不動産の立ち退き料とは? その意味、定義

最終更新日: 2023年06月13日

立ち退き料に関する法律、法的根拠

賃貸借契約に基づいて居住しているマンション・アパートなどの土地建物について、突然、マンション・アパートオーナーである賃貸人(大家)から、借地人・借家人(入居者)に対して、退去を求められることがあります。

その際、賃貸人(大家)から借地人あるいは借家人(入居者)に対して支払われる補償が、立ち退き料です。

しかしながら、立ち退き料は、元々、借地借家法に定められた概念ではありませんでした。

現在の借地借家法となる前の旧法時代の賃貸借不動産をめぐる裁判例において、賃貸人が明渡しを求めるための正当事由がやや不十分という場合に、立ち退きを余儀なくされる賃借人の損失を補償するために立ち退き料が用いられ始めたことで、立ち退き料は、一般的な法律概念として確立しました。

借地借家法28条の正当事由の考慮要素と立ち退きの関係

借地借家法28条は、借家の賃貸借契約を終了させるにあたって、賃貸人が賃借人に立ち退きを求めるための正当事由を必要としています。

正当事由の判断は、賃貸人である大家側が賃貸借契約の目的である土地建物を利用する事情(賃貸人有利の正当事由)と入居者である借主の土地建物を利用する事情(賃借人有利の正当事由)の比較によって行われます。

つまり、正当事由の有無の判断は、賃貸人・賃借人双方の使用の必要性の有無、程度を考慮して決定されます。

その結果、賃借人よりも賃貸人の土地建物利用の必要性が優越するといえれば、正当事由が認められます。

ただし、賃借人側にとっては、賃貸人側の事情によって一方的に賃貸契約を解約され、居住建物という生活基盤が失われるのですから、賃貸人にとって特に必要性が高いといえるだけの事情がなければ、正当事由は認められません。

具体的な建物利用の必要性には以下の4段階があります。

  1. その建物がないと死活問題となる場合
  2. その建物がなければ困窮するほど切実な問題となる場合
  3. その建物があれば望ましいという場合
  4. その建物が利用されていないような場合

そして、実際の立ち退き実務においては、賃貸人側と賃借人側の建物利用の必要性が、それぞれどの段階にあるのか、具体的な事情を根拠に検討していきます。

その他の正当事由の付随的判断要素としては、「賃貸借に関する従前の経過」、「建物の現況」、「建物の利用状況」などがあります。

立ち退き料と正当事由に関する判例

立ち退き料は、正当事由の考慮要素のうちの付随的判断要素との位置づけにすぎません。

古い裁判例において、立ち退き料の提示は、賃貸人の自己使用の必要性が賃借人のものに劣る場合に、正当事由を補完する要素として用いられることが通常でした。

ところが、その後、土地の高度利用や、再開発などを理由とする明渡し訴訟が増加してくると、必ずしも賃貸人の自己使用の必要性が認められない事案であっても、高額の立ち退き料の提供と引き換えに正当事由を認める事案も現れました。

しかしながら、借地借家法によれば、立ち退き料は、正当事由の付随的判断要素にすぎないのが原則です。裁判例でも、賃貸人の自己使用の必要性を問うことなく、立ち退き料だけで、正当事由が認めているわけではありません。露骨な地上げ事案では、賃貸人側の自己使用の必要性が全くないことから、いかに高額な立ち退き料を提示したとしても、正当事由を否定しています。

とはいえ、最近の裁判例の中には、賃貸人の自己使用の必要性が、賃借人のそれよりも劣っていても、立ち退き料の金額次第で、正当事由を認めている事案も増加していることも事実です。

現在の裁判実務においては、立ち退き料と正当事由の問題に関して、限りある土地資源を有効活用するため、立ち退き料によって事案を解決する傾向になってきたと考えられます。

立ち退き料を請求する権利(請求権)はある?大家に支払う義務はある?

