退職金と自己破産|8分の1ルールとは?手元に残せる金額を解説
2026年05月11日

多額の借金を抱え、自己破産を検討している方にとって、「長年勤めてきた会社の退職金はどうなってしまうのか?」という不安は非常に大きいものでしょう。大切なお金がすべて没収されてしまうのではないかと、手続きをためらってしまう方も少なくありません。
しかし、ご安心ください。自己破産をしても、退職金が全額没収されるわけではありません。自己破産は債務者の経済的な再出発を支援するための制度であり、今後の生活に必要な一定の財産は手元に残すことが認められています。
※自己破産の仕組み・条件・デメリット・費用について、こちらの記事で解説しています。
この記事では、自己破産における退職金の扱いや、手元に残せる金額の計算方法(通称「8分の1ルール」)、手続きの注意点について、分かりやすく解説します。
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自己破産しても退職金は全額没収されるわけではない
結論から言うと、自己破産手続きにおいて退職金が全額没収されるケースはまれです。法律では、破産後の生活再建のために、一定の範囲の財産を手元に残すことを認めています。これを「自由財産」と呼びます。
退職金(または将来受け取る退職金を受け取る権利)も財産の一種とみなされますが、その全額が処分の対象となるわけではありません。今後の生活保障という側面が考慮され、法律で定められた基準に基づいて、一部を手元に残すことが可能です。
どのくらいの金額が処分の対象となり、いくら手元に残せるのかは、「自己破産の手続きを開始する時点で、退職金をすでに受け取っているか、まだ在職中か」といった状況によって異なります。
【状況別】自己破産で処分される退職金の金額と8分の1ルール
自己破産で処分される退職金の金額は、あなたの置かれている状況によって大きく3つのケースに分けられます。ここでは、それぞれのケースにおける計算ルールを具体的に見ていきましょう。
在職中で退職予定がない場合(8分の1ルール)
現在も会社に在職中で、具体的な退職予定がない場合に適用されるのが、いわゆる「8分の1ルール」です。
退職金見込額の8分の1が処分の対象となる
このケースでは、自己破産の申し立て時点で退職した場合に受け取れるであろう「退職金見込額」を算出し、その8分の1の金額が処分の対象(換価対象財産)となります。
なぜ8分の1なのかというと、退職金の4分の3はそもそも差押禁止であり、かつ懲戒解雇や会社の倒産などにより将来確実に退職金が支払われる保証はなく、不確定要素が大きいため、財産としての評価額が低く見積もられるからです。
裁判所によって取扱いが若干異なりますが、他の自由財産と合計して99万円以下であれば、全額を手元に残せる可能性が高くなります。
具体的な計算例
- 退職金見込額が1,000万円の場合:
1,000万円 × 1/8 = 125万円 この125万円が処分の対象となります。
この金額を破産管財人に支払う(破産財団に組み入れる)ことで、残りの8分の7にあたる875万円相当の権利は守られます。 - 退職金見込額が150万円の場合:
150万円 × 1/8 = 18万7,500円
裁判所によって取扱いが若干異なりますが、他の自由財産と合計して99万円以下であれば、退職金見込額の全額が自由財産として扱われる可能性が高いです。
退職後、まだ退職金を受け取っていない場合(4分の1ルール)
すでに退職しているものの、会社の規定などにより、まだ退職金が支払われていないケースです。この場合は「4分の1ルール」が適用されます。
この状況では、退職金を受け取る権利が確定しているため、在職中のケースよりも財産価値が高いと判断されます。具体的には、受け取る予定の退職金額の4分の1が処分の対象となります。これは、給与などの差押可能額が原則4分の1であることに準じた考え方です。
計算例:受け取る退職金が1,000万円の場合
1,000万円 × 1/4 = 250万円 この250万円が処分の対象となります。
すでに退職金を受け取っている場合
すでに退職金を受け取り、ご自身の銀行口座にある、あるいは現金で保管している場合は、その退職金は「預貯金」または「現金」として扱われます。
- 20万円以上の預貯金は自由財産の範囲外とする裁判所の場合:
原則として、20万円以上の部分が処分の対象となります。ただし、複数の口座がある場合は、すべての口座の残高を合計して判断されます。 - それ以外の裁判所の場合:
他の財産と合計して99万円までは手元に残すことができ、それを超える部分が処分の対象となります。
このように、受け取った退職金は全額が自由財産の範囲内かどうかの計算対象になるため、注意が必要です。
自己破産における退職金の基本知識「自由財産」とは
退職金の扱いを理解する上で欠かせないのが「自由財産」という考え方です。ここでは、自己破産における財産の基本ルールを解説します。
自己破産後も手元に残せる「自由財産」
自由財産とは、自己破産をしても債権者への配当に充てられず、破産者が自由に管理・処分できる財産のことです。これは、破産者の生活再建を保障するために法律で定められています。 代表的な自由財産には、以下のようなものがあります。
- 99万円以下の現金
- 差押禁止財産(給与や退職金の一部など)
- 破産手続き開始後に得た財産(新得財産)
- 生活に欠かせない家財道具など
