アスベストなら労災の補償を請求!種類やポイントを解説
2024年04月29日
アスベストによる病気を補償して欲しい
労災保険の対象になるだろうか
労災保険給付を請求したいがどうしたらよいかわからない
アスベスト(石綿)を原因とする疾病の潜伏期間は非常に長く、アスベストにさらされる作業に従事してから30年、40年も後になって発症することが多いです。そのため、発症したときには当時の勤務先の会社が既に無くなっている場合や当時の作業内容を証言してくれる同僚がつかめないという場合もあり、通常の労災申請とは異なる難しさがあります。
本コラムではアスベストを原因とする疾病に関する労災保険給付について、アスベストの補償に詳しい弁護士が、その請求手続や給付内容について分かりやすく説明をします。
アスベスト(石綿)で労災の補償を受ける要件は?
アスベストによる疾病で労災保険給付の対象となるのは下記の疾病です。詳しい認定方法は下記「石綿による疾病の労災認定」をご確認ください。
なお、示されている認定基準を満たさない場合であっても労災認定を受けられることがありますので、請求期限内である限りは請求してみることをお勧めします。
・中皮腫
・肺がん
・良性石綿胸水
・びまん性胸膜肥厚
上記の疾病は医師が適切に検査、診断すれば認定されます。アスベストによる労災認定でポイントとなるのは、石綿ばく露作業に従事していたことによってその疾病に罹患したことを証明できるかどうかです。
石綿関連疾病の潜伏期間は20年~40年と非常に長いため、過去に石綿ばく露作業に従事していた頃の会社が既に無くなっていたり、同僚など当時の業務を証言できる者が容易に見つからないことがあります。
このようにアスベストによる労災の補償を受けるためには、石綿ばく露作業への従事の証明がポイントとなりますので、専門の弁護士の協力を得て労災の補償を請求することをお勧めします。
なお、アスベストの労災の審査には通常よりも時間がかかり、支給決定が出るまでに3か月から半年ほどの時間がかかるとお考えください。
また、石綿健康被害救済制度の救済給付の支給を受けている方でも、労災認定の要件を満たしている場合があります。救済給付よりも手厚い給付内容である労災保険給付の申請もできないか検討しましょう。
アスベスト(石綿)で受けられる労災補償の種類や金額
アスベストによる労災認定を受けられた場合に支給を受けられる補償には主に下記のものがあります。以下これらの補償について順番に説明します。
休業補償給付
障害補償給付
傷病補償年金
介護補償給付
遺族補償給付
葬祭料
療養補償給付
傷病が治ゆ(症状固定)するまで、治療、入院、薬剤など通常療養に必要となるもの又はその費用が支給されます。
治ゆ(症状固定)とは完治した場合だけでなく、医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった状態、つまり傷病の回復・改善を期待できなくなった状態をいいます。
労災病院や労災保険指定医療機関であれば窓口での療養費の支払いは不要です(療養の給付)。それ以外の医療機関を受診した場合は、窓口で療養費の支払いをして、後日、労働基準監督署に支払った金額の請求ができます(療養の費用の支給)。
また、療養の費用として通院のための交通費を請求することも可能です。原則は勤務地又は居住地から片道2㎞以内の医療機関への交通費が支給されますが、アスベストによる疾病を専門的に診療できる医療機関は多くはないことからそれ以上の距離の場合であっても交通費が支給されます。
療養の費用の支給については支出した日の翌日から2年
休業補償給付
業務上の事由による負傷や疾病のために労働することができず賃金を受けていない場合には、休業の第4日目から休業補償給付と休業特別支給金が支給されます。
休業補償給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数
休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)×休業日数
給付基礎日額とは、事故発生日、医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは直前の賃金締切日)の直前3か月間に被災労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額です。
継続して働くことで上昇していく稼得能力を反映させるために、算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月以後の分として支給される給付については給付基礎日額に毎年公表される所定のスライド率を乗じた金額で算定されます。また、療養開始後1年6か月を経過した場合は、年齢階層別の最低・最高限度額が適用されます。