立ち退き料は、賃貸借契約において正当事由を補強するための要素としての位置づけにすぎないので、入居者の権利ではありません。

したがって、大家が立ち退き料を支払う意思を明示しない限り、立ち退き料が問題となることはなく、権利のない入居者の立ち退き料請求に対して、大家が応じる義務はありません。

つまり、裁判上は、賃借人から立ち退き料の支払いを求めて提訴したとしても、裁判所は、賃借人に立ち退き料を求める権利はないとして、その請求を棄却することになります。

このように、大家が立ち退き料を支払う旨申し出をすることではじめて、入居者は、大家と立ち退き料の交渉をすることができます。

不動産の立ち退きを求められる理由別の検討

大家都合による退去に正当事由は認められるか

言うまでもなく借家は、賃借人の生活に不可欠なものですので、賃貸人(大家)の気まぐれで立ち退きを求められてよいものではありません。大家都合による退去には、原則として正当事由は認められないといえるでしょう。

もっとも、第三者である裁判所が見ても納得を得られるだけの事情があれば、大家都合とはいえ、正当事由を肯定される場合もあります。

たとえば、賃貸人において、親の介護のために自宅に近い当該賃貸物件において親の面倒をみるため、どうしても借家を使わなければ生活できないなどの事例があります。

この場合、賃貸人にとって、当該建物の利用が、死活問題あるいは生活困窮に直結する切実な問題であるなら、正当事由を肯定しやすいといえます。

そして、賃借人としては、それが代替の効く物件であるなら、引っ越しの負担を大家が持つなどすれば、必ずしも不当な結論になるとはいえません。

ただし、正当事由の有無の判断は、賃貸人・賃借人双方の使用の必要性の有無、程度によって判断されるので、賃借人の必要性も同程度であれば、大家側の都合だけで正当事由を肯定するのは難しくなります。

裁判所としては、賃貸人の建物使用の必要性が高いとは言えない以上、賃貸人の明渡し請求を棄却しなければなりませんが、そのような場合であっても、賃貸人の請求を認め、賃借人の退去を可能にさせる重要な要素になるのが、立ち退き料です。

大家の建物使用の必要性が一応認められるのであれば、後は、大家が申し出た立ち退き料の金額次第で、立ち退きが認められることになります。

老朽化による立ち退きに正当事由は認められるか

借地借家法28条において、正当事由の考慮要素として、「建物の現況」が挙げられていることからもわかるように、賃貸の目的である建物の老朽化を理由とする立ち退きは、正当事由を肯定しやすいと考えられています。

ただし、建物が古くなったので、万が一大地震が来れば倒壊するかもしれないという漠然とした可能性を指摘するだけでは不十分です。老朽化して早急に修繕が必要な建物であることを具体的に主張立証する必要があります。

老朽化を具体的に立証するためには、まずは当該賃貸建物自体の築年数や、外観の状況(写真)、補修歴及び事故歴等の客観的事情から、物理的に朽廃していることを証明することになります。

また、最近では、それほど築年数が進んでいない建物であっても、耐震検査等の方法によって、倒壊の危険性を客観的基準によって示す例も増えています。

さらに、物理的に補修が可能であったとしても、その費用が過大であり、建て替えや、解体の方が経済的といえる場合もあります。そのような事情は、賃貸人の正当事由を肯定する要素となりうるでしょう。

物理的な損傷状況はもちろんですが、当該建物が、社会的・経済的効用を失っている場合、また、周辺の土地の利用関係から存立を続けられなくなるという事情も考慮されうるものです。

ただし、建物の老朽化を証明できたとしても、立ち退き料の支払いをせずして正当事由が認められた例は極めて少ないのが現状で、正当事由を肯定するには、ほとんどの事例において立ち退き料の支払いが必要とされています。

なお、最近の建て替えに伴う立ち退き事案をみていると、建物の老朽化に名を借りた、資産の有効活用を目的とするための私的な再開発の事案が多いと思われます。このような私的な再開発事案では、賃貸人側のお金儲けによって、賃借人側の生活の本拠が奪われることは妥当ではないため、高額な立ち退き料を要することが多いです。

オーナーチェンジの立ち退きに正当事由は認められるか

立ち退き事案を発生させる原因として多いのが、賃貸人側のオーナーチェンジに伴う立ち退きです。

近年、私的な再開発が増加しており、新賃貸人は、採算の悪くなった古い物件を早期に有効活用しようという動機に基づいて、あえて賃借人のいる土地建物を購入しています。

そのため、賃借人からみれば、最近オーナーチェンジがあったと思っていたら、まもなく立ち退きの請求がなされたということも珍しくありません。中には、契約期間がまだ残っているにもかかわらず、借地借家法の規制を無視して、立ち退きを求める事案もあります。

もちろん、オーナーチェンジは、賃貸人(大家)側の一方的都合であるため、賃借人が自らのあずかり知らない事情によって立ち退きを強制されるいわれはありません。

したがって、オーナーチェンジそれ自体が賃貸人の正当事由に積極的に作用するものではありませんから、賃貸人(大家)は、それ以外の事情で正当事由を主張する必要があります。

