離婚時の年金分割とは?手続きから実際にもらえる金額まで弁護士が詳しく解説

最終更新日: 2024年11月08日

    • 離婚したから年金分割を申請したい
    • 離婚してから年金分割が支給されるまでの流れを整理したい
    • 離婚したときの年金分割に関する注意点を知りたい

離婚したときに夫婦の一方しか厚生年金に加入していないと、加入していない側の年金が少なくなります。これを解消するために用意されている制度が、年金分割です。

年金分割には、合意分割制度と3号分割制度の2種類があります。制度の内容だけでなく、年金分割が支給されるまでの流れや注意点も把握していると、より安心して年金分割を申請できます。

そこで今回は、離婚の金銭問題に詳しい専門弁護士が、年金分割の意味や支給までの流れ、年金分割に関する注意点について解説します。

本記事のポイントは以下です。お悩みの方は詳細を弁護士と無料相談することが可能です。

  • 年金分割とは、婚姻期間中における厚生年金記録(保険料納付実績)を、離婚するときに夫婦で分割する制度
  • 年金分割が支給されるまでの流れは、「年金分割のための情報通知書」を請求・受領→(合意分割のみ)按分割合決定→「標準報酬改定請求書」を提出
  • 離婚してから年金分割を受けるときに注意すべきポイントは、「離婚後2年以内が請求期限」「相手が死亡した場合は1か月以内に申請」「振替加算が停止される可能性がある」「離婚後の再婚や内縁でも年金分割可能」の4つ

離婚に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

詳しくはこちら

離婚時の年金分割とは

ここでは、年金分割の基礎知識について、以下の3つを解説します。

  • 概要
  • 合意分割制度
  • 3号分割制度

それでは、1つずつ解説します。

概要

基礎知識の1つ目は、年金分割の意味です。

年金分割とは、婚姻期間中における厚生年金記録(保険料納付実績)を、離婚するときに夫婦で分割する制度です。通常は、夫婦の一方が厚生年金に加入していない場合、厚生年金に加入していない側は離婚時に年金が少なくなります。これを解消するために、年金分割が必要なのです。

なお、令和3年度に厚生労働省が行った報告によると、令和3年の離婚件数は184,386件で、年金分割件数は34,135件です。そのため、離婚する夫婦の約18.5%が年金分割をしていることになります。

出典:令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 |厚生労働省
出典:令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 |厚生労働省

合意分割制度

基礎知識の2つ目は、合意分割制度です。

合意分割制度は、以下の条件に該当する場合、当事者または双方の請求で、婚姻期間中における厚生年金記録を当事者間で分割できる制度です。

  • 婚姻期間中に厚生年金記録がある
  • 当事者の合意または裁判手続きを経て按分割合を定めている
  • 原則離婚の翌日から2年以内の請求期限を過ぎていない

なお、婚姻期間中に3号分割の対象期間も含まれる場合は、合意分割の請求時に3号分割の請求もあったとみなされます。よって、3号分割の対象期間については、合意分割による分割に加え、3号分割による分割も行われます。

3号分割制度

基礎知識の3つ目は、3号分割制度です。

以下の条件を満たす場合は、国民年金の第3号被保険者から3号分割制度により年金分割を請求できます。

  • 婚姻期間中、平成20年4月1日以後国民年金の第3号被保険者期間がある
  • 原則離婚の翌日から2年以内の請求期限を過ぎていない

その場合、平成20年4月1日以後の婚姻期間中において、第3号被保険者期間中にて相手の厚生年金記録を半分ずつ、双方で分割できます。

この制度を活用するときには、当事者同士の合意は必要ありません。ただ、分割される側が障害厚生年金受給権者であり、3号分割請求の対象期間を年金額を基礎としている場合は、3号分割請求は認められません。

離婚後に年金分割を受けるための申請方法・手続きの流れ

ここでは、離婚時に年金分割を受けるまでの流れについて、以下の3つを解説します。

  • 「年金分割のための情報通知書」を請求・受領
  • (合意分割のみ)按分割合決定
  • 「標準報酬改定請求書」を提出

それでは、1つずつ解説します。

出典:離婚時の年金分割について|日本年金機構

「年金分割のための情報通知書」を請求・受領

年金分割を受けるまでの流れの1つ目は、「年金分割のための情報通知書」を請求・受領することです。

まず、「年金分割のための情報提供請求書」を年金事務所に提出し、「年金分割のための情報通知書」を請求・受領します。

「年金分割のための情報提供請求書」には、住所氏名や基礎年金番号、婚姻期間などを記載します。夫婦共同でもどちらか単独でも、提出可能です。実際に離婚する前に請求することも可能です。

