用地買収の対象になったら?流れと対応方法について弁護士が解説

2024年07月03日

用地買収

ある日突然、用地買収の対象になったので土地の明け渡しをお願いしたいと言われて、驚いて弁護士に相談に来られる方は多くおられます。行政の都合で生活拠点を失うことに不安を覚えたり、不満を感じることはもっともなことです。

そもそも用地買収とはどのような制度であり、それに対してどのような対応が可能であるのか知りたいという方もおられるかと思いますので、本記事ではこれらの点について説明いたします。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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用地買収の基礎知識

まずは、用地買収についての基礎知識を簡単に説明します。

用地買収とは、国や地方公共団体等の起業者が、道路や河川、鉄道、航空、公園等の公共の利益となる事業のために、土地の所有者から必要な用地を買い取ることをいいます。

多くの場合には、土地所有者等と合意の上で売買契約を締結し土地を取得(任意取得)します。しかし、やむを得ない場合には土地収用法の手続によって土地を強制的に収容することができ、これを土地収用または強制取得などといいます。

用地買収に関わる当事者

用地買収に関わる主な当事者は、起業者、土地所有者、関係人の三者です。

「起業者」とは、国や都道府県、市区町村などの用地買収を行う公共事業を行う主体を指します。

「土地所有者」とは、用地買収の対象となる土地の所有権者を指します。

「関係人」とは、用地買収の対象となる土地について借地権や抵当権など所有権以外の権利を有していたり、その土地上の建物について権利を有する者を指します。

用地買収が行われる都市計画事業

用地買収が行われる都市計画事業には、都市施設の整備に関する事業、土地区画整理事業、市街地再開発事業があります。

都市施設の整備に関する事業は、道路、公園、水道、河川、学校、病院などの施設を整備するための事業です(都市計画法11条1項)。

土地区画整理事業は、土地区画整理法に基づき、雑然と入り組んだ土地の区画や曲がりくねった道路などを整理し、区画整然とした市街地につくりかえる事業です。道路や公園等の公共施設の整備改善に充てるための土地を土地所有者から少しずつ提供させ(減歩)、土地所有者にはその代わりの土地を割り振る(換地)ことになります。

区画整理により整然とした街並みとなることで各宅地の地価が上昇するため、各宅地の面積が減ったとしても、宅地全体の価値は同じであるということになります。なお、実際には価値が増加することが多いです。

近年でもっとも有名な事例としては、大阪市の梅田駅西側に位置する「うめきた地区」の再開発事業が挙げられます。

区画整理は減歩が行われるため、駅前の既存商店街などのようにもともとの画地が小さく、その画地いっぱいに建物が建っているような地域には適していません。

これを解決するため、上方の空間を利用し立体的に整理をしようというのが都市再開発法による市街地再開発事業です。市街地再開発事業では、既存の建築物を除去し、統合した敷地上に高層建築物を建設することになります。 

最近の事例として、東京都港区の「麻布台ヒルズ」(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業)が挙げられます。

用地買収の流れ

さて、次は、用地買収の流れについて確認しましょう。

事業説明会

まず、起業者から土地等の権利者及び住民に対し、事業説明会が開催されます。事業説明会では、事業の目的や計画の概要、事業の工程、測量や用地取得の日程等の説明が行われます。

用地測量・物件等の調査

土地の所有者及び隣接する土地の所有者の方々が立ち合いのもと、用地買収の対象となる土地の境界を確認し、土地の区域や面積を確定するための測量を行います。確定した境界については、境界杭が打設されます。

また、土地だけでなく、移転が必要な建物や工作物、立木などといった物件の内容や数量等についての調査も行います。

土地価格の評価・物件補償額の算定

あとで詳しく述べますが、起業者により、買収の対象用地について、公示価格や近隣の取引価格、不動産鑑定士による鑑定価格等を参考に、土地の価格が算出されます。

また、建物や工作物等の移転費用、その他にも通常生ずる損失補償額を算定します。

補償説明・協議(用地交渉)

価格が算定されたら、土地所有者及び関係人に対し、個別に、土地の買取価格や物件の補償額について説明を行い、金額の提示を行います。いわゆる用地交渉と呼ばれる段階です。

なお、一般的には、用地交渉は起業者側の担当者2名によって行われます。

売買契約の締結

買取価格等の補償の内容や土地の引き渡し時期等について協議が整うと、起業者と土地所有者との間で売買契約書を締結することになります。

契約金の支払い

契約に基づき、土地売買代金や補償金が支払われます。補償金の前払いする場合には、契約書記載の必要書類を提出することで、契約金額の7割以内の範囲で前払いが行われます。

建物の移転・土地の引渡し

建物等の物件は所有者が自ら移転することになります。移転の完了後に土地の引渡しを行います。なお、引き渡した土地の所有権移転登記は起業者側で行います。

用地買収は拒否できるのか?