第3日目までを待機期間といいますが、待機期間については雇用者において平均賃金日額の60%を休業補償として支払う義務があります。会社の倒産などによって3日目までの休業補償を受けられない場合は、休業補償特別援護金を受けられる可能性があります。
平均賃金日額とは、事故が発生した日(賃金締切日が定められているときはその直前の賃金締切日)の直前3か月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)、その期間の歴日数で割った一日当たりの賃金額です。
アスベストによる疾病の場合、石綿にさらされる作業に従事していた当時の賃金に所定のスライド率を乗じて給付基礎日額や平均賃金日額を算出します。
賃金の支払いを受けなかった日の翌日から2年
障害補償給付
負傷や疾病が症状固定したときに一定の障害が残った場合、障害補償給付が支給されます。
なお、労災保険ではありませんが、障害年金も受けられる場合がありますので、年金事務所に確認することをお勧めします。
【支給金額】
障害等級(労働者災害補償保険法施行規則の別表第一)に従って下記表のとおり支給内容が決まります。
年金は支給要件に該当することになった翌月分から支給され、2月、4月、6月、8月、10月、12月に各2か月分が支給されます。
症状固定日の翌日から5年
障害補償年金前払一時金
障害補償年金を受給することになった場合、1回に限って障害等級に応じて定められている一定金額(下記表を参照)から希望する金額の前払いを受けることができます。
この前払いを受けると、その後、前払金額に達するまでの間は障害補償年金は支給されません。
前払一時金の請求権は、症状固定日の翌日から2年で時効となります。
症状固定日の翌日から2年以内でかつ、障害補償年金の支給決定通知の日の翌日から1年以内であれば障害補償年金の支給を受けた後であっても障害補償年金前払一時金の請求ができます。
この場合、各等級ごとに定められた最高限度額から既に支給された年金額を控除した金額の範囲で請求できます。
障害補償年金差額一時金、障害特別年金差額一時金
障害補償年金の受給権者が死亡したときに、支給された障害補償年金と障害補償年金前払一時金の合計金額が障害等級ごとに定められた一定額(下記表を参照)に満たない場合、遺族は当該一定額と支給された年金額の差額の支給を受けることができます。障害特別年金についても同様です。
①労働者の死亡の当時生計を同じくしていた、配偶者(事実婚を含む。②も同様)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹(先に記載の者が優先する。②も同様)
②①に該当しない配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
死亡日の翌日から5年
傷病補償年金
療養開始から1年6か月を経過しても治ゆ(症状固定)せず、かつ傷病等級(労働者災害補償保険法施行規則の別表第二)の第1級~第3級に該当する場合、傷病補償年金、傷病特別支給金、傷病特別年金が支給されます。
傷病補償年金が支給される場合も療養補償給付は引き続き支給されますが、休業補償給付は支給されなくなります。
傷病補償年金は特に請求手続は不要で、労働基準監督署長の職権で支給決定がなされます。ただし、療養開始後1年6か月を経過しても傷病が治っていないときは、その後1か月以内に「傷病の状態等に関する届」を労働基準監督署長に提出することが必要です。
【支給金額】
下記表のとおり支給内容が決まります。年金は支給要件に該当することになった翌月分から支給され、2月、4月、6月、8月、10月、12月に各2か月分が支給されます。
傷病特別年金の算定に用いられている算定基礎日額とは、事故発生日、医師の診断によって疾病の発生が確定した日以前の1年間にその労働者が事業主から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を365で割った額です。
特別給与とは、賞与など3か月を超える期間ごとに支払われる賃金のことで、臨時に支払われた賃金は含まれません。
特別給与の総額が給付基礎年額(給付基礎日額×365)の20%を上回る場合は、給付基礎年額の20%が算定基礎年額となります(上限は150万円)。
介護補償給付
障害補償年金又は傷病補償年金の受給者で、常時介護又は随時介護(労働者災害補償保険法施行規則別表第三)を要する状態にあり、現に介護を受けている場合(病院や介護施設に入院・入所している期間は除く。)には介護補償給付が支給されます。
支給金額は下記のとおりです。
介護を受けた月の翌月1日から2年
アスベストで遺族が受けられる労災補償の種類や金額
以上は専らアスベストの被害者本人が支給を受ける補償でした。ここでは被害者が死亡した場合にその遺族が支給を受けられる遺族補償給付(遺族補償年金と遺族補償一時金)及び葬祭料について説明します。
