墓地管理料の滞納と原状回復
最終更新日: 2023年11月17日
墓地管理料の性質
多くの墓地では、墓地使用者は一定の墓地管理料を納めることが求められています。
個々の墓所の清掃や除草等の管理は各墓地使用者の義務ですが、墓地全体を管理するのは墓地管理者の義務です。
墓地管理料は、このように墓地全体を良好に維持してもらうために、墓地使用者が墓地管理者に対して支払うものです。マンションの賃貸借における共益費に相当するものと考えて良いでしょう。
この墓地管理料は年間数千円から1万円ほどが相場です。数万円など比較的高めの管理料の場合には、それだけ墓地管理者に求められる管理レベルも高くなり、管理責任を問われる可能性が高まります。
墓地管理料は年に1回納めるという墓地が多いですが、2年、3年に1回納めるという墓地もあります。さらに、数十万円を一括で納め、それ以後は管理料を納める必要がない永代管理料という制度を設けている墓地もあります。このような永代管理料は、一度に多くの資金が入るメリットはあります。
しかし、管理料の請求は、それを通じて墓地使用者の所在確認をするという意義もありますので、永代管理料の制度によると、このような所在確認の機会が失われてしまいます。また永代管理料を納める方は、寺院にお墓の管理まで期待している可能性があり、お墓には参拝者が訪れず、当該区画は荒れ、いずれ無縁化してしまう恐れがあります。
永代管理料の制度を採用するにあたっては、これらの点も検討する必要があります。
墓地管理料の増額
管理料の金額の決定方法については、様々な考え方があり、墓地管理に要する費用の総額を区画数で割った金額とする考え方や各区画面積で按分するという考え方もあります。
墓地全体の管理に要する費用が増加し、現状の墓地管理料であれば十分な墓地管理ができなくなるという事態もありうるでしょう。
このような場合、寺院は、墓地管理料を自由に増額変更することはできるのでしょうか。
ほとんどの墓地使用規則(約款)には、規則変更の可能性を留保した条項があり、それが管理料変更の根拠規定となります。
とはいえ、この規定によれば、墓地使用者の同意なく、寺院が自由に管理料を増額できるというものではありません。そのようなことをすれば檀信徒との紛争は避けられないでしょう。
墓地使用者に不利益となる契約内容の変更ですから、墓地使用者に対して管理料の増額が必要となる理由について説明を尽くし、墓地使用者全員の3分の2以上(あるいは4分の3以上)の同意を得ることは、有効に契約変更をするという点でも、檀信徒との紛争を回避するという点でも必要なものと考えられます。
墓地管理料の徴収方法
寺院墓地に限らず、ほとんどの墓地には墓地管理料が滞納になっているお墓があります。滞納となっているお墓の数は少数であり、管理料の金額も大きくない一方、管理料を請求する負担は小さくありません。そのため、滞納状態を放置してしまいがちです。
しかし、墓地管理料の滞納を放置することは、きちんと管理料を納めている他の墓地使用者との関係では不公平ですし、滞納しても督促されないことを他の墓地使用者が知れば、滞納者が増加するかもしれません。
そこで、このような墓地管理料を滞納している墓地使用者に対しては、その督促を行い、それでも納付がないときは、墓地使用契約を解除します。
まずは、電話や書簡で墓地管理料の納付をお願いする連絡をしますが、墓地使用者と連絡がつかない、連絡はつくものの納付がないときは、次は、納付期限を定め、期限内に納付がない場合には、墓地使用契約を解除する旨を内容証明郵便にて通知します。
なお、墓地使用者以外の親族や縁故者が代わりに管理料を支払うと申し出ても、安易に受領してはなりません。後日、その者と他の親族の間で祭祀承継者について争いになった場合に、管理料を受領したことで寺院がその者を墓地使用者と認めたかのように思われ、紛争に巻き込まれる恐れがあるからです。
墓地使用契約を有効に解除するには
