婚前契約に定める離婚後扶助料について

最終更新日: 2022年02月21日

最近は「主夫」や男性の育児休業など、かつては専ら女性が担ってきた仕事について男性が担当する夫婦も増えてきましたが、女性が結婚を機に会社を退職して家庭に入る、妊娠・出産を機に退職して専業主婦になるというカップルはやはり多いです。

そのような場合、数年後、十数年後に離婚することになると、キャリアにブランクがありますので、すぐに就職をして婚姻中と同程度の水準の生活を送ることは困難でしょう。

このように婚姻中、家事育児の仕事をして家庭、夫を支えてきた女性が、離婚によって経済的苦境に立たされることは不公平とも思えます。このような不公平を是正する手段として、離婚後、妻の生活が安定するまでの一定期間は夫が妻に対して扶助料(生活費)を支払うことが考えられます。

今回は、このような離婚後扶助料について、アメリカのalimonyという制度や日本の学説を参考にしつつ、婚前契約の内容に定めることを考えてみたいと思います。

婚前契約に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

アメリカの離婚後扶助料

かつては離婚後、受給者が再婚したとき又は一方が死亡したときまで支払い義務が続く制度が一般的でしたが、1970年代以降は、経済的に自立するための訓練、教育を受ける期間、新しい生活に順応するための期間だけ支払い義務を課す制度が一般的となりました。

支払義務が課される期間は婚姻期間に比例して長くなり、婚姻期間の半分から3分の1程度の期間とされることが多いようです。

ただし、いかなる場合にも離婚すれば必ず支払義務が課されるものではなく、一方配偶者に必要性があり、かつ他方配偶者にその支払能力があることが条件となります。

支払金額は、婚姻期間の長さ、離婚時の財産分与金額などの諸事情を考慮して裁判所が決定します。

アメリカでは、離婚後扶助料の支払いを免除する婚前契約の効力が制限されることも多く、離婚後の生活保障が手厚く保護されています。

日本における離婚後扶助料

日本においては離婚後扶助料について法律に規定はありませんが、財産分与のなかで、扶養的財産分与としてこのような離婚後扶助料が認められることがあります。

しかし、現在の裁判実務においては、高齢・病気などによって自活能力が非常に乏しいといった例外的場合でなければ扶養的財産分与が認められることは稀で、仮に認められたとしても支払期間は短く、かつその金額も低額なものにとどまっています。

学説では、婚姻によって喪失した稼働能力に対する「補償」、婚姻によって減退した所得能力の回復に必要な費用の「補償」を財産分与の内容に含めるべきであるという見解も有力になっています。

婚前契約に定める離婚後扶助料

以上のとおり、日本においては法制度上、離婚後のサポートはかなり手薄なのが現状です。

仕事を辞め、家事・育児に専念して夫を支えてきたにもかかわらず、離婚によって社会復帰が容易でないことにより経済的に困窮するというのは酷かもしれません。

また、夫婦関係は実質的に破綻しているにもかかわらず、離婚後の生活が不安で、離婚に踏み切れないという方もしばしばみられるところです。

そこで、離婚することになった場合に妻の社会復帰をサポートするために婚前契約において離婚後扶助料を定めることは検討されてよいでしょう。

離婚後扶助料を婚前契約に定める場合、その給付期間、給付金額又は算定方法について規定することになります。

給付期間は、例えば1年間と一律に定めることも、婚姻期間の2分の1や3分の1という形で定めることもできます。給付金額については定額にする方法、夫の月額手取収入の一定割合とする方法、婚姻費用の算定方法にならって裁判実務で利用される標準的算定方式によって算定する方法も考えられます。

また、離婚原因が夫の不貞行為や家庭内暴力などにある場合には、離婚について夫に責任がありますので、給付期間、給付金額についてそれ以外の場合の1.5倍とするなど増加させる規定をおくことも考えられます。

最後に

以上、離婚後扶助料についてご説明しました。

現代は男女平等で、結婚後も仕事を続ける女性が多いですが、専業主婦となる女性も多くいます。家庭内での家事・育児という仕事は家庭外での仕事と同様に重要なものなのに、専業主婦となることによって離婚後の生活が厳しくなることはアンバランスかもしれません。

法制度が追い付いていない現状において、婚前契約はこのようなアンバランスを正すことができるツールです。婚前契約を作成する際には是非、離婚後扶助料を盛り込むことを検討していただきたいと思います。

婚前契約に強い弁護士はこちら

婚前契約のコラムをもっと読む