熟年離婚の財産分与で損しないために!スムーズに進めるコツを解説
最終更新日: 2025年03月31日
- 長年連れ添ったパートナーと離婚を検討している。財産分与を決めるときの注意点を知りたい。
- 財産分与は夫婦それぞれ2分の1で分けるようだが、熟年離婚のときも同様だろうか?
- パートナーと財産分与の話し合いで揉めたときの解決方法を知りたい。
子どもが自立した・定年退職を迎えた等、人生の節目を迎えたタイミングで、長年我慢してきた夫婦生活から解放されるため、熟年離婚を選ぶ夫婦もいるでしょう。
ただし、熟年離婚で財産分与を決めるとき、婚姻期間が長いために財産の種類が多く複雑で悩むかもしれません。
そこで今回は、離婚問題の解決に詳しい経験豊富な弁護士が、熟年離婚における財産分与の問題や、財産分与の割合等について詳しく解説します。
本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談できます。
- 熟年離婚の財産分与は、婚姻期間が長いため複雑になる可能性もある
- 熟年離婚であっても、財産分与は原則2分の1の割合で分ける
- 財産分与を円滑に取り決めるため、事前に弁護士と相談した方がよい
熟年離婚における財産分与の問題
熟年離婚とは、長年連れ添った50代〜60代くらいの中高年の夫婦が、子どもの独立や自身の定年退職などを機に離婚することを指す場合が多いです。
熟年離婚を行うときは婚姻期間が長いため、財産分与にあたり次のような問題が起こりやすいでしょう。
- 共有財産の種類が多く、財産調査が難航する
- 共有財産か特有財産か、判別が難しい
- 再就職が難しいため、離婚後に夫婦のどちらかが困窮するおそれがある
共有財産とは、夫婦が協力して築き上げた財産です。
特有財産とは、基本的に婚姻前、夫婦それぞれが有していた財産を指します。
財産分与の対象となるのは共有財産ですが、特有財産と判別し難い状態となっているケースも多いでしょう。
財産分与の3種類
財産分与は分与割合の決め方によって、「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3種類があります。ただし、必ずいずれかの分与方法で決めなければならないわけではなく、夫婦で自由に取り決めることができます。
清算的財産分与
清算的財産分与は、婚姻中に形成した財産を夫婦で原則2分の1ずつに分け合う方法で、夫婦が財産分与をするときの一般的な方法です。
分与対象の共有財産を、財産の名義や離婚原因に関係なく夫婦で均等に分けます。
扶養的財産分与
夫婦の一方が専業主婦(専業主夫)等であった場合、離婚後に生活が困窮する可能性があります。扶養的財産分与は経済的余裕がある方が相手が経済的に自立可能となるまで生活費を分与する方法です。
離婚時に病気を患っているなど、夫婦の一方が安定した収入を得られそうもないときに、この分与方法がとられる場合があります。
慰謝料的財産分与
慰謝料的財産分与は、離婚原因をつくった夫婦の一方が他方に慰謝料を支払う場合、その慰謝料分を分与割合に上乗せする方法です。
慰謝料と財産分与は性質が異なりますが、ともに金銭の問題のため、明確に区別せずまとめて分与するものです。
熟年離婚における財産分与の割合
熟年夫婦の財産分与の割合をそれぞれどのように決めるかは夫婦次第です。
ただし、双方の収入や支出、資産の詳細を整理して慎重に検討したうえで分与割合を決めないと、後日トラブルになるかもしれません。
専業主婦の場合
熟年夫婦のどちらかが専業主婦(専業主夫)であっても、夫婦で2分の1ずつ分けるのが原則といえます。
財産分与は、高収入である側がより多く分与を受ける仕組みではありません。むしろ、離婚による生活困窮のリスクがある収入の少ない側へ多めに分与することが妥当な場合もあるでしょう。
共働き夫婦の場合
夫婦が共働きのときも、財産分与の割合は2分の1ずつが基本になります。
ただし、その財産分与では、夫婦の一方が不公平に感じる場合があるかもしれません。たとえば、夫婦が共働きをしていて、収入に大きな差があるケースです。
