1 タイトル
婚前契約書のタイトルは、「合意書」、「婚姻前契約書」、「夫婦財産契約書」、「念書」、「覚書」など色々なタイトルが考えられます。タイトルによって婚前契約書の法的効力に影響はありませんが、婚前契約書であることが明らかになるよう、ストレートに「婚前契約書」とするのが良いでしょう。
このページでは、婚姻生活中の取り決めについて、婚前契約の契約条項例をご紹介します。
婚前契約書のタイトルは、「合意書」、「婚姻前契約書」、「夫婦財産契約書」、「念書」、「覚書」など色々なタイトルが考えられます。タイトルによって婚前契約書の法的効力に影響はありませんが、婚前契約書であることが明らかになるよう、ストレートに「婚前契約書」とするのが良いでしょう。
婚前契約書の第1条には、その婚前契約書を交わす目的を規定すると良いでしょう。契約条項の解釈に見解の相違が生じた場合などに解釈の指針になり得ます。契約の目的には二人が婚前契約を交わそうと思った理由をそのまま記載すれば良いですが一例を示すと以下のような条項となります。
婚姻前の各自の財産は、法律上は、婚前契約に特に規定しなければ、婚姻後も各自の特有財産となります。そのため、婚姻前の財産を共有財産としたい場合や、その一部については特有財産としたい場合には婚前契約にその旨を規定しておく必要があります。
婚姻前の各自の財産を特有財産とする場合も、確認的に規定しておくことは差し支えありません。また、婚姻前の財産から発生する利息や配当、賃料、また婚姻前の財産を売却・交換して得た金銭、物についても特有財産であることは規定しておいた方が良いでしょう。 なお、預金については婚姻後も残高に増減があります。ずっと婚姻前の残高以上をキープしていれば、婚姻前の預金がそのまま残っているとみることができますが、そうでなければ婚姻前の預金なのか婚姻後の預金なのか判別できなくなる恐れがあります。そのため、婚姻前の預金については入金のない預金口座に移しておくことをお勧めします。
第〇条(婚姻前の財産) 婚姻前の財産、その利息・配当・賃料などの果実、婚姻前の財産を売却・交換して新たに得た財産は全て各自の特有財産とする。婚姻前の各自の財産を婚姻後に二人の共有財産とする場合には、婚前契約にその旨を規定することが必要です。
第〇条(婚姻前の財産) 婚姻前の全ての財産は、共有財産とする。例えば、特定の預金口座に入っている預金は特有財産にしたいけれど、その他は共有財産としてもいいという場合や、不動産については特有財産としたいけれどその他は共有財産としたいという場合が考えられます。このような場合には、以下のような条項となります。
第〇条(婚姻前の財産) 甲の下記婚姻前の財産については、甲の特有財産とする。その他の甲の婚姻前の財産は共有財産とする。婚姻後に得た財産や所得は、婚前契約に特に規定しなければ、共有財産となります(もっとも、相続財産や贈与を受けた財産は特有財産です。)。そのため、婚姻後に得た財産や所得を各自の特有財産とする場合には、婚前契約にその旨を規定する必要があります。もっとも、同居して生活する以上、共有財産が一切ない状態は考えにくいため、このような別産制を採用する場合には、共有財産となるものについても婚前契約に規定しておくと良いでしょう。
生活費の負担については、「夫が全てを負担する」、「夫婦で半分ずつ負担する」、「家賃や住宅ローンは夫が負担し、その他は妻が負担する」など、その負担方法は夫婦によって様々です。また、長い婚姻生活の中で、一方が失職する、収入が減るなど夫婦の経済状況が変動することは十分に考えられます。そのため、生活費の負担方法については、将来の変更がありうることを前提とした契約内容とすべきでしょう。
家事育児という家庭内の仕事は無給ですが、裁判実務上、家庭外での労働と同様に評価すべきものとされています。そこで婚前契約においても、(多くは女性が)仕事を辞めて、家事育児に専念することになったときは、夫の給与の一定割合を家事育児の対価として妻に給付する内容を定めることが考えられます。そのような契約をすれば、妻としては家事育児に対して評価されていることを実感することができますし、また自身の「給与」を増やすために夫が仕事に邁進できるようサポートする動機になるかもしれません。なお、このような「給与」に課税はされません。
