厚生局による病院・クリニックへの監査について弁護士が徹底解説!

最終更新日: 2024年03月10日

厚生局による病院・クリニックへの監査について弁護士が徹底解説!

厚生局から監査実施通知が来た!
監査にはどのような準備をすれば良いのか?
監査をされたら保険医療はできなくなるのか?

監査を受ける多くの場合はその前に個別指導を受けていますが、稀に個別指導を受けずにいきなり監査の実施通知を受ける場合もあります。

いずれにしても、厚生局から監査を受ける場合、事態を相当深刻に受け止める必要があります。監査を受けるケースのうち半分は保険医療機関の指定・保険医の登録の取消処分を受けているのです。

今回は、地方厚生局による監査について詳しい弁護士が、監査の制度やその対処法について解説します。

個別指導・監査に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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厚生局による病院・クリニックへの監査とは

まず、厚生局による監査とはどのような制度であるのか、監査に至るまでの流れ、そして、どのような場合に監査対象として選ばれてしまうのかについて見ていきましょう。

個別指導と監査の違い

厚生局による個別指導は保険診療や診療報酬請求について周知徹底するという教育的手続です。

一方、監査は、保険診療の内容や診療報酬の請求について不正・不当がある場合に、保健医療機関の指定や保険医の登録について取消処分、戒告又は注意の行政上の措置を念頭に行われる手続きです。

令和3年に保険医療機関(医科)で個別指導の対象となったのは307件、監査対象となったのは20件、取消処分・取消処分相当となったのは8件でした。このように監査対象となると約半数が取消処分・取消処分相当となります。

厚生局による監査実施までの流れ

厚生局による個別指導において不正・不当が見受けられ監査の必要性があると判断された場合、個別指導が中止されます。

そして、厚生局はレセプトなどの書面調査に加えて、患者等への実地調査を行います。その結果、監査を実施すべきと判断した場合に、個別指導は中止され、病院・クリニックに対して監査実施通知がなされ、監査手続が実施されます。

個別指導が始まってから1年以上経過してから監査実施通知が来ることもありますので、もう解決したのかと思っていたら監査の実施通知が来たということもあります。

このようにほとんどのケースでは個別指導から監査に移行しますが、刑事事件で有罪判決が出たことを厚生労働省が報道で知った場合に刑事裁判で不正請求の証拠は揃っているため最初から監査にあることもあります。

監査の結果、保険医療機関の指定や保険医の登録に対する取消処分がなされた場合、5年間は保険診療ができなくなってしまいます(健康保険法65条3項1号)。

監査の選定対象

それでは、どのような場合に監査の対象とされてしまうのでしょうか。以下の場合に監査対象となります。

  • 診療内容に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  • 診療報酬の請求に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  • 度重なる個別指導によっても診療内容又は診療報酬の請求に改善が見られないとき
  • 正当な理由がなく個別指導を拒否したとき

診療内容・診療報酬請求の不正・不当の例

上記のとおり、診療内容や診療報酬請求に不正・不当があった場合に監査の対象となります。

診療内容の不正・不当とは専ら療養担当規則に反する行為です。例えば、診療録の未記載や不実記載、一部負担金の未収受や受領額の不当、非保険医や非医師に保険診療を行わせたなどの行為がこれにあたります。

診療報酬の不正請求には以下のような類型があります。

架空請求 実際には診療していないのに請求をした場合
付増請求 診療行為の回数、日数、数量等を実際よりも多く請求した場合
振替請求 実際に行った診療内容よりも保険点数の高い他の診療内容に振り替えて請求した場合
二重請求 同一の診療について患者から自費で料金を受領し、保険でも請求した場合
重複請求 請求済みのものを再度請求した場合
その他 施設基準を満たさない請求、無資格者に診療行為をさせた場合の請求、業務上の傷病についての保険請求、保険診療と認められないものの請求など

厚生局による病院・クリニックへの監査と事前調査

行政側のマニュアルには留意点として、監査は取消しありきで行うものではないと記載されていますが、地方厚生局は取消しの結論を得るべく準備を始めるのが現実です。

地方厚生局は監査の必要があると判断したときは、まずは事前調査をして、その後、監査を実施します。以下順番に見ていきましょう。

事前調査

厚生局はレセプトによる書面調査と患者等に対する実地調査を行います。

患者調査は、対象となる保険医療機関がわからないよう配慮するようにと行政側のマニュアルには記載されています(医療指導監査業務等実施要領(監査編)P14)。しかし、どの医療機関であるのか患者には察しがつきますので、医療機関の評判に傷がつく恐れがあります。

担当者は、どのような治療を受け、どのような薬をもらったか、一部負担金の支払などについて患者から聴取し、その内容をまとめた患者調査書に患者の署名をもらいます。担当者による誘導によって厚生局側のシナリオに沿った供述を得て調査書にまとめられる恐れがあります。