なお、「年金分割のための情報提供請求書」には、本人の基礎年金番号やマイナンバーを示す書類などが必要になります。詳細は、日本年金機構のホームページをご覧ください。

出典:離婚時に年金分割をするとき|日本年金機構

(合意分割のみ)按分割合決定

年金分割を受けるまでの流れの2つ目は、按分割合を決定することです。

ただしこれは、合意分割の場合のみ対象になります。夫婦間で按分割合について話し合い、合意したら2人で年金事務所にて年金分割改定請求手続きを行います。そのときには、代理人を立てることも可能です。

ただ、按分割合の合意を得られなければ、家庭裁判所に審判または調停の申立てを行い、協議します。それでも按分割合が決定しなければ、裁判官が按分割合を決定することになります。

「標準報酬改定請求書」を提出

年金分割を受けるまでの流れの3つ目は、「標準報酬改定請求書」を提出することです。

年金事務所に「標準報酬改定請求書」を提出して、年金分割の改定請求手続きを行います。厚生年金の標準報酬が改定された場合、日本年金機構から離婚した両者に、「標準報酬改定通知書」が通知されます。

申請のときには、以下の書類も忘れずに添付しましょう。

合意分割の場合
  • 基礎年金番号またはマイナンバーを示す書類
  • 婚姻期間等を示す書類
  • 離婚するもの同士の生存を示す書類(請求日前1か月以内に作成)
  • 事実上離婚状態にあることを理由に請求する場合、そのことを示す書類
3号分割の場合
  • 基礎年金番号またはマイナンバーを示す書類
  • 婚姻期間等を示す書類
  • 離婚するもの同士の生存を示す書類(請求日前1か月以内に作成)
  • 年金分割の割合を示す書類

 

出典:離婚時の厚生年金の分割(合意分割制度)|日本年金機構
出典:離婚時の厚生年金の分割(3号分割制度)|日本年金機構

離婚後の年金分割で実際にもらえる金額の目安

 

年金分割で受け取れる金額は、合意分割と3号分割とでは平均年金月額に差があります。

合意分割で受け取る平均年金月額は分割改定前は55,215円ですが、改定後は87,949円となります。(2022年度)

実に32,734円も違ってきます。年金分割について離婚条件で合意を済ませれば、年間では392,808円多く受け取ることが可能です。

一方、3号分割(女性)の場合は平均年金月額が分割改定前で44,555円、改定後は51,793円となります(2022年度)。平均で月額7,238円が増加し、年間でいえば86,856円も多く受け取りが可能です。

財産分与があなたに有利な割合で分けられそうもない、あるいは慰謝料の金額が満足に受け取れそうもないと感じることもあるでしょう。そのようなときは、何とか年金分割を相手に認めさせ、または3号分割を請求し、老後の生活資金の充実を図りましょう。

参考:令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省年金局

離婚後の年金分割はいつからもらえるのか

年金分割を行うと、各自の年金受給開始日から受け取れます。

基本的には65歳に達していること、年金納付期間が25年を超えていること、この両方の条件を満たした場合に支給が開始します。

老齢厚生年金の受給開始年齢は、原則として65歳となっています。そのため、55歳で離婚して年金分割を行った場合、年金を受け取れるのは65歳になってからです。

すでに年金を受給している場合は、年金分割が行われた翌月から受け取る年金額が変更されます。

離婚してから年金分割を受けるときに注意すべきポイント

ここでは、離婚してから年金分割を受けるときに注意すべきポイントについて、以下の5つを解説します。

  • 合意内容を公正証書にする
  • 離婚後2年以内が請求期限
  • 相手が死亡した場合は1か月以内に申請
  • 振替加算が停止される可能性がある
  • 離婚後の再婚や内縁でも年金分割可能!?

それでは、1つずつ解説します。

合意内容を公正証書にする

ポイントの1つ目は、合意内容を公正証書にすることです。

年金分割を含め財産分与や養育費等、協議で取り決めた内容は公正証書にしておいた方が安心です。

公正証書は、公務員である公証人が権限に基づき作成する公文書です。夫婦だけで離婚協議書という離婚に関する契約書も作成できますが、公正証書はそれよりも高い証明力を有します。

また、離婚協議書は後日、離婚した相手に破棄されたり、内容を改ざんされたりするおそれもあります。

しかし、公正証書であれば原本は公証役場で厳重に保管されるので、破棄・改ざんされるリスクもありません。

年金分割をする場合、通常は夫婦2人が年金事務所に行き、手続きを行う必要があります。一方、公正証書に年金分割の記載があれば、離婚後、当該手続きをあなたが単独で行えるので手間がかかりません。

