開示請求の流れを弁護士が解説|通知が届いたらすべき初動対応
最終更新日: 2025年11月27日

プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という見慣れない通知が突然届き、動揺されている方もいらっしゃるかもしれません。この通知は、インターネット上での特定の投稿について、あなたの個人情報が開示される可能性を示唆する、法的な手続きの始まりを告げるものです。何が起きているのか分からず、不安でいっぱいになっていることと存じます。
ご安心ください。この記事では、この意見照会書が何を意味するのか、そして通知を受け取ってからどのように対応すべきかについて、弁護士が分かりやすく解説します。開示請求の全体像を把握し、冷静かつ適切に行動するための具体的なステップと、今すぐ取るべき初動対応が明確になります。この記事が、ご自身の不安を解消し、最善の解決策を見つけるための一助となれば幸いです。
突然「発信者情報開示請求」の通知が…何が起きているのか?
プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という通知が突然届き、驚きや不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。この通知は、インターネット上であなたが行った特定の投稿によって、権利を侵害されたと主張する第三者(請求者)がいることを意味しています。
請求者は、あなたの個人情報(氏名、住所、メールアドレスなど)を特定し、その情報に基づいて損害賠償請求などの法的措置を検討しています。そのため、投稿が行われたSNS運営会社や通信事業者といったプロバイダに対して、あなたの情報の開示を求めているのです。
この意見照会書は、プロバイダがあなたの情報を開示する前に、投稿者であるあなた自身の意見を確認するために送付するものです。これは、法的な手続きの第一段階であり、あなたがこの状況にどう対応するかによって、その後の展開が大きく変わる非常に重要な局面といえます。
発信者情報開示請求とは?投稿者を特定するための法的手続き
発信者情報開示請求とは、「プロバイダ責任制限法」という法律に基づき、インターネット上の匿名投稿者を特定するための正式な法的手続きです。
この手続きは、誹謗中傷、プライバシー侵害、著作権侵害など、インターネット上の投稿によって権利を侵害された被害者が、誰がその投稿をしたのかを明らかにするために利用されます。
目的は、投稿者を特定し、その後の損害賠償請求や謝罪要求、投稿の削除請求といった法的措置を講じることにあります。被害者が、匿名性の陰に隠れた投稿者に対して責任を追及するために必要不可欠なプロセスであり、その法的な重みは非常に大きいといえます。
この手続きにより、被害者は加害者に対して正当な補償を求めることが可能になり、同時にインターネット上での無責任な発言に対する抑止力ともなっています。意見照会書が届いたということは、あなたの投稿がこの法的手続きの対象となっている、ということを意味しているのです。
なぜ自分のところに通知が?開示請求の対象となるケース
「なぜ自分のところにこんな通知が来たのだろう?」と疑問に思われる方も多いでしょう。発信者情報開示請求の対象となるのは、主に以下のような、他者の権利を侵害する可能性のある投稿が考えられます。
- 名誉毀損:
他人の社会的評価を低下させるような具体的な事実を指摘する投稿です。例えば、「〇〇社のA氏は不倫している」といった内容が該当します。 - 侮辱:
具体的な事実を挙げずに、他者を侮蔑する投稿です。例えば、「〇〇は馬鹿だ」といった内容が該当します。2022年には侮辱罪が厳罰化され、より重い刑罰が科される可能性もあります。 - プライバシー侵害:
他人の私生活上の事実を、本人の許可なく公にさらす投稿です。個人の住所や電話番号、病歴などの公開がこれにあたります。 - 著作権侵害:
他人が作成した写真、文章、音楽、イラストなどを、無断で自身のSNSやブログなどに転載・使用する投稿です。 - 脅迫:
相手に危害を加えることを予告する投稿です。「〇〇を殺す」といった直接的な内容はもちろん、「会社を潰してやる」といった間接的な脅しでも対象となることがあります。