患者調査は任意の協力を求めて実施されるもので、調査に協力しない方も多いです。ただし、患者調査が実施されていない患者も監査の対象となり、関係書類から不正が認定されることも多くあります。

指導・監査・処分取消訴訟支援ネット:医療指導監査業務等実施要領(監査編)

監査の流れ

事前調査を踏まえて監査を実施すべきと判断された後、地方厚生局から保険医療機関に対して監査実施通知がなされます。

監査実施通知は、監査実施日の1週間から10日前になされ、正当な理由なく欠席すると取消処分となります。監査実施日は2、3か月おきに5回から10回ほど開かれるケースが多いです。

監査当日は、午前9時半頃から17時頃まで休憩を挟みながら丸一日行われます。厚生局側は7,8人が参加しますが、質問をしてくる担当者は2,3人でその他は書類の精査を担当してます。

担当者からは診療内容、診療報酬請求について聴取され、聴取内容については問答形式の聴取調書が作成され、内容に間違いないかを確認の上、署名捺印を求められます。

また、患者に対する診療について患者個別調書が作成されます。不正・不当請求の内容、点数、金額を記載されており、その内容に誤りがないか十分に確認をして、弁明欄へ弁明を記載します。

弁明欄は小さいので書ききれない場合には欄外や裏面に記載することも可能です。内容や金額に誤りがあるケースも多いため、担当者から急かされたとしても、診療録やレセプトと突き合わせて慎重にチェックすることが重要です。

厚生局はこれらの聴取調書や患者個別調書などの資料を踏まえて、どのような行政上の措置を行うべきか判断します。

留意点
  1. 弁護士は委任状を提出して帯同できますが、保険医の代わりに答弁することはできません。
  2. 保険医自身による指導内容の確認が目的であると説明すれば、録音は認められます(医療指導監査業務等実施要領(監査編)P28)。必ず録音します。
  3. 個別指導とは異なり、厚生局には診療録、関係書類のコピーをする権限があります(健康保険法第78条)。

厚生局による病院・クリニックへの監査の結果

一連の監査を経て最終的に行政上の措置が決定されます。

監査の結果

取消処分の場合には、次の聴聞手続に進みますが、戒告、注意の場合には手続はそれで終了し、その後一定期間内に個別指導が実施されます。

取消処分

  • 故意に不正又は不当な診療を行ったもの
  • 故意に不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
戒告

  • 重大な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
  • 重大な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療をしばしば行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求をしばしば行ったもの
注意

  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療を行ったもの
  • 軽微な過失により、不正又は不当な診療報酬の請求を行ったもの

※故意とは、自分の行為が一定の結果を生じることを認識し、かつ、この結果を生ずることを認容することをいいます。また「故意」の認定は、聴取内容や関係書類の客観的事実をもって判断されます。

※「重大な過失」とは、医療担当者として守るべき注意義務を欠いた程度の重いものをいい、「軽微な過失」とは、その程度の軽いものをいいます。

※「不正」とは、いわゆる詐欺、不法行為に当たるようなものをいい、「不当」とは算定要件を満たさない(診療録に指導内容の記職が不十分である等)ものをいいます。

※「しばしば」とは、1回の監査において件数からみてしばしば事故のあった場合及び1回の監査における事故がしばしばなくとも監査を受けた際の事故がその後数回の監査にあって同様の事故が改められない場合をいいます。

聴聞手続

監査の結果、取消処分に該当する事実が認められた場合、厚生労働省保険局長への取消に係る内議がなされます。その後、行政手続法の聴聞が実施されます。厚生局の会議室などで実施されます。

予め、内議資料送付書、内議書、社会保険医療担当者監査調査書、聴取調書、患者調査書、患者個別調書、弁明書を閲覧して聴聞の準備を行います。コピーをする権利はなく許可するかどうかは各厚生局の裁量に委ねられています。

聴聞においては、弁護士は代理人として出席することができ、保険医に代わって発言することが可能です。原則非公開です。

厚生局側は10人以上が参加することもあります。不利益処分の原因事実が読み上げられた後、それについて認否を述べ、また意見や証拠書類の提出を行います。同じ手続が保険医療機関の開設者と保険医それぞれの立場で2回実施されます。

厚生局側は聴聞を実施する時点で取消処分をほぼ決定しているので、聴聞は形式的なセレモニーとして実施する傾向があります。弁護士は意見書を提出して、患者個別調書の誤りを指摘したり、取消処分が相当でないことを主張します。特に患者個別調書の内容に誤りがあることは多いので、その点を指摘することが重要です。

