老朽化したアパートの建て替え時、入居者の立ち退きはどう進める?|補償・正当事由・判例をやさしく解説
最終更新日: 2025年05月13日
「アパートが古くなってきたし、建て替えを検討したい。でも入居者にどう説明すればいいのかわからない…」
そんなお悩みをお持ちではありませんか?
築年数の経った物件を建て替える場合、入居者に退去してもらう必要がありますが、勝手に立ち退きを強制することはできません。
日本の法律では、借主の立場が強く守られており、「正当事由(せいとうじゆう)」がなければ契約解除もできないのです。
この記事では、建て替えを理由に退去をお願いする際の法的なポイントや交渉の進め方、立ち退き料の相場、実際の裁判例までを、法律初心者の方にもわかりやすく解説します。
「老朽化」とは?どの程度から建て替えが可能?
「老朽化」は法的に明確な定義があるわけではありませんが、一般的には以下のような状態が該当します。
- 築30年以上で外壁や配管に損傷がある
- 雨漏りや床のきしみなど、安全性が不十分
- 耐震基準(1981年以前の「旧耐震基準」)を満たしていない
こうした状況にある場合、「老朽化による建て替えの必要性」が生まれ、「正当事由」が認められる可能性があります。
入居者に退去してもらうために必要な「正当事由」とは?
建物を建て替える際に入居者に退去を求めるには、借地借家法で定められた「正当事由」が必要です。
正当事由とは、契約を終了させる、または更新を拒否する際に、貸主側に社会的に合理的な理由があるかどうかを判断する基準です。
以下のような要素が総合的に考慮されます。
- 建物の老朽化
- オーナー自身が使用する必要がある
- 入居者の使用状況(家賃滞納など)
- 立ち退き料の支払い提案があるかどうか
つまり、「老朽化してるから出ていって」は通用しません。補償を含めて誠実な交渉をすることが大切です。
実際の立ち退き交渉 5つのステップ
老朽化したアパートを建て替える際、入居者とのトラブルを避けるには、段階的かつ誠実な交渉プロセスを踏むことが重要です。以下のような5つのステップで進めるとスムーズです。
建て替えの計画を明確にする
なぜ建て替えが必要なのか、客観的な理由を整理しましょう。
- 耐震診断結果や老朽化レポート(管理会社の点検記録など)
- 建築士からのアドバイス文書
- 空室率の増加や修繕費の過大化など、経済合理性の説明
入居者に対して丁寧に事情を説明する
最初の接触は、口頭+書面(通知書)で行うのが基本です。
- 例:「このたび老朽化が進んだため、〇〇年春を目途に建て替えを予定しています」
トーンはあくまでも柔らかく。一方的に通告するのではなく“相談”として伝える姿勢が重要です。
立ち退き料(補償金)の提案と交渉
入居者側は退去により金銭的・時間的・心理的な負担を負います。その負担に対する「補償」として立ち退き料を提示します。
- 相場:家賃の6~12ヶ月分(+引越し費用の見積書を添えると親切)
このとき、「立ち退き料の提示→合意書の取り交わし」まで一連の流れを文書化しておきましょう。
合意書を作成する
合意内容は口頭ではなく書面に残します。
- 退去期限、立ち退き料の金額・支払日、敷金清算、残置物の扱い など
雛形はネットでも手に入りますが、専門家(弁護士・司法書士など)に確認してもらうと安心です。
交渉がまとまらない場合は法的手続き
話し合いが平行線の場合は、裁判所を通じた「調停」や「訴訟」へ進みます。
- 調停:裁判所で話し合いの場を設ける方法。柔軟な解決がしやすく、費用も抑えられます。
- 訴訟:最終的に裁判所が退去の可否を判断する手段です。
立ち退き料の目安
- 家賃の6〜12ヶ月分が一般的な目安
- 入居年数が長い場合、生活再建費用を加算することも
- 転居先の地域や物件の種類(事業用・居住用)によって異なります
例:家賃8万円 × 6ヶ月 = 48万円前後がよくある提案例です。
実際の裁判例
判例①:耐震性不足の築43年アパートに退去命令(東京地裁 平成25年)
築43年の木造アパートで、耐震診断により倒壊のリスクが指摘されたため、オーナーが借主に退去を求めた。借主側は拒否したが、裁判所は「安全性の確保という合理的な理由があり、建て替えの計画も具体的」と判断。
→ 結果:家賃12ヶ月分(約96万円)の立ち退き料を支払うことを条件に、退去命令を認めた。
判例②:「老朽化」の主張が不十分として退去を認めず(大阪地裁 平成18年)
オーナーが「建物が古くなったので建て替える」と主張し借主に退去を要求。だが、裁判所は「修繕すれば継続利用が可能」「建て替えの計画も曖昧」として、正当事由が認められないと判断。
→ 結果:立ち退き請求は棄却され、借主は居住継続を認められた。
判例③:築50年を経過したビルで飲食店を経営していた借主に退去命令
ビルのオーナーがビルの老朽化、耐震性不足のため解体撤去して新たなビルの建築することを理由に飲食店に対して明渡を求めた事案。裁判所は、ビルは築50年近く経過し耐震補強、改修各工事の実施ではなく、解体撤去の必要性はそれなりに高度であるとし、他方、飲食店が店舗営業を継続しなければならない高度の必要性を認めるに足りる事情は見当たらず、適切な立退料が支払われれば更新拒絶の正当事由は補完される判断。
→結果:立退料1600万円の支払を受けるのと引換えに明渡請求を認容した。
まとめ
アパートの老朽化による建て替えは、オーナーにとって避けて通れない課題です。
しかし、借主の権利は法律で強く守られており、立ち退きを求める際は「正当事由」や「補償」のバランスが問われます。
誠実な説明と補償の提案、そして交渉記録をしっかり残すことで、円滑な退去につながります。
不安な方は、早めに弁護士に相談するのが安心です。
よくある質問(FAQ)
Q:築30年でも、立ち退きをお願いできますか?
できますが、老朽化が深刻であること、建て替えの具体性があること、そして補償の提案が必要です。
Q:立ち退き料を払わなければいけませんか?
法律上の義務ではありませんが、正当事由を補うために支払いを提示しないと、退去を認めてもらえない可能性が高いです。
Q:立ち退きを拒否されたらどうすれば?
話し合いがまとまらない場合、調停や裁判での解決を検討する必要があります。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。