婚前契約が無効となる場合

婚前契約が無効となる場合

2019年10月08日

1 はじめに

かつてはアメリカの裁判所においても離婚時の条件を定める婚前契約は無効と判断されていました。その後、そのような婚前契約も有効であると裁判所が判断し、現在ではむしろ、裁判所は婚前契約について家庭内の平和を促進する契約であると考えるようにまでなりました。

さて、婚前契約は、当事者間で自由にその内容を決めることができますが、一切の制限がないわけではなく、公序良俗に反する内容などは無効となります。

そこで今回は、婚前契約において、どのような規定が無効になるのかご説明します。

 

2 離婚しやすくする婚前契約

法律には離婚できる場合が規定されています。この法律で定められた離婚原因以外の離婚原因を定める婚前契約、例えば、別居期間が半年続いたときには相手は離婚に応じなければならないという婚前契約は無効となります。

 

3 離婚しにくくする婚前契約

法律に定められた離婚原因を排除する、制限する婚前契約は無効です。法律に定められた離婚原因は、そのような事情がある場合には婚姻関係を続けさせるのが他方に酷な場合ですから、それを排除、制限して婚姻関係を強いるのは妥当ではないでしょう。

例えば、3年間別居が続いた場合にのみ離婚するという内容の婚前契約が考えられますが、このような婚前契約は無効です。

 

4 日常生活の言動に関する婚前契約

家事分担、子供の教育方針など結婚生活における日常の行動や振る舞いに関する規定は、無効ではありませんが、裁判によって強制することはできません。このような日常生活に関する取り決めの具体例としては、以下のようなものが考えられます。

・子供のしつけや教育方針
・性行為を週に1回はする
・住む地域
・夫の母と同居する
・前妻との間の子とは一緒に住まない

日常生活の言動に関する規定を婚前契約に入れることの妥当性については、アメリカでも争いがあります。

このような規定が含まれていると契約当事者が法的拘束力を持たせることを前提に締結したことに疑義が差しはさまれる可能性を指摘して、このような規定は婚前契約には入れるべきではないという考えがあります。

他方、慰謝料や財産分与など法的拘束力のある条項とこれらの条項の法的効力は分けて考えることができるので問題はなく、むしろ円滑な夫婦関係を維持することに寄与するとしてこのような規定を婚前契約に入れることを推奨する考えもあります。

 

5 夫婦の扶養義務を限定する婚前契約

法律上、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています(民法第752条)。そのため、夫婦間の扶養義務を否定するような婚前契約は無効となる可能性があります。

では、夫が妻に対して年間300万円を支払い、専業主婦である妻はその金額の中で生活しなければならないという婚前契約は有効でしょうか。

例えば、夫の年収が600万円であれば、その半分が妻に支払われているわけですから、不公平ともいえず有効と考えることもできそうですが、長い結婚生活の中で夫の年収が増えて3000万円になることもあるでしょう。

そう考えると、夫の年収の増加にも関わらず妻の生活水準は一定という婚前契約は妥当ではなく、扶養義務を300万円の限度に限定しているという点では、夫婦間の扶養義務を否定しているので無効となる可能性があります。

一方、別居後の婚姻費用の分担請求権を放棄する婚前契約は、夫婦の扶養義務を否定することになり、無効とならないでしょうか。

お互いに経済的に自立した夫婦であれば、婚姻費用の請求権を放棄することにも合理性があり有効と考えることもできそうです。反対に、専業主婦の妻を残して勝手に夫が自宅を出たような場合にも婚姻費用の請求ができないというのは妥当ではないでしょう。

このように、別居後の婚姻費用の分担請求権の放棄については、ケースによっては有効となる場合も無効となる場合もありそうです。

 

6 子に関する規定

子供の養育費や親権、面会交流権について定めた婚前契約は原則として無効です。これらの事項は子供の福祉の観点から裁判所が決定すべき事項だからです。

子供をつくらないという合意は有効でしょうか。

お互いにキャリアを最優先に考えて子供をつくらないと約束をしたり、子供は好きではないから子供をつくらないと約束すること自体は自由です。

しかし、約束に違反して子供をつくることを求めた場合には違約金が発生するような婚前契約は、公序良俗に違反し無効と判断されるでしょう。

 

7 日本の裁判例

婚前契約に関する日本の裁判例はほとんど見当たりませんが、東京地方裁判所平成15年9月26日判決(平成13年(タ)304号)では、下記のような婚前契約(誓約書)の有効性が争点となりました。

裁判所は、「将来、離婚という身分関係を金員の支払によって決するものと解されるから、公序良俗に反し、無効と解すべきである。」と判示しました。

将来甲乙お互いにいずれか一方が自由に申し出ることによって、いつでも離婚することが出来る。

(一)甲(妻)の申し出によって協議離婚した場合は左記の条件に従い乙(夫)より財産の分与を受け、それ以外の一切の経済的要求はしない。

(イ)婚姻の日より五年未満の場合現金にて五阡万円
(ロ)右同文十年未満の場合現金にて壱億円
(ハ)右同文十年以上の場合現金にて貳億円
(二)尚、乙の申し出によって協議離婚した場合は前項、第(一)項の金額の倍額とする

 

8 最後に

以上、婚前契約が無効となる場合についてご説明しました。今回ご説明しましたのは、婚前契約の内容面での効力ですが、婚前契約を交わすプロセスにおいて公平さ、公正さに欠ける場合にも婚前契約は無効となることがあります。

婚前契約を作成する手続が理由で無効となる場合については、改めてご説明することとします。

この記事を書いたのは

代表弁護士春田 藤麿
愛知県弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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