遺族補償年金
まずは遺族補償給付のうち遺族補償年金についてです。受給権者や支給金額については以下のとおりです。
【受給権者】
労働者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。妻以外については年齢や一定の障害があることが要件となります。受給権者の順位は以下のとおりです(①が最先順位)。
①妻又は60歳以上か一定障害の夫
②18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
③60歳以上か一定障害の父母
④18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
⑤60歳以上か一定障害の祖父母
⑥18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上又は一定障害の兄弟姉妹
⑦55歳以上60歳未満の夫
⑧55歳以上60歳未満の父母
⑨55歳以上60歳未満の祖父母
⑩55歳以上60歳未満の兄弟姉妹
※⑦~⑩は60歳になるまでは支給されません(若年停止)
※一定の障害とは労働者災害補償保険法施行規則第15条に定める障害です。
※死亡時に胎児だった場合、生まれたときから受給資格者になります。
(1)死亡したとき
(2)婚姻をしたとき(事実婚を含む。)
(3)直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき(事実上の養子縁組を含む。)
(4)離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき
(5)子、孫又は兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したとき(被災労働者の死亡の時から引き続き一定障害の状態にあるときを除く。)
(6)一定障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなったとき
【支給金額】
遺族補償年金のほか、遺族特別支給金、遺族特別年金が支給されます。
下記の表のとおり、遺族数(受給権者及び受給権者と生計を同じくしている受給資格者の数)によって支給額は決まります。受給権者が2人以上いるときは、支給額を等分した金額が各自に支給されます。
この場合、やむを得ない事情がない限り、うち1名を代表者として選任して年金の請求と受領を行います。
死亡日の翌日から5年
遺族補償年金前払一時金
遺族補償年金の受給権者は、1回に限って、年金の前払いを受けることができます。60歳未満のため若年停止中の遺族も請求できます。
前払一時金は、給付基礎日額の200日分、400日分、600日分、800日分、1000日分のうち希望する額を選択できます。なお、前払いを受けた場合、その金額に達するまでの間は遺族補償年金の支給はされません。
死亡日の翌日から2年以内でかつ、遺族補償年金の支給決定通知の日の翌日から1年以内であれば遺族補償年金の支給を受けた後であっても遺族補償年金前払一時金の請求ができます。
この場合、給付基礎日額の1000日分から既に支給された年金額を控除した金額の範囲で請求できます。
遺族補償一時金
次に、遺族補償給付のうち遺族補償一時金についてです。
遺族補償一時金は、労働者の死亡時に遺族補償年金の受給権者がいない場合又は受給権者がすべて失権した時点でそれまでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合に支給されます。
【受給権者】
下記①~④の順に優先して受給権者となります(②~③は先に記載の者が優先)。
②労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子・父母・孫・祖父母
③その他の子・父母・孫・祖父母
④兄弟姉妹
【支給金額】
遺族補償一時金のほか、遺族特別支給金、遺族特別一時金が支給されます。
死亡日の翌日から5年
葬祭料
最後に葬祭料についてです。葬祭料は、労働者が死亡した場合に葬祭を行う者に支給されます。
①315,000円+給付基礎日額の30日分
②①の額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分
死亡日の翌日から2年
労災以外の補償については下記コラムをご覧ください。
まとめ
以上、アスベストを原因とする疾病に関する労災保険給付について説明しました。
労災保険の認定を受けるためには、過去に従事していた業務についての証明がポイントとなります。できる限り速やかに、労災保険の支給を受けるためにはアスベストの補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。