の停止処分です。指定取消し処分となるのは、上記条件に当てはまったときです。
ただ、取消し処分とするか、それとも指定の全部若しくは一部の効力の停止となるかは行政の判断により決定されます。 指定取消し又は指定の全部若しくは一部の効力の停止処分となったときには、その命令は書面によって通知され、その事実が公示されます。
まとめ
今回は、行政処分の基準を理解するための前提知識と行政処分の基準について解説しました。 介護保険法に基づく行政処分には指定取消し処分・効力の全部停止・効力の一部停止・改善命令があります。
よほど悪質でない場合、まずは改善勧告が行われますので、その時点で誠実に対応するようにしましょう。 改善勧告で指示内容に従えばそれ以上の行政介入や施設や事業者の公示はありません。
また、指導に従うことでサービス向上も期待できます。 行政処分やその基準で悩むことがあったら、介護保険法について熟知している専門弁護士を多数当弁護士事務所に相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。