墓地管理料が長期間滞納されている場合、当該墓所に参拝者はなく放置され、植木は伸び放題で、隣の墓所に迷惑をかけているかもしれません。このような状況を、墓地管理者としては、看過できないでしょう。
そこで、管理料を滞納している墓所の墓石等を撤去し、原状回復することが考えられます。そのためには、まずは墓地使用契約の解除が必要となります。
墓地使用契約は、永続的に墓地を使用する契約ですから、1回や2回の墓地管理料の不払いがあっただけでは、法的に有効に墓地使用契約を解除することはできません。自宅の賃貸借契約においても家賃の支払いが1か月遅れたくらいでは有効に契約を解除できないのと同様の考え方です。
年に1回の納付であれば、3年から5年の間、管理料の滞納状態が続いた場合には、墓地使用契約の有効な解除理由になるという見解が多いようです。
そして、契約解除をするためには、契約解除をする旨を墓地使用者に通知する必要があります。
墓地使用者の所在が不明の場合には、弁護士などの専門家に依頼をして、戸籍、戸籍の附票の調査を行い、現住所を調査する必要があります。このような調査を一切せずに墓石等を撤去し、焼骨を合葬すると、後日親族、縁故者から訴えられ、損害賠償を命じられる恐れがありますので注意が必要です。
調査の結果、墓地使用者の所在が判明した場合にはその者に契約解除の通知をします。墓地使用者が既に亡くなっていた場合には、その祭祀承継者にお墓を承継する意思があるか確認し、その意思がない場合にはその者に対して契約解除の通知をします。他方、いずれの者にも連絡がつかないときには、訴訟を提起し、公示送達の方法によって契約解除の通知を行う、あるいは無縁改葬を検討します。
墓石の撤去、原状回復
墓地使用契約を有効に解除した後は、墓石等を撤去して、墓所区画を原状回復することになります。これには行政上の手続と民事法上の留意点があります。
行政手続き
墓地埋葬法上は改葬になりますので、行政の許可が必要です。
墓地使用者がわかっているときは、改葬についてその者の承諾書が必要になります。
承諾してもらえない場合には、訴訟を提起することとなります。このような手間を防ぐためにも、墓地使用契約を結んだとき又は墓地を承継したときに、予め、承諾書を取り付けておくべきです。
他方、墓地使用者がいない無縁墳墓の場合は、無縁改葬の手続をとります。無縁改葬の際は、墓地埋葬法施行規則第3条の定める官報掲載や立札による広告などが必要です。
民事法上の留意点
改葬手続はあくまで行政上の手続きであって、墓地使用者との民事の権利関係の問題はまた別の問題です。
墓所にある墓石等は墓地使用者の所有物です。そのため、墓地管理者が勝手に処分することは所有権を侵害するものとして、後日、墓地使用者が現れた場合に損害賠償請求を受けるのではないかと懸念されます。
しかし、墓地使用契約が解除され、墓地使用権が消滅したときは、墳墓はその区画を占有する法的根拠を失います。そして、融通性がなく、財産的価値の乏しい墓石等は、所有権が放棄された無主の動産と考えることができ、墓地管理者が墓石等を占有した時点で、墓地管理者がその所有権を取得すると考える余地があります(民法第239条1号)。
無縁改葬の場合や、調査によっても墓地使用者と連絡がつかなかったという場合には、このような考え方に基づき、墓石等を処分することで良いでしょう。
他方、墓地使用者と連絡はつくものの、管理料を支払わない、自主的に改葬することにも応じないという場合、前記のように却って寺院が損害賠償請求を受けるリスクを回避するべく、墓所区画の明け渡しを求めて訴訟提起し、司法手続によって解決することも検討すべきです。
なお、取り出した焼骨については、その後に現れるかもしれない墓地使用者や縁故者の感情に配慮して、直ちに合祀するのではなく、5年~10年ほどは保管した方が無難でしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。