工事請負契約後の金額変更などについて専門弁護士が解説

最終更新日: 2023年12月11日

工事請負契約後の金額変更などについて専門弁護士が解説

工事請負契約は、着工後に工事内容が変更になることが多く、着工前に工事内容の全てを確定できないという問題があります。しかし、変更の手続きについていい加減な対応をしてしまうと、後々トラブルになる可能性が高まります。

今回は工事請負契約の変更について専門弁護士が解説します。

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この記事を監修したのは

代表弁護士 春田 藤麿
代表弁護士春田 藤麿
第一東京弁護士会 所属
経歴
慶應義塾大学法学部卒業
慶應義塾大学法科大学院卒業
都内総合法律事務所勤務
春田法律事務所開設

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工事請負契約後の金額変更

まずは、工事請負契約後の金額変更について説明します。

工事請負契約後の金額変更を認める必要性

契約時に取り決めていた工事内容について、工事業務の途中、見積書になかった追加工事あるいは見積書記載の工事を実施しない減工事が発生することが頻繁にあります。

工事内容が変更される以上、当然、工事金額も増減することになります。

たとえば、地質調査業務をしたところ、地盤に問題があることが判明すれば、構造計算等の建築設計業務からやり直さなければならないこともあります。

とはいえ、地盤に致命的な問題があることを前提に、地質調査業務に係る解析等調査業務費を計上し、また、その他の調査設計業務、環境調査業務、測量設計業務に係る費用を踏まえて本工事代金を決めるとすれば、建築工事を始める前から莫大な費用がかかることとなります。

このような業務に関する費用は、予め見積書に計上するよりも、追加工事として必要があれば計上するのが現実的です。

工事請負契約後の金額変更が認められる場合

元請けとなる受注者は、下請負人から業務内容に応じた委託業務の費用を請求されるので、追加工事により業務委託報酬が高額になれば、追加工事代金として発注者に請求することになります。

当然ながら、工事内容変更に伴う金額の変更とは、発注者と受注者との合意で決まるものであり、発注者または受注者の一存で変更できるものではありません。

ただし、実際の建築工事では、受注者側の現場判断で、工事内容を変えることがあります。それが、当初契約した仕様を満たさないものであれば、発注者より契約不適合責任を追及されます。

他方、契約の仕様書・見積書より高いグレードであっても、発注者の合意が認められなければ、受注者が請求できるのは、当初、発注者と合意した金額のみです。

工事請負契約書の工期変更

次に、工事請負契約後の工期変更について説明します。

資材の搬入が間に合わない、あるいは職人の業務手配ができないなど、工事中に生じた問題を理由として、工事期間が長くなると見込まれて工期を変更することもよくあります。また、建築工事を巡るトラブルは、往々にして、受注者の工期遅延を契機としています。

そのため、受注者である施工業者において、工期を遅らせるやむを得ない事情がある場合には、必ず工期に関して発注者と協議をすることが重要です。

ただし、発注者において測量業務が未了で隣接住宅と紛争が生じ、工事に着手できないなど、工事の遅延が発注者側ですべき業務に原因がある場合、工期遅延に係る責任を受注者が負うことはありません。

なお、工期遅延については、受注者の発注者に対する損害賠償額を予定する定めを置いておくことが多いため、工期遅延があっても受注者が発注者に支払う賠償金額はあまり大きくなりません。

工事請負契約の変更手続・様式

では、工事請負契約を変更する場合、トラブルを減らすためにはどうすれば良いのか。その手続きについて説明します。

工事請負変更契約書などの書面化

契約内容を変更した後のトラブル防止のため、変更内容を別途、書面化しておくことが望ましいのは言うまでもありません。

新たに工事請負契約書を作成することでもかまいませんし、覚書、念書、同意書などで変更点について別途書面を交わしておく方法でもよいでしょう。

また、簡易な方法として、議事録として書面に残したり、変更後の見積書を作成するだけでも、後にトラブルとなった際、十分な防御策として活かすことができます。

書面に残らない契約変更

上記の方法は、いずれも相手方が書面に簡易的でも署名を残すことを前提としています。紛争が現実的になってくると、警戒した相手方が署名を渋ることもありえます。

相手方が認めれば合意の内容とすることができますが、聞いていないと言われれば、通知したことにはならず、何の証拠にもなりません。

また、録音やメール等で契約内容の変更について合意したと証明する場合もあります。しかし、一方的に通知したというだけでは、通知内容に相手方の意思が含まれないので、録音やメールが証拠としての価値があるかどうかは、内容次第となってきます。

