発信者情報開示請求を受けたら拒否できる?専門弁護士が徹底解説!
最終更新日: 2023年06月05日
- 発信者情報開示請求とはどういうことなの?
- 発信者情報開示請求を受けたけど拒否はできるの?
- 発信者情報開示請求を拒否したらどうなるの?
ここ数年、TwitterなどのSNS、5ちゃんねるや爆サイなどの掲示板への投稿、またBitTorrentなどのファイル共有ソフトを利用した著作権侵害に関して、発信者情報開示請求を受けるケースが増えています。初めての経験のため、ある日突然このような請求を受けたことで驚き、不安を覚えている方もおられるでしょう。
今回は、発信者情報開示請求を受けたら拒否できるのか、拒否すべきなのかについて、基礎知識から専門弁護士が徹底解説していきます。
発信者情報開示請求は拒否できる?
プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が届くことで発信者情報開示請求を受けたことを知ります。この発信者情報開示を拒否することができるのか検討する前に、まずは発信者情報開示請求とはどういうものなのか確認しておきましょう。
発信者情報開示請求とは?
発信者情報開示請求とは、プロバイダ責任制限法第4条1項に定められた手続きです。インターネット上で他人に権利を侵害されたと主張する人が、掲示板などのコンテンツプロバイダやNTTぷららなどのインターネットサービスプロバイダに対して、発信者の氏名や住所等を開示するよう求める手続きです。
加害者を特定して民事で損害賠償請求をしたり、捜査機関に捜査・起訴を求める刑事告訴をしたりするために発信者情報開示請求が利用されます。つまり、発信者情報開示請求は、これら民事責任や刑事責任を追及するための準備行為です。
なお、高い法的専門知識を要する手続きですから、通常、発信者情報開示請求の手続きは本人ではなく弁護士が代理人として行っています。
意見照会書とは?
プロバイダから発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いて初めて、発信者情報開示請求を受けたことを知ります。
この意見照会書とは、氏名や住所を請求者に開示しても構わないかどうかプロバイダが契約者にその意見を確認するものです。プロバイダは契約者から得た回答を参考にして発信者情報を開示するかどうか決定します。
インターネットサービスプロバイダから届くことが通常で、コンテンツプロバイダの管理者から意見照会が届くことは稀です。
この意見照会書への回答期限は7日から14日と短いため、直ぐに対応を検討する必要があります。なお、プロバイダの契約者は父親で、発信者は息子(ただし成人)の場合、発信者である息子が回答書を作成します。
この意見照会書に対して発信者情報開示を拒否する回答もできますが、拒否すべきでない場合もありますので、以下順にご説明します。
発信者情報開示請求には拒否すべき?
発信者情報開示を拒否すべき場合と拒否すべきでない場合がありますので、以下、3つの場合に分けてご説明します。
- 身に覚えがない場合
- 権利侵害がない場合
- 権利侵害がある場合
身に覚えがない場合
指摘されているような投稿をしたことはないという場合や、指摘されているようなファイル共有ソフトを使用したことがないという場合があります。
このような場合、家族など同居人がいる場合には、まず同居人に身に覚えのある人がいないか確認してください。
例えば、AVをダウンロードしたという事案であれば名乗り出るハードルは高いかもしれません。しかし、後でご説明しますが、拒否すべきでない場合に拒否してしまうと大事になってしまいますので、身に覚えがある人にはちゃんと名乗り出てもらう必要があります。
それでもやはり誰も該当者がいない場合にはどうすればよいでしょうか。
契約するプロバイダから意見照会書が届いたということは、ご自身が利用するインターネット環境を利用して権利侵害と主張されている投稿などが行われたことは間違いありません。そのため、その行為をしたのがご自身ではないことを証明できない限り、証拠上は、ご自身がやったものとして認定されてしまいます。
そのため、そのような場合には、発信者はご自身であるとして以下の2つの場合のいずれかの対応をとります。
権利侵害がない場合
指摘されている投稿やファイル共有ソフトの利用をしたのがご自身であることは間違いないものの、違法な権利侵害には該当しない場合があります。この場合、発信者情報開示は拒否し、拒否する理由として違法な権利侵害に該当しないことについて法的説明を論じます。
名誉権、プライバシー権、著作権などを違法に侵害する行為か否かの判断や法的説明を論じることは弁護士でなければできません。説得力のある法的説明をすることで、請求者は発信者情報開示請求を断念し、その後の訴訟をして来ないケースもあります。
このように意見照会書に対する回答書は単に発信者情報開示を拒否すると記載すれば足りるものではなく、法的説明が必要となるものですから、その作成は必ず弁護士に依頼します。
ただし、ファイル共有ソフトによる著作権侵害のケースは、ほとんどの場合、権利侵害の事実が明白で、発信者情報開示を拒否した場合も裁判所が開示を命じる可能性は非常に高いです。賠償金額が増加しますので、拒否する回答は得策ではありません。
権利侵害がある場合
他方、指摘されている投稿やファイル共有ソフトの利用をしたのがご自身であり、かつ、それが違法に他人の権利を侵害していることが明らかな場合もあります。この場合、発信者情報開示には同意をして、請求者と示談(和解)することを目指すのが得策です。
このような場合に発信者情報開示を拒否しても裁判所は発信者情報開示を認めます。そして、その後には民事訴訟を起こされ多額の時間と費用を要することになります。更には、刑事告訴をされ逮捕・起訴され日常生活が一変する恐れもあります。
このような事態を避けるためには、請求者と穏便に示談をすることが必要であり、そのためには、請求者に余計な手間をかけさせず、素直に発信者情報開示に同意をして心証悪化を避けることが大切になります。
なお、事前のSNSや掲示板のやり取りから、ご自身の氏名や住所が晒される恐れがある場合には、発信者情報開示に同意をする前に、そのような事態を避けるべく弁護士に対応を依頼してください。
発信者情報開示請求を拒否したらどうなる?
