介護施設が悩むモンスター家族とは?対処のポイントを弁護士が解説

最終更新日: 2022年03月15日

介護施設が悩むモンスター家族とは?対処のポイントを弁護士が解説近年、理不尽なクレームで事業者を悩ませるモンスタークレーマーが、メディアなどで度々取り上げられるようになりました。

このモンスタークレーマーは、介護業界にも存在します。特に、利用者の家族がモンスタークレーマーであるときには、それをモンスター家族と言います。

モンスター家族を放置すれば、介護事業者の円滑な運営の支障が出るだけでなく、対応した職員の心身に悪影響を与えかねません。

また、厚生労働省の指針には、顧客などからの激しい迷惑行為で雇用する職員の就業環境を害されぬよう配慮するよう記載されています。この指針からも、事業者にはモンスター家族から職員を守らなければいけません。

そこで今回は、介護業界におけるトラブルに精通している専門弁護士が、介護施設におけるモンスター家族の意味や対処のポイントなどを解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護施設におけるモンスター家族の意味と種類

モンスター家族に明確な定義はありませんが、介護施設におけるモンスター家族とは、常識がなく自己中心的で介護事業者に理不尽な要求を突き付ける家族のことです。

モンスター家族と似た言葉に、モンスターペアレント(教育現場)やモンスターペイシェント(医療現場)もあります。

モンスター家族の種類は以下の3つに分けられます。

職員を信じられないタイプ

介護施設の利用者の家族は介護職員よりも高齢であることが多く、これまで自宅介護をしてきた人の場合は自分の介護が正しいと思っている。
口ばかり挟むタイプ 普段は任せきりで面会などにほとんど顔を見せないくせに、たまに面会に来たときに細々と文句を付けてくる。

お金を払っているのだからタイプ

特に多いタイプ。「介護してもらっている」意識が非常に高い。利用者はお客様であり、理不尽な要求も当然飲んでくれると思っている。

利用者家族が要求しているのがクレームかどうか判断するためにも、上記にあてはまるものがないかチェックしてみましょう。

介護施設においてモンスター家族が増加している背景

ここでは、介護施設においてモンスター家族が増加している背景を2つ紹介します。

  • 家族が受けるサービスを選べるようになった
  • お客様意識が増加した

それでは、1つずつ解説します。

家族が受けるサービスを選べるようになった

モンスター家族が増加している背景の1つ目は家族が受けるサービスを選べるようになったことです。

介護保険制度が創設されるまでは、介護を必要とする人のサービスや福祉機関は各市町村が決めていました。

そのため、かつては利用者は「お世話してもらっている」という意識が強く、介護サービスやその職員に不満や意義があっても、あまり文句を言うことはありませんでした。

ところが、介護保険制度が始まったことにより、自分で介護サービスを選んで契約できるようになりました。それに伴い利用者の意識が変わっていき、モンスター家族も増えたと考えられています。

お客様意識が増加した

モンスター家族が増加している背景の2つ目はお客様意識が増加したことです。

介護保険制度によって利用者は1~3割を自己負担しています。それにより、介護サービスを利用する方に「お客様意識」が生まれているのです。

さらに「お客様第一」を掲げている営利法人の介護事業が参入したことも背景として挙げられます。

営利法人の施設は利用者を「お客様」として扱うところも多いことから、「お金を払っているのだからこれくらいやってくれて当たり前」という意識を一部の利用者やその家族に与えてしまっていると考えられます。

介護施設におけるモンスター家族と通常の家族は区別して考えること

介護のサービスやケアに関する利用者家族からのクレームは、内容が適切であれば対応して今後のサービスやケアの改善につなげなければなりません。

しかし、クレームの内容が不適切であれば受け入れる必要はなく、モンスター家族と判断して然るべき対応が必要です。

介護に熱心な家族とモンスター家族との違いは、「自分の家族を特別として考えていないか」「何かあればすぐに施設のせいにしたりしていないか」見極めることで、区別するようにしましょう。

介護施設におけるモンスター家族に適切に対処しないリスク

モンスター家族に適切に対処しないと、様々なリスクが発生する恐れがあります。

たとえば、モンスター家族の影響で、職員が心身を病んでしまう恐れがあります。また、事業者が職員のメンタルケアを十分に行わなかった結果、職員が事業者への不信感を強めると、最悪職員が退職することもあるでしょう。

そもそも介護業界は人材不足で悩まされているため、事業者や残った職員には大きな負担になります。さらに、退職した職員からは、労働契約上の安全配慮義務に違反したとされ、損害賠償責任を問われて訴えられるリスクも考えられるでしょう。

介護施設でモンスター家族がクレームを言ってきたときの対処のポイント

ここでは、介護施設でモンスター家族がクレームを言ってきたときの対処のポイントを4つ紹介します。

  • まずはクレーム内容の事実確認と内容整理
  • 話し合いの記録を残す
  • クレーム対応は複数人で冷静に
  • 責任範囲を明確にする

それでは、1つずつ解説します。

まずはクレーム内容の事実確認と内容整理

対処のポイントの1つ目は、まずはクレーム内容の事実確認と内容整理です。

通常のクレームであれば、正当な意見として真摯に対応する必要があります。その対応を怠ると、介護施設の信頼を大きく落としてしまうかもしれません。しかし、理不尽なクレームは聞き入れる必要はありません。

通常のクレームと理不尽なクレームを区別したり、クレームの中でどこまでが事業者に非があるか判断したりするには、クレーム内容の事実確認と内容整理を行うことが必要です。

話し合いの記録を残す

対処のポイントの2つ目は、話し合いの記録を残すことです。

モンスター家族に対しては、まずは話し合いを行う必要があります。このとき、レコーダーの録音やメモによって、話し合いの記録を残すようにしましょう。

言った言わないでトラブル解決に難航して、警察への相談や裁判の必要が生じたときには、話し合いの記録が重要な証拠になる可能性があるでしょう。

クレーム対応は複数人で冷静に

対処のポイントの3つ目は、クレーム対応は複数人で冷静に行うことです。

モンスター家族の中には、金銭など問題解決とは別の目的をもってクレームを付けてくる人もいます。また、要求を通すために職員を恫喝・恐喝する場合もあります。

そのようなクレーマーに対して職員1人で対応することは、大きなストレスになるでしょう。また、感情的になって職員とモンスター家族が口論になると、さらなるトラブルの原因になります。

そのため、クレーム対応は複数人で冷静に行うよう心がけましょう。

責任範囲を明確にする

対処のポイントの4つ目は、責任範囲を明確にすることです。

モンスター家族からのクレーマーの中にも、クレーム内容の事実確認と内容整理の結果、実際に事業者側に非があると判断される部分があるかもしれません。しかし、事業者側に非がある部分があっても、謝罪するのは非がある部分だけで問題ありません。

責任範囲を明確にすることで、謝罪する部分が明確になります。それでも不合理な要求をしてくるモンスター家族に対しては、法的根拠をもって断りましょう。

介護施設でモンスター家族とのトラブルが発生したときには弁護士に相談

今回は、介護施設におけるモンスター家族の意味や対処のポイントなどを解説しました。

介護施設の職員は、日頃から利用者やその家族とコミュニケーションを取るよう心がけましょう。これにより利用者やその家族と関係性を強化することができれば、モンスター家族化を防げる可能性が高まります。

ただ、それでもモンスター家族が発生して理不尽なクレームを受けることもあります。そのクレームによるトラブルの解決が難航したときには、当法律事務所にご相談ください。介護業界におけるトラブルに精通している専門弁護士が、早く確実にトラブルを解決に導くお手伝いをいたします。

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