このような場合は、夫婦の一方が不満を持たないように、それぞれ収入・支出、資産の詳細を勘案して、双方が合意しうる適切な分与割合を協議した方がよいでしょう。
2分の1にならないケース
例外的に、財産分与割合は夫婦2分の1ずつが適当とはいえないケースもあります。
たとえば、次のような場合です。
- 夫婦の一方が特殊な資格や才能(例:医師・タレント・スポーツ選手等)を活かし、高額な収入を得ている
- 夫婦の一方のみが家事や育児を行い、家庭を切り盛りしていた
上記のような場合、夫婦のどちらかの特殊な資格・才能や、長年家庭を切り盛りしてきた経緯などを踏まえ、財産分与割合を考慮した方がよいでしょう。
熟年離婚における財産分与の対象
財産分与は、夫婦で協力して得た財産(共有財産)と、それ以外の財産(特有財産)を慎重に分けて、検討する必要があります。
特に当初は特有財産であったものが、途中から共有財産と混在してしまうケースもあるので、注意が必要です。
対象となるもの
婚姻中に夫婦が得た(契約した)次のような財産は基本的にすべて共有財産となり、財産分与の対象となります。
- 土地や建物
- マイカー
- 預金口座(口座が夫婦どちらの名義でも対象)
- 現金等
- 骨董品、絵画、貴金属
- 家財道具
- ローン等の借入
夫婦が定年退職し、勤務先から支給された退職金も共有財産です。
ただし、婚姻中に被相続人から相続した遺産、夫婦どちらかが贈与者から受け取った贈り物は「特有財産」となり、財産分与の対象外です。
対象とならないもの
婚姻前から夫婦それぞれが所有していた財産は特有財産に該当し、財産分与の対象外です。
主に次のような財産が該当します。
- 婚姻前に得た土地や建物
- 婚姻前に得た自動車やバイク
- 婚姻前に開設した預金口座
- 婚姻前に得た骨董品、絵画、貴金属
- 婚姻前に得た家財道具
- 夫婦どちらかに贈られた物品
- 相続財産
財産の取得時期が婚姻の前後どちらかを、保管している契約書、証明書等をよく確認して判断しましょう。
なお、独身のとき開設した預金口座に婚姻前から貯めていたお金があっても、婚姻生活が長く続けば、特有性は失われたと裁判所に判断されてしまうケースがあります。
たとえば、婚姻前に開設した預金口座に、婚姻後、共有財産である給与が振り込まれ続けると、共有財産とみなされてしまうかもしれません。
熟年離婚の財産分与をスムーズに進めるためのポイント
「財産の種類が多くて調査が面倒」「財産分与を決めるときに揉めそうだ」というときは、弁護士と相談してから調査・取り決めを行うようにしましょう。
それでも財産分与が決まらないときは、調停や裁判で解決を目指せます。
弁護士への相談
弁護士は熟年夫婦から事情を聴いたうえで、ケースに応じた財産分与の方法をアドバイスし、分与対象や割合を決めるサポートも行います。
- 財産分与割合
- 夫婦の収入や支出等の把握
- 共有財産の調査ポイント
- 特有財産が混在している場合の対応
- 協議がまとまらなかった後の措置
- 弁護士を交渉役にする必要性
離婚を進めるため、すでに夫婦が別居しているときは、弁護士に相談するだけではなく、代理人として依頼した方がよいです。
弁護士が交渉役となれば、夫婦が顔を合わせずに、離婚・財産分与の交渉を進められます。
協議
まずは夫婦間で財産分与をどうするか協議しましょう。
共有財産の調査は、夫婦が協力して進めても、弁護士の協力を得て進めても、どちらでも構いません。
財産分与割合は、原則として夫婦が2分の1ずつ均等に分けた方がよいでしょう。ただし、夫婦が納得するなら、夫婦のどちらかへ多めに分与する取り決めもできます。
財産分与をはじめとする離婚条件がまとまったら、条件内容を明記した「離婚協議書」を2通作成し、夫婦各自1通ずつ所持して大切に保管しましょう。
離婚するかどうかで揉めているときや、財産分与の合意に達しなかったときは、家庭裁判所の調停による解決を目指します。
調停
協議がうまくいかなかったときは、家庭裁判所の調停を利用しましょう。
調停の申立先は、相手方の住所地か夫婦が合意した地の家庭裁判所です。