これらの投稿は、法的に権利侵害と判断される可能性があり、その結果としてあなたの個人情報の開示が求められている状況なのです。
【重要】通知が届いたらまずすべき3つの初動対応
プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が届き、戸惑いや不安を感じるのは当然のことです。しかし、パニックになって冷静さを失うと、かえってご自身にとって不利な状況を招きかねません。意見照会書が届いた直後は、冷静かつ迅速な初期対応が非常に重要になります。
このセクションでは、通知を受け取ってからまず何を確認し、どのような行動を取るべきか、具体的な3つの初動対応について解説します。これらのステップを確実に実行することで、今後の対応方針を適切に判断し、不利益を最小限に抑えるための土台を築くことができます。
1. 通知書(意見照会書)の内容を正確に確認する
意見照会書が届いたら、まず最初に行うべきことは、その内容を詳細かつ正確に確認することです。通知書には、発信者であるあなたに意見を求めるために必要な情報が記載されています。
特に確認すべき項目は以下の3点です。
- 請求者の氏名や名称:
誰が、どのような立場で開示を求めているのかを確認します。 - 開示を求める理由:
どのような権利が侵害されたと請求者が主張しているのかを理解します。名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害、著作権侵害など、具体的な権利侵害の主張が書かれているはずです。 - 問題となっている投稿の具体的な内容:
対象となる投稿のURL、投稿日時、スクリーンショットなどが添付されていることが多いです。ご自身の投稿であるかどうか、またその内容が請求者の主張と一致しているかを慎重に照らし合わせます。
これらの情報を正確に把握することが、今後の対応方針を決める上で不可欠です。ご自身の投稿であるかどうかの確認はもちろん、請求者の主張内容を客観的に把握することが、次のステップへ進むための重要な一歩となります。
2. 回答期限を確認し、安易に無視しない
意見照会書には、プロバイダへの回答期限が明記されています。この期限は通常2週間程度と短期間に設定されていることが多く、この期間内にプロバイダへ何らかの回答をすることが非常に重要です。
回答期限を過ぎてしまうと、プロバイダは「回答がない=異議なし」と判断し、あなたの情報(氏名、住所、メールアドレスなど)を請求者へ開示してしまう可能性があります。一度開示されてしまうと、その後の法的対応において非常に不利な立場に置かれることになります。
また、仮にプロバイダが開示を拒否したとしても、請求者は次の法的ステップである裁判手続きへと移行するだけです。この場合、あなたは最初の反論の機会を失うことになり、やはり不利な状況を招きます。
したがって、意見照会書を無視することは、ご自身にとって最も避けるべき選択肢です。回答期限を厳守し、たとえ開示を拒否する場合であっても、期限内にその意思を明確にプロバイダに伝えることが求められます。
3. すぐに弁護士へ相談する
発信者情報開示請求の通知を受け取った際に、最も強く推奨される初動対応は、速やかに弁護士に相談することです。ご自身だけで対応しようとすると、法的な知識不足から誤った判断を下したり、不利益を被ったりするリスクが非常に高まります。
弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
- 投稿内容が法的に「権利侵害」にあたるかの専門的な判断:
ご自身の投稿内容が、法的に見て本当に権利侵害に該当するのかどうか、客観的かつ専門的な視点から判断してもらえます。これにより、不必要に不安を感じたり、逆に安易な自己判断で状況を悪化させたりすることを防げます。 - 最適な対応方針についての助言:
意見照会に対して開示に同意すべきか、それとも開示を拒否して争うべきか、具体的な状況に応じて最も有利な対応方針について、専門家としての助言を得られます。 - 今後の法的手続きの見通し:
もし情報が開示された場合や、開示を拒否して裁判になった場合に、どのような手続きが想定されるのか、その見通しやリスク、必要な準備について説明を受けられます。
