薬局に対する個別指導について弁護士が徹底解説!

最終更新日: 2024年03月10日

薬局に対する個別指導について弁護士が徹底解説!

地方厚生局による薬局への個別指導とは何をするのか?

保険調剤はできなくなるのか?

個別指導への準備や対応はどのようにすれば良いのか?

前触れもなくある日突然、個別指導の実施通知は送られてきます。制度については詳しく知らない方も多いので、研修程度に捉えてしまう方もおられます。また、不安を覚えながらもどう対処すれば良いのかわからず、そのまま指導日を迎えてしまう方もおられます。

個別指導は、適切に準備して対応をしなければ保険薬局の指定、保険薬剤師の登録が取り消されてしまう恐れのある手続きです。

今回は、薬局に対する個別指導に詳しい弁護士が個別指導について徹底解説します。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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薬局に対する個別指導とは?

薬局に対する個別指導は行政手続法の行政指導と法的に位置付けられます。個別指導には、以下の4種類があります。

  • 集団指導
  • 集団的個別指導
  • 個別指導
  • 新規個別指導

以下、それぞれについて簡単に説明します。

厚生労働省:指導・監査の流れ

集団指導

集団指導とは、新規指定を受けてから概ね1年以内に、全ての薬局を対象として実施される指導です。また、調剤報酬改定時や保険薬局の指定更新時、保険薬剤師の新規登録時にも指導の目的、内容を勘案して対象者が選定され、実施されます。

集団指導は、保険調剤や調剤報酬請求事務について講義方式で行われます。出欠の確認はありますが、他の3つの指導とは異なり、欠席についてペナルティはありません。

集団指導によって取消処分になることはありませんので、特に準備や対策は必要ありません。

集団的個別指導

集団的個別指導とは、レセプト(調剤報酬明細書)1件あたりの平均点数が高い薬局を対象に実施される指導です。

以下2点を要件として指導対象が選定されます。

  • レセプト1件当たりの平均点数が都道府県の平均点数より1.2倍(病院は1.1倍)を超え
  • 前年度及び前々年度に集団的個別指導又は個別指導を受けた保険薬局を除き、類型区分ごとの保険薬局の総数の上位より概ね8%の範囲

平均点数は自身の薬局を管轄する地方厚生局のホームページに掲載されています。また、開設者・管理者が電話で問い合わせると、地方厚生局は自身の薬局の点数について回答してくれます(医療指導監査業務等実施要領(指導編)P55)。

集団的個別指導は、講習方式で行う集団部分と、少数のレセプトに基づき面接懇談方式で行う個別部分で構成されることになっていますが、現在は、約2時間の集団部分だけが実施されるのが通例です。

集団指導は前記のとおり欠席をしてもペナルティはありませんが、集団的個別指導は正当な理由なく拒否すると、個別指導の対象となってしまいます。欠席の正当理由は厳しく判断されますので、必ず出席すべきです。集団的個別指導が実施されたそして、集団的個別指導を受けた翌年度も高点数であった場合には、翌々年度に個別指導が実施されます。

集団的個別指導も通例どおり集団部分のみであればきちんと出席さえすれば良く、集団指導と同様、特に準備や対策は必要はありません。

都道府県個別指導

以上のとおり、集団指導と集団的個別指導は恐れる必要はありません。取消処分の恐れがあり、入念な準備が必要となるのは都道府県個別指導と新規個別指導です。

都道府県個別指導の対象として選定されるのは下記の場合です。都道府県個別指導は、患者や元従業員からの情報提供(下記1点目)が端緒となるケースが多いようです。

都道府県個別指導は正当な理由なく拒否すると、監査の対象となります。

  • 支払基金等、保険者、被保険者等から調剤内容又は調剤報酬の請求に関する情報の提供があり、都道府県個別指導が必要と認められた保険薬局
  • 個別指導の結果、「再指導」であった保険薬局又は「経過観察」であって、改善が認められない保険薬局
  • 監査の結果、戒告又は注意を受けた保険薬局
  • 集団的個別指導の結果、指導対象となった大部分の調剤報酬明細書について、適正を欠くものが認められた保険薬局
  • 集団的個別指導を受けた保険薬局のうち、翌年度の実績においても、なお高点数保険薬局に該当するもの(ただし、集団的個別指導を受けた後、個別指導の選定基準のいずれかに該当するものとして個別指導を受けたものについては、この限りでない。)
  • 正当な理由がなく集団的個別指導を拒否した保険薬局
  • その他特に都道府県個別指導が必要と認められる保険薬局

