石綿健康被害救済制度について専門家が分かりやすく解説!

2024年04月27日

石綿健康被害救済制度について専門家が分かりやすく解説!

石綿による健康被害の救済をして欲しい
石綿被害救済制度の対象になるだろうか
石綿救済給付を請求したいが請求手続に自信がない

何十年も前に石綿に接触したことが原因でアスベストによる病気を発症している被害者の方は多数おられます。中には働くことができず、かつ高額な医療費をの負担を抱えて経済的にも不安定な生活を送っている方もおられます。

石綿による被害を受けている方を救済する制度として石綿健康被害救済制度があります。本制度は労災保険給では救済できない被害者を隙間なく救済するために設けられた制度です。

本コラムでは石綿健康被害救済制度について詳しい弁護士が、その請求要件や手続きについて分かりやすく説明をします。

アスベスト被害に強い弁護士はこちら

この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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石綿健康被害救済制度とは?

アスベスト(石綿)にばく露した被害者には労災保険による救済がありますが、労災保険は労働者や特別加入している一人親方、中小事業主等でなければ保険給付を受けることができません。

しかし、アスベストによる健康被害の補償を必要としているのは労災保険に加入している人だけではありません。労災保険に加入せずに石綿にばく露する作業に従事していた人はいますし、その家族やさらには工事現場や工場の近所の方で間接的にばく露した方もいます。このような労災保険では救済できない被害者を救済する必要性があります。

また、アスベストによる疾病の潜伏期間は数十年と非常に長いため石綿と疾患の関連に本人も医師も気が付かず、労災保険の請求期限を徒過してしまう可能性もあります。

このように労災保険だけでは救済できない被害者を救済すべく、平成18年(2006年)に「石綿による健康被害の救済に関する法律」が制定・施行され、石綿健康被害救済制度がつくられました。

その内容は、労災保険の対象とならない被害者に対する救済給付と労災保険の遺族補償給付を受ける権利が時効により消滅した遺族に対する特別遺族給付金の2つから構成されます。

なお、このような趣旨の制度ですから、労災保険と石綿健康被害救済制度の両方の給付を受けることはできませんが、石綿健康被害救済制度の給付と合わせて建設アスベスト給付金制度の給付金を受けることや国や企業からの損害賠償金の支払を受けることも可能です。

石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金

労災保険の遺族補償給付の請求権は被害者の死亡日の翌日から5年が経過すると時効により消滅してしまいます。

特別遺族給付金は、このように時効により労災保険の遺族補償給付を請求できなくなった遺族が請求できるものです。石綿健康被害救済制度のもう一つの制度である救済給付とは異なり、請求先は労働基準監督署(厚生労働省)です。

特別遺族給付金には、特別遺族年金、その受給者がいない場合の特別遺族一時金があります。

請求期限と支給までの期間

令和4年の法改正によって請求期限は令和14年(2032年)3月27日まで延長されました。

年々請求件数が増えていることで審査を行う担当部署の業務負荷が増加しており、現状、請求から支給までに3か月はかかり、半年ほどかかる場合もあります。

対象となる被害者

特別遺族給付金の対象となる被害者は以下の3つの要件を満たす方です。

労災保険に加入している事業場の労働者又は特別加入者であること
石綿ばく露作業にに従事したことによって下記疾病に罹患して死亡したこと
令和8年(2026年)3月26日までに死亡したこと
【対象疾病】
中皮腫
肺がん
石綿肺(じん肺管理区分が管理2~管理4。管理2・3の場合は肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支炎拡張症又は続発性気胸 の合併症があること)
良性石綿胸水
びまん性胸膜肥厚

特別遺族年金の受給資格者と支給金額

石綿健康被害救済制度の特別遺族給付金には、特別遺族年金、その受給者がいない場合の特別遺族一時金があります。以下それぞれについて順番に見ていきましょう。

特別遺族年金の受給資格者

特別遺族給付金の受給資格者は、被害者の死亡の当時その収入によつて生計を維持していた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹です。妻以外は、年齢や一定の障害(労働者災害補償保険法施行規則第15条で定める障害の状態にあること)があることが要件となります。受給資格者の順位は以下のとおりです(①が最先順位)。

①妻又は55歳以上か一定障害の夫
②18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
③55歳以上か一定障害の父母
④18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
⑤55歳以上か一定障害の祖父母
⑥18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか55歳以上又は一定障害の兄弟姉妹

なお、下記理由によって先順位者が受給権を失うと次順位者が受給権者となります(転給)。

(1)死亡したとき
(2)婚姻をしたとき(事実婚を含む。)
(3)直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき(事実上の養子縁組を含む。)
(4)離縁によって、死亡した被害者との親族関係が終了したとき
(5)子、孫又は兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日が終了したとき(被害者の死亡時から引き続き一定障害の状態にあるときを除く。)
(6)一定障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなったとき

特別遺族年金の支給金額

受給権者及びその者と生計を同じくしている遺族で受給資格要件を満たす遺族の人数によって下記のとおり支給金額は決まります。例えば、妻と小学生の子一人が遺族の場合は年270万円が支給されます。

受給権者が複数人いるときは、下記の金額をその人数で割った金額が各受給権者に支給されます。例えば、配偶者がおらず18歳未満の子が二人の場合、各自に135万円が支給されます。