早期に弁護士に相談することは、問題解決への第一歩であり、ご自身の権利と利益を守る上で最も確実な方法と言えるでしょう。
【やってはいけない】慌てて投稿を削除するリスク
意見照会書が届くと、多くの方が「まず投稿を削除してしまおう」と考えるかもしれません。しかし、通知を受けて慌てて問題の投稿を削除する行為は、原則として避けるべきです。
投稿を削除してしまうと、後の裁判などで「権利侵害があったことを認めた(証拠を隠滅しようとした)」と判断され、ご自身にとって不利な心証を与えてしまうリスクがあります。特に、損害賠償請求や慰謝料の請求に発展した場合、このような行為は不利な材料として扱われる可能性があります。
また、投稿を削除したとしても、インターネットプロバイダ側には投稿時のIPアドレスやタイムスタンプなどのログ情報が一定期間保存されています。そのため、投稿を削除したからといって証拠が完全に消滅するわけではありません。むしろ、削除行為がかえって状況を複雑にし、対応を難しくしてしまうこともあります。
自己判断で投稿を削除する前に、必ず弁護士に相談し、その指示に従うようにしてください。弁護士は、法的観点から最も適切な対応策を助言し、不利益を最小限に抑えるためのサポートを提供してくれます。
【段階別】発信者情報開示請求の具体的な流れ
プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という通知を受け取った後、実際に情報が開示されるまでには、いくつかの段階を踏むことになります。ここでは、そのプロセスをステップごとに詳しく解説していきます。情報が開示された後、請求者からどのようなアクションが想定されるのかまで、具体的な流れを一緒に見ていきましょう。
ステップ1:プロバイダからの「意見照会書」の送付
発信者情報開示請求のプロセスは、まずインターネットサービスプロバイダ(SNS運営会社や通信事業者など)から「意見照会書」が届くことから始まります。これは、インターネット上の特定の投稿によって権利を侵害されたと主張する第三者(請求者)が、その投稿者の情報開示をプロバイダに求めた際に送られてくるものです。
この意見照会書は「プロバイダ責任制限法」という法律に基づき、プロバイダが発信者本人の情報を開示する前に、発信者本人に意見を聞く義務があるために送付されます。つまり、プロバイダが独断であなたの情報を開示することはなく、必ずあなたの意思を確認する機会が設けられているのです。この意見照会書は、投稿者側にとっては、情報開示に同意するか、拒否するか、または反論するかを決めるための最初の、そして非常に重要な機会となります。
この段階では、まだあなたの情報が請求者に開示されているわけではありませんので、慌てずに内容をしっかりと確認し、冷静に対応することが求められます。意見照会書には、請求者の主張内容や、問題となっている投稿の詳細が記載されていますので、まずは自身の投稿であるかどうかの確認や、その投稿が本当に権利侵害に当たるのかどうかを検討する必要があります。
ステップ2:意見照会書への回答(同意・拒否)
プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた場合、回答期限までに何らかの対応を取る必要があります。
この時、主な選択肢としては「開示に同意する」か「開示を拒否する」の2つが考えられます。また、意図せず、あるいは意図的に「回答を無視する」という選択をする方もいますが、この行動には大きなリスクが伴います。このセクションでは、それぞれの選択がその後の展開にどのように影響するのか、その概要を説明していきます。
開示に「同意」する場合のその後の流れ
意見照会書に対して、あなたが発信者情報の開示に「同意する」と回答した場合、プロバイダは請求者に対してあなたの個人情報(氏名、住所、メールアドレスなど)を開示します。この時点から、請求者はあなたに対して直接連絡を取ることが可能になります。
通常、情報開示後は、請求者本人、またはその代理人である弁護士から、あなたの自宅住所へ内容証明郵便が届くことが一般的です。この書面には、名誉毀損やプライバシー侵害など、問題となった投稿によって生じたとされる損害(慰謝料や調査費用、弁護士費用など)の賠償を求める内容が記されています。この通知をきっかけに、請求者とあなたの間で示談交渉が開始されます。
