薬局・薬剤師への厚生局による監査について弁護士が徹底解説!

最終更新日: 2024年05月15日

薬局への監査について弁護士が徹底解説!

厚生局から監査の実施通知が届いた!

監査を乗り切るにはどうすればいいのか?

保険調剤の資格はなくなってしまうのか?

個別指導を受けていたので監査を予期していたというケースもあれば、何らの前触れもなく監査の通知が届いて慌ててしまうというケースもあります。

いずれにしても、厚生局による監査は真剣に対応しなければなりません。事態は深刻です。保険薬局の指定・保険薬剤師の登録を取り消されてしまえば廃業は必至だからです。

今回は、厚生局による薬局への監査に詳しい弁護士が、監査の制度やその対処法について解説します。

個別指導・監査に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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薬局・薬剤師への厚生局による監査とは

まず、監査と個別指導はどのように違うのか、監査までの流れ、そして監査対象となる基準について見ていきましょう。

個別指導と監査の違い

個別指導は保険調剤や調剤報酬請求について周知徹底することを目的とした教育的な手続です。

一方、監査は、保険調剤の内容や調剤報酬請求について不正・不当がある場合に、保健薬局の指定や保険薬剤師の登録について取消処分、戒告又は注意という行政上の措置を念頭に行われる手続きです。

制裁を目的とする手続きと言ってよいでしょう。

統計によれば、令和3年に保険薬局で個別指導の対象となったのは371件、監査対象となったのは7件、取消処分・取消処分相当となったのは4件でした。このように監査対象となると半数が取消処分・取消処分相当となります。

監査実施までの流れ

監査が実施されるほとんどのケースは個別指導から監査に移行します。個別指導において不正・不当の事実が見られ、監査の必要があると厚生局が判断すると、個別指導が中止されます。

厚生局はレセプトなどの書面調査と患者等への実地調査を行います。これらの事前調査の結果、やはり監査を実施すべきと判断されると、個別指導は中止され、薬局に対して監査実施通知がなされ、監査手続に移行します。

個別指導が始まってから1年以上も経ってから監査実施通知が届くということもあります。解決したのかと思っていたところ監査の通知が来て驚くということもあります。

このようにほとんどのケースは個別指導から監査に移行しますが、刑事裁判に関する報道を厚生労働省が認知した場合、刑事裁判で監査をすべき証拠が揃っていることから個別指導はせずに最初から監査を実施するようなケースもあります。

監査の結果、保険薬局の指定や保険薬剤師の登録に対する取消処分となると、5年間は保険調剤ができません(健康保険法65条3項1号)。

監査の選定対象

以下いずれかの場合に監査対象となります。

  • 調剤内容に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  • 調剤報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  • 度重なる個別指導によっても調剤内容又は調剤報酬の請求に改善が見られないとき
  • 正当な理由がなく個別指導を拒否したとき

調剤内容・調剤報酬請求の不正・不当の例

前記のとおり、調剤内容や調剤報酬請求に不正や著しい不当があると監査対象となります。

調剤内容の不正・不当とは専ら療養担当規則に反する場合です。例えば、調剤録の未記載や不実記載、非薬剤師に保険調剤を行わせた場合などが調剤内容の不正・不当に該当します。

調剤報酬不正請求には以下のような類型があります。

架空請求実際には調剤していないのに調剤報酬を請求した場合
付増請求実際に行った調剤よりも多く計上して調剤報酬請求をした場合
振替請求実際に行った調剤内容とは異なる、より保険点数の高い他の調剤内容に振り替えて調剤報酬請求をした場合
二重請求同一の調剤について患者から自費で料金を受領するとともに、保険でも調剤報酬請求をした場合
重複請求既に調剤報酬を請求済みの調剤について再度、調剤報酬を請求した場合
その他非薬剤師に調剤をさせた場合の請求など

薬局・薬剤師への厚生局による監査と事前調査

行政側の監査マニュアルには、監査は取消しありきで行うものではないとありますが。しかし、現実には、厚生局は取消処分を念頭に準備してきます。

厚生局はまずは事前調査をして、その後、監査を実施します。以下順番に見ていきましょう。

事前調査

厚生局は監査実施決定の前に、事前調査として書面調査と患者等に対する実地調査を行います。

患者調査では、対象となっている保険薬局が患者に悟られないよう配慮するようにと行政側のマニュアルに記載はされています(医療指導監査業務等実施要領(監査編)P14)。しかし、どの保険薬局が対象となっているのか患者には察しがつくことが多いでしょうから、何か問題を起こしたのではないかと評判を落とす恐れがあります。

調査担当者は、患者から聴取し、患者調査書にその内容をまとめて患者の署名をもらいます。厚生局は取消処分を念頭に準備をしていますから、担当者による誘導によって厚生局のシナリオに沿った調査書が作成される恐れがあります。