新規個別指導

新規個別指導とは、新規指定から概ね6か月経過後1年以内に実施される指導です。

新規個別指導は教育的指導ですが、同じく新規指定後に実施される集団指導とは異なり、指導内容によっては監査に移行し、保険薬局の指定、保険薬剤師の登録を取り消される恐れがあります。開業したばかりで保険調剤のルールに疎く、開業早々に取消処分を受けて廃業に追い込またケースもありますので要注意です。

薬局に対する個別指導の流れと結果

次に、薬局に対する個別指導の流れや結果について見ていきましょう。

個別指導の流れ

薬局に対する個別指導の流れは以下のとおりです。

実施通知~個別指導日

個別指導日の1か月前に実施通知が書面で届きます。そして、個別指導日の1週間前には20人分、前日の正午までに10人分の指導対象患者の氏名が通知されます。

個別指導日当日

個別指導は地方厚生局の会議室で行われます。厚生局と都道府県の職員が5人前後と薬剤師会から派遣される立会薬剤師が参加します。

原則として、個別指導日の6か月ほど前の連続した2か月分の調剤報酬明細書について面接懇談方式で、つまり口頭の質疑応答で行われます。指導時間の長さは2時間です。

事前に厚生局から持参するよう指示されていた書類が不足していたり、指導対象として指定されていた患者の保険調剤等について十分な回答がなされなかった場合や、調剤内容などに不正・不当の疑義が生じた場合などには、2時間以内に指導を終えることができないと判断され、個別指導を中断され、後日再開されることになります。

また、個別指導する中で、調剤内容や調剤報酬請求について明らかに不正又は著しい不当が疑われる場合には、個別指導が中止され、必要に応じて患者調査を実施の上、監査に移行されます。

指導担当者は、個別指導が終了すると、保険薬局に対し、口頭で指導の結果を説明します。

留意点
  1. 弁護士は委任状を提出して帯同できますが、代理人として薬剤師の代わりに回答することはできません。
  2. 薬剤師自身による指導内容の確認が目的であると説明すれば、録音は認められます(医療指導監査業務等実施要領(指導編)P68)。必ず録音します。
  3. 厚生局に診療録のコピーをする権限はなく、保険薬局に応じる義務はありません。不利な材料を見つける機会を提供するだけですから、決してコピーに応じてはいけません。

個別指導日以降

原則として個別指導日から1か月以内(遅くとも概ね2か月以内)に、地方厚生局から文書によって個別指導の結果と指導後の措置について保険薬局に通知されます。

そして、通知を受けてから1か月以内に保険薬局は改善報告書を提出します。改善報告書は対象事項について簡潔に「改善した」と記載するだけで足ります。

指導対象となったレセプトのうち返還が生じるものと、返還事項に係る個別指導月前1年分の全患者のレセプトについて、自主点検の上、返還をします。

新規個別指導と都道府県個別指導の比較

対象患者の通知 新規個別指導 指導日の1週間前に10名分を通知
個別指導 指導日の1週間前に20名分、前日に10名分を通知
指導時間 新規個別指導 1時間
個別指導 2時間
自主返還 新規個別指導 対象レセプト分のみ
個別指導 指導月以前1年分
正当な理由なく拒否 新規個別指導 個別指導へ
個別指導 監査へ

 

個別指導の結果

前記のとおり、個別指導日から通常は1か月ほどで地方厚生局より指導結果の通知が届きます。指導結果は、「概ね妥当」、「経過観察」、「再指導」、「要監査」の4つのうちいずれかです。もっとも、「要監査」の通知は通常はありません。なぜなら、監査が必要と判断されると患者調査、個別指導が中止、監査実施決定へと進むからです。

4つのうちいずれの措置とするかについては、調剤内容及び調剤報酬請求に対する理解の程度、請求根拠となる記録の状況、請求状況等を確認し、以下4つの観点を中心に、総合的に判断されます(医療指導監査業務実施要領(指導編)P70)。

4つの観点
  1. 調剤が医学的に妥当適切に行われているか。
  2. 保険調剤が健康保険法や療養担当規則をはじめとする保険調剤の基本的ルールに則り、適切に行われているか。
  3. 調剤報酬の請求の根拠がその都度、調剤録等に記録されているか。
  4. 保険調剤及び調剤報酬の請求について理解が得られているか。

 

概ね妥当

指摘事項の内容及び返還事項が軽微である等、上記4つの観点いずれにおいても特筆すべき問題点が認められない場合

 