示談交渉では、請求額や謝罪の要否、投稿削除の有無などについて話し合いが行われます。双方の合意に至れば示談成立となり、示談書を取り交わして解決となります。しかし、交渉がまとまらない場合や、請求額に納得できない場合は、請求者があなたを相手取って民事訴訟を提起し、裁判で争うことになる可能性も十分にあります。
開示を「拒否」する場合のその後の流れ
あなたが発信者情報の開示を「拒否する」と回答した場合、プロバイダは、あなたが異議を唱えていることを受け止め、通常は任意での情報開示を拒否します。これは、プロバイダ責任制限法に基づいて、発信者の意見を尊重する義務があるためです。一見すると、これで一件落着したように思えるかもしれませんが、実際には手続きが終わるわけではありません。
開示を拒否しても、請求者が本当に投稿者を特定したいと考えている場合、次のステップとして裁判所を通じた法的な手続きに進む可能性が極めて高くなります。具体的には、請求者が裁判所に対して「発信者情報開示請求訴訟」を提起したり、2022年10月に施行された改正法によって新設された「発信者情報開示命令の申立て」を行うことになります。
これらの手続きでは、裁判官があなたの投稿が法的に「権利侵害の明白性」を満たすかどうか、そして情報の開示が必要かどうかを判断します。
つまり、あなたが開示を拒否したとしても、最終的には裁判所の判断によって、あなたの情報が開示される可能性は残るということです。この段階で、弁護士に相談し、適切な反論を法的に構成してもらうことが非常に重要になります。
回答を「無視」した場合のリスク
プロバイダからの意見照会書に対して、回答期限内に何も対応しなかった、すなわち「無視」した場合、これは最も危険な選択肢と言わざるを得ません。なぜなら、その後の展開があなたにとって非常に不利になるリスクが高いからです。
まず、プロバイダによっては、回答がなかったことを「反論がない=異議なし」と判断し、あなたの個人情報を請求者に対して開示してしまうケースがあります。この場合、あなたが知らない間に情報が開示され、ある日突然、請求者から損害賠償を求める内容証明郵便が届く、といった事態に発展する可能性があります。
また、仮にプロバイダがあなたの情報を開示しなかったとしても、請求者は裁判手続きへと進むだけです。あなたが意見照会書を無視したことは、あなたが最初の反論の機会を自ら放棄したことになり、裁判になった際に「なぜあの時、意見を述べなかったのか」と不利な心証を与えかねません。結果として、法的な専門家によるサポートや適切な反論を行う機会を逸し、自分にとって不利な状況を自ら招くことになります。
したがって、意見照会書は決して無視せず、必ず弁護士に相談し、回答期限内に何らかの対応を行うことが極めて重要です。
ステップ3:裁判手続きへの移行(発信者情報開示請求訴訟・開示命令)
意見照会書に対して投稿者の方が開示を拒否した場合、請求者側は次のステップとして、裁判所を通じた法的な手段に移行することが考えられます。この段階では、請求者が裁判所に申し立てを行い、裁判所の判断によって情報の開示が認められるかどうかが決定されます。
ここで知っておくべき重要な点として、2022年10月に施行された改正プロバイダ責任制限法により、従来の「発信者情報開示請求訴訟」に加えて、より迅速な「発信者情報開示命令」という新しい手続きが創設されました。これにより、請求者にとって発信者の特定までのハードルが下がり、より効率的に手続きを進められるようになったと言えます。
従来の発信者情報開示請求訴訟の流れ
改正前の法律に基づいた従来の発信者情報開示請求訴訟は、通常2段階の裁判手続きが必要でした。まず、権利侵害の被害者は、X(旧Twitter)などのSNS運営会社やウェブサイト管理者(コンテンツプロバイダ)を相手に訴訟を起こし、投稿に使われたIPアドレスやタイムスタンプといった通信記録の開示を求めます。これは、発信者を特定するための第一歩です。