民法上、婚姻後、夫婦間で交わした契約は取り消すことができるという条文があります(民法第754条)。もっとも、婚姻後契約は認められる余地があります。もっとも、容易に変更を許してしまっては婚前契約を交わした意味が乏しくなりかねませんので、変更方法について規定しておくのが良いでしょう。
夫婦生活における様々な行動については、その大半は法的拘束力がありませんが、婚前契約にはよく盛り込まれるものです。婚前契約書とは別途に誓約書として作成することも考えられます。他方、不貞行為やDVがあった場合の慰謝料についての規定には法的拘束力があります。
夫婦には扶養義務がありますので、別居する際には、経済的に劣位にある方に対して婚姻費用を支払うことになります。婚姻費用の金額は、裁判実務で採用されている標準的算定方式という計算方法によって算定されます。もっとも、同居している際にはそのような算定方式で算出される金額より多くの生活費を要していた場合には生活が困難になりますし、住宅ローンの支払いをどうするかについても標準的算定方式では解決できません。
また、婚姻費用の支払いは離婚するまで続くのが原則ですが、夫婦関係が破綻しているのに何年も婚姻費用の支払いが続くのは妥当ではないと考えるカップルもいるでしょうし、お互いが経済的に自立しているので婚姻費用の支払い受ける権利を放棄したいというカップルもいるかもしれません。そこで、婚前契約において婚姻費用の支払期間を限定したり、予め権利を放棄することが考えられます。
ただし、夫婦の扶養義務は民法で定められた義務ですから、別居時の夫婦の経済状況などによっては、そのような婚前契約の規定は無効となる可能性があります。また、養育費の支払いを受けることは子の権利ですから、婚姻費用のうち養育費に相当する金額の支払義務を免除することはできないでしょう。
他方、別居原因が不貞行為やDVにある場合には、婚姻費用の支払いを制限することは妥当ではありませんので、そのような場合は適用外にするのが良いでしょう。
離婚時には、夫婦の共有財産を原則として対等な割合で精算することになります。もっとも、自身の経営する会社の株式価値の増加分や、自身の資産運用によって増えた資産についてまで財産分与の対象となることに疑問がある方もおられるかもしれません。そのような場合は、これらについて財産分与の対象外とすることを婚前契約に定めると良いでしょう。
また、離婚の際の慰謝料金額についても事前に一律に定めておいた方が無用な争いを回避できます。
経済的に裕福な方については、コラム「経営者、資産家のための婚前契約」にてご紹介した、婚姻期間に応じて離婚給付の金額を変動させるエスカレーター条項を設けることも検討に値します。
離婚後扶助料については、コラム「婚前契約に定める離婚後扶助料についてにて詳しく説明していますが、簡単に言えば、家事育児を専業として他方を支えてきた者が離婚後に職について生活を安定させるまでの間、経済的に援助するというものです。離婚後扶助料については、その支払いは法律上義務付けられているものではありませんが、家事育児をしてきたパートナーに対して離婚後扶助料を支払うことは公平といえるかもしれません。その支払期間について決まりはありませんが、半年から1年ほどが妥当かと思われます。また、その金額については、離婚の際の義務者の収入に従って決められるよう、婚姻費用を定める際に用いる標準的算定方式によることも考えられますし、義務者の手取月収の一定割合とすることも考えられます。
養育費の支払いを受けることは子供の権利であり、子の福祉の観点から裁判所が決定すべき事柄のため、夫婦が勝手に決めることはできないのが原則です。もっとも、裁判実務で利用されている標準的算定方式に従って算定された金額を支払うことを婚前契約に定めておくことは許されるでしょう。また、裁判実務で認められる金額・条件よりも高い金額・条件を定めた婚前契約は有効と考えられます。