介護利用者を追い出すには退去要件が必要?追い出すときの注意点とともに弁護士が解説

最終更新日: 2023年11月29日

介護利用者を追い出すには退去要件が必要?追い出すときの注意点とともに弁護士が解説日本では高齢化が進んでいます。総務省の統計によると、65歳以上の高齢者数は3,878万人と予想されています。

高齢者のほとんどは、いずれ介護が必要になります。また、介護として訪問介護サービスではなく介護施設を利用する高齢者も少なくありません。しかし、何らかの事情で介護施設が利用者を追い出したい(退去してもらわなければならない)と考えることもあります。

そこで今回は、介護業界に精通した専門弁護士が、介護利用者を追い出すための退去要件と追い出すときの注意点について解説します。

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この記事を監修したのは

弁護士 南 佳祐
弁護士南 佳祐
大阪弁護士会 所属
経歴
京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院卒業
大阪市内の総合法律事務所勤務
当事務所入所

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介護利用者を追い出すには退去要件が必要

介護施設から利用者を追い出したいときには、入居契約書に記載の退去要件に該当していれば正当に退去勧告が可能です。

ここでは、退去要件として認められる要件を4つ紹介します。

  • 利用者の迷惑行為
  • 施設で対応できない医療が必要に
  • 利用者の長期入院
  • 支払い滞納

それでは、1つずつ解説します。

利用者の迷惑行為

要件の1つ目は、利用者の迷惑行為です。

職員や他の利用者への暴言や暴力などが、利用者の迷惑行為に該当します。利用者の迷惑行為が発生する要因は、利用者の性格だけでなく、利用者が何らかの理由で大きなストレスを抱えていることも想定されます。

最近は、新型コロナウイルス感染症の影響で家族との面会機会が減少し、大きなストレスを抱えている利用者も少なくないと見られます。しかし、あまりにも迷惑行為がひどいと、施設の職員が対応し続けることは難しいでしょう。

施設で対応できない医療が必要に

要件の2つ目は、施設で対応できない医療が必要になったことです。

多くの介護施設は、近隣の病院と提携していますが、中には高度もしくは速やかな医療体制が必要になってしまう利用者もいます。その利用者に必要な医療をその施設で対応できないときには、それも退去要件になりえます。

利用者がその介護施設にどんなに愛着があったとしても、利用者の生命を守るためにも利用者に退去してもらうことが賢明です。

利用者の長期入院

要件の3つ目は、利用者の長期入院です。

ここでいう長期入院は、法律などで一律に定まっているわけではありませんが、一般的には3か月程度とされることが多いようです。長期入院することになった利用者の中には施設に戻りたいと考える人もいますが、病状が回復しない限りは戻ることはできません。

施設側の立場からすると、入院のためとはいえ長期間利用していない居室やベッドをずっと開けておくことは、他の利用希望者を逃すことになるため、ビジネス上は望ましくないことでしょう。

支払い滞納

要件の4つ目は、支払い滞納です。

利用者が入居した後に、経済的な事情により施設の利用料を払えなくなることがあります。利用者本人に支払い能力がなくても、連帯保証人や身元引受人が代わりに支払うことができれば、退去させる必要はありません。

しかし、代わりに費用を支払ってくれる人がおらず、支払い滞納が続くときには、そのことも退去要件になりえます。

介護利用者を追い出すときの注意点

ここでは、介護利用者を追い出すときの注意点を3つ解説します。

  • すぐに追い出すことはできない
  • 入居金を返却するケースがある
  • 原状回復で揉めないようにする

それでは、1つずつ解説します。

すぐに追い出すことはできない

注意点の1つ目は、施設から利用者をすぐに追い出すことはできないことです。

多くの場合、特養は利用者を退去させるまでの猶予期間を設けていますので、契約書にのっとり猶予期間経過後に退去を求めることとなります。

また、利用者の次の転居先探しをサポートする必要もあります。転居先が退去予告期間を過ぎても決まらなかったときには、退去期間を延長して滞在させる必要が出てくる可能性もあるでしょう。

利用者の転居先探しは、利用者やその家族任せにせず、施設側も手伝うことが大切です。

退去予定日までに転居先が決まらなければ、転居先が決まるまで施設の利用を認めたり他のショートステイの手配を行ったりといった対応を行いましょう。

入居金を返却しなければならないケースもある

注意点の2つ目は、入居金を返却する必要があるケースもあることです。

償却期間とは入居金を預かる期間のことで、期間中は1か月ごとに償却されて事業者の売上となる仕組みです。償却期間を超過していれば入居金を返却する必要はありません。

ただ、退去が確定した時点で退去する日が償却期間内であれば、決められた計算式に則り返却額を計算し、入居金の一部を返還する必要があります。

原状回復で揉めないようにする

注意点の3つ目は、原状回復で揉めないようにすることです。

ほとんどの介護施設の入居契約書には、賃貸物件と同じく利用者の退去時における居室の原状回復について記載されています。

一般的には、自然劣化による居室の損傷は施設側が負担して修理します。しかし利用者の故意または過失により居室が損傷してしまった場合、利用者側が負担して修理しなければなりません。

ただ、利用者の故意または過失による損傷か、自然劣化による損傷なのか判断が難しいケースも少なくありません。施設と利用者のどちらが原状回復に係る費用を負担するかでトラブルになることも珍しくないため、注意が必要でしょう。

介護利用者を追い出すときに揉めたら弁護士に相談

今回は、介護利用者を追い出すための退去要件と追い出すときの注意点について解説しました。

施設も利用者も、できることなら亡くなるまでその施設で過ごしたいと考えるものです。ただ、退去要件に当てはまるときには介護施設の利用者を追い出すしかないこともあります。

利用者に退去をお願いするときは、施設は利用者やその家族と十分にコミュニケーションを取り、退去要件に当てはまることを確実に伝えなければいけません。また、契約書や重要事項説明書の内容を明確にして、施設と利用者とで齟齬がないように努めることも大切です。

それでも利用者とのトラブルに発展したときには、介護業界に精通した専門弁護士が多数所属する当法律事務所にご相談ください。弁護士に相談することで、トラブルを早く確実に解決できる可能性が高められるでしょう。

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