以上、用地買収の基礎知識と流れについて説明しました。それでは、用地買収の対象になってしまった場合、それを拒否することはできるのでしょうか。

用地交渉段階

用地買収は任意取得とも言うように、起業者と土地所有者の合意により用地の買収を行う手続きですから、起業者は用地買収のお願いをしているにすぎません。

そのため、用地交渉の段階においては、土地所有者が買収を承諾しない限り、強制的に用地の取得が行われることはありません。

したがって、土地を明け渡したくない場合や、明け渡しは仕方ないとしても補償金の金額に納得がいかない場合などには、起業者からの買収の申し入れを断ることは可能です。

収用裁決段階

一方、公共事業の性質上、起業者は事業の実施のために、必要な用地は必ず取得しなければなりません。

そのため、用地交渉が難航し、最終的に土地所有者からの承諾が得られなかった場合には、土地収用法に基づき一定の手続を経て土地の所有権を強制的に取得することとなります。

とはいえ、時間のかかる裁判を起業者としてはできる限り回避したいと考えますので、簡単には強制的な取得に進まず、できる限り話し合いで合意することを目指すのが通常です。ですから、粘り強く交渉して、希望に近い条件での合意を目指すべきです。

用地買収における補償の種類と金額・算定方法

上記のとおり、用地買収の金額は起業者と土地所有者との交渉で決まります。とはいえ、起業者が恣意的な価格で土地を取得することは各当事者の公平を欠き、正当な補償が保証されません。

そのため、用地買収の場合には、補償の基準として、「公共用地の取得に伴う損失補償基準」が定められています。

補償金額の交渉においては、損失補償基準に従って適切な金額が算定されているのかといった議論を行うこととなります。

それでは、損失補償基準に定められた補償の種類と補償金の算定方法を見てみましょう。

土地の補償金

土地の補償金は以下の4つの原則に基づき、算定されます。

・正常な取引価格主義
取得する土地に対しては「正常な取引価格」により補償
・更地価格主義
土地上の物件が存在しないものとしての価格(更地価格)で算定
・下落前価格主義
事業の影響による価格低下の影響は排除して価格を算定
・控除主義
土地に所有権以外の権利がある場合、所有権の価格は、他の権利の価格を控除した価格とする。

「正常な取引価格」とは、合理的な市場で形成される市場価値を意味します。

具体的には、一定の基準に基づき選定された標準地の価格から当該土地の価格を比準して算定されます。標準地の価格の算定に当たっては、地価公示の公示価格や複数の不動産鑑定業者による鑑定評価が参考にされます。

残地に対する補償金

土地所有者の土地の一部しか取得しない場合において、取得しない土地(残地)に価格下落等の損失が生じたときには残地に対する補償が行われます。残地の価格は、土地の価格と同様に、標準地の価格から比準して算定します。

なお、残地の従来利用が著しく困難になるような場合には、事業者は残地を取得(買取)することができます。

残地については取得を求めることで補償額が大幅に増加することもありますので、後程説明するとおり、残地の価格を適切に算定したうえで、買取を求めるのかどうか慎重に検討する必要があるでしょう。

建物等の移転に関する補償金

用地買収において、土地上の建物等(工作物、立木、動産等)についてはこれらを事業地の外に移転させる代わりに、移転料等を補償することになります。

補償される移転料は、「通常妥当と認められる移転先」に、「通常妥当と認められる方法」によって移転するのに要する費用とされています。

移転先については、「構内移転」と「構外移転」に分けられます。構内とは「残地」(土地の一部分が用地買収の対象となった場合に取得されない方の土地)のことをいいます。

移転方法については、それぞれの詳細な説明は省きますが、再築工法、曳家(ひきや)工法、改造工法があります。

営業に関する補償金

用地買収により、その土地で営業を行っていた者が営業上の損失を受ける場合には、補償を受けることができます。

営業廃止や規模縮小の場合の補償もありますが、多くの場合は営業休止の補償がなされます。営業休止の主な補償の内容としては、以下のとおりです。

・公租公課等の固定的経費・従業員に対する休業手当相当額
・休業期間中の収益源(個人営業の場合は所得減)
・一時的に得意先を喪失することで通常生じる損失額
・商品等の価値が減少・滅失することによる損失額・移転広告費用等

借家人の補償

賃借している建物が移転することにより、その建物を移転後引き続き借りることができなくなる場合は、現在の建物と同程度のものを借りるために通常要する費用(一時金等)が補償されます。

用地買収に対する交渉は弁護士に依頼

最後に、用地買収における起業者との交渉を弁護士に任せるメリットについて説明します。

交渉を弁護士に任せられる

用地買収の交渉は、地方公共団体から派遣された担当者や委託を受けた「補償コンサルタント」などと呼ばれる民間企業の担当者などと行うことになります。通常、用地買収に関する知識は彼らの方が豊富ですから、一般の方が彼らを相手に交渉を行うことは困難です。

さらに、生活の拠点が失われるかもしれない状況において、冷静に交渉を行うことができないのは当然のことです。担当者との交渉自体がかなりのストレスになるということもよく聞きます。

用地買収交渉を弁護士に依頼する場合には、一切の交渉を弁護士が代わりに行いますので、担当者との連絡等を一切行う必要はありません。

補償金額が大幅に増加する可能性がある

補償金額は損失補償基準をもとに算定されることは先ほど説明したとおりです。

もっとも、損失補償基準はあくまで補償の種類と算定方法の大枠を定めたものに過ぎず、基準の解釈や運用方法により、補償の金額が大幅に上下する可能性があります。

特に、起業者側にも予算がありますから、損失補償基準から外れない範囲で補償の金額を可能な限り下げているケースは多くあります。

弁護士に依頼した場合、起業者側の損失補償基準の解釈や運用方法を争うことで、適正な補償金額を再計算したうえで、起業者側と用地買収交渉を行います。その結果、補償の金額が大幅に増額される可能性があります。

専門家と連携した対応ができる

適切な補償金額を再計算するにあたり、不動産鑑定士による不動産鑑定評価は必須です。弁護士は提携している不動産鑑定士と速やかに、かつ密に連携を取ることで、ご希望の条件に近づける交渉を行います。

まとめ

用地買収の基礎知識や対応方法について説明しました。

用地買収は行政を相手とする点で一般的な交渉とは異なります。用地買収に関する説明会が開催された、買収の対象地に対して補償金額の提案を受けたなど、用地買収交渉の必要に迫られましたら、用地買収の交渉に詳しい弁護士にご相談ください。