ここまで、発信者情報開示請求を受けた場合に、開示を拒否するべきかどうかについてご説明しました。次に、発信者情報開示を拒否した場合や無視した場合にはどうなるのかについてご説明します。
発信者情報は開示されるのか
届いた発信者情報開示請求に係る意見照会書に何も回答しない、つまり無視した場合には、プロバイダは契約者には特に意見はないものとみなします。発信者情報開示を拒否した場合には、プロバイダは記載された拒否の理由を考慮して開示するかどうか判断します。
違法に権利侵害をしていることが明白なケースでは、プロバイダは契約者の回答内容に関わらず発信者情報を開示することもあります。もっとも、開示したことによって契約者から損害賠償請求を受けるリスクがありますので、通常、プロバイダは契約者の同意がない限り、発信者情報を開示しません。
そこで、発信者情報開示が得られなかった請求者は、次に、発信者情報開示請求訴訟という裁判をプロバイダに対して起こし、発信者情報の開示を求めます。
裁判所は、発信者情報開示を認めるべきか審理して、開示すべきと判断したときは、プロバイダに対して発信者情報開示を命じます。他方、開示すべきではないと判断したときは請求者の請求を棄却し、発信者情報は開示されません。
開示されるまでの期間
請求者が発信者情報開示請求をした後、プロバイダから意見照会書が届くまでに要する期間はプロバイダによって結構な差があります。業務量が比較的少ない小規模なプロバイダであれば、1か月ほどで意見照会書が届くこともありますし、業務量の多い大手のプロバイダであれば半年以上経過してから届くこともあります。
そして、意見照会書に対して発信者情報開示に同意する回答をしたときは、その後1か月ほどでプロバイダから請求者に対して発信者情報が開示されます。
他方、意見照会書を無視したり、発信者情報開示を拒否する回答をした場合には、そこから裁判が行われます。請求者が勝訴すれば3か月から半年ほどで発信者情報が開示されます。
弁護士費用も賠償させられる
違法に権利を侵害したことに身に覚えがあるものの、罪の意識、責任を逃れたい気持ちなどから、発信者情報開示に係る意見照会書を無視したり、発信者情報開示を拒否したりする対応を取りたくなるかもしれません。
しかし、先ほどご説明しましたとおり、このような場合、いずれは発信者情報が開示され、民事、刑事の責任追及をされることは逃れられません。
また、無視、拒否の態度を取られた請求者は発信者情報開示請求訴訟を起こしますが、その訴訟にかかった50~100万円ほどの弁護士費用の全額の賠償を求められることになります。 発信者情報開示請求訴訟は、専門性が高いため弁護士への依頼が事実上必須であるとして、弁護士費用全額の賠償を命じた裁判例もあります。
このように違法に権利侵害したことを自認している場合には、無用に賠償金額を増加させてしまいますし、請求者の心象を悪化させ、和解が難しくなりますので、無視や拒否の態度は得策ではありません。
発信者情報開示請求を拒否した後の法的責任
最後に、発信者情報開示請求を拒否した後に追及される法的責任についてご説明します。
民事手続で損害賠償
まずは、損害賠償請求です。
発信者情報開示請求の根拠となる権利侵害には、名誉権侵害、名誉感情侵害、プライバシー権侵害などがあります。これらの権利侵害の損害賠償は、主として慰謝料であり、その金額は10万円~50万円が相場ですが、内容が酷い場合には100万円ほどになります。
ファイル共有ソフトで著作権を侵害した場合には、数百万円から数千万円という多額の損害賠償となることもあります。
刑事手続で刑事罰
民事で損害賠償請求をすることに加えて、捜査機関に刑事告訴をして刑事罰を求められることもあります。
刑事告訴をされた場合、犯行が悪質であったり、罪証隠滅や逃亡の可能性があると捜査機関に判断されると、逮捕・勾留され20日以上もの長い期間、留置施設に拘束される恐れがあります。そして、起訴されると有罪判決を受けて前科がつくことになります。
有罪判決を受けた場合の刑事罰について以下の表にまとめておきます。
名誉棄損罪(刑法第230条1項) | 3年以下の懲役・禁固又は50万円以下の罰金 |
侮辱罪(刑法第231条) | 1年以下の懲役・禁固又は30万円以下の罰金、拘留、科料 |
著作権侵害(著作権法第119条1項) | 10年以下の懲役若しくは000万円以下の罰金又はこれらの併科 |
まとめ
以上、発信者情報開示請求を受けたら拒否できるのか、拒否すべきなのかについて説明しました。 意見照会書に記載の権利侵害が事実であれば、大事になるのを避けるために発信者情報開示に同意をしたうえで示談を目指すべきです。一方、そうでない場合は発信者情報開示を阻止すべく、説得力のある回答をする必要があります。 プロバイダから発信者情報開示に係る意見照会書が届いたときは、回答期限も迫っていますので、一日も早く専門の弁護士に無料でご相談ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご不明な点があるときやもっと詳しく知りたいときは、下にある「LINEで無料相談」のボタンを押していただき、メッセージをお送りください。弁護士が無料でご相談をお受けします。