不倫で精神的苦痛を受けたら?慰謝料請求について専門弁護士が解説
最終更新日: 2023年12月12日
・パートナーが不倫をしたら慰謝料請求できるの?
・不倫をしたのに慰謝料請求できない場合はあるの?
・慰謝料はどれくらいが相場なの?
パートナーが不倫をした場合、不倫相手に対して慰謝料を請求したいと考える方は多いでしょうが、初めてのことでどのように、幾らを請求すればいいのかわからないという方もおられるでしょう。
そこで今回は、不倫問題を数百件解決してきた専門弁護士が、不倫で精神的苦痛を受けた場合の慰謝料請求について解説します。
不倫で精神的苦痛を受けたら慰謝料請求できる?
まずは、不倫や浮気をされた場合の慰謝料請求について基本的な知識を確認しましょう。
配偶者の不倫
配偶者の不倫は犯罪ではありませんが、民法上は違法行為です。民法上は配偶者の不倫を不貞行為といいます。
不貞行為とは、婚姻共同生活の平穏を侵害する行為です。このような不貞行為があった場合、不倫をされた配偶者は、不倫をした配偶者及び不倫相手に対して精神的苦痛に対する損害賠償、つまり慰謝料を請求することができます(民法第709条、第710条)。
結婚していない場合の不倫
原則として、結婚していなければパートナーの不倫があったとしても慰謝料は請求することができません。
結婚していなくてもパートナーの不倫があれば精神的苦痛を受けるにもかかわらず、慰謝料が認められないのは何故なのでしょうか。不法行為を定める民法第709条を見てみましょう。
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」とあります。夫婦にはお互いに他人と性交渉に及ばないことを求める権利(貞操権)がありますし、婚姻関係は法律で保護された利益です。
一方、結婚していない交際関係については、原則としてこのような権利も利益も法律は認めていないのです。そのため、結婚していない場合には、いかに精神的苦痛を受けても、パートナーの不倫について慰謝料請求が認められません。
もっとも、結婚していない場合も内縁関係や婚姻関係については法律が保護していることから、慰謝料請求が認められることがあります。
不倫相手も慰謝料は請求できない
恋人による不倫とは異なりますが、既婚者が不倫関係を解消する際、関係解消に納得のいかない不倫相手が慰謝料を求めることがあります。しかし、この場合、不倫相手は慰謝料を請求することはできません。
既婚者の不倫関係は、法律が保護していませんし、むしろ違法です。そのため、たとえ精神的苦痛を受けたとしても、そのような違法な関係を解消することを理由として慰謝料請求は認められないのです。
不倫で精神的苦痛を受けても慰謝料無しのケース
結婚している場合に配偶者が不倫をすれば慰謝料請求ができるとご説明しました。しかし、その場合でも以下のように慰謝料請求ができないことがあります。
- 性交渉がない場合
- 証拠がない場合
- 既婚者と知らなかった場合
- 夫婦関係が破綻してた場合
性交渉がない場合
まず、性交渉がない場合です。
法律上の不貞行為に該当する行為と、一般的に使われる「不倫」が一致しないことがあります。例えば、手を繋ぐ行為も不倫だと言う方もおられるでしょうが、法律上の不貞行為には該当しません。
法律上の不貞行為に該当する不倫とは、基本は性交渉です。そのため、性交渉がない場合には慰謝料請求はできません。
ただし、「基本は」といいましたように、性交渉はなくとも、性交に類する行為やキスも不貞行為に該当し、慰謝料を請求することができます。
証拠がない場合
次に証拠がない場合です。性交渉があると思っても相手がそれを否定し、かつ証拠がなければ慰謝料請求はできません。
慰謝料請求という法的請求をするためには、証拠が必要なのです。
既婚者と知らなかった場合
交際相手から独身であると嘘をつかれ、既婚者とは知らなかったという場合があります。
先ほどご紹介しました民法第709条には、「故意又は過失によって」とありました。
既婚者であることを知らなかったときは、婚姻関係を侵害することについて「故意」がないということになるのです。この場合、不法行為は成立せず、慰謝料請求はできません。
もっとも、「過失」がある場合は別です。既婚者と疑うべき事情があったにもかかわらず、独身だという話をそのまま信じていたような場合には「故意」はなくても「過失」があります。この場合には慰謝料請求ができます。
夫婦関係が破綻してた場合
不倫が始まった時点で夫婦関係が破綻していた場合にも慰謝料請求はできません。
不貞行為とは、婚姻共同生活の平穏を侵害する行為をいいます。既に夫婦関係が破綻していた場合には、このような婚姻共同生活の平穏はもはや存在しません。そのため、不法行為は成立せず慰謝料請求はできません。
なお、単に夫婦喧嘩が多かったという程度では「破綻」は認められません。例えば、既に別居期間が2、3年も続いていたような場合には夫婦関係の破綻が認められる可能性があります。法的な破綻とはこれくらい重度のものをいいます。
不倫の精神的苦痛に対する慰謝料の相場は?
さてここでは、不倫の慰謝料相場についてみていきましょう。
- 精神的苦痛の評価は難しい
- 不倫の慰謝料の相場
- 診断書を出せば慰謝料は高額に!?