調停は、裁判官・調停委員が夫婦(元夫婦)の間に立って双方の言い分を聴き、助言をしつつ和解案を提示して、合意形成を目指すものです。
財産分与に関する調停は、次の2つのパターンがあります。
- 財産分与だけでなく、様々な離婚条件の調整や、離婚するか否かについても話し合いたい→夫婦関係調整調停(離婚)
- 離婚は成立しているが、財産分与が決まっていない→財産分与請求調停
なお、財産分与請求調停は、離婚成立日から2年以内に申し立てなければなりません。
裁判・審判
調停が不成立の場合、調停の種類に応じ、離婚訴訟、又は審判により財産分与の決定を行えます。
- 夫婦関係調整調停(離婚)不成立→離婚訴訟
- 財産分与請求調停不成立→財産分与請求審判へ自動的に移行
離婚訴訟の提起が可能なのは、次の法定離婚事由のいずれかに該当する場合のみです(民法第770条)。
- 配偶者に不貞な行為があった
- 配偶者から悪意で遺棄された
- 配偶者の生死が3年以上明らかでない
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由がある
離婚原因をつくった夫または妻(有責配偶者)は、原則として離婚訴訟を提起できません。
配偶者から受けたドメスティックバイオレンス(DV)は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」に該当します。
離婚訴訟では、夫婦が原告・被告に分かれ、財産分与等に関する主張、立証を進めていきます。
実際のところ裁判期日には弁護士が出廷するため、原告・被告は基本的に本人の尋問期日を除き、出廷する必要がありません。
判決前に裁判官から和解案を提示されるケースも多く、和解案に双方が納得すれば裁判上の和解が成立します。
裁判上の和解が成立しなければ、裁判官が一切の事情を考慮したうえで、離婚・財産分与等に関する判決を言い渡すでしょう。
原告・被告は判決に不服があれば、判決書の送達を受けた日の翌日から14日以内に控訴できます。
参考:離婚 | 裁判所
熟年離婚の財産分与に関するよくある疑問
熟年離婚の影響で子どもの相続や年金に不安を感じることもあるでしょう。
こちらでそれぞれのトピックについて解説します。
子どもへの相続
熟年離婚により夫妻は他人となるため、それぞれは元配偶者の法定相続人とはなりませんが、子どもの相続権は両親が離婚しても変わることはありません。子どもは親の法定相続人として遺産を承継できます。
次のケースについて、子どもの法定相続分がどうなるかをみていきましょう。
元夫または妻に再婚相手がいない | 子どもが全遺産を相続 |
元夫または妻に再婚相手がいる・再婚相手との間に子どもはいない | 子どもは2分の1を相続(再婚相手:2分の1を相続) |
元夫または妻に再婚相手がいる・再婚相手との間に子どもがいる | 子どもは4分の1を相続(再婚相手:2分の1、再婚相手との子ども:4分の1を相続) |
年金
婚姻中、夫婦のどちらかが厚生年金または共済年金に加入していれば、「年金分割」を行い、払い込んだ年金保険料を分けられます。
次の2種類の年金分割方法があります。
- 合意分割:夫婦の合意等で按分割合を定め、婚姻期間等の保険料納付記録を当事者間で分割する
- 3号分割:離婚等をしたとき第3号被保険者(扶養に入っていた元配偶者)等からの請求により、第2号被保険者の厚生年金保険の保険料納付記録を、強制的に2分の1で分割する
なお、夫婦の両方が国民年金に加入していた場合は、年金分割の対象とはなりません。
熟年離婚の財産分与でお困りの方は春田法律事務所へご相談を
今回は離婚問題の解決に尽力してきた弁護士が、熟年離婚における財産分与の進め方やポイント等について詳しく解説しました。
春田法律事務所は財産分与をはじめ離婚問題に強い法律事務所です。熟年離婚の財産分与で悩むときは、弁護士と今後の対応の仕方をよく話し合ってみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。