次に、コンテンツプロバイダから得られたIPアドレスをもとに、そのIPアドレスを割り当てた通信事業者(NTTドコモなどのアクセスプロバイダ)を特定します。そして、そのアクセスプロバイダを相手に改めて訴訟を起こし、当該IPアドレスの契約者である発信者の氏名や住所などの情報開示を求めます。
このように、従来の方式では2回も裁判手続きが必要となり、時間と費用、そして精神的な負担が請求者にとって大きなものでした。発信者の特定までに通常8〜9ヶ月、場合によってはそれ以上の期間を要することも少なくありませんでした。
新設された「発信者情報開示命令」の流れ
2022年10月の法改正で導入された「発信者情報開示命令」は、従来の煩雑な手続きを大幅に改善するものです。この新しい制度の最大の特徴は、これまで2回必要だった裁判手続きが、1つの非訟手続きに統合された点にあります。
具体的には、請求者は裁判所に「発信者情報開示命令」を申し立てることで、コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの両方に対して、発信者情報の一括開示を求めることができるようになりました。これにより、別々に訴訟を提起する必要がなくなり、手続きが格段に迅速化・効率化されました。
この制度改正によって、権利侵害を受けた被害者が発信者の特定を断行しやすくなったと言えます。また、発信者側にとっても、裁判手続きが簡略化されたことで、より早い段階での対応が求められるようになる可能性があります。
ステップ4:個人情報が開示された後の流れ
発信者情報開示請求によって、ご自身の情報が相手に開示されてしまうと、そこから新たな展開が始まります。プロバイダへの意見照会書への回答や裁判所の決定によって情報が開示された後は、請求者があなた個人に対して直接的なアクションを起こせるようになるからです。
主なアクションとしては、損害賠償請求という民事上の手続きと、刑事告訴という刑事手続きの2つのルートが考えられます。これらの詳細について、次の小見出しでそれぞれ詳しく解説します。
損害賠償請求(示談交渉または民事訴訟)
ご自身の情報が開示された後に最も一般的に行われるのは、損害賠償請求です。まず、請求者の代理人弁護士から、あなたに対して慰謝料や調査費用、弁護士費用などを請求する内容証明郵便が届くことが多いでしょう。
この通知を受けて、請求者側とあなたとの間で、話し合いによる解決を目指す「示談交渉」が始まります。この交渉では、提示された損害賠償額や謝罪の有無、投稿の削除などについて合意形成を目指します。
もし、双方の合意が得られ、金額や条件について納得できれば、示談が成立し、和解書を交わして問題解決となります。
しかし、交渉が難航したり、金額や条件で折り合いがつかなかったりした場合は、請求者が「損害賠償請求訴訟」を提起し、裁判所で争うことになる可能性があります。この場合、裁判官の判断によって、損害賠償の有無や金額が決定されます。
刑事告訴
損害賠償請求という民事上の手続きとは別に、投稿内容が犯罪に該当するほど悪質な場合は、「刑事告訴」が行われる可能性もあります。
例えば、名誉毀損罪、侮辱罪(2022年からは厳罰化されました)、脅迫罪などがこれに該当するケースです。これらの犯罪は、被害者が警察に告訴状を提出し、受理されることで捜査が開始されます。
刑事告訴が受理され、警察による捜査の結果、被疑者として逮捕されたり、検察庁に送致されて起訴されたりする可能性があります。起訴された場合、刑事裁判によって、罰金や懲役といった刑事罰を科されることになります。
これは民事上の責任とは全く別次元の、ご自身の犯罪歴にも関わる重大なリスクであることを理解しておく必要があります。
開示請求の通知が来たら弁護士に相談すべき理由
発信者情報開示請求の通知を受け取ったとき、多くの方は「どうすれば良いのか」「このまま放っておいて良いのか」と大きな不安に襲われることでしょう。このような法的な問題は、一人で抱え込まず、インターネット問題に詳しい弁護士に相談することが不可欠です。
弁護士は、単に法律知識を提供するだけでなく、法的に最適な対応を助言し、ご自身の精神的な負担を軽減し、万が一訴訟に発展した場合でも有利な解決へと導くことができます。ここでは、弁護士に相談することで得られる具体的なメリットについて詳しく解説していきます。
法的に最適な対応を助言してもらえる