聴聞後、厚生局は地方社会保険医療協議会に諮問し、答申を得て、速やかに地方厚生局長が取消処分を決定し、取消処分の決定通知書が送付されます。通知書の到達時に取消処分の効力が発生します。概ね聴聞期日から1か月ほどで処分の通知がされます。

通知・公表

取消処分は記者発表されます。戒告・注意の場合は公表はされません。健康保険組合連合会、医師会等へ通知されます。

経済上の措置

監査の結果、診療報酬請求に不正・不当が認められた場合、当該事項について監査開始日の前月から5年前以降の分の5年間分について返還する必要があります。不当とされたものは実額を不正とされたものは1.4倍を返還しなければなりません。

厚生局による病院・クリニックへの監査の対処法

以上、地方厚生局による監査について見てきました。それでは、監査の対象になった場合にどのような対処をすれば良いのでしょうか。

監査の対象となると半分は取消処分を受けますが、取消処分を受けない半分に入るためにはどのような対処をすれば良いのでしょうか。

ここでは監査の対処法のポイントについて説明します。

個別指導の対策をしっかりと行うこと

監査が実施されるケースのほとんどは、個別指導から監査への移行です。そのため、取消処分を受けないためには、まずは監査に移行しないよう個別指導への対策をしっかりと行うことが最重要です。

悪質な故意の不正でなければ弁護士の協力を得てしっかりと準備、対策を行えば個別指導から監査への移行を回避できる可能性は高くなります。

指示されたものは漏れなく持参する

事前に指示されていた書類は漏れなく持参しましょう。監査で持参を指示される書類は個別指導のときとは異なり膨大です。監査実施通知から実施日までは10日ほどしかないため、監査が実施されるかどうか見当をつけて余裕をもって準備を始めることが重要です。

書類の修正、訂正をしっかりと行う

監査手続において作成される聴取調書、患者個別調書は処分を決めるための重要な根拠資料となります。そのため、記載されているニュアンスも含めて慎重に確認して、必要があれば遠慮せずに修正をもとめることが重要です。

感情的にならない

担当者から高圧的に咎められるような発言を受けることもあります。しかし、それに対して感情的になってしまうと、つい不用意な回答をしてしまい、それが藪蛇になったり、不利な解釈をされてしまう恐れもあります。

常に冷静に落ち着いて回答することが重要です。

迷ったら発言しない

監査は朝から夕方まで丸一日実施され、しかもそれが期間を開けて数回実施されますので精神的にも肉体的にも疲弊します。その結果、油断をしてつい言うべきではないことを言ってしまうこともあります。

そのため、監査の際は発言をする前に質問をよく理解し、回答に少しでも迷ったときは帯同している弁護士に相談し、必要があれば休憩を申し出て別室で弁護士と打ち合わせたうえで回答するような慎重な姿勢が重要となります。

厚生局による病院・クリニックへの監査で弁護士に依頼するメリットと費用

ここまで説明しましたとおり、監査においても弁護士の帯同が認められています。最後に、監査において弁護士に依頼するメリットや弁護士費用について説明します。

監査で弁護士に依頼するメリット

まず、監査の対策で重要なのは、厚生局が問題視している点を想定して、監査日における質問に対する回答の準備をしっかりと行うことです。弁護士はこのような準備に協力してくれます。

次に、監査実施日における厚生局側の高圧的な追及を防止することができる点があります。
帯同した弁護士は、警察による尋問かと思われるような追及や十分な弁解の時間を与えない不適切な手続きを阻止して、十分な防御を可能としてくれます。

3点目として、適切な回答ができるようサポートし、不利な回答を防止できます。前記のとおり、長時間の監査の中で不用意な発言をしてしまうことがあります。弁護士が帯同することで、そのような不利な発言を防止して取消処分の可能性を低下させます。

弁護士費用

当事務所の弁護士費用は以下のとおりです。

帯同のみ
  1. 個別指導 22万円
  2. 監査 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
個別指導対応
  1. 着手金 33万円
  2. 要監査にならずに終結した場合の報酬 33万円
  3. ※1期日で終わらなかった場合は、以降1期日につき11万円
監査対応
  1. 着手金 55万円
  2. 取消にならなかった場合の報酬 110万円

まとめ

以上、厚生局による病院、クリニック(診療所)への監査に詳しい弁護士が解説しました。

初めてのことでいかに対応するべきかわからず個別指導の対応に失敗して監査に移行してしまう方は多くおられます。そして、監査においても行政側に言われるがまま書類にサインをして、そのまま取消処分となってしまったという方もおられます。

本来は個別指導の段階から十分な対策をとれば取消処分に至る可能性は相当低下します。監査に移行してからであっても最初から弁護士に依頼をすれば取消処分を回避できる可能性は高まります。

厚生局から個別指導の通知を受けたり、監査実施通知を受けた病院、クリニックの方は、一日も早く弁護士にまずは無料でご相談ください。

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