倒産したお寺のお墓は撤去される?専門弁護士が徹底解説
最終更新日: 2021年09月14日
お寺の倒産ってニュースを見たけど、お寺に倒産ってあるの?
どうしてお寺が倒産することになるの?
お寺が倒産したらお墓はどうなってしまうの?
年に数回、お寺が倒産したというニュースに触れることがあります。そんなこともあるのかと驚く方も多いのではないでしょうか。
会社の倒産といえば事業の不振で支払いができなくなった状態ですが、事業をしているというイメージはお寺にはあまりありませんので、なぜお寺が倒産するのかと疑問に思うのはもっともなことです。
また、お寺にはお墓という簡単に移動させることのできないものがありますので、お寺が倒産したらお墓はどうなってしまうのかという疑問も当然出てくるでしょう。
そこで、今回は、お寺の倒産とお墓はどうなるのかについてご説明します。
お寺の経済事情は厳しく倒産も
現在、全国には約8万のお寺があります。しかし、都市部に人口が集中し、過疎地域が増えていることから、お寺を支える檀家の数も減り経済的に厳しい状況にあるお寺が急増しています。
そして、20年以内に半分近くのお寺が消滅すると言われています。
お寺は宗教法人で税金が免除されている、多額のお布施をもらっているというイメージがあるかもしれませんが、現実には約5割のお寺は年間収入500万円以下です。
このように経済的に厳しい状況にあるお寺は後継者を見つけることも容易ではありません。
最近では、お寺の不動産に投資価値を見出した投資家にお寺を売却する住職もいるそうです。
もっとも、経済的に厳しいとはいえ、大きな借入がなければ倒産手続をとることはありません。
倒産に至るのは次にご説明するようなケースです。
お寺が倒産する原因
ここ十数年、大規模な納骨堂や墓地を造成するお寺が増えました。多くは、石材店や投資目的の会社が話を住職に持ち込んでいるようです。
ところが、計画段階の予測が甘く、数億、数十億の資金調達をして造成したものの、予定した数の申込が無く、販売不振に陥るケースがよくあります。
そうしますと、多額の借金を毎月返済していくことが困難になり、お寺は倒産に至ります。
このようにお墓などの造成を原因とするケースのほか、金融商品などの投資の失敗によって倒産に至るケースも稀にあります。
お寺が倒産したらどうなるお墓はどうなる?
このように全てのお墓を他の墓地に改葬できれば良いのですが、多数ある墓所区画の全員の同意を得ることは至難の業でしょう。
そこで、改葬に応じない墓地使用者に対して改葬を強制することはできるのでしょうか。
墓地使用者と墓地使用契約を締結した宗教法人は倒産によって消滅しています。そのため、墓地使用者が墓地区画に墳墓等を設置する契約上の権利、墓地使用権も消滅したことになります。
そのため、墓地使用者は、土地を取得した者に対して墓地使用権を対抗することはできません。
確かに、墓地使用権は単なる契約上の債権ではなく、永久性、固定性のある物権類似の権利だという考えもあります。そして、お墓が建立されていることによって、墓地使用権の存在は第三者に公示されているといえそうです。
しかし、このような事実上の公示方法によって、あくまで「物権類似の権利」である墓地使用権を第三者に対抗することはできないという結論になるでしょう。
お寺から土地を取得した会社が墓地の再開発?
お寺が倒産するとその資産が換金され、債権者に配分されます。お寺の墓地も不動産としての価値がありますので、売却されたり競売にかけられます。
他のお寺が墓地を買い取ってその経営を承継するケースもありますが、墓地の取得者が、墓地を更地にして不動産開発することを考えるかもしれません。
その場合、墓地は墓地以外に土地利用することができませんので、墓地廃止許可が必要となります。そして、墓地廃止許可を得るためには、既存のお墓を全て改葬する必要があります(S44.7.7環衛第9093号、S45.2.20環衛第25号)。
したがって、各墓地使用者を説得し、全てのお墓を他の墓地に移すことができれば、墓地廃止許可を得て、土地の再開発することが可能となります。
なお、全ての墓地使用者を説得できなくても、残ったお墓の数がさほど多くない場合には、墓地の一角にお墓を改葬してもらい、他の更地の場所について分筆をして、開発することは考えられます。
お墓は強制的に撤去されるのか?
以上を踏まえると、土地を取得した者は、訴訟を起こし、墓地使用者に対して墓所区画の明け渡しを求めれば、それが認められることになりそうです。
しかし、お墓は単なる記念碑とは異なり、先祖の焼骨が納められているもので、永久性、固定性のあるものです。そのため、このような訴訟を起こした場合、裁判所は、何らかの法的構成によって明け渡しを認めない結論を出す可能性が高いと考えられます。
だからといって訴訟をせずに、重機を入れてお墓を撤去することは、墳墓発掘罪などの刑法(第188条ないし第191条)に触れる犯罪となりますので、このような強硬手段をとることもできません。
つまり、墓地使用権を墓地の取得者に対抗できないとはいえ、墓所区画の明け渡しを強制されることにはならないでしょう。
事実上移転せざるを得なくなるかも
以上のとおり、土地の取得者は、強制的にお墓を撤去することができません。そうすると、土地を取得した者は墓地経営を引き継ぐか、自ら経営しない場合には他の宗教法人や公益法人に土地を譲渡することになります。
他の宗教法人や公益法人が経営を引き継ぐ場合には問題はなさそうですが、土地取得者が墓地経営をする場合には、墓地使用者にとって問題が起こり得ます。
土地取得者が墓地経営を引き継ぐ場合、消滅した宗教法人が締結していた契約は終了していますので、改めて、各墓地使用者と墓地使用契約を締結する必要があります。
この再契約の際に、高額な墓地使用料を要求されたり、高額な管理料を請求される可能性がありますし、墓地の管理がなされず、墓地がどんどん荒れ果てていく可能性もあります。
このような新しい墓地経営の対応に嫌気がさして、残った墓地使用者も他の墓地に自ら改葬することを余儀なくされるかもしれません。
まとめ
お墓は永代使用というように、代々承継されていくものですから、墓地の経営主体もそのように長期にわたって存続するのが前提される地方公共団体や宗教法人に限られています。
ところが、近時はそのようなそのような前提がお寺には必ずしも当てはまりません。
これから寺院墓地にお墓をつくることを考えている方は、お寺の経済的な安定性についても検討材料に入れることが求められるのかもしれません。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。