賃貸借契約書に立ち退き料を放棄、免除する特約がある場合

借地借家法30条によれば、賃借人に不利な規定は無効となります。

借地・借家の賃貸契約は、賃借人の生活に直結する重要な契約ではありますが、一般的には、賃借人に不利な内容となることが多く、賃借人の地位が脅かされる事例が散見されました。

そこで、借地借家法は、社会政策的な見地から、特約であっても賃借人に不利なものは無効とするという強行法規制を設けたのです。

とはいえ、どのような基準によって、賃借人にとって不利と判断されるのか、必ずしも明確ではありません。

この点について、最高裁判所は、問題となっている特約が賃借人に不利な特約かどうかを認定するにあたり、当該契約条件自体について個別的に決定すべきか、それとも他の諸条件をも斟酌して総合的に決めるべきかについて、後者の考え方をとることを明らかにしています。

つまり、借地借家法に違反する規定かどうかは、賃借人の保護が十分になされているのかどうかを、賃貸借契約全体から判断することになります。

【不利な特約の具体的事例】
借地借家法28条(借家契約の更新拒絶の要件について定めた規定)の適用を排除した特約は、借地借家法30条に違反するとした裁判例があります(東京地方裁判所判決平成27年8月5日判例時報2291号79頁)。

この裁判例では、建物賃借人が第三者に転貸することを目的とし、かつ、満室保証契約が一体化したサブリース契約の事案において、28条の適用排除が問題となりましたが、サブリース契約であっても借地借家法の適用対象にほかならず、28条の適用を排除する規定が賃借人に不利な規定であることを当然の前提として、借地借家法30条に違反すると結論付けています。

立ち退き料がもらえないケース

家賃滞納など債務不履行がある場合

立ち退き料が争点となるのは、当該賃貸借契約の終了原因が賃貸人の契約更新拒絶や、契約終了通知をした場合に正当事由が問題となるからです。

しかし、賃貸借契約終了原因が賃料を滞納しているなど、賃借人の債務不履行を理由とする解除の場合、そもそも正当事由は問題とならないので、立ち退き料も問題となりません。

ただし、家賃の滞納が1回でもあれば、必ず債務不履行解除されるというわけではありません。賃貸借契約を解除するためには、単なる債務不履行だけでは足りず、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されたといえるだけの事情が必要です。

結局のところ、家賃の不払いが1~2回にとどまっているというだけでは、賃貸借契約の解除は認められない可能性が高いでしょう。家賃滞納をしがちな賃借人の方が立ち退き料を獲得するためには、未払いの家賃をすぐ賃貸人に振り込むなど、債務不履行状態を解消するなどの努力が必要です。

なお、賃貸人が同時に契約更新拒絶を理由とする契約終了を主張していた場合には、契約解除に至らない家賃の滞納であっても、賃貸人の正当事由を補強する事情となる可能性はあります。家賃不払いがあると、少なくとも、立ち退き料を大幅に減額される扱いを受けることはやむを得ないでしょう。

定期建物賃貸借契約(定期借家、定借)

定期借家契約とは、期間満了を迎えても、契約更新されることなく終了する建物賃貸借契約をいいます。

通常の賃貸借契約においては、賃貸借契約の更新等、解約による建物賃貸借契約の終了、建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件、建物賃貸借の期間の諸規定に反する特約は借地借家法30条により無効とされます。

そのため、たとえ契約更新がない旨の特約を定めたとしても、賃借人に不利な特約として無効になります。

しかし、定期借家契約では、契約更新がない旨の特約を有効に成立させることができます。

契約更新がないということは、正当事由の具備なく、合意した契約期間満了をもって、当然に賃貸借契約を終了させることができるということです。

立ち退き料とは、あくまで、正当事由を有らしめるための補完的要素にすぎないので、正当事由が問題とならない以上、立ち退き料が問題となる余地はありません。

したがって、定期借家契約において立ち退きを求められた場合、賃借人は、賃貸人に対して、立ち退き料を請求することはできません。

ただし、定期借家契約を締結するには、以下のきわめて厳格な要件が課されています。

  1. 建物の賃貸借契約であること
  2. 契約の更新がないこととする旨の定めが存在すること
  3. 期間の定めがあること
  4. 公正証書等の書面によって契約すること
  5. 建物の賃貸人が、あらかじめ、建物の賃借人に対し、建物の賃貸借契約には更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明すること

一時使用目的

立ち退きの事案において、稀に、一時使用目的を定めた賃貸借契約であることから、正当事由は適用されず、立ち退き料は支払わないという主張を賃貸人からされる場合があります。

