2019年12月27日
1 はじめに
民法は、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と規定しています(768条1項)。
財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配するものです。
たとえ夫婦の一方の名義になっている財産についても、その形成・維持には夫婦の共同生活を通じた他方の直接的、間接的な協力があります。
そのため、一方の名義になっている財産についても実質的には夫婦の共同の財産とみるべきで、離婚時にはそれを清算するのが公平であるというのが財産分与の趣旨です。
さて、このように財産分与においては、夫婦の共同財産を清算するわけですが、将来受け取ることになる退職金もそのような清算対象となるのでしょうか。以下ご説明いたします。
2 退職金は財産分与の対象になり得るのか
退職金には在職期間中の賃金の後払いとしての性格があります。そのため、在職期間のうち、夫婦として共同生活を営んでいた期間については、その労働について他方の貢献・寄与を認めることができますから、退職金は財産分与の対象となり得ます。
3 退職慰労金は財産分与の対象となるか
退職金と似て非なるものが退職慰労金です。
会社の従業員は会社とは雇用契約を結びますが、会社の役員は会社とは委任契約を結びます。退職慰労金は、このような委任契約上の報酬で、取締役会等の決議が支給要件となっていることが多いです。
このように退職慰労金は、雇用契約における賃金の後払いのように労働の対価として潜在的に蓄積される性格はないのです。
もっとも、退職慰労金についても、退職金と同様、夫婦として共同生活を営んでいた期間については、その委任事務処理について他方の貢献・寄与を認めることができますから、退職慰労金の支給規定がある場合には、財産分与の対象となります。
4 将来支給される退職金も財産分与の対象になるのか
支給済み又は支給決定済みの退職金が財産分与の対象となることについては争いはありません。
他方、未だ支給決定のなされていない時点の場合、将来、退職金が支給されるかどうかは不確定です。
しかし、実務上、退職金が支給される「高度の蓋然性」が認められる場合には、財産分与の対象とされています。
そして、近時は、勤務先に退職金の支給規定がある場合には、原則として、将来支給される退職金も財産分与の対象に含められています。支給されるのが相当期間先であったとしても、別居時までの勤務期間に相当する退職金は、潜在的にはその額が蓄積していると考えられるからです。
確かに、解雇や倒産など将来の不確定要素があるわけですが、このような将来の不確定要素はそのような事由が発生する可能性が高い場合でなければ考慮されないことがほとんどです。
5 退職金の財産分与金額の計算方法
⑴ 退職金額の計算方法
退職金のタイプには、大きく分けて確定給付型と確定拠出型があります。
確定給付型は、あらかじめ退職金の金額が確定しているものです。確定拠出型は、拠出金額は確定しているものの、退職金額については拠出金の運用結果次第というものです。
いずれのタイプについても、勤務先によってその計算方法は異なりますから、ご自身の勤務先の計算方法を確認する必要があります。
退職金額は別居時に自己都合退職した場合の金額を基準とします。もっとも、定年退職時の金額しかわからない場合にはその金額を基準とします。
⑵ 財産分与金額の計算方法
財産分与する金額は以下の計算式で算出します。原則は①のように別居時に自己都合退職した場合に支給される退職金額を基準に計算します。寄与率は50%が原則ですが、40%や25%などそれ以下とした裁判例もあります。
それがわからない場合には②のように定年退職時に支給される退職金額を基準に中間利息を控除した金額を計算します。
また、離婚時にその財産分与金額を支払う経済力が相手にない場合や支給時期が相当先の場合には、③のように将来支給されたときにその金額を基準に分与するという方法をとることもあります。この場合、退職金が財産分与されるのは将来の支給時ということになります。
①別居時に自己都合退職した場合に支給される退職金額(手取金額)
×婚姻期間÷在職期間×寄与率
②定年退職金額(手取金額)
×婚姻期間÷在職期間×寄与率×退職までの年数のライプニッツ係数
③現に支給された退職金額(手取金額)
6 最後に
以上、退職金の財産分与についてご説明しました。
現在の実務では退職金は原則として財産分与の対象とされていますが、退職金が支給される「高度の蓋然性」や寄与割合について争点になるケースが多いです。
退職金の財産分与について離婚協議で争いになったときは、財産分与に詳しい弁護士にご相談ください。
この記事を書いたのは
- 代表弁護士春田 藤麿
- 愛知県弁護士会 所属
- 経歴
- 慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設
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