弁護士に相談する最大のメリットは、ご自身の状況に合わせて法的に最も適切な対応策を具体的に示してもらえる点にあります。問題となっている投稿内容が、実際に「権利侵害の明白性」という法的要件を満たしているのかどうかは、非常に専門的な判断が必要です。素人判断では見落としがちなポイントも、弁護士は客観的かつ専門的な視点から精査し、ご自身の投稿が法的にどの程度のリスクを抱えているかを正確に評価してくれます。
その評価に基づき、弁護士は「開示を拒否して徹底的に争うべきか」「早期に開示に同意して、示談交渉で穏便な解決を目指すべきか」「あるいは、別の対応策があるか」など、あなたのケースに合わせた最適な戦略を提案してくれます。
これにより、ご自身が誤った判断を下し、かえって不利な状況に陥るリスクを回避することができます。
精神的負担を軽減し、示談交渉を任せられる
発信者情報開示請求のような法的な問題に直面すると、精神的に大きな負担を感じる方がほとんどです。いつ身元が特定されるのか、賠償金を請求されるのではないか、家族や会社に知られてしまうのではないかといった不安は、日常生活にも影響を及ぼしかねません。しかし、弁護士に依頼することで、このような精神的負担を大幅に軽減することが可能です。
弁護士は、請求者側の弁護士との交渉や連絡など、すべての窓口となって対応してくれます。これにより、あなたは相手方と直接やり取りする必要がなくなるため、感情的な対立や精神的なプレッシャーから解放されます。
特に、情報開示後の示談交渉の場面では、弁護士があなたの代理人として、冷静かつ専門的な知識に基づいて交渉を進めてくれるため、ご自身にとって最も有利な条件での解決を目指すことができます。弁護士が間に入ることで、あなたのストレスは大きく軽減され、本業や日常生活に集中できるようになるでしょう。
訴訟に発展した場合でも有利に進められる
発信者情報開示請求は、意見照会書の段階で解決に至らず、裁判手続きに発展する可能性も十分にあります。
もし、発信者情報開示請求訴訟や、その後の損害賠償請求訴訟など、裁判手続きに移行してしまった場合、弁護士の存在はさらに重要になります。訴訟では、法的な主張をまとめた準備書面の作成や、証拠の提出、さらには法廷での弁論など、高度に専門的な知識と経験が求められるからです。
これらの複雑な手続きを、ご本人だけで適切に対応することは極めて困難であり、不適切な対応は敗訴に直結する可能性もあります。弁護士に代理人として活動してもらうことで、ご自身の法的な主張が的確に裁判所に伝わり、裁判を有利に進めることが可能になります。
弁護士は、裁判所の考え方や過去の判例なども踏まえて戦略を立て、最善の結果を得るために尽力してくれます。万が一の事態に備え、最初から弁護士に相談しておくことが、最終的な解決への近道となるのです。
発信者情報開示請求に関するよくある質問
ここでは、開示請求の通知が届いた方からよく寄せられる質問とその回答を紹介します。
Q. 開示請求されたら家族や会社にバレますか?
発信者情報開示請求が家族や会社に知られてしまう可能性は、手続きの段階や状況によって異なります。
まず、プロバイダから「意見照会書」が送付される初期段階では、ご自身の契約しているプロバイダに登録された住所、つまりご自宅に郵便物が届きます。同居の家族が郵便物を確認する可能性はありますので、この時点で家族に知られるリスクはゼロではありません。
次に、もし開示請求が裁判手続きに進んだ場合、裁判所からの書類も同様に、住民票上の住所(通常は自宅)に送達されます。訴訟に発展した際は、裁判所からの重要な書類が届くため、この段階でも家族に知られる可能性は高まります。
会社に知られるリスクについては、通常は低いと言えるでしょう。ただし、投稿が会社のインターネット回線を利用して行われていた場合や、損害賠償金の支払いが滞り、最終的に給与の差し押さえといった強制執行に至った場合は、会社に知られる可能性が出てきます。これらの特殊なケースを除けば、会社に直接通知がいくことはほとんどありません。
弁護士にご依頼いただくことで、プロバイダや裁判所からの連絡窓口を法律事務所に集約できます。これにより、ご自宅や会社に直接郵便物が届くリスクを避け、ご自身のプライバシーへの配慮を最大限に行うことが可能です。
