慰謝料なしで離婚できるケースとは?注意点も解説

最終更新日: 2025年06月16日

離婚を考える際、多くの方が気になるのが「慰謝料」の問題です。

「離婚したいけれど、慰謝料は支払いたくない」「慰謝料なしで離婚することはできるのだろうか」といった疑問や不安を抱える方も少なくないでしょう。

結論から言えば、慰謝料なしで離婚できるケースは存在します。

しかし、どのような場合に慰謝料が発生し、どのような場合に発生しないのか、そして慰謝料なしで離婚する際に注意すべき点は何かを正しく理解しておくことが非常に重要です。

この記事では、慰謝料なしで離婚できる具体的なケースと、その際の注意点について詳しく解説していきます。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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慰謝料が発生する主な原因

まず、慰謝料なしの離婚を理解する前提として、どのような場合に慰謝料が発生するのかを知っておく必要があります。

離婚における慰謝料とは、離婚原因を作った有責配偶者が、相手方に対して支払う精神的苦痛に対する損害賠償金のことです。代表的な慰謝料発生原因としては、以下のものが挙げられます。

  • 不貞行為(浮気・不倫): 配偶者以外の異性と肉体関係を持つこと。これは明確な有責行為とされ、慰謝料請求の典型的な原因となります。
  • DV(ドメスティック・バイオレンス)・モラハラ(モラルハラスメント): 身体的暴力や精神的虐待も、婚姻関係を破綻させる重大な有責行為として慰謝料の対象となります。
  • 悪意の遺棄: 正当な理由なく同居・協力・扶助といった夫婦間の義務を放棄すること。例えば、生活費を渡さない、一方的に家を出て帰ってこないなどが該当します。
  • その他: 上記以外にも、正常な性交渉の拒否、過度な浪費、親族との不和への無関与など、婚姻関係を破綻させたと認められる行為があれば、慰謝料が発生する可能性があります。

これらの有責行為が相手方にあり、それによって精神的苦痛を受けたと認められる場合に、慰謝料請求権が発生します。

慰謝料なしで離婚できる主なケース

それでは、具体的にどのような場合に「慰謝料なしで離婚」が実現できるのでしょうか。主なケースを以下に解説します。

双方に離婚の原因がない場合(性格の不一致など)

離婚原因として最も多いとされる「性格の不一致」「価値観の違い」は、原則としてどちらか一方に法的な責任があるとは言えないため、慰謝料は発生しません。

慰謝料は、あくまで不法行為(有責行為)によって精神的苦痛を受けたことに対する損害賠償です。夫婦双方に特段の落ち度がない、あるいはどちらの責任とも言えない理由で婚姻関係が破綻した場合、例えば、お互いの性格が合わない、生活リズムが異なる、将来の目標が違うといった理由で離婚に至るのであれば、法的な意味での慰謝料請求権は生じないのが一般的です。

このようなケースでは、当事者双方が合意すれば、協議離婚の形で慰謝料なしで離婚が成立します。もし話し合いで合意に至らず、離婚調停や離婚裁判に移行した場合でも、明確な有責行為が双方に認められなければ、裁判所が慰謝料の支払いを命じることは通常ありません。

ただし、性格の不一致が背景にあっても、その過程で一方にDVやモラハラ、あるいは不貞行為といった有責行為があった場合には、別途慰謝料が発生する可能性があるので注意が必要です。あくまで、双方に帰責性がない、または同程度である場合に慰謝料なしでの離婚が考えられます。

慰謝料請求権の時効が成立している場合

たとえ相手に不貞行為やDVなどの明確な有責行為があったとしても、慰謝料請求権には「時効」が存在します。この時効が成立してしまうと、慰謝料を請求する権利そのものが消滅するため、結果として慰謝料なしで離婚することになります。

離婚における慰謝料請求権の時効期間は、原則として「損害及び加害者を知った時から3年間」または「不法行為の時から20年間」と民法で定められています(民法724条、724条の2)。例えば、配偶者の不貞行為を知り、かつ不倫相手が誰であるかも特定できた時点から3年が経過すると、慰謝料請求権は時効によって消滅します。

また、不貞行為の事実を知らなかったとしても、不貞行為があった時から20年が経過すると同様に時効となります。この時効期間が経過する前に、内容証明郵便で請求の意思を示す、裁判上の請求(訴訟提起や支払督促など)を行う、相手が債務を承認するといった「時効の更新(旧民法では時効の中断)」事由があれば、時効の進行を止めることができます。

しかし、そのような手続きを取らずに時効期間が満了してしまった場合は、相手に有責行為があったとしても、法的には慰謝料を支払う義務はなくなります。したがって、慰謝料請求を考えている側は時効に注意が必要であり、逆に請求される側にとっては、時効の成立が慰謝料なしでの離婚につながる可能性があります。

相手が慰謝料を請求しない場合(放棄した場合)