患者調査は強制ではありません。調査に応じるかどうかは患者の自由ですから、協力しない方が多いようです。もっとも、患者調査が実施されていない患者についても監査対象おなりますので、レセプトなどの関係書類から不正を認定されることもあります。

指導・監査・処分取消訴訟支援ネット:医療指導監査業務等実施要領(監査編)

監査の流れ

事前調査を踏まえ、監査の実施が決定されると、厚生局から保険薬局へ監査実施通知が届きます。

監査実施通知は、監査日の1週間から10日ほど前に届き、正当な理由なく欠席をしますと取消処分となります。監査日は1回では終わらず、2、3か月おきに合計で5回から10回も開かれるケースもあります。

監査当日は、9時半頃から17時頃まで行われます。厚生局側は7,8人が参加しますが、質問をしてくる担当者は2,3人でその他は書類の精査を行います。

質問と回答の内容は問答形式の聴取調書が作成され、その内容に間違いないか確認の上、署名捺印するよう求められます。

また、患者に対する調剤について患者個別調書が作成されます。不正・不当請求の内容、点数、金額を記載されており、その内容に誤りがないか確認の上、弁明欄へ弁明の記載を求められます。

弁明欄は小さく、欄内に収まらない場合は欄外や裏面に記載することも認められます。患者個別調書の内容や金額には誤りがあることも多いので、担当者から急かされたとしても、慎重にチェックすることが重要です。

厚生局は聴取調書、患者個別調書などの資料をもとにして、取消処分、戒告、注意のうちいずれの行政上の措置を行うべきか決定します。

留意点
  1. 弁護士は委任状を提出して帯同して保険薬剤師に助言は可能ですが、保険薬剤師の代わりに回答はできません。
  2. 保険薬剤師自身による指導内容の確認が目的と説明すれば、録音は認められます(医療指導監査業務等実施要領(監査編)P28)。必ず録音します。
  3. 個別指導とは異なり、厚生局には調剤録、関係書類のコピーをする権限がありますのでコピーを拒否できません(健康保険法第78条)。

薬局・薬剤師への厚生局による監査結果

監査が終わりますと、いずれかの行政上の措置が決定されます。

監査の結果

取消処分とすべきという判断になりますと聴聞手続に進みます。他方、戒告や注意の場合にはその旨の通知を受けて手続は終了し、一定期間内に個別指導が実施されることとなります。

取消処分

  • 故意に不正又は不当な調剤を行ったもの
  • 故意に不正又は不当な調剤報酬の請求を行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な調剤をしばしば行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な調剤報酬の請求をしばしば行ったもの
戒告

  • 重大な過失により、不正又は不当な調剤を行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な調剤報酬の請求を行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な調剤をしばしば行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な調剤報酬の請求をしばしば行ったもの
注意

  • 軽微な過失により、不正又は不当な調剤を行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な調剤報酬の請求を行ったもの

※故意とは、自分の行為が一定の結果を生じることを認識し、かつ、この結果を生ずることを認容することをいいます。また「故意」の認定は、聴取内容や関係書類の客観的事実をもって判断されます。

※「重大な過失」とは、医療担当者として守るべき注意義務を欠いた程度の重いものをいい、「軽微な過失」とは、その程度の軽いものをいいます。

※「不正」とは、いわゆる詐欺、不法行為に当たるようなものをいい、「不当」とは算定要件を満たさない(調剤録に指導内容の記職が不十分である等)ものをいいます。

※「しばしば」とは、1回の監査において件数からみてしばしば事故のあった場合及び1回の監査における事故がしばしばなくとも監査を受けた際の事故がその後数回の監査にあって同様の事故が改められない場合をいいます。

聴聞手続

監査の結果、取消処分とすべきと判断されると、厚生労働省保険局長への取消に係る内議がなされます。その後、行政手続法の聴聞が厚生局の会議室などで実施されます。

聴聞手続に進むことになった場合、薬剤師側はその準備として、内議資料送付書、内議書、社会保険薬剤師療担当者監査調査書、聴取調書、患者調査書、患者個別調書、弁明書を閲覧・謄写を行います。謄写を許可するかどうかは各厚生局の裁量に委ねられています。

個別指導や監査では弁護士は代理人としての答弁はできませんが、聴聞では、保険薬剤師の代理人として答弁できます。厚生局側は10人以上が参加することもあり、手続きは原則非公開です。

不利益処分の原因事実が読み上げられた後、それについて保険薬剤師側は認否を述べ、意見や証拠書類の提出を行います。全く同じ内容の手続が保険薬局の開設者と保険薬剤師それぞれの立場で2回行われます。

厚生局側としては聴聞を実施する段階で既に取消処分にすることをほぼ確定させています。そのため、聴聞は形式的なセレモニーとして実施される傾向にあります。弁護士は意見書を提出して、患者個別調書の誤りを指摘したり、取消処分が相当でないことを主張します。特に患者個別調書の内容に誤りがあることは多いため、その点を指摘することが重要です。