Q. 弁護士に依頼する費用はどのくらいかかりますか?
弁護士費用は、依頼する内容や法律事務所によって異なりますが、一般的には「相談料」「着手金」「報酬金」で構成されます。
まず、「相談料」は弁護士に法律相談をする際に発生する費用で、30分5,000円程度が一般的ですが、多くの事務所では初回相談を無料としています。「着手金」は事件に着手する際に支払う費用で、結果にかかわらず返還されないのが原則です。「報酬金」は、依頼が解決した際に、得られた経済的利益に応じて支払う成功報酬となります。
発信者情報開示請求における具体的な費用の目安は以下の通りです。
- 意見照会書への対応:着手金として5万円~10万円程度
- 示談交渉:着手金として10万円~20万円程度+経済的利益(減額できた金額など)の10%~20%程度の報酬金
- 訴訟対応:着手金として20万円~40万円程度+経済的利益(損害賠償額など)の10%~20%程度の報酬金
これらの費用はあくまで目安であり、事案の複雑さや期間によって変動します。まずは多くの法律事務所が設けている無料相談を利用して、ご自身の状況を説明し、具体的な見積もりを確認することをおすすめします。
Q. 昔の投稿でも開示請求の対象になりますか?
昔の投稿であっても、発信者情報開示請求の対象となる可能性はあります。ただし、その成否を分ける最も大きな要因は、プロバイダが投稿者のアクセスログ(IPアドレスやタイムスタンプなど)を保存しているかどうかです。
プロバイダにおけるアクセスログの保存期間は、サービスの種類やプロバイダの方針によって異なりますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度と比較的短期間です。この期間を過ぎてしまうと、プロバイダ側で投稿者を特定するための情報が物理的に消滅しているため、開示請求が認められない可能性が極めて高くなります。
一方で、民事上の損害賠償請求権には時効があります。不法行為による損害賠償請求権は、「被害者が損害および加害者を知った時から3年」、または「不法行為の時から20年」で時効が成立するとされています。もしプロバイダにログが残っており、この時効期間が経過していなければ、古い投稿であっても損害賠償請求をされる可能性は残ります。
したがって、古い投稿に関する開示請求においては、ログの保存期間が最も大きなハードルとなります。請求者側がログの保存期間内に手続きを開始しているかどうかが、開示請求の行方を大きく左右すると言えるでしょう。
Q. 開示請求を自分で対応することはできますか?
プロバイダから届いた意見照会書に自分で返信すること自体は可能です。しかし、発信者情報開示請求は専門的な法的知識を要する手続きであり、ご自身で対応することは推奨されません。
開示請求の可否は、問題となっている投稿が「権利侵害の明白性」という法的な要件を満たしているかどうかにかかっています。この判断には、過去の判例や法律の解釈に関する高度な専門知識が必要で、一般の方が正確に判断することは非常に困難です。ご自身で安易に「権利侵害はない」と主張しても、それが法的に説得力のない内容であれば、かえってご自身を不利な立場に追い込むリスクがあります。
また、もし開示請求が裁判に発展した場合、準備書面の作成、証拠の提出、法廷での弁論など、さらに複雑で専門的な手続きが求められます。これらの手続きを弁護士なしで適切に進めることは、現実的には極めて難しいでしょう。
不適切な回答や対応が、情報の開示を招いたり、その後の損害賠償請求において不利な状況を作ったりする可能性もあります。リスクを避け、ご自身にとって最も有利な解決を目指すためにも、発信者情報開示請求の通知が届いた際には、必ずインターネット問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ:開示請求の通知は専門家である弁護士への相談が解決の第一歩
プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」という通知が届いたとき、それは決して無視できない重要な法的手続きの始まりです。突然の通知に戸惑い、不安を感じるかもしれませんが、決して慌てて自己判断で行動することは避けてください。
最も賢明な対応は、速やかにインターネット問題に詳しい弁護士に相談することです。弁護士は、あなたの投稿内容が法的に「権利侵害」に該当するかどうかを専門的な視点から判断し、開示に同意すべきか、拒否すべきか、あるいは示談交渉を進めるべきかなど、あなたの状況に応じた最適な対応策を提案してくれます。
早期に弁護士に相談することで、不要な法的リスクを回避し、精神的な負担を軽減しながら、問題が訴訟に発展した場合でも有利な解決を目指すことができます。専門家への相談こそが、発信者情報開示請求という複雑な問題を適切に解決し、不利益を最小限に抑えるための確実な第一歩となるでしょう。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。