精神的苦痛の評価は難しい
不倫によってどれ程辛い思いをしているか、精神的苦痛を受けているかは本人しかわかりません。加えて、精神的苦痛をお金に換算することは本来、不可能です。
このように慰謝料の金額の問題は、精神的苦痛を裁判官などの他人が把握することが難しく、かつ本来お金に換算できるものではないという二重の難しさがあります。
そこで、精神的苦痛の程度については、婚姻期間や不倫期間の長さ、不倫の結果離婚や別居に至ったか、不倫相手に妊娠・出産の事実はあるかなど他人でも把握することのできる客観的な事実から精神的苦痛の程度を推し量ることになります。
そして、裁判官の主観的な判断によって他の事件との間で不公平にならないよう、過去の判例と比較して慰謝料金額を決めることになります。
不倫の慰謝料の相場
不倫の慰謝料相場は、不倫の結果、夫婦が離婚する場合は200万円、離婚しない場合は100万円です。
婚姻期間や不倫期間の長さ、子の有無、従前の夫婦関係の良し悪し、不倫相手の妊娠・出産など様々な事情を考慮してこの相場から慰謝料は増減し、最終的な慰謝料が決まります。
離婚する場合は200万円が相場ですが、例えば、不倫期間が20年以上など長期で、不倫相手が子を出産したようなケースでは500万円の慰謝料が認められることもあります。
診断書を出せば慰謝料は高額に!?
不倫の慰謝料請求において、不倫を知ってうつ病になったと診断書が提出されることがよくあります。このように診断書を出せば慰謝料は高額になるのでしょうか。
うつ病には、軽い気持ちの落ち込みから起き上がることも困難な症状までその程度に幅があります。うつ病の診断書を出しただけではその程度は明らかではなく、うつ病については相場の慰謝料に織り込み済みとなります。
診断書だけでなく、定期的に長期にわたって通院していることや会社を休職することになったなどの事情があれば相場の慰謝料よりも高額の慰謝料が認められる可能性はあります。
不倫の精神的苦痛について慰謝料請求する方法
ここでは不倫の慰謝料を請求する具体的な方法について確認しておきましょう。
まずは、不倫相手に対して慰謝料を請求する連絡をします。その方法は電話でも面会でもLINEなどのメッセージでも良いのですが、内容証明を送る方が不倫相手に対してプレッシャーになり、交渉がスムーズに進むことを期待できます。
そして、不倫相手と慰謝料金額について合意に達したときは、それを支払らってもらい解決としても良いですし、今後配偶者に対して接触して来ないことを約束させたいときは示談書まで作成します。
また、一括ではなく分割払いになるときには、支払いが滞ったときには直ぐに給与差し押さえなどができるよう、公証役場にて公正証書を作成しましょう。
一方、慰謝料金額について交渉が決裂したときは、裁判所に訴訟を提起します。
訴訟というと長期間を要するイメージがあるかと思いますが、事実関係に争いがなく慰謝料の金額だけが争点の場合には、2回、3回の裁判期日にて和解に至ることが多く、その場合、訴訟は2、3か月で終了します。
不倫の精神的苦痛についてよくある質問
最後に、不倫の精神的苦痛に関してよくある質問について回答いたします。
子どもの精神的苦痛について慰謝料請求はできるの?
親の不倫を知って子どもが精神的苦痛を受けた場合、子どもから不倫相手に対して慰謝料請求をすることはできるのでしょうか。
慰謝料請求をするためには、民法の不法行為が必要です。
不倫は、貞操権又は夫婦の婚姻共同生活の平穏という「他人の権利又は法律上保護される利益」(民法第709条)を侵害しますので不法行為に該当するのですが、それはあくまで不倫をされた配偶者との関係です。
子どもには、「他人の権利又は法律上保護される利益」がないため、親が不倫をしたとしても不法行為は成立しないのです。したがって、子どもから不倫相手に慰謝料を請求することはできません。
ただし、子どもが精神的苦痛を受けているという事情は、不倫をされた配偶者から不倫相手に慰謝料請求をする際、慰謝料の増額事由として考慮されることはあります。
不倫がない場合には逆に慰謝料請求ができるの?
不倫の慰謝料を請求されたけれど、不倫が全くの事実無根というケースも稀にあります。
このような不名誉な請求を受けたことで精神的苦痛を被ったとして、逆に、請求してきた相手に慰謝料を請求することはできるのでしょうか。
結論としては、単なる勘違いで慰謝料請求をしたということだけでは、「他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」したとはいえず、民法の不法行為には該当しません。そのため、精神的苦痛を被ったとしても慰謝料請求をすることはできません。
もっとも、不倫をしたと職場に知らされたような場合には、名誉毀損として慰謝料請求する余地があります。
まとめ
以上、パートナーが不倫をしたときの慰謝料請求について解説しました。
配偶者が不倫をしたので慰謝料を請求したい、不倫をしてしまって慰謝料を請求された、いずれの方も最善の解決をするためには、不倫問題を専門とする弁護士にご相談ください。
※内容によってはご相談をお受けできない場合がありますので、ご了承ください。