聴聞の後、厚生局は地方社会保険薬剤師療協議会に諮問し、答申を得て、速やかに地方厚生局長が取消処分を決定し、取消処分の決定通知書が保険薬局へ送付され、通知書の到達時に取消処分の効力が発生します。聴聞期日から1か月ほどで処分の通知がされます。

通知・公表

戒告・注意の場合は公表されませんが、取消処分の場合は記者発表され、健康保険組合連合会、薬剤師会等へ通知されます。

経済上の措置

監査の結果、調剤報酬請求に不正・不当が認められた場合、当該事項について監査開始日の前月から5年前以降の分の5年間分について返還する必要があります。不当とされたものは実額を不正とされたものは1.4倍を返還しなければなりません。

薬局・薬剤師に対する厚生局による監査への対処法

以上によって厚生局による薬局への監査についてご理解いただけたかと思います。次に、監査対象になった場合にどのように対処すべきか見ていきましょう。

監査対象になると半数は取消処分になってしまいますが、取消処分にならないためにはどのような対処が良いのでしょうか。

以下、監査の対処法のポイントについて説明します。

個別指導の対策をしっかりと行うこと

前記のとおり、ほとんどの監査は、個別指導を経て行われます。つまり、個別指導から監査に移行しなければ取消処分にはなりません。そのため、取消処分を回避するための何よりの対策は個別指導の対策です。

悪質なケースでない限り、弁護士を付けて対策を行えば、多くのケースで監査への移行を避けることができます。

指示されたものは漏れなく持参する

個別指導とは異なり監査で持参するよう求められる書類は膨大です。監査の実施通知が届くのは監査日のわずか7日から10日ほど前ですから、監査の実施が見込まれる場合には、実施通知が届く前から準備を始めると余裕をもった準備ができます。

書類の修正、訂正をしっかりと行う

前記のとおり監査では聴取調書、患者個別調書が作成されて、処分が決定されます。そのため、ニュアンスも含めてこれらの書類の記載内容は慎重に確認し、必要があれば行政側に遠慮せずに修正を求めることが重要です。

感情的にならない

担当者による発言や高圧的な言動に苛立つこともあります。しかし感情的になってしまうと、冷静さを欠き、つい不利な発言をしてしまうことがあります。

常に冷静に落ち着いて対応することが大切です。

迷ったら発言しない

担当者の質問の意図がわからない、回答に自信がない、いかに回答すべきかわからないということもあります。

このように回答に迷った場合にそのまま回答してしまうと、その回答内容が不利になる恐れがあります。回答に迷ったときはまずは帯同している弁護士に相談しましょう。必要があれば弁護士は休憩を求め、会場の外で回答方針について打合せ、助言をしてくれます。

薬局・薬剤師への厚生局による監査で弁護士に依頼する?

以上説明をしてきましたとおり、監査において弁護士を付けると取消処分の可能性は低下します。最後に、監査において弁護士へ依頼するメリットや弁護士費用について整理しておきます。

監査で弁護士に依頼するメリット

厚生局が攻めてくる点を想定し、監査日における回答方針をしっかりと立てておくこと重要です。弁護士はこのような対策に協力してくれます。

次に、監査日における厚生局側の高圧的、強権的な進行を抑止できる点があります。
弁護士が帯同しているだけでも行政側の不適切な手続きの防止となり、十分な防御を可能としてくれます。

3点目として、適切な回答ができるようサポートしてくれます。保険薬剤師が回答に困っているときは隣で助言をしてくれたり、休憩を申し出て別室で回答内容について助言をしてくれます。このように弁護士が帯同することによって、不利な回答を防止し適切な回答ができる可能性が高まります。

弁護士費用

薬局への監査について、当事務所にご依頼をいただく場合の弁護士費用は以下のとおりです。

帯同のみ
  1. 個別指導 22万円
  2. 監査 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
個別指導対応
  1. 着手金 33万円
  2. 要監査にならずに終結した場合の報酬 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
監査対応
  1. 着手金 55万円
  2. 取消にならなかった場合の報酬 110万円

まとめ

以上、厚生局による薬局への監査について解説しました。

適切な対応がわからず、個別指導から監査に移行してしまったという薬剤師の方もおられます。そして、監査においては行政側のシナリオどおりに手続きがどんどん進んでしまい、取消処分となってしまったというケースもあります。

個別指導の段階から早期に弁護士が付いて、十分な対策を行えば監査への移行を回避できる可能性は高まります。また、監査に移行した後に弁護士が付いた場合であっても、早い段階であれば巻き返して戒告や注意にとどめられる可能性は高まります。

個別指導や監査の実施通知を受けた薬局の方は、一日も早く弁護士にまずは無料でご相談ください。

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