確かに、借地借家法は、一時使用目的の賃貸借について、同法30条の強行法規規定にかかわらず、建物を取り壊すこととなる時に賃貸借が終了することを認めています(借地借家法39条)。

しかしながら、「一時使用目的」という言葉が独り歩きしてしまい、本条の特約が賃借人の立場を不安定する方向で、賃貸人に濫用される危険があります(実際、旧法では、この一時使用目的に該当するかどうかをめぐって争いになる事案が散見されていました。)。

そこで、現在の借地借家法では、一時使用目的の賃貸借というために、以下の厳格な要件を規定しています。

  1. 「法令」または「契約」による建物取壊しの予定があること
  2. 賃貸人が建物を取り壊すべき義務を負担していること
  3. 一定の期間経過後に建物取壊し予定があること
  4. 取壊しの特約と建物を取り壊すべき事情を書面にしていること

 

上記4の書面とは、単なる証拠ではなく、特約の効力要件となっていることに注意する必要があります。そのため、取壊しの特約について書面にしていないのであれば、当該特約は無効となり、普通賃貸借契約と扱われます。

合意解約

合意解約とは、賃貸人と賃借人が、賃借人の立ち退き条件を定めて賃貸借契約を終了させる合意のことを言います。

このような合意解約も有効であり、賃借人は、たとえ立ち退き料の支払いを受ける合意をし忘れたとしても、合意解約の内容に従い、原則として立ち退きに応じなければなりません。

実務上多いのが、突然、賃貸人から立ち退き請求の通知とともに、解約合意書が届けられ、署名押印を迫られる事案です。予備知識のない賃借人にとってみれば、突然、解約合意書のような書面を送り付けられると、これに応じなければ契約違反に問われるのではないかと不安になり、深く考えないまま解約合意書に署名押印し、退去に応じてしまいがちです。

後になって、賃借人が、立ち退き料をもらえないのか、あるいはもっと高額な立ち退き料にならないのかと思い、解約合意書の有効性を争うこともあります。

確かに、合意解約の成立経緯によっては、合意解約の有効性を争う余地はあります。たとえば、賃借人が、賃貸人の詐欺、強迫によって合意解約をさせられた場合、あるいは、賃借人が錯誤によって合意解約したと認められる場合には、合意解約の効力を否定し、改めて立ち退き料の交渉をすることが可能です。

しかしながら、賃貸人の詐欺、強迫あるいは賃借人の錯誤の立証は、容易ではありません。賃借人の知識不足によって、納得できない条件で合意解約をしたというだけでは、合意解約の効力を否定するのは難しいでしょう。

立ち退き料には税金がかからない?非課税?

立ち退き料をもらうと所得税、法人税が課税されます

立ち退き料を得た場合、税法上は課税の対象となる所得金額として扱われます。そのため、個人の方であれば所得税が、法人であれば法人税が、それぞれ課税されることになります。

しかし、所得には、「事業所得」「譲渡所得」「一時所得」など様々な類型があり、立ち退き料がどの所得に分類されるのか、明らかでありません。

「立ち退き料」が何に対する損害の補填として支払われるのかは、賃貸人から賃借人に支払われた補償の趣旨によって性質が変わります。すなわち、「事業所得」「譲渡所得」「一時所得」のいずれに分類されるのかは、請求人が立ち退き料を求めた補償の趣旨に立ち返って検討する必要があります。

立ち退きのために賃借人の営業を中止するのであれば、立ち退き料の請求人の立場としては事業所得ということになるでしょう。

他方、その店舗の入っている建物が、立地条件として非常に価値のある資産といえるなら、賃借人としては、価値ある資産である借地権あるいは借家権を賃貸人に売却することと同じなので、立ち退き料の請求人の立場としては譲渡所得ということになるでしょう。

立ち退き料を支払うと必要経費になる

賃貸している建物や、その敷地を譲渡するために、賃借人に対して支払う立ち退き料については、「譲渡に要した費用」として、譲渡した金額との計算上、控除することができます。

「譲渡に要した費用」に該当しない立ち退き料を支払った場合には、不動産所得の必要経費として処理することができます。

立ち退き料に消費税がかかる場合

立ち退き料は、賃借権の消滅の対価と考えられているため、資産の譲渡の対価とみることができません。そのため、立ち退き料には、原則として消費税は課税されません。

なお、特異な例ではありますが、旧賃借人が、新賃借人に賃借権を譲渡して立ち退くような場合、賃借権の譲渡の対価とみることができます。この場合の立ち退き料には、消費税が課税されます。

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