もっとも、「概ね妥当」の結果を得ることは難しいため、「経過観察」の結果を目指すことが現実的です。

経過観察

上記4つの観点のうち、問題が認められる観点はあるが多岐にわたるものではなく、かつ、内容が重大でない場合
※個別指導時のやり取りで調剤内容及び調剤報酬の請求について理解が得られているかを考慮して判断されますから、事前準備が重要となります。

 

改善報告書の提出後の数か月問、レセプト又はその他必要に応じ保険薬局から提出を求める書類により改善状況を厚生局に確認され、改善が認められないと次年度の個別指導の対象となります。

 

しっかりとチェックされていますので油断は禁物です。

再指導

上記4つの観点のうち、多岐にわたる観点において問題が認められる、又は、重大な問題が認められる場合

 

・次年度の個別指導の対象となります。
・不正又は不当が疑われ、患者からの聴取が必要と考えられる場合は、速やかに患者調査を行い、その結果を基に当該保険薬局の再指導を行います。患者調査の結果、不正又は著しい不当が明らかとなった場合には監査が行われます。

要監査

指導の結果、「監査要綱」に定める監査要件に該当すると判断した場合です。

 

・後日速やかに監査が行われます。なお、前記のとおり、個別指導中に調剤内容又は調剤報酬の請求について、明らかに不正又は著しい不当が疑われる場合は、指導が中止され、監査に移行します。

 

薬局への個別指導の対処法

以上の説明で、薬局に対する個別指導の基本についてご理解いただけたかと思います。それでは実際に個別指導の実施通知を受けらどのような準備、対策をすれば良いのでしょうか。以下見ていきましょう。

個別指導は十分な事前準備を行えば、多くのケースでは監査は回避できますので、とにかく事前準備が重要です。

実施通知を受けた後の準備

個別指導の対象になった場合には必ず理由があります。選定理由がわかればその点について重点的に対策が取れますので、まずは個別指導の対象として選定された理由について、前記の選定理由を見ながら推測します。

個別指導の対象として選定されるきっかけとして多いのは、①レセプト1件あたりの高点数か②元従業員や患者などの第三者からの情報提供です。

集団的個別指導を受けたことがあるのでしたら、まずはレセプトの高点数が選定理由ではないか検討しましょう。高点数によって個別指導の対象とならないためには、支払基金から返戻されたレセプトに付いた付箋の内容をよく確認して、同じ過ちを繰り返さないようにすることが大切です。

高点数が選定理由とは考えられない場合には、揉めてやめた従業員がいなかったか、患者から不審なカルテ開示の請求がなかったかなどを思い出し、第三者からの情報提供を疑います。情報提供者を推測できれば、厚生局からの指摘を想定して、的確な回答を準備することができます。

もっとも、個別指導の選定理由を突き止められないケースも多くあります。

そこで、個別指導日の6か月ほど前の連続する2か月のレセプトが指導対象とされますから、指導日の1週間前に指定された20名の患者全員が来訪している連続した2か月を特定し、その2か月の20名の調剤録を確認することで指摘事項を推測し、それに対する回答内容を準備します。

指導日当日の注意点

個別指導の当日は以下の点に注意しましょう。いずれも当たり前のように思われるかもしれませんが、これらを守れていない方も多く、これらを徹底するだけでも監査移行の可能性は相当低下します。なお、後ほど改めて述べますが、個別指導には弁護士を帯同させましょう。

指示されたものは漏れなく持参する

当たり前ではありますが、持参するよう指示されていた書類は漏れなく持参しましょう。不足があると1回の指導で終わらず、次回に続行になる可能性が高まります。このように個別指導が続くと粗探しをされて監査に移行するリスクが高まります。

余裕をもって準備を始めて、指示されたものは漏れなく持参しましょう。

感情的にならない

厚生局の担当者から高圧的に咎めるような発言をされることもあります。それに対して感情的になってしまうと、冷静さを欠いて不用意な回答をしてしまい、不利な判断の材料を与えてしまうことがあります。

終始落ち着いて、よく考えた上で簡潔に回答することがポイントです。

迷ったら発言しない

個別指導では複数人の担当者を前にして2時間も質疑応答がなされます。慣れないことで、肉体的にも精神的に相当疲れます。そのため、指導の後半になってくると油断して不利な回答をしてしまうこともありますが、質問をよく咀嚼して、迷ったら回答しないことが大切です。