退職金は差押禁止財産にあたる
民事執行法という法律では、債権者が強制的に財産を差し押さえることを禁止する「差押禁止財産」が定められています。退職金(退職手当)もこれにあたり、その支給額の4分の3は差し押さえが禁止されています。
この規定が、自己破産において「退職金の4分の1が処分の対象」となるルールの根拠となっています。
※差し押さえの仕組み・対処法・費用について、こちらの記事で解説しています。
手元に残せる財産を増やす「自由財産の拡張」
上記の自由財産に該当しない財産であっても、裁判所に申し立てて許可を得ることで、例外的に自由財産として手元に残せる場合があります。これを「自由財産の拡張」といいます。
例えば、退職金見込額の8分の1が100万円だったとしても、その全額を支払うと生活の維持が著しく困難になるなどの事情がある場合、裁判所の裁量によって支払額を減額してもらえたり、他の財産(例:解約返戻金が20万円を超える生命保険など)を手元に残すことが認められたりする可能性があります。
自由財産の拡張を認めてもらうには、その財産が生活に必要不可欠である理由などを具体的に説明する必要があります。
自己破産手続きに必要な「退職金見込額証明書」とは
在職中の方が自己破産を申し立てる際には、「退職金見込額証明書」や「退職金規程」という書類が必要になります。
退職金見込額証明書の概要と提出義務
退職金見込額証明書とは、自己破産の申立日時点で退職した場合に、いくらの退職金が支給されるかを会社が証明する公式な書類です。
裁判所は、この書類に基づいてあなたの財産(退職金請求権)を評価し、処分の対象となる金額を決定します。そのため、自己破産手続きにおいて非常に重要な書類となります。
会社に自己破産を知られずに証明書を取得する方法
多くの方が「証明書を頼んだら、自己破産することが会社にバレてしまうのではないか」と心配されます。しかし、取得理由を工夫することで、会社に知られずに証明書を発行してもらうことは十分可能です。
一般的には、以下のような理由が使われます。
「将来の資金計画の参考のために必要になった」
それでも会社に直接依頼しにくい場合は、就業規則や退職金規程を基に自分で見込額を計算し、その計算書を裁判所に提出する方法もあります。
※自己破産が家族や仕事にバレるケース・バレにくいケースについて、こちらの記事で解説しています。
退職金制度がない場合の対応
勤務先に退職金制度自体がない場合は、証明書を提出する必要はありません。その代わり、「退職金制度がないこと」を証明するために、就業規則や労働契約書の写しなどを提出します。
それらの書類もない場合は、裁判所に対し、退職金制度が存在しない旨を報告書等で説明します。
退職金の8分の1が払えない場合の対処法
退職金見込額が自由財産の範囲を超える場合、そのお金を「破産管財人」に支払う必要があります。しかし、手元にその資金がない場合も少なくありません。そのような場合の対処法をいくつかご紹介します。
破産管財人との交渉による分割払い(積立)
破産管財人に事情を説明し、誠実に交渉することで、分割での支払いを認めてもらえるケースがあります。これは「管財予納金の分納」や「財団組入金の積立」などと呼ばれ、破産手続きが進行している数ヶ月間、毎月一定額を積み立てて支払っていく方法です。
家計の状況を正直に伝え、返済計画を示すことが重要になります。
親族などから金銭的援助を受ける
両親や兄弟など、親族から資金を援助してもらい、一括で支払う方法です。ただし、この援助は「贈与」なのか「借入れ」なのか正直に申告する必要があります。
援助を受けたお金の出所を隠したり、特定の債権者への返済に充てたりすると、後々大きな問題になる可能性があるため注意が必要です。
自己破産以外の債務整理(個人再生・任意整理)を検討する
どうしても支払いが難しい場合、そもそも自己破産が最適な手続きではない可能性も考えられます。
例えば、裁判所に認可された再生計画に基づき、借金を大幅に減額して分割返済していく「個人再生」であれば、原則として財産を処分されることはありません。退職金を守りながら借金問題を解決できる可能性があります。
※マイホームを守りながら借金を大幅減額できる個人再生の仕組みと条件について、こちらの記事で解説しています。
※任意整理のメリット・デメリットと費用・期間については、こちらの記事をご覧ください。
自己破産で退職金を扱う際の注意点【NG行為】
自己破産は、裁判所の許可(免責許可)を得て初めて借金の支払義務が免除される制度です。しかし、以下のような不正行為を行うと、免責が許可されないだけでなく、罪に問われる可能性もあるため絶対にやめましょう。
財産を隠す行為(財産隠し)
退職金を受け取っているのに申告しない、退職金見込額を意図的に少なく見積もって報告するなど、財産を隠す行為は「免責不許可事由」の典型例です。
悪質な場合は「詐欺破産罪」という犯罪に問われる可能性もあり、非常にリスクの高い行為です。
※自己破産の申請から免責決定までの流れと注意点について、こちらの記事で解説しています。
一部の債権者にだけ返済する行為(偏頗弁済)
破産手続き直前に受け取った退職金を使って、親族や友人など特定の債権者にだけ優先的に返済する行為を「偏頗弁済(へんぱべんさい)」といいます。こ
れは、すべての債権者を平等に扱わなければならないという自己破産の原則に反するため、免責不許可事由となります。
手続き直前に退職し退職金を使い込む行為