慰謝料請求権は、精神的苦痛を受けた側が持つ権利であり、その権利を行使するかどうかは本人の自由な意思に委ねられています。

したがって、たとえ相手に慰謝料を請求できるだけの明確な有責行為があったとしても、相手方が「慰謝料はいらない」と判断し、その請求権を放棄すれば、慰謝料なしで離婚することが可能です。

例えば、早期に離婚を成立させたい、これ以上相手と関わりたくない、経済的な余裕がある、あるいは相手に支払能力がないと判断した場合などに、慰謝料を請求しないという選択をすることがあります。この場合、口頭での合意だけでなく、後々のトラブルを避けるために、離婚協議書や合意書といった書面に「本件離婚に関し、慰謝料は相互に請求しない」といった形で明確に記載しておくことが重要です。

公正証書にしておけば、より確実性が増します。ただし、注意点として、相手が脅迫されたり、騙されたりして不本意ながら慰謝料請求権を放棄させられたような場合には、その意思表示が無効または取り消される可能性があります。あくまで、双方の自由な意思に基づく合意であることが前提となります。

また、一度有効に慰謝料を放棄する旨の合意が成立すると、後から気が変わって請求することは原則として難しくなるため、慎重な判断が求められます。

慰謝料請求する側に有責性がある場合(有責配偶者からの請求)

原則として、離婚の原因を自ら作った側(有責配偶者)から、相手方に対して慰謝料を請求することは認められません。

例えば、自分が不倫をしておきながら、相手に対して「性格が合わないから離婚したい、慰謝料を払え」と主張することは、信義誠実の原則に反し、権利の濫用とみなされるため、法的に保護されません。

慰謝料は、あくまで有責行為によって精神的苦痛を受けた被害者が、加害者に対して請求するものです。したがって、有責配偶者からの慰謝料請求は、通常、慰謝料なし、というよりも請求自体が棄却されることになります。

ただし、例外的なケースも存在します。例えば、夫婦双方に有責行為があり、相手方の有責性の程度が自分よりも著しく大きい場合や、相手の有責行為によって自身の有責行為が誘発されたような特殊な事情がある場合には、有責配偶者からの慰謝料請求が一部認められる可能性もゼロではありません。

しかし、これは極めて限定的なケースであり、基本的には離婚原因を作った側が慰謝料を請求することは困難であると理解しておくべきです。この場合、相手方が慰謝料を請求してこなければ、結果的に慰謝料の支払いなしで離婚が成立することになります。

財産分与などで実質的に慰謝料分が考慮されている場合

離婚時には、慰謝料とは別に「財産分与」という制度があります。財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた共有財産を、離婚に際して公平に分配することです。

この財産分与の話し合いの中で、実質的に慰謝料の要素を含めて解決し、名目上は「慰謝料なし」とするケースがあります。

例えば、本来であれば慰謝料が発生する事案であっても、慰謝料を請求する側が、その代わりに財産分与で受け取る金額を多めにしてもらう、あるいは不動産などの特定の財産を譲り受けるといった形で合意することがあります。この場合、離婚協議書などには「慰謝料は請求しない」と記載しつつ、財産分与の項目でその調整が行われることになります。これを「慰謝料的財産分与」と呼ぶこともあります。

また、離婚後の生活に困窮する可能性がある側に対して、扶養的な意味合いで財産分与を多めにすることも「扶養的財産分与」として認められる場合があります。

このように、慰謝料という名目を使わずに、財産分与の内容を調整することで、当事者双方が納得のいく形で金銭的な解決を図り、結果として「離婚 慰謝料なし」という形を取ることが可能です。

ただし、財産分与と慰謝料は本来別個のものですので、それぞれの性質を理解した上で、専門家のアドバイスも受けながら慎重に合意内容を決定することが重要です。

慰謝料なしで離婚する際の注意点

慰謝料なしで離婚する場合でも、後々のトラブルを避けるためにいくつか注意すべき点があります。

本当に慰謝料請求権がないか確認する

「慰謝料なしで離婚したい」と考えていても、あるいは「相手も慰謝料は求めてこないだろう」と安易に判断していても、法的には慰謝料請求権が発生しているケースがあります。

例えば、自分では単なる性格の不一致だと思っていても、相手は長年のモラハラによる精神的苦痛を訴えて慰謝料を請求してくる可能性があります。また、過去の些細な出来事が、法的には有責行為と評価されることもあり得ます。

逆に、慰謝料を請求できる立場にあるにもかかわらず、その権利に気づかずに「慰謝料なし」で合意してしまうと、後で後悔することになりかねません。

特に、離婚という精神的に不安定な状況では、冷静な判断が難しくなりがちです。そのため、慰謝料なしで離婚を進める前に、一度、離婚問題に詳しい弁護士などの専門家に相談し、自身のケースで本当に慰謝料請求権が発生しないのか、あるいは相手から請求される可能性がないのかについて、客観的なアドバイスを受けることが非常に重要です。専門家は、具体的な状況や証拠の有無などを踏まえて法的な見通しを示してくれるため、不測の事態を避け、納得のいく形で離婚を進めるための一助となります。