休憩を申し出ることもできますので、どのように回答すべきか迷ったら、トイレや控室で冷静になってどのように回答すべきか考えるようにしましょう。

個別指導をクリアするためのポイント

過去に実施された薬局に対する個別指導で指摘されることが多かった事項について、厚生労働省のホームページや各地方厚生局のホームページに掲載されています。過去になされた指摘事項を参照しつつ、自身の薬局も該当する点がないか精査して、指導日当日に指摘を受けた場合にどのように回答するべきか検討しておくと良いでしょう。

以下、薬局に対する指摘事項の具体例をいくつか見ていきましょう。

処方箋

薬剤師は、処方箋について疑わしい点があるときは、医師、歯科医師にその点を照会することを義務づけられています(薬剤師法第24条)。

指摘例

  • 保険医の押印がない処方箋、使用期間の切れた処方箋を受け付けている。
  • 用量・用法の記載がない又は不適切な処方箋について疑義照会をしていない。
  • 電送された処方内容と患者が持参した処方箋の記載内容が同一であることを確認していない。

調剤技術料

指摘例

  • 内服薬について1剤とすべきところを2剤としている。
  • 治療上の必要性が認められない場合に一包化加算をしている。
  • 加算の対象とならない日又は時間帯において調剤を行った場合に夜間・休日等加算を算定している。

薬剤服用歴

    指摘例

  • 薬剤服薬歴の記録を最終記入日から起算して3年間保存していない。
  • 二重線で抹消したのではなく、修正テープで修正している。
  • 同一患者の薬剤服用歴の記録について、必要に応じて直ちに参照できるよう保 存・管理していない。

薬剤情報提供文書

    指摘例

  • 個々の患者に応じて不要な部分を抹消するなどして提供していない。
  • 情報提供を行った保険薬剤師の氏名が記載されていない。
  • 効能・効果について誤解を招く表現になっている。

かかりつけ薬剤師指導料

    指摘例

  • 患者の同意を得た回に算定している。
  • かかりつけ薬剤師以外の保険薬剤師が服薬指導等を行った場合に算定している。
  • 当該薬局に複数回来局していない患者から同意を得ている。

薬局への個別指導で弁護士に依頼するメリットと費用

弁護士なんかをつけたら、かえって後ろめたいところがあるのではないかと疑われないか、厚生局側の心証を害して不利な判断をされるのではないかと不安に思う薬剤師の方もおられるかもしれません。

しかし、近時の個別指導では弁護士が帯同することは珍しくなくなりました。現に、厚生局のマニュアルにも弁護士が帯同する場合の手続きについて記載されていますので、上記のような心配は杞憂です。むしろ取消処分という致命的な結果になるリスクを考えれば、弁護士を付けずに対応することはあまりにも危険です。

以下では、薬局への個別指導で弁護士をつけるメリットと弁護士費用について順番に説明します。

個別指導で弁護士に依頼するメリット

まず、弁護士は、当該薬局がなぜ個別指導の対象となったのかその理由を推測し、指導日当日にどのような指摘を受け、それに対してどのように回答するべきか準備する協力をしてくれます。薬局への個別指導を無事クリアできるかどうかは、事前の十分な準備にかかっていると言って間違いありません。

2点目として、個別指導の際に厚生局側の高圧的、強権的な言動、進行を防ぐことができます。複数人の担当者を相手に一人で対峙することは容易ではありませんし、弁護士が同席しているだけで厚生局側の対応は丁寧になります。

3点目として、厚生局側の担当者による詰問や誘導尋問によって不利な供述をとられてしまうことを防ぐことができます。帯同した弁護士は薬剤師の横に座り、適切に回答ができるよう助言したり、そのまま回答しては危険と判断したときは休憩を挟み打合せをするなどして、監査への移行を阻止します。

弁護士費用

最後に、当事務所の弁護士費用について確認をしてきましょう。

帯同のみ
  1. 個別指導 22万円
  2. 監査 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
個別指導対応
  1. 着手金 33万円
  2. 要監査にならずに終結した場合の報酬 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
監査対応
  1. 着手金 55万円
  2. 取消にならなかった場合の報酬 110万円

まとめ

以上、薬局に対する個別指導に詳しい弁護士が個別指導について解説しました。

何を準備すれば良いのかわからず徒に日々が過ぎてそのまま個別指導当日を迎え、あっという間に監査移行、取消処分という結果になってしてしまうケースがあります。

薬局、薬剤師に対する個別指導は十分な準備、対策をすればクリアできるものです。そのため、もしも個別指導の対象となった場合には、一日も早く準備、対策を開始すべきです。

地方厚生局から個別指導の実施通知を受けた薬局の方は、一日も早く個別指導に詳しい弁護士にまずは無料でご相談ください。

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