離婚後2年以内が請求期限

ポイントの2つ目は、離婚後2年以内が請求期限であることです。

離婚時に双方の合意があっても、年金事務所で離婚の翌日から2年以内に年金分割を請求しないと、年金分割を受けられません。

ただ、2年以内に審判や調停の申立てをしたものの、審判や調停の結果が出るまで2年以上要した場合は、申立て日の翌日から6か月までは年金分割の請求が可能です。

相手が死亡した場合は1か月以内に申請

ポイントの3つ目は、相手が死亡した場合は1か月以内に申請しなければならないことです。

離婚後2年が経過していなくても、年金分割を行う相手が死亡した場合は、1か月以内に年金分割を行わないと申請できなくなります。

別れた相手の死亡がすぐに知らされないこともあり得るので、2年を待たずに速やかに年金分割の手続きをしておくことを推奨します。

振替加算が停止される可能性がある

ポイントの4つ目は、振替加算が停止される可能性があることです。

夫(妻)の老齢厚生年金や障害厚生年金に加算されている加給年金額について、その対象者である妻(夫)が65歳になると、加給年金額がストップします。

この場合、妻(夫)が老齢基礎年金を受けるときに、一定基準により妻(夫)自身の老齢基礎年金額に、先程の加給年金額が加算されます。これが振替加算です。

振替加算は、離婚しても継続的に受けられますが、年金分割を行うと厚生年金の被保険者期間(240か月未満)を上回ってしまうため、振替加算が停止される可能性があります。

厚生年金の被保険者期間を確認して、振替加算と年金分割どちらが有利か事前に確認しましょう。

出典:加給年金額と振替加算|日本年金機構

離婚後の再婚や内縁でも年金分割可能!?

ポイントの5つ目は、離婚後の再婚や内縁でも年金分割が可能であることです。

離婚後に再婚しても、事実婚であっても、すでに決まっている年金分割は可能です。ただ、事実婚の場合は夫婦いずれかが3号被保険者である期間が必要になります。そのため、住民票など事実婚の証明書類を用意しましょう。

離婚後の年金分割におけるメリットとデメリット

年金分割ができるなら、あなたの将来の生活資金が安定的に得られる反面、年金分割を検討するときに確認しなければいけない点もあります。

ここでは年金分割のメリット・デメリットを説明しましょう。

メリット

将来にわたり、ある程度加算された年金額が安定的に支給されます。

離婚から随分時間が経過しても、経済的な困窮をある程度防げるとでしょう。

年金分割は婚姻中、夫婦が払い込んだ厚生年金の年金保険料を分ける仕組みです。財産分与のように年金を半分ずつ分けるような方法とは異なります。

年金分割は婚姻中に払い込んだ年金保険料を按分し、将来受け取る年金額が自動的に調整・給付されます。

つまり、離婚した相手から毎回振込を受けるのではなく、日本年金機構が自動的に調整した年金額を支給するので、支払いの遅延や相手にわざわざ請求する必要もないので安心です。

離婚した相手より収入の低かった人や専業主婦(主夫)が年金分割をすれば、将来年金を受け取るときに加算されるので、年金額も増えます。

デメリット

年金分割に合意し、65歳に達していても、年金納付期間が25年を超えていないと、年金支給は開始されない点に注意が必要です。

また、年金事務所で離婚翌日から2年以内に年金分割を請求しなければ、年金分割はもはや受けられません。

その他、離婚等が成立後、相手が死亡したときは、死亡日から起算して1か月を経過すると年金分割の請求はできなくなります。

そのため、年金分割に合意したときは、速やかに夫婦2人で年金事務所へ行き手続きをする必要があります。

年金分割の手続きを迅速に進めたいのであれば、年金分割も含めた公正証書を作成し、単独で請求できるように工夫した方がよいです。

離婚後の年金分割でお悩みなら春田法律事務所に相談を

今回は、離婚の金銭問題に詳しい専門弁護士が、年金分割の意味や支給までの流れ、年金分割に関する注意点について解説しました。

年金分割は、夫婦片方しか厚生年金に加入していないと、厚生年金に加入していない側の年金が少なくなる状態を解消するための制度です。婚姻期間中の厚生年金記録(保険料納付実績)を、離婚するときに夫婦で分割するもので、合意分割と3号分割の2種類があります。

離婚の翌日から2年以内に申請しないといけないことや、振替加算が停止される可能性があることに注意が必要です。そのため、年金分割を申請した方が得になるか慎重に判断し、申請する場合は速やかに行いましょう。

どの分割方法がよいのかわからない場合は、離婚問題に詳しい弁護士への相談をおすすめします。

離婚に強い弁護士はこちら

離婚のコラムをもっと読む

※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。