離婚協議書(公正証書)の作成

慰謝料なしで離婚することに双方が合意した場合でも、その合意内容を口約束だけで済ませるのではなく、必ず書面に残しておくことが極めて重要です。この書面が「離婚協議書」です。

離婚協議書には、慰謝料の取り扱いに加えて、財産分与、養育費(未成年の子がいる場合)、面会交流など、離婚に関する取り決め全般を記載します。

特に慰謝料に関しては、「甲(夫)と乙(妻)は、本件離婚に関し、相互に慰謝料を請求しないものとする」あるいは「甲及び乙は、本件離婚に関し、本書面に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認し、今後、名目の如何を問わず、金銭その他の請求を一切しないものとする」といった清算条項を明記することが一般的です。これにより、離婚後に一方から不当な慰謝料請求をされるといったトラブルを未然に防ぐことができます。

さらに、この離婚協議書を「公正証書」として作成しておけば、より強力な証拠力と法的拘束力を持ちます。公正証書は、公証人が当事者の意思を確認して作成する公文書であり、特に金銭の支払いに関する取り決め(養育費など)については、強制執行認諾文言を付すことで、支払いが滞った場合に裁判を経ずに強制執行が可能になるというメリットもあります。

慰謝料なしの合意を確実なものにするためにも、書面化、できれば公正証書化を検討しましょう。

財産分与や養育費との混同を避ける

離婚時に取り決めるべき金銭には、慰謝料の他に「財産分与」「養育費」(未成年の子がいる場合)があります。これらはそれぞれ法的な性質や目的が異なります。

慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償、財産分与は婚姻期間中に築いた共有財産の清算、養育費は子供の監護養育に必要な費用です。「慰謝料なし」で合意したからといって、これらの財産分与や養育費の請求権まで自動的に放棄したことにはなりません。

例えば、「慰謝料はいらないから、その分、財産分与を多くほしい」という交渉はあり得ますが、その場合でも、それぞれの項目を明確に区別して合意内容を定めるべきです。

曖昧なまま「慰謝料なし」という言葉だけで済ませてしまうと、後になって「財産分与も放棄したつもりだった」「養育費も含まれていると思った」といった解釈の食い違いが生じ、紛争が再燃する可能性があります。

離婚協議書を作成する際には、慰謝料、財産分与、養育費の各項目について、それぞれどのように取り決めたのかを具体的に記載することが重要です。特に、経済的に弱い立場にある側が、よく理解しないまま必要な権利まで放棄してしまわないよう、慎重な確認が必要です。専門家のアドバイスを受けながら、各項目を整理して話し合いを進めることをお勧めします。

感情的に「慰謝料はいらない」と言ってしまわない

離婚の話し合いは、当事者にとって精神的に大きなストレスがかかるものです。怒り、悲しみ、失望、あるいは早くこの状況から解放されたいという焦りなど、様々な感情が渦巻く中で、冷静な判断が難しくなることがあります。

特に、相手に対する嫌悪感や、これ以上関わりたくないという気持ちが強い場合、「もう何もいらないから、とにかく早く離婚したい」と考え、安易に「慰謝料はいらない」と口にしてしまうケースが見受けられます。

しかし、一時的な感情で慰謝料請求権という重要な権利を放棄してしまうと、離婚後の生活設計に大きな影響を及ぼす可能性があります。特に、専業主婦(夫)であったり、経済的に自立するのが難しい状況であったりする場合、慰謝料は離婚後の生活を立て直すための貴重な資金となり得ます。

その場の勢いで「いらない」と言ってしまった言葉が、後で法的に有効な「権利放棄」と解釈されてしまうリスクも考慮しなければなりません。一度冷静になり、自分の将来の生活や経済状況を客観的に見つめ直し、本当に慰謝料を請求しなくて良いのか、慎重に検討することが大切です。

すぐに結論を出さず、信頼できる人に相談したり、弁護士などの専門家から法的なアドバイスを受けたりすることも有効な手段です。

まとめ

「慰謝料なしで離婚」は、特定の条件下では十分に実現可能です。

双方に離婚原因がない場合、慰謝料請求権が時効で消滅している場合、相手が慰謝料を請求しない場合、請求する側に有責性がある場合、あるいは財産分与などで実質的に調整がなされる場合などがこれに該当します。

しかし、慰謝料なしで離婚を進める際には、本当に慰謝料が発生しないケースなのかを法的な観点から確認すること、合意内容を明確に書面(できれば公正証書)に残すこと、財産分与や養育費といった他の金銭問題と混同しないこと、そして一時的な感情で安易に権利を放棄しないことが重要です。

離婚は人生における大きな決断であり、その条件は将来の生活に大きな影響を与えます。慰謝料の問題で悩んだり、判断に迷ったりした場合は、一人で抱え込まず、離婚問題に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

専門家のアドバイスを受けることで、ご自身の状況に応じた最適な解決策を見つけ、後悔のない離婚を実現するための一歩となるでしょう。

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