自己破産の申立てを予定しているにもかかわらず、その直前に退職してまとまった退職金を受け取り、それをギャンブルや高級品の購入などで無駄遣いする行為も問題となります。
財産を不当に減少させる行為とみなされ、免責が認められない可能性が高くなります。
退職金と自己破産の悩みは弁護士への相談が解決の近道
ここまで見てきたように、自己破産における退職金の扱いは、個々の状況によって異なり、法的な専門知識が不可欠です。一人で悩まず、できるだけ早い段階で借金問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
自分の状況に合った最適な解決策がわかる
弁護士に相談すれば、あなたの財産状況や借金の総額、収入などを総合的に判断し、自己破産がベストな選択なのか、あるいは個人再生や任意整理といった他の方法が良いのか、専門家の視点から最適な解決策を提案してくれます。
※債務整理の3つの方法とデメリット・費用の基礎知識はこちらをご覧ください。
裁判所や債権者との複雑な手続きを一任できる
自己破産の申立てには、膨大な書類の作成や裁判所とのやり取り、債権者への対応など、非常に複雑で手間のかかる手続きが伴います。弁
護士に依頼すれば、これらの手続きのほとんどを代行してもらえるため、時間的・精神的な負担を大幅に軽減できます。
精神的な負担を軽減できる
借金問題は、誰にも相談できず一人で抱え込みがちです。専門家である弁護士が味方になることで、「これからどうすればいいのか」という漠然とした不安が解消され、安心して再スタートに向けた一歩を踏み出すことができます。
退職金と自己破産に関するよくある質問(FAQ)
Q:自己破産すると、退職金は全部なくなってしまうのですか?
A:いいえ、全額がなくなるわけではありません。
自己破産は生活再建のための制度なので、今後の生活に必要な一定の財産は「自由財産」として手元に残すことが認められています。退職金も、法律で定められた基準(8分の1ルールなど)に基づいて計算され、その大部分は守られます。
Q:「退職金の8分の1ルール」について、もう少し詳しく教えてください。
A:これは、現在も会社にお勤めの方が自己破産する場合に適用される計算方法です。現時点で自己都合退職したと仮定した場合の「退職金見込額」を算出し、その8分の1にあたる金額が処分の対象となります。
例えば、退職金見込額が800万円なら、100万円が処分の対象となり、残りの700万円に相当する将来の受給権は守られます。
Q:すでに退職金を受け取ってしまった場合はどう扱われますか?
A:受け取った退職金は、あなたの「預貯金」または「現金」として扱われます。
裁判所によって取扱いが若干異なるのですが、おおむね、他の財産と通算して99万円を超える部分が処分の対象となるとお考えください。退職金という名目ではなく、その時点での財産の種類(預貯金か現金か)で判断されるのがポイントです。
Q:会社に自己破産のことを知られずに手続きできますか?
A:はい、知られずに手続きを進めることは可能です。
自己破産手続きでは「退職金見込額証明書」を会社から取得する必要がありますが、その際に会社に自己破産のことを伝えることは必須ではありません。詳しくは依頼する弁護士がアドバイスしてくれます。
Q:処分対象となるお金(退職金の8分の1など)が払えません。どうしたらいいですか?
A:すぐに支払えなくても、いくつかの対処法があります。
まず、破産管財人と交渉して分割で支払う(積み立てる)方法が一般的です。また、親族から援助してもらう方法もあります。
どうしても支払いが困難な場合は、自己破産ではなく、財産を守りながら返済計画を立てる「個人再生」など、別の債務整理が適している可能性もあります。まずは弁護士に相談し、最善の方法を見つけることが大切です。
※借金が返せない時の正しい対処法と現実的な解決策について、こちらの記事も併せてご覧ください。
Q:自己破産したことが原因で、将来もらえる退職金の額が減らされたりしますか?
A:いいえ、そのようなことはありません。
自己破産したという事実だけを理由に、会社が従業員の退職金を一方的に減額することは法律で禁止されています。自己破産の手続きで定められた分をきちんと清算すれば、残りの退職金を受け取る権利が失われることはありませんのでご安心ください。
まとめ
今回は、自己破産における退職金の扱いについて解説しました。最後に、この記事の重要なポイントを振り返ります。
- 自己破産をしても、退職金が全額没収されるわけではない。
- 手元に残せる金額は、在職中か、退職後かなど状況によって異なる。
- 在職中の場合は「8分の1ルール」、退職後で未受領の場合は「4分の1ルール」が目安となる。
- 財産を隠したり、一部の債権者にだけ返済したりする行為は絶対にNG。
- 退職金を守りながら借金問題を解決するには、弁護士への早期相談が最も確実で安心な方法。
自己破産は、決して人生の終わりではありません。むしろ、借金のプレッシャーから解放され、新たな人生を再建するための前向きな制度です。退職金に関する不安や疑問があれば、まずは勇気を出して専門家である弁護士の無料相談などを利用してみましょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。
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