無縁墳墓の整理

最終更新日: 2023年11月17日

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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はじめに

何年も参拝者がなく、墓所は荒れて墓地の景観を損なっている。このような墓所はどの寺院墓地にも多かれ少なかれあるようです。

このように放置された墓所については、当然、墓地管理料も未納となっていますので、黙認しては他の墓地使用者との関係で不公平ですし、墓地区画には限りがありますので、当該区画を新たな申込者に使用させたいところです。

もっとも、無縁墳墓の整理は気を付けなければ、法的責任を問われてしまいますので、以下、無縁墳墓の適法な整理方法についてご説明します。

墓地埋葬法の遵守と民事責任は別です。

墓地埋葬法には改葬手続の手順について規定がありますが、それはあくまで行政との関係での手続きに過ぎず、それを履践したからといって当然に、墓地使用者との関係でも改葬手続が適法になるわけではありません。

要するに、墓地埋葬法に従って墓石の撤去、原状回復をしたとしても、墓地使用者に対して損害賠償責任を負うことがあるということです。

具体的には、参拝者もなく墓所が放置されていたので、墓石等を撤去して原状回復したところ、後日、墓地使用者が現れ、永代使用権の侵害・墓石等の所有権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償責任、墓地使用契約上の墓地を使用させる債務の不履行に基づく損害賠償責任を負うことがあります。

損害賠償の対象としては、慰謝料(100万円、200万円になることもあります。)、墓石の原状回復費用(墓石費用、工事費用)、既に第三者に区画を使用させている場合には永代使用権相当額も賠償対象となります(東京地判H19.2.8、高松高判H26.2.27)。

寺院のなかには墓地埋葬法の改葬手続すら履践せずに改葬をしてしまっている例が散見されますが、高い可能性で損害賠償責任を負う危険な行為です。また、墳墓発掘罪(刑法189条)の刑事責任を問われるリスクすらあります。

したがって、墓所を整理するにあたっては、墓地埋葬法の手続とは別に、適法に墓地使用契約を解消する必要があります。

無縁墳墓の改葬手続

無縁墳墓とは、法律上、死亡者の縁故者がいない墳墓と定義されています(墓埋法規則第3条)。

無縁改葬の行政手続については、以下の書類を添付して市町村長に改葬許可申請をします。特に3の手続きの履践が重要です。

  1. 埋蔵証明書
  2. 無縁墳墓の写真及び位置図
  3. 死亡者の本籍及び氏名並びに墓地使用者、死亡者の縁故者及び無縁墳墓に関する権利を有する者に対し1年以内に申し出るべき旨を、官報に掲載し、かつ、無縁墳墓の見やすい場所に設置された立札に1年間掲示して、公告し、その期間中にその申出がなかつた旨を記載した書面
  4. 3の官報の写し及び立札の写真
  5. その他市町村長が特に必要と認める書類

無縁墳墓であることの調査

墓地使用者に対して損害賠償責任を負わないためには、上記の無縁改葬手続を履践することは当然ですが、それに加えて、墓地使用者、縁故者の存在について十分な調査を尽くしたことが必要です。

具体的には、次の調査を実施すべきです。

  1. 墓地使用者として届けられている者の少なくとも3親等内の親族について戸籍等の調査をして、連絡を試みます。
  2. 墓地埋葬法上は無縁改葬の立札は1年で足りますが、賠償責任を免れるためには、それだけでは不十分です。どれくらいの期間掲示すべきかについては一概には言えませんが、失踪宣告をすることができる民法の規定を参考に7年ほど掲示すべきという見解もあります。
  3. 2の期間中、月に数回、当該墓地に参拝の形跡がないか確認し、記録します。

これらの調査の結果、相続人や縁故者を確認でき、祭祀承継者を特定したときは、墓所の改葬手続について承諾書をもらいます。承諾を得られないときは、滞納になっている墓地管理料の支払いを求め、その支払いを拒否されるときは墓地使用契約の解除通知をすることとなります。

以上の調査を尽くし、墓地埋葬法の無縁改葬手続を履践して、墓所の原状回復をした後も、万が一、その後に縁故者が現れた場合に備え、焼骨については数年間は合祀せずに、個別に保管しておいた方がよいでしょう。

損害賠償を命じれられた裁判例

上記のような調査義務を尽くさずに改葬手続をした結果、多額の損害賠償を命じられた事例があります。

当該事例で寺院は、墓石に改葬予告をするプレートを取り付け、年6回1日常駐して改葬対象の墳墓について聞き取り調査を行っていました。

しかし、寺院は墓地使用者名簿を整備しておらず、また改葬直前に複数回、当該墓地への墓参の形跡を確認していたという事情があったことから、依然として墓地使用者又は縁故者が存在することを強く疑ってしかるべきケースでした。

そのため、相当期間をかけて使用者の有無の調査を尽くす義務があったと認定され、慰謝料200万円と墓石の原状回復費用約139万円の賠償を命じられました(高松高判H26.2.27)

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