もっとも、書面またはメールにて通知した内容は、変更に至るまでの履歴として残ります。本工事の内容との組み合わせ次第では、通知内容も有力な証拠となりますので、相手方から署名をもらえない場合には、書面またはメールにてこまめに通知をし、履歴として残すのがよいでしょう。

リフォームの工事請負契約書のの変更

建築工事の中でも、特に工事内容の変更が多いのが、リフォーム工事です。

なぜなら、リフォーム工事の場合、家を壊してみなければわからない部分が非常に多く、解体工事の過程で、予期しなかった工事がいくつも出てくることがあるからです。

また、元請けとなる受注者が、監督員や、適切な技術者を置くことなく、下請けに業務委託する例も散見されます。そのため、発注者と下請け業者が直接やりとりをすることとなり、結果、書面に残らない契約変更が非常に多くなります。

酷い場合、元請けの受注者が検査すらしない請負工事の会社もあるので、担当者が変更事項を全く把握していないという事例もあります。

リフォーム工事後の工事内容変更の書面化には限度がある以上、工事着手時の仕様と工事後の仕様の変化を分かりやすくする工夫が必要です。

リフォーム工事を行う契約当事者の心構えとしては、見積書、仕様書を可能な限り具体的に作成する努力を怠るべきではないでしょう。

民法改正との関係

令和2年4月の民法改正により、請負契約の運用も大きく変わることとなりました。

改正前に締結した請負契約について、改正後に工事内容を変更する事案も少なからずありえるところです。

改正法の施行日である令和2年4月1日が基準日となるところ、基準日以前に締結された請負契約については、基準日後に工事内容の変更があったとしても、旧民法の規定が適用されるのが原則となります。

ただし、発注者と受注者の合意によって、改正文言を前提とした契約書を作成し、改正法を適用することは差し支えないでしょう。

なお、改正法にて定型約款の定めが置かれたところ、別途、約款により契約を規律している請負契約については、改正民法の定型約款に該当する場合には、当該規定が適用されると解されます。

工事請負契約の変更に関するその他の問題

最後に工事請負契約を変更する場合の印紙や履行保証保険についても簡単に触れておきます。

印紙税額の問題

工事内容を変更する書面を作成した場合も、それが「請負に関する契約文書(いわゆる第2号文書)」に該当する場合があります。

そして、契約変更をした場合に印紙税がかかるかどうかは、変更した内容の記載ごとに判断されます。

詳しくは、印紙税法及び印紙税法別表や、国税庁のホームページに印紙の貼付義務あるいは印紙税額について記載があるので、そちらをご確認ください。

新たに作成した書面に工事金額の増額の記載があれば、その増額分に応じた印紙税額が発生しますので、収入印紙で納税します。

反対に、工事金額の減額については、減額分に印紙税は発生しません(ただし、減額により過払いになる印紙税額が発生したとしても、当該過払い印紙税額について返金の処理はありません。)。

また、作成した書面に印紙税が発生するかどうかは、実質的に工事金額の増加が認められるかどうかで判断されます。

契約書のタイトルが覚書、念書、同意書などであっても、工事金額の増加が認められれば、印紙税の課税対象となるため注意が必要です。

さらに、変更前の契約について、契約書を作成していない場合、あるいは契約書を作成したが収入印紙を貼付していない場合、増加部分ではなく、工事金額全体が印紙税額の課税対象となります。

履行保証保険の問題

履行保証保険とは、主に公共工事で施工業者に加入が要請される保険です。

施工業者が途中で履行不能となった場合に、発注者を保護するため、契約した履行保証保険において、発注者が支払った前払金が返還されないなどの損害を填補します。

ただ、追加工事の発生により、元の履行保証保険契約の保証限度額を超過する場合もあります。この場合、発注者より、追加工事代金を支払う前提として、保証限度額の引き上げを求められることになります。

まとめ

以上、工事請負契約の変更について説明をしました。

工事請負契約の変更についてのご相談、変更に関するトラブルについてのご相談いずれについても、お気軽に専門弁護士にご相談ください。

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