【支給金額】
1人 240万円
2人 270万円
3人 300万円
4人以上 330万円 

特別遺族一時金の受給者と支給金額

次に特別遺族一時金について説明します。

もともと特別遺族年金の受給権者がいない場合と、特別遺族年金の受給権者がいなくなった時点でそれまでの支給額が1200万円未満の場合に特別遺族一時金は支給されます。

特別遺族一時金の受給者

特別遺族一時金の受給者は下記ア~ウの順番で決まります。イ、ウについては先に記載の者が先順位です(例えば、父母より子が優先)。

ア 配偶者
イ 被害者の死亡時にその収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母
ウ その他の子、夫母、孫、祖父母、兄弟姉妹

特別遺族一時金の支給金額

特別遺族一時金の支給金額は下記のとおりです。

受給者が配偶者の場合 1200万円
受給者が配偶者以外の場合 それまでに支給された特別遺族年金の額を1200万円から控除した額

石綿健康被害救済制度の救済給付

ここまで説明しました特別遺族給付金とは異なり、石綿健康被害救済制度の救済給付は石綿ばく露作業に従事していたことは要件となっていません。

そのため、疾病と石綿ばくろ作業との因果関係を立証できない場合や、石綿ばく露作業に従事していた方のご家族、石綿を使用する工事現場の近所の方など間接的にアスベストにばく露して健康被害を受けている方も補償の対象となります。

労災保険給付を申請・請求できる方はそちらの方が有利ですから、通常は救済給付の申請・請求はしません。労災保険に加入していない場合や時効によって労災保険給付を申請・請求できない方が救済給付を申請・請求します。

なお、救済給付の認定を受けている方で、職歴を調査した結果、労災保険給付を受けられることが判明することもあります。

労災保険給付とは異なり、救済給付の申請先は、独立行政法人環境再生保全機構(環境省)です。救済給付についても請求から給付されるまでに現状、3か月以上かかります。

対象の疾病

救済給付の対象となる疾病は労災給付や特別遺族給付金とは異なり下記のとおりです。

【対象疾病】
中皮腫
肺がん
著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

アスベスト被害への救済給付の種類

救済給付には以下のものがあります。次の項目から一つずつ説明します。

【救済給付】
医療費
療養手当
葬祭料
未支給の医療費と療養手当
救済給付調整金
特別遺族弔慰金
特別葬祭料

医療費

療養を開始した日以降、認定疾病について医療を受けたときの自己負担額について支給を受けることができます。石綿健康被害医療手帳の交付を受けた後は医療手帳を提示することで窓口での自己負担分の支払いは免除されます。

療養を開始した日とは、認定疾病について初めて医療を受けた日、認定された指定疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺又は著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚の場合は当該疾病によって著しい呼吸機能障害が認められた日をいいます。その日が認定申請日より3年以上前の場合は3年前の日が療養を開始した日とされます。

【請求期限】
医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内
療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については申請日から2年以内

療養手当

救済制度の認定を受けた方は、療養を開始した日の翌月から、支給する事由が消滅した日の属する月まで月額103,870円の療養手当の支給を受けることができます。2月、4月、6月、8月、10月、12月に2か月分が支給されます。

葬祭料

救済制度の認定を受けていた方が死亡したときは、その葬祭料として199,000円が支給されます。葬祭を行う方が請求することができます。

【請求期限】
死亡日の翌日から2年以内

未支給の医療費と療養手当

療養を開始した日から救済制度の認定を受けた方の死亡日までに未支給の医療費又は医療手当があるときは、遺族がこれの支給を受けることができます。

【請求できる方】
救済制度の認定後に亡くなった方の遺族で、死亡時に生計を同じくしていた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹(前から順に優先)
【請求期限】
医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内
療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については申請日から2年以内

救済給付調整金

支給された医療費と療養手当、遺族に支給された未支給の医療費と療養手当の合計金額が2,800,000円に満たない場合、その差額を遺族が支給を受けることができます。

【請求できる方】
救済制度の認定後に亡くなった方の遺族で、死亡時に生計を同じくしていた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹(前から順に優先)
【請求期限】
死亡日の翌日から2年以内

特別遺族弔慰金と特別葬祭料

救済制度の申請をせずに亡くなった場合、遺族が請求をして特別遺族弔慰金2,800,000円と特別葬祭料199,000円の支給を受けることができます。

【請求できる方】
救済制度の申請をせずに亡くなった方の遺族で、死亡時に生計を同じくしていた、配偶者(事実婚を含む。)、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹(前から順に優先)
【請求期限】
<中皮腫又は肺がんで死亡>
・平成18年(2006年)3月27日より前に死亡の場合
令和14年(2032年)3月27日まで

・平成18年(2006年)3月27日以降に死亡の場合
死亡日から25年以内
平成18年3月27日から平成20年11月30日までに死亡した場合は令和15年12月1日まで

<著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺又は著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚で死亡>
・平成22年(2010年)7月1日より前に死亡の場合
令和18年(2036年)7月1日まで
・平成22年(2010年)7月1日以降に死亡の場合
死亡日から25年以内

まとめ

以上、石綿健康被害救済制度について請求要件や請求手続について説明をしました。

石綿健康被害救済制度の認定を受けるためには収集する資料も沢山あります。できる限り速やかに、石綿による健康被害の救済を受けるためにアスベスト被害の補償に詳しい弁護士に無料でご相談ください。

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